暴走・珍獣サーカス団〜エンジェル?

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月28日

リプレイ公開日:2004年11月28日

●オープニング

 ドレスタットに奇妙なサーカス団がやって来た。その名も珍獣サーカス団! 四頭立ての豪華な馬車から街の広場に降り立ったのは下半身大蛇の三人娘、6本足のドラゴンにまたがった竜騎士、翼をもった双子のエンジェルに、全身毛むくじゃらな半人半獣の曲芸師たち。馬車の入口に揺れる鳥かごには『森で取れたて 正真正銘モノホンのエレメンタラーフェアリー』と書かれた札がぶら下がり、中で蝶の羽根を生やした小さな少女が叫んでいる。
「たすけて〜☆ たすけて〜☆ 外に出してぇ〜☆」
 二本足で歩くネコの姿をしたお姉さまが、籠の中の少女に囁く。
「長旅で退屈したでしょ? 少しお外で遊んできなさい」
「わ〜い☆ お外だ〜☆ お外だ〜☆」
 自分で籠の扉を開けて外に飛び立った少女に、ネコのお姉さまが呼びかける。
「ついでにサーカスの宣伝もやっといてね〜☆」
 一座を仕切るのは立派な礼服を身にまとい、口元にこれまた立派なヒゲを蓄えた男っぷりのいい団長だ。
「さあ皆様、お立ち会い。世界の各地から世にも珍しい数々の珍獣を引き連れて、珍獣サーカス団がやって参りました! どの珍獣も、世界を渡り歩く冒険者でもなければ、一生に一度出会えるか否かという珍しいものばかり。その曲芸をとくと堪能あれ! さて一番目の出し物は、森の奥深くに住みその美貌にて人を虜にして生き血をすするという、妖しくも美しき珍獣ラミア三人娘のスネークダンスでござ〜い!」
 かろやかな楽の音に合わせ、人間の上半身に踊り子の衣装を羽織ったラミア(?)の三人娘が、大蛇の下半身をくねくねさせてご登場。
「にゃははははは! 毒どくラミア三姉妹、けんざ〜ん☆」
「あたし達、魔法だって使えちゃうのよ〜☆」
「ほ〜らこの通り☆」
 三人娘が魔法の呪文を唱えると、松明の炎と手桶の水がまるで生き物のようにくねくねと動き、炎と水でできた大蛇のように踊りくねる。まき散らされた花びらまでが不思議な気流に乗って、娘たちの周りでぐるぐると渦巻く。
「次なるはボォルケイドドラゴンを従えし竜騎士でござ〜い! ひとたび怒れば森を焼け野原に変え、一夜にして街を焼き滅ぼすという獰猛なるボォルケイドドラゴン。それをあたかも馬のように軽々と乗りこなす竜騎士の勇士をとくとご覧あれ!」
 全身燃えさかる溶岩にも似て全身赤黒く、しかも足はなぜか六本足のボォルケイドドラゴン(?)にまたがって現れた小太りの竜騎士(?)が、大仰な身振りで印を切って叫ぶ。
「大いなる大地のドラゴンより授かりし竜騎士の力をしかと見よ! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!! 出よ石の壁!!」
 何がしかの呪文を唱えるや、観衆の見守る前で地面から分厚い石の壁が何枚もせり出して来るではないか。
「すっげーっ! 竜騎士ってあんな魔法も使えるんだ!」
 子どもたちは目を丸くして大喜び。
「だあーっ!! だあーっ!! だあーっ!! だあーっ!!」
 ドラゴンに乗った竜騎士は電光石火、見事なランスチャージの早業で次々と石の壁をぶち倒していく。
「が〜〜〜お〜〜〜!!」
 全ての石の壁をぶち倒すと、六本足のドラゴンは前の二本足を宙にもたげて雄叫びをあげ、口からぼおっと炎を吹き出した。
「さぁてお次は天より地上に舞い降りた双子のロー・エンジェル。その天使の歌声をとくとご堪能あれ!」
 白のセーラ神に黒のタロン神のしもべよろしく、それぞれ白と黒の羽根をもった愛くるしい少年のエンジェル(?)が、ふわりふわりと空を飛びながら布で出来た白い花びらをまき散らし、ボーイソプラノの歌声を響かせる。
「さあこれよりご覧に入れますは、遙かなる獣人界より訪れしワーリンクスのアクロバット!」
 次から次へと繰り広げられる出し物に観衆は沸きに沸き立ち、その日の興行は大成功のうちに終わった。

