【開港祭?】建前じゃ〜☆地の巻

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

 ドレスタットの街中に桃山鳳太郎の屋敷はあった。鳳太郎は一介の職人としてジャパン国からノルマン国へと渡り、復興戦争での功労あって士分に取り立てられ、ノルマン人の妻を得て一女一男をもうけ、今はこのドレスタットの領主の客分に迎えられた人物である。
 かつての鳳太郎の住まいであった屋敷は老朽化が著しくなったため、今年の秋に取り壊されて改築の工事が進んでいたが、11月になると柱も梁も組み上がり、いよいよ屋根の最上部の棟木を取り付ける運びとなった。
「よくぞ、ここまで来たものだ」
 工事の大きな節目を迎えた屋敷を見やり、感慨に耽る鳳太郎。身一つで異国の戦に飛び込み、不惜身命、あちこちの戦場を駆け回っては武具を整え、金髪碧眼のノルマン騎士と肩を並べて勝利を祝った日々が、目を閉じれば走馬燈のごとく瞼の裏によみがえる。
「いつ死すとも惜しくはあらぬ命なればこそ、ローマの圧制に蹂躙されしノルマン国に捧げんとご奉公致し、匠の技を極めたれども、戦で失いし友の数はさらに多かりし。戦いの最中に良き妻と巡り会い、戦い終わって子宝に恵まれ、そして今、かくも立派な屋敷を構える身となった我は、天下一の果報者なり」
「まことに、左様でござりまするなぁ」
 鳳太郎に侍り相づちを打つ初老の男は、ご意見番を務める家老の鷹岡龍平。
「森より切り出したる棟木もここ数日中には届きましょう。そろそろ建前の準備に本腰を入れねばなりませぬな」
「おお、そうだ。建前だ」
 鷹揚にうなずく鳳太郎。
「わしの人生の門出を飾るにふさわしく、盛大に執り行おうぞ」

 建前とは、家を建てる際には欠かせないジャパンの神事であり、柱や梁だけ組み上がった建物の上に棟木を上げる時に行われる。大地を守護する神と精霊に感謝し、家が無事に完成することを願うのだ。
「建前の儀式ではまず、屋根の4隅に餅を置き、神に祈りを捧げた後に屋根の4隅に酒を注いでお清めをするのでございます。そして屋根の上からご祝儀の品々を盛大にばらまくのでございます。私めもジャパンで暮らした幼少の時分、ご近所で建前があると真っ先に駆けつけたものですなぁ。屋根の上から飛んでくる餅やお菓子を、夢中になって拾っておりましたわ」
 新居ができるまでは鳳太郎一家の仮住まいとなっている龍平の家で、皆が顔を合わせる食事時。龍平は儀式の有様を鳳太郎の家族に話し聞かせながら、遠い昔の思い出に思わず顔をほころばせる。
「おもしろそうじゃのう。よし、私も屋根に上がってお菓子を撒くのだ!」
 話を聞き、早くも心を躍らせる9歳の長女・アンジュ(安珠)に、6歳の長男・ライアン(頼安)がツッコミを入れる。
「あねうえ、やねからおちてケガしたらみっともないぞ」
「ふん! 私はおまえみたいなドジではないわ!」
 思わずムキになるライアン。
「ライアンはドジではないのだ!」
「何言うか、この前も遊んでる時にドブに落っこちて、真っ黒になって泣いてたのは誰であったかな? あはははははは!」
「あねうえ! ライアンはおこるぞ!」
 龍平が笑いながら仲裁に入る。
「まあまあ、お二人ともそうムキになりなさるな」
 鳳太郎の妻カトリーヌが、話を聞きながら何やらうっとりとした表情に。
「屋根に上って、かぁ‥‥。私も戦争の頃は屋根から屋根を飛び回って敵軍の襲来を伝えたり、屋根の上からレンガを投げつけてローマ兵の進軍を妨害したり。毎日必死で生きてたけど、今は懐かしい思い出よね」
 言って、思わしげな視線を夫の鳳太郎に送る。
「鳳太郎、私も屋根に上るわよ」
「わっはっは! カトリーヌ、なんともおまえらしい!」
 豪快に笑って答える鳳太郎。
「時にドレスタットは開港祭たけなわ。港では様々な品々を詰め合わせた福袋を売っていると聞くが、あれをまとめ買いして屋根の上から豪勢にばらまくか?」
 龍平が首を振る。
「殿、それは考え物でございます。福袋の中味などろくな物であった例しがありませぬ。先日も私の知り合いがイギリス土産の福袋を開き、中から桃色に輝く剣を取り出したところ、いやはや何ともひどい目に‥‥」
「おお、その桃色魔剣の噂なら、わしも聞き及んでおるぞ」
 二人の話を聞いて、アンジュが好奇心に目を輝かせる。
「桃色の剣か? きれいそうじゃな。私も欲しいのだ」
 鳳太郎が、ぷっと吹き出した。
「待て待て、いくら何でもお前にはまだ早すぎる。まあ、建前のご祝儀の品々は街のエチゴヤで調達するか、人を雇って作らせるとしよう」
 さっきから何やらもじもじしているライアンに、アンジュが言った。
「ライアン、おまえも屋根に上るか? 屋根の上は面白いぞ」
「ライアンは、下でおかしをひろうのだ! がんばってたくさんひろうのだ!」
「そうか。がんばるのだぞ、ライアン」
 ここで龍平は真顔になり、鳳太郎に意見する。
「しかし心配もございますな。ドレスタットは交易の要所につき、悪さを為す輩も頻繁に出入りする街。建前に押しかけ、余人を閉め出してご祝儀の品々を独り占めし、余所へ持っていって売りつけようと企む不心得者が出ないとも限りませぬ」
「うむ、確かにそうであるな」
「ここは冒険者ギルドを通じて人を雇い、建前を切り盛りさせてはいかがでしょう? 建前の警護役はもちろんのこと、歌や踊りなど一芸に秀でた者も雇い入れれば、建前も盛り上がり、民も喜びましょう」
「それはよい考えだ。よし龍平、後の手配は頼んだぞ」
「はっ、しかと心得ました。今日にでも冒険者ギルドを訪ね、手配して参りましょう」

