暴走・珍獣サーカス団〜ドラゴン?
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 92 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月22日〜11月27日
リプレイ公開日:2004年11月28日
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●オープニング
ドレスタットに奇妙なサーカス団がやって来た。その名も珍獣サーカス団! 四頭立ての豪華な馬車から街の広場に降り立ったのは下半身大蛇の三人娘、6本足のドラゴンにまたがった竜騎士、翼をもった双子のエンジェルに、全身毛むくじゃらな半人半獣の曲芸師たち。馬車の入口に揺れる鳥かごには『森で取れたて 正真正銘モノホンのエレメンタラーフェアリー』と書かれた札がぶら下がり、中で蝶の羽根を生やした小さな少女が叫んでいる。
「たすけて〜☆ たすけて〜☆ 外に出してぇ〜☆」
二本足で歩くネコの姿をしたお姉さまが、籠の中の少女に囁く。
「長旅で退屈したでしょ? 少しお外で遊んできなさい」
「わ〜い☆ お外だ〜☆ お外だ〜☆」
自分で籠の扉を開けて外に飛び立った少女に、ネコのお姉さまが呼びかける。
「ついでにサーカスの宣伝もやっといてね〜☆」
一座を仕切るのは立派な礼服を身にまとい、口元にこれまた立派なヒゲを蓄えた男っぷりのいい団長だ。
「さあ皆様、お立ち会い。世界の各地から世にも珍しい数々の珍獣を引き連れて、珍獣サーカス団がやって参りました! どの珍獣も、世界を渡り歩く冒険者でもなければ、一生に一度出会えるか否かという珍しいものばかり。その曲芸をとくと堪能あれ! さて一番目の出し物は、森の奥深くに住みその美貌にて人を虜にして生き血をすするという、妖しくも美しき珍獣ラミア三人娘のスネークダンスでござ〜い!」
かろやかな楽の音に合わせ、人間の上半身に踊り子の衣装を羽織ったラミア(?)の三人娘が、大蛇の下半身をくねくねさせてご登場。
「にゃははははは! 毒どくラミア三姉妹、けんざ〜ん☆」
「あたし達、魔法だって使えちゃうのよ〜☆」
「ほ〜らこの通り☆」
三人娘が魔法の呪文を唱えると、松明の炎と手桶の水がまるで生き物のようにくねくねと動き、炎と水でできた大蛇のように踊りくねる。まき散らされた花びらまでが不思議な気流に乗って、娘たちの周りでぐるぐると渦巻く。
「次なるはボォルケイドドラゴンを従えし竜騎士でござ〜い! ひとたび怒れば森を焼け野原に変え、一夜にして街を焼き滅ぼすという獰猛なるボォルケイドドラゴン。それをあたかも馬のように軽々と乗りこなす竜騎士の勇士をとくとご覧あれ!」
全身燃えさかる溶岩にも似て全身赤黒く、しかも足はなぜか六本足のボォルケイドドラゴン(?)にまたがって現れた小太りの竜騎士(?)が、大仰な身振りで印を切って叫ぶ。
「大いなる大地のドラゴンより授かりし竜騎士の力をしかと見よ! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!!」
何がしかの呪文を唱えるや、観衆の見守る前で地面から分厚い石の壁が何枚もせり出して来るではないか。
「すっげーっ! 竜騎士ってあんな魔法も使えるんだ!」
子どもたちは目を丸くして大喜び。
「だあーっ!! だあーっ!! だあーっ!! だあーっ!!」
ドラゴンに乗った竜騎士は電光石火、見事なランスチャージの早業で次々と石の壁をぶち倒していく。
「が〜〜〜お〜〜〜!!」