 夜、ドレスタットの街外れ。そこにはサーカス団が馬車を止め、テントを張って宿泊していたのだが、そこで何やら話し声がする。声は次第に大きくなり、遠くからでも聞こえる罵り合いになった。
「約束と全然違うじゃないの!!」
「うるさい!! 拾ってやった恩を忘れたか!! 毎日食わして貰ってるだけでも有り難いと思え!!」
「ふざけんな!! 食い物はマズいし量は少ねぇ!! こっちは肉体労働やってんだ!! もっとマシな物を食わしやがれ!!」
「黙れ!! 他には何の芸もできないくせして偉そうな口たたくな!!」
「薄給でコキ使いやがって!! もうやってられっかあ〜〜〜〜っ!!!!」
 ぼあああああああああっ!!
 突然の火球の大爆発が馬車とテントを吹き飛ばす。4頭の馬が馬車の残骸を引きずって逃げていく。毛むくじゃらの曲芸師たちが逃げ惑う中、街へ向かって突っ走っていくのは六本足のドラゴンとその竜騎士。
「がはははははは! もう遠慮はいらねぇ、腹一杯たらふく食ってやる!!」
 と、いきなりドラゴンは六本足をもつれさせて転倒し、竜騎士は地面に放り出された。
「痛ぇ!! こらぁ、もっと気合い入れて走りやがれ!!」
「が〜〜〜お〜〜〜!!」
 その後に続くは下半身大蛇の三人娘。
「きゃはははははははは!」
「毒どくラミア三姉妹に怖いものな〜し☆」
「酒よ、酒! 今夜は景気良く飲みまくってやるーっ!!」
 夜空には双子の天使の姿。街の教会堂に向かってふわふわと飛んでいく。
「あはははは! 天罰だーっ!! 天罰だーっ!!」
「ずるい大人は地獄に落ちろーっ!!」

 所変わって、ここは冒険者ギルド。
「たすけて〜☆ たすけて〜☆ 外に出してぇ〜☆」
「うるさい! おまえは黙ってろ!!」
 礼服はよれよれ、口ひげもよれよれになったサーカス団の団長は、手にぶら提げた籠の中の少女を叱り飛ばすと、ギルドの事務員に頼み込む。
「サーカス団の珍獣たちが脱走した! 冒険者の手で捕まえてくれ!!」
「普通、こういうのって『珍獣』ではなく『幻獣』って言わないか?」
「んなことはどうでもいい!」
「で、あいつらは本当に『本物』なんだろうな?」
 事務員は胡散臭そうな目を団長に向ける。
「当たり前じゃないか!」
「本物のラミアにドラゴンにエンジェルとなると、人集めも大変だぞ?」
「‥‥そうだ! 冒険者にはこいつを貸し出してやろう!」
 団長は手荷物の中から袋をとりだし、中味をテーブルの上にぶちまけた。
「うにゃ〜」
「うにゃ〜」
「うにゃ〜」
 出てきたのは背中に羽根のある、三匹の白いネコちゃん。
「これはシムルだ。一生に一度拝めるかどうかの珍獣の中の珍獣、しかも敵と戦う時にはライオンに変身すると言われているスグレモノだぞ!」
 団長がシムル(?)の一匹を抱き上げた途端、背中の羽根がぽろりと落ちた。
「羽根‥‥落ちたぞ」
「‥‥き、気にするな! い、い、今はシムルの羽根が生え替わる季節なんだ!」
 羊皮紙にペンを走らせて依頼書を作成しながら、事務員が訊ねる。
「ところで、あいつらが本物ってことは、人間ではないわけだな? ならば、いざという時にはぶっ殺しても構わんわけだな?」
「いや! それだけは困る!」
 狼狽する団長を見て、事務員はにんまり笑った。
「そう来ると思ったぜ、団長」
 そして事務員は、依頼書の末尾に書き足した。可能なかぎり珍獣の命を最優先し、生きたままの捕獲に努めるべし、と。

