●リプレイ本文
●第1回戦
「これより北予選を開始する」
審判席には、まだ子供と言える年頃の領主と幾人かの貴族が着いていた。
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が右手を高く掲げている駆け込んでくる。。
「宣誓! 我々は、騎士道精神に則り、正々堂々と戦うことを誓うのだ!」
全員があっけに取られる状態で、宣誓を行ってしまった。大会進行役があまりの行動に呆れていた。
「‥‥以上です。では対戦者は名前を呼びますので」
呼ばれて名乗りを上げないのはその場で失格。
「騎士道不覚悟ってか」
「何、それ」
全然受けていない。
「第1回戦。第1試合ヤングヴラド・ツェペシュ」
「ふははははは! 我こそは悪名高き結社グランドクロス欧州総局局長ヴラド・ツェペシュ! いざ、尋常に勝負!」
「しびれるゥ〜あこがれるゥ〜」
ヴラドが名乗りを上げると、それを待っていたかのように、会場に一角から歓声があがった。ヴラドはそれに答えて、右手を軽く上げる。
「第1回戦。第1試合カタリナ・ブルームハルト(ea5817)」
ヴラドの向かい側には、見事に馬を操るカタリナ・ブルームハルトがランスを掲げている。
「ユニコーンに認められし乙女カタリナ・ブルームハルト!! そして、愛馬シュツルム!! その馬術の冴えごらんあれ!!」
久々にシュツルムと一緒に受けれる依頼があって嬉々として参加した。ランスを構えるその姿にも、その感情が溢れてみえる。カタリナの愛馬シュツルムの方が先に最高速度に達する。
互いのランスがそれぞれの目標に向かって繰り出される。ヴラドのランスを僅かな馬さばきで外し、カタリナのランスは相手の左肩に命中する。シールドを持っていないヴラドは、強かに肩をランスで突かれた。バランスを崩してヴラドは地上に叩きつけられる。
「得物を持てィ」
予め準備させておいた黒子に愛用のハルバード『深雪ちゃん命』を持って来させる。
「残念。貴方の挑戦を受けるつもりはないよ。馬上試合であって剣術試合じゃないからね。馬と一緒に戦っていないというのは馬に失礼だ」
「勝者『ユニコーンに認められし乙女カタリナ・ブルームハルト』!!」
準備に大金をつぎ込んでも1回戦で破れてしまってはどうしようもない。ヴラドはすごすごと東予選会場に向かった。
「第1回戦。第2試合、エヴィン・アグリッド(ea3647)」
「(名乗りか‥‥俺はこういうのは得意ではないのだが‥‥)我は自分の信念に行き続ける者‥‥我は眼前の道を妨げる事を許さん。我は光であり闇、聖であり魔、正義であり悪‥‥我が姿に畏怖せよ!我は『赤髪の黒騎士』エヴィン・アグリッド! 神聖にして邪悪なる者なり!」
「第1回戦。第2試合、響清十郎(ea4169)」
「我こそはジャパンより渡りし剣士、響清十郎なり。異国の騎馬戦ゆえの不慣れあれど、ノルマンの民に大和武人(もののふ)の戦いをお見せしよう。小柄なりと侮るなかれ。人馬一体の旋風は矢となりて敵を貫く!」
馬の脚力を活かすための軽装、相手の攻撃が命中すれば致命傷にもなる。
馬が速度を上げながら近づく。清十郎の方が軽い分、速度が上がる。エヴィンは相手のランスを弾くつもりでランスを縦に構えた。
しかし弾く前に清十郎のランスが右肩を突いてきた。清十郎のランスが砕けて、エヴィンは吹き飛ばされる。
互いに目標としたのは攻撃の起点である肩。騎乗技術の差と乗り手の重さの違いが出た。同じ人間なら駿馬に乗ったエヴィンに分が有ったが、体格の小さいパラの清十郎の乗った通常馬は負担の軽さによってその差を補って余りあった。