全ての石の壁をぶち倒すと、六本足のドラゴンは前の二本足を宙にもたげて雄叫びをあげ、口からぼおっと炎を吹き出した。
「さぁてお次は天より地上に舞い降りた双子のロー・エンジェル。その天使の歌声をとくとご堪能あれ!」
白のセーラ神に黒のタロン神のしもべよろしく、それぞれ白と黒の羽根をもった愛くるしい少年のエンジェル(?)が、ふわりふわりと空を飛びながら布で出来た白い花びらをまき散らし、ボーイソプラノの歌声を響かせる。
「さあこれよりご覧に入れますは、遙かなる獣人界より訪れしワーリンクスのアクロバット!」
次から次へと繰り広げられる出し物に観衆は沸きに沸き立ち、その日の興行は大成功のうちに終わった。
夜、ドレスタットの街外れ。そこにはサーカス団が馬車を止め、テントを張って宿泊していたのだが、そこで何やら話し声がする。声は次第に大きくなり、遠くからでも聞こえる罵り合いになった。
「約束と全然違うじゃないの!!」
「うるさい!! 拾ってやった恩を忘れたか!! 毎日食わして貰ってるだけでも有り難いと思え!!」
「ふざけんな!! 食い物はマズいし量は少ねぇ!! こっちは肉体労働やってんだ!! もっとマシな物を食わしやがれ!!」
「黙れ!! 他には何の芸もできないくせして偉そうな口たたくな!!」
「薄給でコキ使いやがって!! もうやってられっかあ〜〜〜〜っ!!!!」
ぼあああああああああっ!!
突然の火球の大爆発が馬車とテントを吹き飛ばす。4頭の馬が馬車の残骸を引きずって逃げていく。毛むくじゃらの曲芸師たちが逃げ惑う中、街へ向かって突っ走っていくのは六本足のドラゴンとその竜騎士。
「がはははははは! もう遠慮はいらねぇ、腹一杯たらふく食ってやる!!」
と、いきなりドラゴンは六本足をもつれさせて転倒し、竜騎士は地面に放り出された。
「痛ぇ!! こらぁ、もっと気合い入れて走りやがれ!!」
「が〜〜〜お〜〜〜!!」
その後に続くは下半身大蛇の三人娘。
「きゃはははははははは!」
「毒どくラミア三姉妹に怖いものな〜し☆」
「酒よ、酒! 今夜は景気良く飲みまくってやるーっ!!」
夜空には双子の天使の姿。街の教会堂に向かってふわふわと飛んでいく。
「あはははは! 天罰だーっ!! 天罰だーっ!!」
「ずるい大人は地獄に落ちろーっ!!」
所変わって、ここは冒険者ギルド。
「たすけて〜☆ たすけて〜☆ 外に出してぇ〜☆」
「うるさい! おまえは黙ってろ!!」
礼服はよれよれ、口ひげもよれよれになったサーカス団の団長は、手にぶら提げた籠の中の少女を叱り飛ばすと、ギルドの事務員に頼み込む。
「サーカス団の珍獣たちが脱走した! 冒険者の手で捕まえてくれ!!」
「普通、こういうのって『珍獣』ではなく『幻獣』って言わないか?」
「んなことはどうでもいい!」
「で、あいつらは本当に『本物』なんだろうな?」
事務員は胡散臭そうな目を団長に向ける。
「当たり前じゃないか!」
「本物のラミアにドラゴンにエンジェルとなると、人集めも大変だぞ?」
「‥‥そうだ! 冒険者にはこいつを貸し出してやろう!」
団長は手荷物の中から袋をとりだし、中味をテーブルの上にぶちまけた。
「うにゃ〜」
「うにゃ〜」
「うにゃ〜」
出てきたのは背中に羽根のある、三匹の白いネコちゃん。
「これはシムルだ。一生に一度拝めるかどうかの珍獣の中の珍獣、しかも敵と戦う時にはライオンに変身すると言われているスグレモノだぞ!」
団長がシムル(?)の一匹を抱き上げた途端、背中の羽根がぽろりと落ちた。
「羽根‥‥落ちたぞ」
「‥‥き、気にするな! い、い、今はシムルの羽根が生え替わる季節なんだ!」