●今回の参加者

 ea0422 ノア・カールライト(37歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0493 ニコル・ヴァンネスト(25歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea8111 ミヤ・ラスカリア(22歳・♀・ナイト・パラ・フランク王国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●不寝番
 建前の日の前日の夜。まだ骨組みだけの屋敷の前には、森から切り出されて運ばれてきた棟木がでんと鎮座している。その傍らにテントを張り、かがり火を焚きながら番をしているのは依頼を受けた冒険者たちだ。
「ジャパンつーのは、不思議なしきたりがあるんだな。気前がいいっつーか、祭り好きっつーか‥‥嫌いじゃねーな、こーいうの」
「しかし秋も終わりになって、やたら冷え込むようになりましたね。真夜中は特に」
ニコル・ヴァンネスト(ea0493)とノア・カールライト(ea0422)の二人で夜番がてら立ち話をしていると、下げておいたランタンの明かりがゆらゆらと揺らめいた。そろそろ油が切れる頃合い。油を足してテントの仲間と交代だ。
「おい、交代だぞ」
 テントの中から鳳飛牙(ea1544)とアルス・マグナ(ea1736)が現れ、入れ違いにニコルとノアはテントの中に引っ込んだ。
「うっ‥‥外は寒い」
 わお〜ん。どこかで犬が遠吠えしている。今は夜半を過ぎた真夜中。街はひっそりと静まり返っている。テントの中から聞こえる声はゲルマン語の習得に熱心なノアの声。その言い回しにツッコミを入れるニコルの声がたまに入り交じる。
 わお〜ん。また、どこかで犬が鳴いた。怪しい者がやって来る気配もなく、時間だけがただ過ぎていく。
「おい、立ったまま寝るなよ」
 うつらうつらしかけた飛牙の肩を、ニコルがぽんと優しく叩いた。
「‥‥あ、悪ぃ。それにしても、ほんっとに冷えこむなぁ」
 わんわんわんわん! けたたましい犬の鳴き声が聞こえたと思いきや、一人の男が駆けてきた。男はそのまま通りを走り抜けようとしたが、張り番の飛牙たちの姿に気付くと慌てて暗い路地に逃げ込んだ。しばらくすると犬を連れ、手に手に獲物を持った男たちがやって来た。
「ここに賊が逃げてこなかったか?」
「賊ならそこの路地へ逃げ込んだよ」
 飛牙の指さす路地に男たちは踏み入り、やがてひっ捕らえて戻ってきた。
「礼を言うぞ」
「どういたしまして」
 再び夜の静けさが戻り、時間の流れが緩やかになる。
『‥‥お疲れ様です。これ、差し入れです』
 カイ・ミスト(ea1911)が暖かい飲み物を持って現れ、イギリス語で告げた。差し入れは近くの酒場で作ってもらったという、果物の果汁入りのホットワインだ。
「ありがとな」
「ああ、こりゃうめぇ!」
 熱いアルコールの働きですぐに体が温まる。寒い季節にはうってつけの飲み物だ。
「ん? 誰か来るぞ」
 千鳥足でやって来た人影にアルスが気付く。酔っぱらった爺さんだ。
「爺さん、この寒空にそんな格好じゃ凍え死ぬよ」
「いや〜飲み過ぎてしもうたわ。‥‥ひっく」
「爺さん、大丈夫か?」
「ここは暖かそうじゃし、今夜はここで一休みじゃな。‥‥ひっく」
「おいおい爺さん、そんな地べたに寝っ転がるなよ。そこで休みな」
 飛牙は爺さんをテントの中に導き入れた。その夜はとりたてて何事も起きず、やがて空が白み始め、朝になる。
「ん? 朝か?」
 朝日を浴びて目覚めたニコルとノアが、テントから顔を出す。
「ほら、爺さん。起きろ」
「ん? ‥‥ああ、もう朝か。一夜の宿、かたじけのうございました」
 爺さんは礼を言い、帰っていった。
 朝の空気は冷たくすがすがしい。まだ霜こそ降りないものの、吐く息には白さが目立つ。
 いよいよ、今日は建前の日だ。