「俺の挑戦を受けろ」
右腕が半ば動かなくなりながらも、エヴィンは立ち上がって日本刀をどうにか引き抜く。
「挑戦を受けよう」
清十郎は馬から下りて日本刀を構える。
「右肩のダメージが無ければ」
エヴィンの判定負けとなった。
「第1回戦。第3試合ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)」
「我れはニルヴァーナ・ヒュッケバイン、黒死鳥の名を持つものなり!」
ランスを掲げる。
「この白銀の爪と、愛馬ヴァサーゴの翼で汝を死へ誘おうぞ! さあ、サーガ(戦記)を創めよう!」
「第1回戦。第3試合とれすいくす虎真(ea1322)」
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、笑いをくれと私を呼ぶ。愛と平和と笑いの使者、ひょっとこ仮面只今参上! この娯楽、私が制してみせよう!」
ひょっとこ仮面の口上に、ニルナの顔が一瞬引きつる。あまりにもキャラが違う。超シリアスとお笑い。さてどちらに軍配があがるのか。
「あの『ひょっとこ』ってどういう意味よ」
ニルナはジャパン語は使えないが、異様な仮面には半ば恐怖を抱いた。不気味なのだ。ジャパン語が分かればともかく。観客も分かっていない。つまりお笑いのはずが、笑いになっていない。
「ジャパン出身できっとジャパンの呪いの言葉かなにか? 神聖騎士たる私がそんな呪いに負けるものですか!」
鬼神すら避けるような気迫がひょっとこ仮面の方まで伝わってくる。
ひょっとこ仮面がフェイントアタックを仕掛ける間もなく、ニルナがひょっとこ仮面の腕の関節部を狙う。ひょっとこ仮面の反撃はランスを横殴りにした攻撃。ニルナの顔面に向けて横殴りのランスが襲いかかる。
辛うじてライトシールドで庇うものの、馬上からはたたき落とされる。ひょっとこ仮面は馬から下りて、挑戦を受ける。盾は捨てて身軽になり日本刀1本で攻撃を仕掛ける。フェイントアタックで翻弄させつつ、追い詰めていく。
ニルナも無理やりクルスダガーを繰り出すが相手には届かない。ひょっとこ仮面の判定勝ちとなる。
「第1回戦。第4試合ルイス・マリスカル(ea3063)」
「名もなく、地位なく、流派なし。
唯、己の武運に全てを懸け。
異邦イスパニアの剣士、ルイス・マリスカル、参る」
今回参加した冒険者の中で一番華やかな装備をしている。プレートアーマー、プレートヘルムにフェイスガードまで着けている。馬は駿馬。
「第1回戦。第4試合フェリシア・ティール(ea4284)」
「我こそは‥‥酒場にその姿ありと称えられし、鉄の微笑みをもつ者。
賢者は恐れ故にその口をとざし、戦士さえも一目置く地獄の卓の支配者なり‥‥。
紅薔薇の女帝、フェリシア・ティール‥‥いざ、参る!」
フェリシアはルイスの肩を狙って全力で突進を開始する。ルイスも駿馬のスピードを行かして突進する。ランスを水平左斜めに構え、相手の右胸から右肩の辺りを狙いを着ける。ランスが互いに命中する。
ルイスのはフェリシアの右胸あたりに、フェリシアのはミドルシールドに。ランスが砕ける。辛うじて両者は馬上に残った。フェリシアもランスの命中した当たりの痛みに耐えながら、次のランスを手にする。次で落馬させられないときついかも。
次も同じ箇所に当たる。ルイスは持ちこたえたが、フェリシアは衝撃よりも痛みによって落馬した。
「挑戦は受けません」
第2回戦が始まる。ダメージを回復する時間的余裕はない。試合時間も迫り、いかにダメージを受けずに相手を落馬させるかが勝負となる。予選の次には本戦もあるのだ。