羊皮紙にペンを走らせて依頼書を作成しながら、事務員が訊ねる。
「ところで、あいつらが本物ってことは、人間ではないわけだな? ならば、いざという時にはぶっ殺しても構わんわけだな?」
「いや! それだけは困る!」
狼狽する団長を見て、事務員はにんまり笑った。
「そう来ると思ったぜ、団長」
そして事務員は、依頼書の末尾に書き足した。可能なかぎり珍獣の命を最優先し、生きたままの捕獲に努めるべし、と。
●リプレイ本文
●団長の説得
「あれがサーカス団ですかい? いやはや」
冒険者ギルドで依頼を受けてやってきた三人、以心 伝助(ea4744)、ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)、クレー・ブラト(ea6282)の目に映ったサーカス団は、何ともひどい有様だった。野営地に張られたテントはいたるところ焼けこげて穴が開き、そこかしこの物陰に一座の連中がへたり込んで青空を見上げている。
彼らの姿に気付くと、気ままに辺りを飛び回っていたシフールっぽい少女が、『モノホンのエレメンタラーフェアリー』と札のぶら下がった籠の中に飛びこんで大声を張り上げる。
「たすけて〜☆ たすけて〜☆ 外に出してぇ〜☆」
毛むくじゃらのマスクを外してぼけ〜っとしていた若い曲芸師が慌ててマスクをかぶり、2本足で歩くネコの格好で3人の前にやってきた。
「ワタシ、インドゥーラの山奥の獣人界から人間界にやってきたワーリンクスの曲芸師アルよ。何かご用アルか?」
「団長さんに会いに来たんだが?」
「団長さん、あそこアル」
曲芸師に案内されて行ってみると、団長はしかめっつらで算板とにらめっこしつつ、不機嫌そうにぶつぶつ呟いている。
「ああ、大損だ! 大損だ! 壊された馬車の買い換えに備品の修繕に‥‥おい、逃げ出した馬はまだ見つからんのか!?」
「こんにちは、団長。あっしらは冒険者ギルドで依頼を受けた者ですが、ちょいと話があるんですがね?」
挨拶がてら、伝助は団長をしっかり観察し、ついでに団長の周囲の物品にも目を走らせる。まだ下げられていない皿の上に、固そうなパンのかじりかけが一切れ、それに野菜の煮付けが申し訳程度に付け合わされている。
「ところで団長、お食事まだお済みではないっすね?」
「ふん! こんなおおごとが起きては、食事も満足に喉を通らんわ! これから先のことを考えるだけで頭が痛くなるし胃も痛くなるわい!」
鳥かごの中の少女を指して、クレーが訊いた。
「話は変わるんやけど、それホンマモンのエレメンタラーフェアリーなん?」
「もちろん本物だ! ちゃんとホンモノだと札がかかっているではないか!」
「そういえばドレスタットで最近、フェアリー密売事件がありましてんな?」
「ちょっと待て! 何でわしをそんな疑いの目で見るのだ!?」
「だったら、なんでホンマモンのフェアリーがこんな所におるねん?」
すると、話を聞いていた少女が籠の中から飛び出し、クレーにくってかかる。
「団長さんはいい人よ! 私は好きでこのお仕事やってるのよ!」
「あ、そう。んならそういうことにしとくわ」
再び伝助が話をする。
「で、あっしらは逃げ出した竜騎士さんについて聞こうと思ってたんですが、見たところサーカス団の経営は苦しそうっすね。食事も貧しそうだし‥‥」
話すうちに一座の者たちも周りに集まりだし、みな熱心に耳を傾けている。
「もしもサーカスの経営状態が苦しいなら、団員の方にもその事情をきちんと説明して納得してもらうべきだと思うんっすけどね」
「一座の経営が火の車なのは昔も今も変わらんわい! それをあのバカどもは!」
曲芸師の一人が伝助に耳打ちした。
