【開港祭?】建前じゃ〜☆天の巻

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

 ドレスタットの街中に桃山鳳太郎の屋敷はあった。鳳太郎は一介の職人としてジャパン国からノルマン国へと渡り、復興戦争での功労あって士分に取り立てられ、ノルマン人の妻を得て一女一男をもうけ、今はこのドレスタットの領主の客分に迎えられた人物である。
 かつての鳳太郎の住まいであった屋敷は老朽化が著しくなったため、今年の秋に取り壊されて改築の工事が進んでいたが、11月になると柱も梁も組み上がり、いよいよ屋根の最上部の棟木を取り付ける運びとなった。
「よくぞ、ここまで来たものだ」
 工事の大きな節目を迎えた屋敷を見やり、感慨に耽る鳳太郎。身一つで異国の戦に飛び込み、不惜身命、あちこちの戦場を駆け回っては武具を整え、金髪碧眼のノルマン騎士と肩を並べて勝利を祝った日々が、目を閉じれば走馬燈のごとく瞼の裏によみがえる。
「いつ死すとも惜しくはあらぬ命なればこそ、ローマの圧制に蹂躙されしノルマン国に捧げんとご奉公致し、匠の技を極めたれども、戦で失いし友の数はさらに多かりし。戦いの最中に良き妻と巡り会い、戦い終わって子宝に恵まれ、そして今、かくも立派な屋敷を構える身となった我は、天下一の果報者なり」
「まことに、左様でござりまするなぁ」
 鳳太郎に侍り相づちを打つ初老の男は、ご意見番を務める家老の鷹岡龍平。
「森より切り出したる棟木もここ数日中には届きましょう。そろそろ建前の準備に本腰を入れねばなりませぬな」
「おお、そうだ。建前だ」
 鷹揚にうなずく鳳太郎。
「わしの人生の門出を飾るにふさわしく、盛大に執り行おうぞ」

 建前とは、家を建てる際には欠かせないジャパンの神事であり、柱や梁だけ組み上がった建物の上に棟木を上げる時に行われる。大地を守護する神と精霊に感謝し、家が無事に完成することを願うのだ。
「建前の儀式ではまず、屋根の4隅に餅を置き、神に祈りを捧げた後に屋根の4隅に酒を注いでお清めをするのでございます。そして屋根の上からご祝儀の品々を盛大にばらまくのでございます。私めもジャパンで暮らした幼少の時分、ご近所で建前があると真っ先に駆けつけたものですなぁ。屋根の上から飛んでくる餅やお菓子を、夢中になって拾っておりましたわ」
 新居ができるまでは鳳太郎一家の仮住まいとなっている龍平の家で、皆が顔を合わせる食事時。龍平は儀式の有様を鳳太郎の家族に話し聞かせながら、遠い昔の思い出に思わず顔をほころばせる。
「おもしろそうじゃのう。よし、私も屋根に上がってお菓子を撒くのだ!」
 話を聞き、早くも心を躍らせる9歳の長女・アンジュ(安珠)に、6歳の長男・ライアン(頼安)がツッコミを入れる。
「あねうえ、やねからおちてケガしたらみっともないぞ」
「ふん! 私はおまえみたいなドジではないわ!」
 思わずムキになるライアン。
「ライアンはドジではないのだ!」
「何言うか、この前も遊んでる時にドブに落っこちて、真っ黒になって泣いてたのは誰であったかな? あはははははは!」
「あねうえ! ライアンはおこるぞ!」
 龍平が笑いながら仲裁に入る。
「まあまあ、お二人ともそうムキになりなさるな」
 鳳太郎の妻カトリーヌが、話を聞きながら何やらうっとりとした表情に。
「屋根に上って、かぁ‥‥。私も戦争の頃は屋根から屋根を飛び回って敵軍の襲来を伝えたり、屋根の上からレンガを投げつけてローマ兵の進軍を妨害したり。毎日必死で生きてたけど、今は懐かしい思い出よね」
 言って、思わしげな視線を夫の鳳太郎に送る。
「鳳太郎、私も屋根に上るわよ」
「わっはっは! カトリーヌ、なんともおまえらしい!」
 豪快に笑って答える鳳太郎。
「時にドレスタットは開港祭たけなわ。港では様々な品々を詰め合わせた福袋を売っていると聞くが、あれをまとめ買いして屋根の上から豪勢にばらまくか?」
 龍平が首を振る。
「殿、それは考え物でございます。福袋の中味などろくな物であった例しがありませぬ。先日も私の知り合いがイギリス土産の福袋を開き、中から桃色に輝く剣を取り出したところ、いやはや何ともひどい目に‥‥」
「おお、その桃色魔剣の噂なら、わしも聞き及んでおるぞ」
 二人の話を聞いて、アンジュが好奇心に目を輝かせる。
「桃色の剣か? きれいそうじゃな。私も欲しいのだ」
 鳳太郎が、ぷっと吹き出した。
「待て待て、いくら何でもお前にはまだ早すぎる。まあ、建前のご祝儀の品々は街のエチゴヤで調達するか、人を雇って作らせるとしよう」
 さっきから何やらもじもじしているライアンに、アンジュが言った。
「ライアン、おまえも屋根に上るか? 屋根の上は面白いぞ」
「ライアンは、下でおかしをひろうのだ! がんばってたくさんひろうのだ!」
「そうか。がんばるのだぞ、ライアン」
 ここで龍平は真顔になり、鳳太郎に意見する。
「しかし心配もございますな。ドレスタットは交易の要所につき、悪さを為す輩も頻繁に出入りする街。建前に押しかけ、余人を閉め出してご祝儀の品々を独り占めし、余所へ持っていって売りつけようと企む不心得者が出ないとも限りませぬ」
「うむ、確かにそうであるな」
「ここは冒険者ギルドを通じて人を雇い、建前を切り盛りさせてはいかがでしょう? 建前の警護役はもちろんのこと、歌や踊りなど一芸に秀でた者も雇い入れれば、建前も盛り上がり、民も喜びましょう」
「それはよい考えだ。よし龍平、後の手配は頼んだぞ」
「はっ、しかと心得ました。今日にでも冒険者ギルドを訪ね、手配して参りましょう」