「第1試合とれすいくす虎真対カタリナ・ブルームハルト」
カタリナの応援が優勢であった。とれすいくす虎真のひょっとこ仮面はあまり受けていない。開始早々カタリナがひょっとこ仮面を落馬させた。
「何が起こったのですか?」
騎乗技術の差が一気に出たようだ。カタリナは地上戦を受けないからそのまま本戦出場が決まった。
「第2試合ルイス・マリスカル対響清十郎」
「イスパニアの剣士、ルイス・マリスカル。己が全力を持って、参る」
2回戦目の口上を口にする。
「バーストアタック、行くぞ」
「冗談じゃない」
ルイスは無理せずに棄権した。
●本戦
本戦の出場枠は8名。西予選が激戦で本戦出場の上位2名枠のうち1名が負傷により棄権していた。そのため3名を評価によって本戦に加えることになった。そのうち2名は西予選で激戦の中で敗退した者たちから、そしてもう一人は。
「本当に私でいいの?」
薊鬼十郎は評価で選ばれたことを知って驚いた。1回戦で破れたのに。
「あなたをおいては、観客が納得しません」
本戦第1回戦
「神聖騎士シクル・ザーン対烈断剣デューク・ラーン」
激戦の西予選で評価によって選出されたファイターがシクルの最初の相手。
「強敵そうだ」
決勝戦にはランスだけでなく、シールドも貸し出される。シールドなしで予選に出場した者たちのうち、勝っても次の試合に出られないほど怪我を負った者が多かったためである。
特に西予選は激戦だったため、シールドの有無が運命を左右した。決勝戦が負傷者同士では様にならない。というわけで、シールドを所持していない者には軽めのシールドが半ば強制的に装備させられる。
すれ違いざまにランスがシクルを襲った。シールドを通じて強烈な衝撃が左腕の骨を砕くほど伝わってくる。思わず顔を顰める。シクルのランスは、相手のシールドによって脇に跳ねられてしまった。
「手綱を操りながら、シールドをあそこまで!」
西予選が激戦だったことを裏付ける手際。
「もっと強くなりたい。こんなところ負けられない」
シールドの動きを見極めた。シールドに弾かれなかったが、命中もしなかった。
「東予選は楽戦だったようだ。そっちに出れば良かった」
シクルの後を考えない突進は、中央の柵を蹴散らして馬ごと相手にぶちあたっていく。そのまま弾き飛ばした。
「シクル・ザーン失格」
「第2試合『蒼銀の貴公子』イルニアス・エルトファーム対ブレイド・カスター」
「え‥‥もしかして、あの時のブレイドさんですか?」
「ローズの依頼を受けた冒険者か」
「軽く胸貸してください」
「『蒼銀の貴公子』なんて二つ名を持つ冒険者に手加減はできない。全力でやらせてもらいう」
(「この名前いい加減やめにしたくなった。しかし、あっちだって愛用のブレイドじゃないし、やれるかも」)
互いに得物は同じランス、長さも同じ。
「スクルーズィ、頼むよ」
滑るような動き、向こうの馬は‥‥、いや騎乗の技術か。縦揺れはほとんどなく、それでいて凝視すると逆に幻惑されるように動いて見える。気づいた時には、ブレイドのランスがイルニアスの借り物のシールドを突き破っていた。
「突き破る前にランスが折れるだろう、普通!」
最後にそう叫んで意識を失った。
「第3試合カタリナ・ブルームハルト対薊鬼十郎」
馬上にて薊鬼十郎が礼するとカタリナ・ブルームハルトもそれに応える。礼儀正しい挨拶の次は作法に則った戦いが始まる。
サムライアーマーに身を固めて、ミドルシールドを持つ薊鬼十郎に対して、カタリナがレザーアーマーにライトールド。騎乗技術はカタリナの方が上。