●今回の参加者

 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4086 ルー・ノース(22歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●サーカス団の天使
 依頼を受けた冒険者たちがサーカス団へやって来ると、ちょうど竜騎士とドラゴン捕獲の依頼を受けた冒険者たちが出払った後だった。団長も逃げた馬を探しに出かけており、聞き込みにやってきたサラサ・フローライト(ea3026)の対応に出たのは、ワーリンクスの姿をした曲芸師のお姉さまだった。
「サーカス団員の待遇改善については、先にやってきた冒険者たちが団長と話をまとめてくれたからいいんだけど、問題なのはあの子たちよね。依頼を受けたあなたにだから正直に話すけど‥‥」
 話によれば双子のエンジェルの正体は、天使の格好をした人間の双子。ともに風の精霊魔法を使えるウィザードだということだ。
「魔法にかけては優秀なんだけど、自分勝手でわがままな子たちでね。一時は冒険者ギルドの依頼を受けて働いてたこともあったんだけど、性格が災いして他の冒険者たちにも迷惑ばかりかけて、それでギルドからクビを言い渡されて街をぶらぶらしてたところを、サーカス団の団長に拾われたってわけなのよ。うまくサーカス団に戻ってくれたらいいけど。他には行き場所のなさそうな子たちでしょう?」
「サーカスに戻すかはともかく、最低でも関係ない者への被害は食い止めんとな。ところで、あのエンジェル達はサーカスで歌を歌っていたが、彼らは歌を歌うのが好きなのか?」
「そうね‥‥。歌を歌い始めたのはサーカスに来てからで、歌を教えたのはこの私だけど、二人ともいつも楽しそうに歌ってたし、仕事がないヒマな時にも好きで歌ってたわよ」
「それと、シムルを貸してくれるか?」
「これでいいの?」
 怪訝そうな顔をしながら、曲芸師のお姉さまは羽根のついた白ネコをサラサに渡した。
「見かけだけはシムルの姿をしてるけど、役に立たないわよ。ライオンにだって変身なんかしないんだし」
「似合わんだろうが、私は小動物は好きなんだ。ネコは特にな」