●黒いリボン
 建前には思いのほか大勢の人々がやって来た。物珍しさに惹かれてきたご近所の人々もいれば、通りすがりの見物でやって来た者もいる。そして中には乱暴狼藉を働くであろう招かれざる客もいる。その招かれざる客をふるい分けるのが、受付を担当するノアとドロシー・ジュティーア(ea8252)の役目だ。ちょっとした悪戯心も手伝って、今日のドロシーはいつも慣れ親しんでいる鎧ではなく、ビザンチン式の礼服で装っている。
「ビザンチン式でお出迎えして、建前はジャパン式の儀式ですし、異国情緒ばっかりで皆さん驚いてもらえますね」
 表面上は礼儀正しくにこやかに、ノアは色とりどりのリボンを来客に渡していく。
「お集まりの皆様、来場者の人数調査にご協力をお願い申し上げます。会場では各自、こちらでお渡しするリボンを腕にお巻きください」
 しかしその裏ではしっかりと対人鑑識眼を働かせ、挙動不審と感じた人物には目印となる黒いリボンを渡す。それはドロシーも同じことで、にこやかに人々を出迎えつつ不審者には黒のリボンで目印をつける。
「はい、次の方‥‥あら?」
 順番が来て受付の前に立ったのはライアンだった。
「ライアンもリボンをもらうのだ」
「はい、ライアン様は青いリボンですよ」
 ライアンの腕にリボンを巻きながら、半分泣きそうな顔でその耳にささやく。
「私の分も、拾ってくださいね、ホントにお願いしますね」
 ドロシーだって皆と一緒にご祝儀拾いに参加したいのだ。
「うん、わかったのだ。おねぇちゃんのぶんも、ひろってくるのだ」
 続いてやって来たのは、見るからに荒くれた男の一団。傭兵稼業かそれとも海賊稼業で暮らしているかは知れないが、どの男も眼光鋭く体のあちこちに古傷がある。
「ここでタテマエをやるって聞いて、やって来たぜ」
「ようこそいらっしゃいました」
 にこやかに笑いつつ、ドロシーは心中でしっかり対人鑑定。黒、黒、黒、黒、黒、全員黒に確定っ!
「では、このリボンを」
 ドロシーは男たちに黒のリボンをごっそり手渡した。

●ご挨拶
 会場での準備が進む中、ニコルはまだゲルマン語を話せない仲間のカイに、イギリス語で色々と教えてやる。
「騒ぎを起こしそうな不審者には前もって黒いリボンの目印を付けてあるから、そいつらは重点的にマークするんだ。とはいえ、めでたい席で刃物沙汰はおこしたくねーなあ。‥‥おいアルス、そんな所で何やってんだ?」
 隅っこのほうでごそごそやっていたアルスは、言われて手の中の物を差し出した。何やら水気をふくんだ部細工な塊だ。
「何だこれは?」
「暇を見て菓子を作ろうと思ったんだが‥‥だめだな、こりゃ」
 小麦粉に水を加えて団子にし、良く練り合わせながら水の中で揉んで、残った弾力のある小さな固まりに水飴とリンゴの果汁を加えればおいしい練り菓子の出来上がり──そう話には聞いていたが、いざやってみると料理の心得のないアルスには、とても人様に出せるような菓子は作れそうにない。
「それにしても、眠い」
 前の晩に夜番をしていたおかげで、アルスは寝不足気味だ。
「はぁ〜、かったり〜、面倒事起きなければ良いんだがな〜」