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1509 フォリー・マクライアン(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2083 キアラ・アレクサンデル(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2955 レニー・アーヤル(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5513 アリシア・ルクレチア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●ご祝儀の準備
 レニー・アーヤル(ea2955)は桃山鳳太郎に提案した。
「折角ですからぁ、御菓子等を包む物の幾つかに当たりの印をつけてぇ、当たった人にはぁ、少しだけ良い物と交換するっていうのはどうでしょうかぁ?」
「クジか。おお、それは面白そうだな」
 早々に鳳太郎の同意が得られ、フォリー・マクライアン(ea1509)と共に準備を始める。
「ところで、この近くで竹の皮が手に入るところはないかな? ご祝儀を包むには竹皮がいいと思うんだけど」
「はて? ここは竹林のあるような土地ではなし、いかがしたものか。‥‥おお、そうだ。竹ならあそこに少しばかり生えておるぞ」
 庭の一角を鳳太郎は示す。そこには青い竹が3本、すうっと伸びていた。
「あの竹は、わたくしめがジャパン出身の知人より貰い受け、庭に植えたものでございますが?」
 鷹岡龍平が神妙な顔をして言う。
「ん〜、いくら何でもあれだけでは少なすぎるわね」
 結局、竹皮は諦めて布で代用することにした。

「まさかノルマンに来て建前が出来るなんて思ってもみなかったっすね〜。やるからには盛り上がってくれるといいっすね」
「ジャパンには随分と面白い風習があるのだな。何にせよ、こういう幸福を分け合うような行事は良い物だ。私も出来る限りの事はしよう。まずは近所への挨拶回りだな」
 以心伝助(ea4744)とサラサ・フローライト(ea3026)、買い出しのついでにご近所を回り、建前の儀式が執り行われる旨を皆に伝える。
「タテマエねぇ?」
「屋根の上から食べ物やお菓子を撒くのかい?」
 人々は不思議な顔をしたり、好奇心に目を輝かせたりしたが、反応はおおむね好意的である。
「ぜひともそのタテマエとやらに顔を出すよ」