「あの竜騎士はまだ若くて苦労知らずだからね。あたしらはこの稼業を長くやってるから、それなりに我慢もできるけどさ」
「とにかく、戻ってきたらただではおかんぞ! 最低5年間はタダ働きさせてくれるわ!」
その言葉を聞き、伝助はあえて団長に意見する。
「それは考え物だと思うんっすけどね。団長がそんな調子じゃ、戻ってこようにも戻ってこれなくなるっすよ」
「やかましい! おまえらはさっさと自分の依頼を果たさんか!」
「だけど彼らがいなければ、いずれ団長さんが困る事になるんすよ? そんなに報酬を払うのが嫌なら、お人形さんでも雇ったらどうっすか?」
うっ、と団長は言葉に詰まる。
周りの者たちも、一人また一人と口添えする。
「団長、あいつらのしでかした事は大目に見るよう、俺たちからもお願いするぜ」
「馬車は壊されたけど死人を出したわけじゃないし」
「サーカスの出し物が減れば、あたし達も困るわよ」
言葉に窮した団長にクレーがずけずけ物を言う。
「団長さん、あんたは人の話に耳も貸さずに自分一人だけがむしゃらに頑張って、それで損をするタイプやな。これじゃまとまる話もまとまらん」
「ま、ここはおいら達に任せてくれ。そういうことで、みんな集まってくれないかな?」
ジェンナーロが一座の者たちを集め、しばしの話し合いの後、まとまった話を団長のところへ持っていった。
「騒動を引き起こした竜騎士とドラゴンは1年の間、給料3割の減額。残りの者たちは1年の間、給料2割の減額で辛抱してもらい、浮いた金で馬車を買い換える。そしてみんなで客を呼べそうな新しい出し物を考え、それで客が入って儲けが出たら、皆の納得いく方法で分配するなり必要経費に充てるなりする。これなら皆も納得だが?」
さらにクレーが畳みかける。
「とにかく一座の者たちの待遇改善と、皆が自由に意見を言える雰囲気作りが肝心や。今回みたいな事がまたあると、サーカスの評判も悪くなるんとちゃうかな? 今後は皆の話をよく聞いてから、物事を決めるようにせんと」
「ああ、分かった。それでよかろう」
伝助が言い添える。
「で、竜騎士に会いに行くんだったら、団長が了解したその内容を何か形に残る念書として持っていきたいんっすよ。そのほうが向こうだって納得しやすいでしょう?」
「念書か‥‥。言っとくが羊皮紙はダメだぞ! あんな高い物、使えるか!」
団長は手近にあった板きれを取ると、先に同意した内容をそこにでかでかと書き込み、サインした。
「さあ、これを持っていけ!」
「あ、それから団長。シムルも一緒に連れていきたいんだが?」
ジェンナーロに言われて、団長は羽根のついた白ネコを差し出した。
「うにゃ〜」
「さあ、これがシムルだ。一生に一度出会えるかどうかという珍獣の中の珍獣‥‥」
言うそばからシムルの羽根がぽろりと落ちた。
「うわっ! き、気にするな! 今はシムルの‥‥」
「分かってるよ。今はシムルの羽根が生え替わる季節なんだろう?」
●竜騎士の説得
竜騎士とドラゴンが居座る街へ行くのに、ドレスタットからそう長くはかからない。道中、クレーとジェンナーロはシムルの姿をした白ネコちゃんと戯れまくり。
「うりうりうりうり。気持ちいいか〜?」
「ごろごろごろごろ」
「そ〜れ、ごはんだぞ〜」
「うにゃ〜」
喉の下をくすぐればゴロゴロ気持ちよがり、エサを与えれば喜んで飛びつく。反応は普通のネコちゃんとまったく変わらない。
「さて、初めて竜騎士とドラゴンを見ることになるわけだけど‥‥楽しみだな」
「幻獣とも呼ばれるモンスターたちを見られる貴重な機会ですし、モンスター学を修めるものとしては、この機を逃してはなりませんよね」