●天使におしおき
 双子のエンジェルが居座っているという村にやって来ると、村で一番高い建物である教会堂の屋根の上で、二人のエンジェルが暇そうにひなたぼっこをしているのが見えた。教会堂の周りでは村人たちが遠巻きに様子をうかがっていたが、やってきた冒険者たちの姿に気付くと口々に頼み込んだ。
「あの性悪なエンジェルを何とかしてくれ!」
「あちこちに雷を落とすもんだから、もうおっかなくておっかなくて!」
「雷に驚いて犬は吠えるし牛は暴れるし、てんで仕事になりゃしねぇ!」
 それにしても、この教会にいるはずのクレリックはどこに行ってしまったのだろう? それをサラサが訊ねてみると、村人の一人が答えた。
「エンジェル様が相手ではとても自分の手に負えないと言って、ドレスタットまで行ってしまったよ。何でもドレスタットに住む偉い司教様に相談するとか言って。司教様がだめならドレスタットの領主様に相談するって言ってたよな。まあ、ここ数日は帰ってこれないのでないかい?」
 こんな災難に巻き込まれた村のクレリックも不運である。今頃、ドレスタットのあちこちをたらい回しにされてなければいいのだが。
 ここは我々に任せてくださいと冒険者たちは村人たちに言い聞かせ、作戦に移った。
「あれれ? この中でバードじゃないのは私だけ? 何かぁ、私もぉ楽器持ったほうがいぃん?」
 童顔の神聖騎士エリー・エル(ea5970)に言われて、仲間のサラサとリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は首を振る。
「いや、結構」
「バードの格好はいいから、自分の受け持ちをしっかり頼むわよ」
「ならいいけど‥‥だけど、もう一人はどこへ行っちゃったのかしらん?」
 予定ではもう一人の仲間がここにいるはずなのだが、どこか道にでも迷っているのだろうか? ともかくも、今ここにいる3人で行動するしかない。エンジェルたちが歌好きなのは分かっていたので、それを利用することにした。
 リュシエンヌが伴奏として竪琴をつま弾き、サラサが歌い、二人してエンジェルたちのいる教会へと近づいていく。哀愁を帯びた竪琴のメロディーとサラサの声を耳にすると、エンジェルたちは好奇心を示して屋根の上からふわふわと舞い上がり、サラサの近くまで飛んできた。
「おまえ、そこで何してるんだ?」
 黒い翼のエンジェルが訊いた。
「見ての通り、ここで歌っているのさ」
「おまえはここに、歌を歌うためにやって来たのか?」
 白い翼のエンジェルが訊いた。
「そうだ。そして君たちと話をするためにだ」
 どこからともなく、クッキーの焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
「あれ? 何だかおいしそうな匂いがするぞ」
 エンジェル二人がきょろきょろ辺りを見回すと、手近な農家の台所を借りてクッキーを焼いたエリー・エル(ea5970)が、盆にたくさんのクッキーを乗せて鼻歌を歌いながら姿を現した。
「出来立てのクッキーはどうかしらぁん?」
 エリーがエンジェル二人に呼びかける。
「わ〜い、クッキーだ! クッキーだ!」
「今戻ればぁ、怒られずにぃ、お菓子がいっぱい食べれるよぉん」
 だがエリーのさらなる呼びかけに、拒否反応が返ってきた。
「いやだ! あんなサーカス団に戻るもんか!」
「サーカス団の団長は悪いやつだ! ずるい大人だ!」
「団長のことなら心配いらないよ。きちんと待遇改善するって約束してくれたんだからさあ」
「うるさい! あんなずるい団長の言うとなんか信じられるか!」
「さては、おまえも団長の手先だな! クッキーを置いてここから帰れ! 言うこときかないと天罰だぞ!」
 エンジェルたちは近くの農家の屋根に舞い降りると、何やら呪文を唱えはじめた。
「危ない! 雷が来るぞ!」
「あらやだ! クッキーが落っこちちゃう!」
 サラサとリュシエンヌに続き、クッキーの盆を手にしたエリーが農家の中に逃げ込むと、間一髪でライトニングサンダーボルトの電撃がエンジェルたちの両手から放たれる。電撃の稲妻は一直線に農家の入口に向かい、そこの敷石の中に吸い込まれた。
「あ〜! お菓子をもって逃げるなんて、なんてずるい大人なんだ!」
「あんなずるい大人たちには天罰だ!」
 エンジェルたちは再び、何がしかの呪文を唱えようとした。が、その呪文が成就する前に、冒険者たちが逃げ込んだ農家の中からムーンアローの光の矢が二つ、放たれた。高速詠唱でムーンアローの魔法を唱えたのはリュシエンヌ。光の矢はエンジェルたちの体の中に消え、エンジェルたちは苦痛の叫びを上げて屋根の上から転げ落ちた。
「うわ〜ん!! 痛ぁ〜い!! 痛いよぉ〜!!」
「痛いよぉ〜!! 痛いよぉ〜!!」
 地面に落ちて泣き叫ぶその声を聞いてエリーが真っ先に姿を見せる。
「あらあら、怪我をしちゃったのん? よちよち、お姉さまがリカバーの魔法で治してあげますよん」
 エリーの魔法で傷の痛みが和らぐと、エンジェル二人は文句をたれる。
「天使にこんなことしちゃいけないんだぞー!」
「こんなことしたら地獄におちるぞー!」
 すかさずリュシエンヌが怖い顔して叱りつける。
「‥‥じゃあ、ドレスタットの教会へ行って本当に白黒つけましょうか? そうね、黒の教会なら厳格に判断してくれるでしょうし」
 その言葉を聞いて、エンジェルたちは騒ぎ出す。
「そんなのずるい!」
「そんなのずるいよ!」
「大人はみんな、ずるくてひきょうだ!」
「大人はみんな、ずるくてひきょうでうそつきだ!」
「ずるくてひきょうでうそつきな大人は、みんな死んじゃえ!」
「悪い大人はみんな死んで地獄に落ちちゃえ!」
「悪い大人には天罰だ!」
「大人はみんな天罰で地獄に落ちちゃえ!」
 と、それまで二人の言うに任せていたサラサが、エンジェルのうち白い羽のほうの体を押さえ込む。
「うわ! 何をするんだ!?」
「どうやら口で言っても分からぬようだな。わからぬなら体験させるのが一番手っ取り早い」
 サラサ、強行手段発動。古来より伝わる子供の躾法・尻叩きを決行だ。
 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!
「痛ぁい! 痛ぁい! 痛ぁい! 痛ぁい!」
 その痛さに白い羽のエンジェルは泣き出し、それを見て黒い羽のエンジェルも目に涙を浮かべて泣き出した。
「うわぁ〜ん!! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
 もういいだろうとサラサは尻を叩く手止め、二人が泣きやむのを待っていいきかせた。
「誰だって傷つけば痛いし、痛いのは嫌だろう。無為に人を傷つけるのは天罰とは言わん。それはただの暴力だ」
 二人のエンジェルは神妙にサラサの言葉を聞いている。
「自分の痛みから他人の痛みを考えられるようになってもらいたいものだ。私はそう思うぞ」
 サラサの言う言葉の意味を理解したらしく、エンジェルたちは涙顔でうなずいた。それを見てリュシエンヌが言い添える。
「分かったなら、迷惑かけた村の人たちに頭を下げて謝りなさい」