 買い出しに出かけたレニーとヴィグ・カノス(ea0294)が、食材やらクジの材料やらを荷運び用のロバに積んで戻ってくると、準備が始まる。
 まずクジ作り。ご祝儀を包む布の中から10枚を選び、うち1枚には太陽のマーク、残りの9枚には1から9までの数字を書く。この10枚が当たりクジとなる。
「できた! これでどうじゃ?」
 フォリーに頼まれ、にっこり笑った太陽のマークをインクで大きく書いたアンジュが、得意げになって見せる。
「はい、よくできました」
 円巴(ea3738)が作るのは小麦粉と卵をベースに水飴・蜂蜜など甘味料を加えて焼いたお菓子。ただし水飴や蜂蜜は高価なので、甘めの物7〜8割に、塩を加えたもの2割程度の生地を混ぜ、対比により甘さを出す。焼きたてを口にふくんで味見すると、ふっくらと香ばしい。まずまずの出来具合だ。
「所詮、初心者なのでこんなものだろう。昔、母が卵白とあまづらだけで淡雪とかいうのを作っていたが、私には無理だな」
 はい、ここで唐突にナレーション。
『まどうしアリシアはあやしいがくしゃである。かのじょをやとったのは、ひみつけっしゃグランドクロスである。かのじょはしんこうによるせかいせいふくのため、ひびたたかっているのだ!』
「???」
 見ると、炊事場にライアンを連れたアリシア・ルクレチア(ea5513)の姿。
「‥‥大袈裟なナレーションですこと」
「どうだ? おそわったとおり、ちゃんといえたであろう?」
「偉いわ、ライアン。ところで、巴に頼みがあるんだけど」
 アリシアの頼みは、土地の米でアラレを作ることだった。ここノルマンでも少しは米を産するが、ジャパンの米と違って粘り気が少なく、もっぱら料理の付け合わせなどに利用される。
 一方、アラレとはジャパンの米菓子のことだが、その原料には米の中でも特に粘り気の強い餅米が使用される。さっそくノルマン産の米を使い、初心者ながらも料理の心得のある円が色々と試してみたが、どうにもうまくいかない。
「あらあら、みんなで何をやっているの?」
 鳳太郎の妻のカトリーヌが顔を出した。
「お米でお菓子を作るの? それならライスケーキなんて、どうかしら? 田舎にいた頃、よく作ったわよ」
 カトリーヌは米を牛乳でぐつぐつ煮込んで柔らかくする一方、手慣れた手つきで小麦粉の生地をこねてその中に米を包み込み、オーブンでこんがり焼いた。
「さあ、これで出来上がりよ」
 試食してみると、アリシアにとってはまずまずの味。しかし円は首を傾げて腑に落ちない顔。
「どうしたの? おいしくないの?」
「米の菓子でも、ジャパンのそれとはだいぶ違うな‥‥」
 出来上がった菓子は、伝助とサラサの手で布の袋に詰められていく。

 依頼を受けた冒険者の中には、一風変わった協力の仕方をした者もいる。筋肉質のがっしりした体を持つドワーフの戦士、ローシュ・フラーム(ea3446)がそうだ。ローシュは鍛冶屋を生業とする男である。
「開港祭のカーゴの店に『根付け』なるものが売られておったの。あれで行くとするか」
 根付けとは、小袋などの紐の先に付ける飾りことで、ジャパンでは庶民にも親しまれているアイテムである。
「できれば、モモヤマ家を象徴するようなものを意匠としたいのだが」
 桃山家の象徴といえば家紋もそうであるが、さすがに軽々しい扱いはできない。
「では、桃山家の桃にちなみ、桃太郎はどうであろう? ジャパンでは子どもなら誰もが知っているおとぎ話の主人公で、川を流れてきた桃から生まれたという子どもだ」
「うむ、それでいこう」
 鳳太郎の言葉に従い、ローシュは桃太郎の意匠を使うことに決めた。桃山家に材料となる青銅を用意してもらい、大まかな形に鋳造した後に彫金を施す。こうして、桃を割って生まれた赤子を象った9個の根付けが出来上がった。さらにもう一つ、ローシュは自前で材料となる黄金を調達すると、これで同じ意匠の根付けを作った。
 この金の根付けは、言うなれば『当たり』である。このための出費は今回の報酬を上回ってしまったが、凝り性な性格のローシュだけに、凝りだすとトコトン。彫金のほうも細部に手間をかけたせいで、全部完成したのは建前の前日の夜遅くだった。