突進すること10回に及ぶ戦い。ランスを折った数はカタリナの方が多かった。それはランスをより多く薊鬼十郎に当てていることを意味する。互いのシールドの表面にランスの痕が残る。薊鬼十郎は愛馬黒緋から落ちないように,半ば強引に衝撃を受け止める。カタリナはシュツルムを微妙に扱って、勢いを後方にかなり流してしまっていた。黒緋もシュツルムも互いの主のために、全力疾走しているが、どちらも限界に来ている。たぶん、黒緋の方がもう走れないだろう。サムライアーマーとレザーアーマーの重量差が勝敗を決した。黒緋の限界を感じた薊鬼十郎が試合を断念する。
「勝者ユニコーンに認められし乙女カタリナ・ブルームハルト!!」
両者に会場から拍手が送られる。
「第4試合響清十郎対‥‥え、居なくなった?」
清十郎と対戦する予定だった人物は、姿が見えなかった。
●準決勝
「第1試合響清十郎対ブレイド・カスター」
「目標は右肩。バランスを崩させて‥‥いや、喉を狙う。あのアーマーなら喉元はガードが薄いはず」
ブレイド・カスターの着用しているアーマーを観察して目標を定めた。並の相手でない以上、致命的になろうと死にはしない。ブレイド・カスターの防御は喉元が開いている。それは半ば誘いの手だった。喉元を狙った一撃はシールドの縁に押されて逸らされてしまった。相手のランスも清十郎は辛うじてだが、かわした。はずだった。
しかし、気づいた時にはメタルバンドがなかった。
「キミ、やるね」
パラだから攻撃範囲は狭いはずだが、それを気づかれないように攻撃してくる。会場はどっと沸く。清十郎は積極的に狙ったが、ブレイドは薄皮一枚でかわし、反対に清十郎が落馬させられてしまった。
「第2試合カタリナ・ブルームハルト対烈断剣デューク・ラーン」
「デュークさん、さっきの試合。あんな手を使って恥ずかしくないのですか?」
カタリナはシクルを無理やり挑発させて失格にしたデュークに怒りを感じていた。
「決勝まで力を温存させたかっただけだ。ご希望なら本気で相手をしてやるよ」
「負けません。あなたにだけは」
カタリナはランスを握る手に力を込める。
「もっと柔らかく握れ。それじゃ相手の変化に対応できないぞ」
カタリナに助言が飛ぶ。
「え?」
考えるまもなく突進する。そして言われたように、カタリナは柔らかく握っていた。
デュークはさきほどブレイドがやったような動きをした。カタリナは柔らかな握りでその微妙な動きに対応し、シュツルムと一体になってランスを繰り出す。
「そう簡単に勝てるとは思うなよ」
そのランスは斜めに逸らされた。シールドに角度をつけて、ランスの先を滑らせたのだろう。デュークのランスはカタリナを微かに掠っていた。シュツルムが僅かに体を横に走らせて難を逃れた。
「次こそ。シュツルム、頑張って」
シュツルムは、カタリナの願に応えた。デュークの予測を越える伸びで一気に接近し、カタリナのランスがデュークの顔面を捕らえる。ランスが、面当てに食い込んで折れる。
●決勝戦
「カタリナ、相手は歴戦の冒険者だ。小細工なしにぶつかってみて」
ニルナが助言してくれた。
「そういえば、さっきの助言はニルナ?」
「次の対戦者」
柔らかく握って命中した時に強く握る。互いのシールドにランスの突いた痕が残る。
「次を最後に」
相手の馬であっても心配する。カタリナのランスがブレイドの右肩を突いた。ブレイドはどうにか持ちこたえたが、馬は限界のようだった。そのまま棄権した。
「あと1回向こうが走れたら負けていた。うっし、シュツルムお疲れ!! 皆さんもお疲れさまでした!!」
カタリナ・ブルームハルトが優勝し、三領主トーナメント優勝者の栄誉を得た。敢闘賞には響清十郎が選ばれた。