 ヴェガ・キュアノス(ea7463)やエルザ・ヴァリアント(ea8189)にとって、異国の儀式には興味をかき立てられるものがある。
「タテマエ、とは面白き風習じゃの。何にせよ、神への感謝は善き事じゃ」
「なるほど、こういう異文化に触れるのもたまには悪くないわね」
 ジャパン出身の長渡泰斗(ea1984)にとっても、今回の依頼はちょっとした驚きだ。
「月道での国交があるとは言え、遠い異国で故郷の神事を見れるとは思わなかったな」
 会場には正装した桃山鳳太郎とその家族の姿がある。
「へぇ‥‥此処の主人は復興戦争で御活躍された武具師なのか。そういや親父殿や叔父貴殿がそんな話をしていた様な‥‥?」
 泰斗は鳳太郎に挨拶し、訊ねてみた。
「失礼、当時は初陣もいい所で目の前の戦いに一杯一杯だったもので。当時はいづれの御方の陣にいらしたのであろうか。存外、すぐ近くの陣だったやも知れませんな?」
 問われて鳳太郎は戦争当時、ジャパンから援軍に駆けつけた武将たちの名をいくつか挙げる。いずれも泰斗には覚えがある名ばかりだった。
「何しろ戦の最中は人手が足りず、あちこちの陣から陣へと駆け回っておったからな。そなたの親父殿に叔父貴殿とも、どこかでお会いしていることであろう」
 クレリックにふさわしく、ヴェガは両手を合わせてご挨拶。
「さて、聖書より重き物はとんと持った事の無いわしじゃ、警護や護衛には向かぬ‥‥が、幼きライアンのお守り役ぐらいは果たせるじゃろうて。‥‥おや、もう一人お子様がおるようじゃの」
 鳳太郎とその家族に挨拶してライアンに寄り添うまだ11歳のパラのナイト、ミヤ・ラスカリア(ea8111)の姿を認めて、ヴェガはにっこり微笑んだ。
「まぁ、一人も二人も変わらぬゆえ、任せておくが良い。修道院では身寄りの無い子らの面倒も見てきたでの。わしの手に掛かっては泣く子も黙りよったぞえ」
 ヴェガはライアンと手を繋ぎ、会場内をぶらりと廻る。
「ライアンよ。おぬしが成人し、新たに屋敷を設けるようになったら必要になる儀式じゃ。話で聞くよりも、実際に見て回り作法を修めるのが良かろうて。そして桃山家の子々孫々に伝えてゆくべきじゃ。そうであろ?」
「うん、そうであるな。ライアンがおおきくなったときのために、しっかり見ておくのだ」
 そこへカイがやってきて、ジャパン語で挨拶する。
「カイ・ミストと申します。この度の建前にて、警護の役を果たすこととなりました」
「おやくめ、ごくろうさまなのだ。ライアンからもよろしくおねがいするのだ」
「はは!」

●ご祝儀争奪戦
 建前の儀式は滞りなく進み、屋根の上からご祝儀の品々が撒かれる番になると、警護の仕事に与る冒険者たちはがぜん忙しくなった。
 港町だけあって、とにかくドレスタットの人間は荒っぽいのが多い。
「こらぁ! そいつをよこせぇ!」
「うるさいわね! 拾ったもんはあたいのもんだよ!」
 ご祝儀拾い転じて奪い合い、あちこちで始まる怒鳴り合いに罵り合い。つかみ合いやら殴り合いまで始まる始末。
「こらこら! 殴り合いはいかんぞ!」
「申し訳ないが、それ以上羽目を外すようなら、ご退場願いますよ?」
 ニコルとカイが駆けつけると、怒鳴り合っていた二人がそれまでの争いなどウソのように笑顔になる。
「いや、悪ぃ悪ぃ」
「つい興奮しすぎちゃってぇ」
 喧嘩しているようで、実は奪い合いのゲームを楽しんでいたりする。それも男女のカップルや親子同士、兄弟姉妹同士でだ。子どもたちだって負けてはいない。
「そのお菓子はオレんだぞ!」
「うるさい、おいらが先に拾ったんだ!」
 慌ててカイが仲裁に入る。
『弟の分を奪ってはいけませんよ‥‥はい、どうぞ』
 ところが幼い兄弟はカイのイギリス語が分からず、ぽかんとしている。ニコルがゲルマン語に通訳すると、弟はにっこり笑って差し出されたお菓子を受け取った。それを見て兄が突っかかる。
「あ〜! そっちのお菓子の方が大きいじゃねぇか! そいつをよこせ〜!」
「こらこら、もう喧嘩はするな」
 止めに入るニコルのそばで、カイは落胆のため息一つ。
『‥‥言語が通じないというのは、やはり痛手ですね』
 と、荒くれ男とご祝儀を奪い合い、もみくちゃになっている爺さんがニコルの目に止まる。
「危ない、爺さん! こらこら、ご老人に手荒な真似はするな!」
 ニコルは男たちの中から爺さんを引っ張り出したが、爺さんは感謝するどころか逆に八つ当たり。
「ふん! おぬしのような若造の世話になるほど、わしは老いぼれてはおらぬわ!」
 爺さんは再び男たちの中に突っ込んでいき、しばらくすると両手に山ほどのご祝儀を抱えて飛び出してきた。
「ほっほっほ! わしもまだまだ若いのぉ!」
 それを見て泰斗は呆れ顔。
「祝儀の品を独り占めなんてのは国元じゃ無粋な奴のやる事なんだが‥‥国が変われば人も習慣も変わるってか? 仕方ない‥‥ま、なるようになる、さ」
 すると、屋根の上のサラサ・フローライト(ea3026)からテレパシーで連絡が入る。
(会場でスリを働いている男がいる。帽子をかぶったヒゲ面の男だ)
 周囲を見回し、泰斗はその男を見つけ出した。男は人々にわざとぶつかっては、懐の財布をくすねている。
「おい! さっきから何をしている!?」
 泰斗が詰め寄った途端、男は人気のない方向に逃げ出した。
「そいつを捕まえろ!」
 泰斗が叫ぶや間髪を置かず、アルスが高速詠唱でグラビティーキャノンを放つ。重力波が大地を揺らし、男は転倒したところを取り押さえられた。