●建前の儀式
 建前のその日になると、物珍しさから近所の人々が大勢集まった。
「ジャパンでは独自の精霊信仰により、自然界の凄いもの、恐ろしいもの、偉大なものに敬意や畏怖の念を抱いた。それが今回の儀式の根底にある。この土地において似たようなものを探すとすれば、たとえば船乗りたちは海に畏敬の念を抱き、船を海の災難から守るために竜や女神を象った船飾りを船首に付けるであろう? その根底に流れる心情には、あれに通じるものがある」
 巴の説明に人々は納得の表情で聴き入っている。文化の違いはあれど、建前の儀式が意味するものを精神を人々が理解するのも、さほど難しくはなさそうだ。
 桃山鳳太郎の指図により、山より切り出されて届けられた棟木を大工たちが屋根の上に持ち上げる。
「高い所、更に骨組みのみとは心許ないのぉ」
 鳳太郎とその家族に続き、ローシュ以下の冒険者たちも屋根の上へ。屋根に上がった鳳太郎はジャパンのしきたりに則り、屋根の四隅に供え物を捧げると、神と精霊に向かって祈りを捧げた。
「天地をしろしめし給う神と、よろずの精霊に願い奉る。この家を災いより護り、幸いを来たらせ給え。我が桃山家に末永く幸あらんことを」
 屋根の四隅の供え物を酒で清めると、次はいよいよご祝儀の品々を屋根から撒く番だ。
「え〜っとぉ、たしかぁジャパンではぁ投げる時に掛け声がありましたよねぇ‥‥鬼はそとぉ?」
「いや、それは節分の豆まきのかけ声であってな‥‥」
 レニーに訊かれた鳳太郎は何やら難しい顔をしていたが、
「まあ、よいか。心意気に変わりはない。よし、かけ声は『鬼は外、福は内』でいくぞ」
 鳳太郎はご祝儀の小袋をつかみ取ると、かけ声を張り上げて宙高く放り投げた。
「鬼はぁ〜外! 福はぁ〜内!」
 続いて冒険者たちも、かけ声と共にご祝儀を放り投げる。
「鬼はぁ〜外! 福はぁ〜内!」
「鬼はぁ〜外! 福はぁ〜内!」
 全体にご祝儀が行き渡るよう、レニーとヴィグは気を配る。屋根の中央で撒いたら次は右の端から、それが済んだら次は左の端からというように撒いていく。
 ローシュの撒きっぷりは豪快である。盾を盆代わりに持ち、その上に山と積まれたお菓子をがっしりした掌でつかみ取っては投げていくのだ。その横ではカトリーヌとアンジュが『鬼は外、福は内』と声を張り上げている。万が一にも下から飛び道具で狙っている者はいないかとローシュは目配りをきかせていたが、幸いなことにそのような者の姿は見あたらなかったが、下ではご祝儀の取り合いで結構な騒ぎが起きているようだ。
 仲間たちが用意した品々に加え、伝助は乾燥果実や木の実の袋詰めを投げる。これなら子どものおやつにも丁度いい。アリシアの手からぱらぱらと宙に舞うのは、某結社のシンボルとしておなじみのX字に染めた小旗。フォリーは手品の要領で懐に仕込んだ花束をさっと取り出し、威勢良く宙に放り投げる。サラサはもっぱら横笛を吹いて場を盛り上げ、演奏の合間には布袋に入ったパンを撒きつつ、下の様子を観察。おかしな動きを見つけては、警備担当の者に報告を入れていた。