期待に心をわくわくさせるジェンナーロにエミリエル・ファートゥショカ(ea6278)。やがて街の広場が見えてきた。広場中央に竜騎士の格好をした男と6本足のドラゴンがだらしなく寝そべっている。その周りには食い散らかした食料、されにそれを遠巻きにして街の人々が不安な面もちで見守っている。
「おお、冒険者の方々が来てくださったか。今は大人しくしてますが、いつまた暴れ出すとも知れません」
「後はわたくし達にお任せください」
街の人々に告げると、エミリエルは仲間たちの先頭に立ち、竜騎士とドラゴンの所へやってきた。
「竜騎士様、お酒と食料をお持ちいたしましたわ」
寝そべっていた竜騎士がむくりと起きあがり、ドラゴンがもぞもぞと動き出す。
「あんた誰だ? 俺たちが怖くないのか?」
「怖いだなんて、そんな。ドラゴンを駆る騎士なんて、憧れてしまいます。もしよろしければ、ドラゴンのことや今までの冒険譚など、色々お聞きかせいただけませんか?」
「あ‥‥その‥‥」
「ドラゴンと出会ったいきさつとか、これまで戦った中で一番強い敵のこととか‥‥」
「いや‥‥だから‥‥」
なぜか竜騎士は言葉につまる。するとドラゴンが不格好な仕草で竜騎士に頭を寄せ、何やらもごもごした声を出した。
「あ、ああ‥‥わかった‥‥。俺はノルマンの田舎の出だけど‥‥家系をたどるとフランク国のどこぞの王様に行き当たるらしくて‥‥んなわけで俺にも勇者の血が流れているらしいんだ。‥‥で、俺は小さい頃から冒険の旅で諸国を渡り歩くうちに‥‥今ここにいるドラゴンと出会ったってわけさ」
「その出会いの話、詳しく聞かせてくださいな」
酌をしながらエミリエルが話を向ける。
「あ〜‥‥そのぉ‥‥」
またもドラゴンが頭を寄せ、もごもごした声で竜騎士に何かを伝える。
「ドラゴンと出会ったのは‥‥フランク国の深い森の中だったな。俺たちは冒険者仲間と一緒になってトロル退治をやっていたんだが‥‥運悪くトロルに逆襲されて森の中を逃げまり‥‥そんな時に、こいつと出会ったんだ」
「立派なドラゴンですこと」
興味津々でドラゴンを見つめるエミリエル。
「だろう? ボォルケイドドラゴンと言って、フランク国では街を焼き滅ぼした伝説もあるほどの強いドラゴンなんだぞ!」
話す竜騎士は得意顔。しかしそれなりにモンスター知識のあるジェンナーロは小首を傾げ、竜騎士に聞こえぬようにつぶやく。
「しかしボォルケイドドラゴンって六本足だったかねぇ?」
しかし同じモンスター知識を持つ者でも、エミリエルの反応は違う。
「こんなこと書いておりませんでしたのに‥‥やはり実物は違いますね」
「そうだろう! モノホンのドラゴンは違うだろう?」
ドラゴンが鳴いた。
「が〜〜〜お〜〜〜!」
なぜかその鳴き声は喉からではなく、腹のあたりから聞こえる。
「ん? ドラゴンよ、おまえも食い物が欲しいか?」
「あいよ。ほらでっかいトカゲさん、おまえの好きな干し肉だよ」
携えてきた聖なる干し肉を、伝助はドラゴンの鼻先にちらつかせるが、ドラゴンは食いつきもしない。
「ペットが喜ぶ食べ物って聞いたけど、気にいらないのかな?」
聖なる干し肉の代わりに、仲間が酒場で買ってきた豚の薫製肉を見せると、ドラゴンはかぱっと口を開いた。口の中に薫製肉を放り込むと、ドラゴンの喉の奥から小さな手が伸びて、薫製肉をさっとつかみ取った。伝助が口の中をのぞき込むと、小さな子どもの顔が伝助を見つめていた。
「でっかいトカゲじゃないやい! ドラゴンだい!」
「はいはい、わかりやしたたよ」
「ねえ、ドラゴンの中に人が入っていることは秘密にしといてよ」
「うん、分かった」