●大団円
 こうして逃げ出した天使二人は無事、サーカス団に連れ戻された。
「いやぁ、良かった。良かった」
 どこか照れくさそうに笑いながら、団長は二人を迎える。
「まぁ、サーカスの運営にも問題があったみたいだし、もう二度と脱走騒ぎが起こらないようにしないとね」
 団長に釘をさすリュシエンヌ。すると、白い羽のエンジェルが言う。
「でも、団長はウソつきだよ。ウソはいけないって子どもには言うくせに、どうして大人はウソをつくのさ?」
 黒い羽のエンジェルもリュシエンヌに言う。
「サーカスのドラゴンは中に人が入って動かしているニセモノだし、ワーリンクスの曲芸師たちも着ぐるみ来たただの人だし、エレメンタラーフェアリーだってただのシフールの子なのに、どうして団長はみんなそれを本物だって言うのさ?」
 団長は困った顔になり、二人に言い訳する。
「いや、その‥‥それはだな‥‥。コホン。どうして大人がウソをつかなきゃならんのかは、おまえ達が大人になれば分かることだ」
 それを聞いたエンジェルたちは奇妙な顔。
「大人って、ヘンなの」
「ヘンなの」
 そこへエリーが現れた。
「どぉ? 私も負けてないわよぉん!」
 皆の目がエリーの背中に釘付けになる。そこにはエリーお手製の天使の羽根。自信たっぷりにエリーはキメポーズして一言。
「さしずめ私は、空から舞い降りたエンジェルってとこかしらん?」
「おお、すばらしい!」
 団長は目を輝かせてエリーの手を握り、頼み込む。
「どうだ、君もわが珍獣サーカス団で働かないか? 君ならば間違いなくサーカス団の花形になれるぞ! ところで天使の格好もいいが、お色気ムンムンな女戦士の格好はどうだ!? 諸国を渡り歩き数々のモンスターを退治した女戦士ということで、お色気路線で売り出せば、パリでもドレスタットでも大人気を博すること間違いなし‥‥」
「‥‥懲りんヤツめ」
 じっと話を聞いていたリュシエンヌが、ぽんと団長の頭を小突いた。