●景品交換
 地上ではご祝儀の奪い合いなど色々とトラブルはあったものの、終わってしまえば早いもの。あれだけ用意したご祝儀もあっという間になくなった。
「取り損ねたヤツはいないっすか〜? まだまだあるでやんすよ〜!」
 伝助が声をかけると、子ども達が駆け寄って大騒ぎ。
「もう一つ! もう一つ!」
「オレ、まだ拾ってね〜!」
「横取りすんなよ、オレのなんだから!」
 子どもはいつだって元気で騒々しい。
「一人一つだ。取り合いしないで仲良く食べるんだぞ」
 さて、次は当たりクジと景品との交換である。クジの1番、ヴィグが用意した景品は、自分のバックパックの中に入っていた毛布。クジに当たったのはご近所の主婦である。
「いや、有り難いねぇ。タダでもらえるなんて」
 クジの2番はフォリーの用意したワイン、エール、グレープジュースの小樽入りセット。これもご近所の主婦が引き当てた。
「うちの子どもが拾ったお菓子が当たりだったの」
「良かったわ。ご家族に当たって」
 クジの3番は該当者なし。気付かず捨てられるか持ち去られるかしたのだろう。
 4番、レニーの用意した赤・白・ロゼの3色ワインセットを引き当てたのは、冒険者仲間のヴェガ・キュアノス(ea7463)。踏んづけられて地面に取り残されていたお菓子を拾ったら、当たりクジだったのだそうな。
 5番、サラサの景品である太鼓に当たったのは、桃山家に仕える家老の鷹富龍平。
「いや〜、これがあれば何かと重宝しそうですな」
 6番、7番は共に該当者なし。さて伝助の用意した8番の景品は、
「ほんとは竹とんぼとかお手玉とか自作したかったんでやんすが、あっしの腕が追い付かねぇんで、越後屋で防寒着一式買ってきやした」
 当たりクジを持ってきたのは、まだ小さな子どもだった。
「この服、ボクには大きすぎるな〜。そうだ、おじいちゃんにプレゼントしよう。おじいちゃ〜ん!」
 呼ばれてやってきたおじいさんは、防寒着を見てにっこり。
「これはこれは、ありがたい」
 9番、アリシアの景品は、これから寒いからということで、『顔に吹く風除けの黒い頭巾』と『牛と蛙の形をかたどった可愛い手袋』の2点セット。ちなみに黒頭巾は顔をすっぽり覆うタイプだ。これに当たったのはなんと、鳳太郎とは旧知だというフリガンという名の傭兵である。
「こいつはスゲぇ!」
 フリガンは黒頭巾をいたく気に入り、さっそく頭にかぶってキメポーズ。
「どうだおめぇら、似合うか?」
「似合うぜ、大将!」
 気の荒そうな傭兵仲間からはやされ、フリガンはさもご満悦。
「しっかし手袋のほうはオレにはかわいすぎらぁな。こいつは鳳太郎んとこの嬢ちゃんに差し上げるぜ」
 そして太陽マークのクジを当てたのは、鳳太郎の息子のライアンである。クジの景品は、自分で使い道がないからと巴が用意した、海賊の眼帯とレースの褌。そして水飴を多めに入れた焼き菓子。
「わぁい! かいぞくのがんたいなのだ! ライアンは、かいぞくみたいなつよいおとこになるのだ!」
 さっそく、ライアンは眼帯をはめて大喜び。
「でも、このふんどしはライアンにはにあわないのだ。‥‥そうだ! ふんどしはあねうえにプレゼントするのだ!」

●打ち上げ
 こうして建前は無事に終わり、会場の掃除が済むと、桃山一家と冒険者たちとを交えたささやかな打ち上げ会が開かれた。
「ところで巴殿、本当に報酬はいらぬのか?」
「報酬ならば、先の大戦での鳳太郎殿の思い出話をお聞かせいただければ、それで十分」
「あっしも故郷の英雄の武勇伝を聞きたいっす」
 伝助も口添えする。
「そうか。ならば話してきかせよう」
 聞けば鳳太郎は鎧職人で、ジャパンからノルマンへ渡った侍たちの鎧を新調したり修繕したり、時には打ち捨てられた鎧から使える部分をかき集め、真新しい鎧に作り直したこともあったという。時には折れた太刀をすりあげて長巻きに仕立てたりもした。
「私は英雄譚にも興味があるのだが」
「そうそう、カトリーヌさんが旦那さんと出会ったいきさつも、よろしかったらお聞かせ願いたい」
 サラサとヴィグに水を向けられると、カトリーヌは快く話してくれた。
「あれは寒い日だったわ。それまで酒場で働いていた私は、戦争が始まると見よう見まねで友軍への炊き出しやら、敵軍の偵察やらをやっていたんだけど、激しい戦いが続いていたあの日、鎧も着けず一人で戦場に駆けていく命知らずがいるじゃないの。そっちは危ないって私が叫んでも、その男は『約束があるから』って言うこときかなくって、ならば私もってことで一緒に付いていってあげたのよ。敵に見つからない抜け道は私のほうが知ってたからね。途中、何度も敵に見つかりそうになったけど、そのたびにうまく切り抜けて、無事に陣中へと鎧を届けたってわけ。で、その男というのが今の旦那よ」
 言って、カトリーヌはにっこり微笑む。
「こう見えても旦那は、一度言い出したらがむしゃらに突っ走っちゃうんだから」
 思い出話は続き、ふとしたはずみに傭兵貴族として名高いバルディエ卿のことが話題になった。
「色々と噂のある男ですが」
 サラサがさりげなく水を向ける。
「確かにな。しかしバルディエ殿もノルマンを救いし勇者の一人。我が君の功名を争うケンカ友達でもある。ここで悪し様に言うことはすまい。なれど、わしはつくづく思うぞ。あのバルディエ殿だけは決して敵に回したくないとな」
 鳳太郎のその言葉に、巴は胸中で頷いた。やはり、そういうことだったのかと。