「それからね、真ん中の足と後ろ足のが食べ物とお酒を欲しがってるから、渡してくれない。ボクのところからだと、ひっかかってうまく渡せないんだ。ドラゴンのお腹の所に出し入れ口があるからさ」
「はいよ」
ドラゴンは横にねそべり、伝助がその腹をまさぐると、そこには目立たぬように穴が開けられていた。そこからジャイアントの男が顔を出す。
「ふぅ。ドラゴンの足をやるのも大変だぜ」
「いや〜、ご苦労様っすね。ほい、酒とお肉っすよ」
「ありがとうよ」
「なるほど。前足をあの坊やが、残りの足をあんたが動かしてたわけですかい」
「そうだ。ついでに言うと、前足のあの子はウィザードでな。火の魔法を使ってドラゴンに火を吐かせていたわけだ。言っとくが、このことは秘密にしておいてくれよ。お客さんの夢をぶちこわしにしたくはないんでな」
出し入れ口から手を出して酒と薫製肉を受け取ると、ジャイアントの顔はドラゴンの中に引っ込んだ。
最初は上機嫌で酒を飲んでいた竜騎士だが、酒が回るうちに自慢話は愚痴と泣き言に変わっていった。
「俺は‥‥俺は、子どもの頃から竜騎士になるのが夢だったんだ。だけど俺は貧乏な家の末っ子で、騎士の身分なんて夢のまた夢。苦労して見習いウィザードになって冒険者ギルドの依頼を受けて冒険を始めたけど、モンスターが怖くて怖くて戦いではてんで役立たずで、そのうちギルドの依頼も続けられなくなって、一人ぼっちで冬の街で凍えていたところをあの団長に拾われたんだよ。だけどあの団長ときたら、毎日毎日どなり散らすばかりで食べたい物も食べさせてくれないし‥‥ううっ。、俺、もうこんなのいやだよぉ‥‥」
「分かる、分かるよ、竜騎士さん達の意見。おいらだって‥‥」
ジェンナーロが優しく肩を叩いて慰めてやる。
「しかしあの団長、口ではご大層なこと言ってるけどな。ああいう人間は裏でどんな悪事に手を染めていてもおかしくないんとちゃうかい?」
クレーが言うと、竜騎士はムキになって怒鳴った。
「団長を悪く言うな! そりゃ団長は昔はごろつきで、色々と悪さもしてきたけど、今じゃこんな俺たちの面倒をしっかり見てくれるいい人なんだ!」
「ああ、分かった分かった。その様子ならあの団長に任せて大丈夫やな? で、自分らからも団長さんには進言するやさかい、会って話ぐらいしてもええんとちゃう?」
「だけど、俺‥‥」
落ち込む竜騎士に、伝助は団長が書いた念書の板きれを見せてやった。
「団長さんもこの通り、約束してくださったことだし」
「‥‥うん、分かったよ。俺、団長に会いに行くよ」
●大団円
冒険者たちの説得は功を奏し、竜騎士とドラゴンはサーカス団に戻ってきた。団長は和解の印に竜騎士を抱きしめる。
「色々あったが、これからもがんばってくれよ。おまえ達あっての珍獣サーカス団だからな」
「うん。俺、がんばる」
エミリエルはドラゴンに別れを告げる。
「名残惜しいけど、ここでお別れですね。でも、本物のドラゴンをこの目で見られて、とてもうれしかったです」
「が〜〜〜お〜〜〜!」
ドラゴンは一声鳴いて、口からぼおっと炎を吹き出した。
「ところで団長、ちょっと話があるんやけどな」
団長にひそひそ耳打ちするクレー。すると団長が顔色を変えて怒鳴った。
「ドラゴンの中に人が入っているだと!? そりゃ何かの間違いだ! そうだ、あんたは何かの拍子でドラゴンの中に人が入っている夢か幻覚を見たに違いない!」
「んじゃ、口止め料。酒に食料代その他、諸経費払ってもらえるなら、それで勘弁しとくわ」
「ええい、しかたない」
渋々、団長が金を手渡すと、クレーはにんまり笑った。
「ども、おおきに。またよろしゅうな」