●戦利品
 飛牙は人ごみの中でライアンをガードしつつ、ご祝儀を拾うコツを教える。
「お菓子は落ちてくるものを受け止めるより、落ちたのを拾った方が効率がいいぞ」
「ほらライアン、後ろに落ちてるではないか。しっかりしないか」
 ミヤもライアンの横で叱咤激励。ライアンがお菓子に手を伸ばすや、回りからも子どもたちの手が伸びる。
「オレんだ!」
「あたしのよ!」
 たちまち奪い合いになりそうな雲行きを察し、エルザがたくさんのお菓子を持って駆けつけた。
「はいはい、君たちにはコレあげるからケンカしないの」
 その有様にミヤは横目使いの視線を送る。
「お菓子、私も拾いたい‥‥いや、駄目だ。依頼をちゃんと果たさないと‥‥でも、面白そうだなぁ」
 そこへ現れたのが荒くれ男の一団。人々を押しのけ、手当たり次第にご祝儀をかき集めながら突進してくるではないか。
「貰える物は全部オレたちがいただくぜぇ!」
「黒いリボンは強さの証よ!」
「うおおおおおーっ!!」
 黒いリボンを振り回し、気炎をあげる男たち。すぐさま飛牙はライアンを抱えてその場から脱出。ミヤは荒くれ男どもの頭目に狙いをつけ、スリングで石を放った。
 ごん!
「痛ぁ!! 誰だ、石を投げた野郎は!? おまえかぁ!?」
 男の怖い目がミヤをにらむ。
「小さいのに、やるじゃねぇか?」
 ミヤも負けじと男に怒鳴る。
「不心得者は出ていけ!」
 二人でにらみ合っていると、鳳太郎がやって来た。
「おお、フリガン殿ではないか?」
 その言葉に険悪だった男の目元がゆるむ。
「ホウタロウか、相変わらず元気そうじゃねぇか?」
 どうやら男は、鳳太郎とは旧知の戦友のようだ。
「どうだ、建前を楽しんでくれたか?」
「もっちろんよ。戦利品もこの通り、がっぽりいただきよ」
「いや、それは困ったな‥‥」
 鳳太郎はフリガンの耳に何やら囁くと、フリガンは笑い出した。
「悪ぃ悪ぃ。オレたちもつい、やりすぎちまった」
 そしてフリガンはミヤに言う。
「戦利品は返すから、おまえたち子ども同士で分けてくれ」
「うん!」
 ミヤは得意顔で子どもたちを呼び集めた。
「みんな集まれ! みんなで戦利品を分配するよ!」
 わーいとかけ声を上げ、子どもたちが集まった。

 途中、色々あったものの、建前の儀式も無事終了。ずっと受付所にいたノアとドロシーにも仲間たちが拾ったご祝儀が届き、ドロシーは大感激。ヴェガはめでたく4番の当たりクジを引き当てた。そして一同は手に入れたお菓子を皆で楽しく食べ合った。