幽霊屋敷騒動顛

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月21日〜07月28日

リプレイ公開日:2004年07月29日

●オープニング

 街からさほど離れていない森の中に、朽ちかけた大きな屋敷がある。神聖ローマ帝国支配時代に建てられた貴族の別荘だというが、帝国撤退後、新たな所有者が管理の手間を惜しみ、荒れ放題となっていたのだ。近隣の住人からは幽霊屋敷と噂されるこの物件を購入し、新たな所有者となった物好き貴族様が、今回の依頼人という訳だ。
「元は立派な屋敷、手を入れれば見れるようにもなろうと思い購入したのだが、修繕に向かわせた職人達が皆、幽霊を見たの化け物が出たのと、仕事を降りてしまうのだ。下らない話だとは思うが、これではどうにもならん。そこで、諸君らを頼んだという次第。見事幽霊騒ぎを収め、改築できるようにしてくれたまえ。それでは、よろしく頼んだよ」
 下らないと言いつつ、自分では行ってみない辺りがなんともはや。
 実際に屋敷に踏み込んだ職人達に話を聞くと、人ほどもある化け猫を見たとか、骨の戦士がカタカタ言いながら廊下を徘徊していたとか、居る筈の無い住人が現れ、突然口が裂けて長い舌で頬をぺろりと舐められたとか、出来損ないの怪談話が出るわ出るわ。幽霊屋敷の話は珍しくもないが、これは昼夜を問わずである。
「昼間のオバケか。それならアガチオンの類かも知れないな。タチの悪い小悪魔の一種だが‥‥あいつら、とっ捕まえてギュウという目に遭わせてやれば、何か1つ願いを叶えてくれるんだぜ。もっとも、大した事は出来ねえし曲解大好きだからロクでもない事になりがちだけどな」
 ギルドの担当者は、そう言って笑った。

●今回の参加者

 ea1544 鳳 飛牙(27歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2649 ナスターシャ・エミーリエヴィチ(30歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4441 龍 麗蘭(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4621 ウインディア・ジグヴァント(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4677 ガブリエル・アシュロック(38歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4746 ジャック・ファンダネリ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4815 バニス・グレイ(60歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●アガチオン
 アガチオンとは、醜い小人のような姿をした下級デビルで、悪魔には珍しく真昼にのみ現れる。人間の姿や獣の姿を取ることも多く、人々に害のある悪戯をするが、敵わないと見ると大概あっさり降伏する。降伏したアガチオンは1つだけ簡単な願いを叶えて(余りにも非常識・実行不可能な要求は拒んで)すぐどこかへ逃げてしまう。ただし要求の意味をわざと曲解するので、言葉を選ばないと余り役に立たないことが多い。
「簡単に言うと『底意地の悪い使い魔』といったところでしょうか。性格には大いに難がありますが、力関係に従順で何かと便利に使えるので、好んで飼う者もいるようです。指輪や護符に封じられ、使役されることもあります」
 ナスターシャ・エミーリエヴィチ(ea2649)が、アガチオンについて調べて来た内容を皆に語った。解説お疲れ様。
 冒険者ギルドの担当者は、彼女の説明に一言だけ付け足した。
「俺の経験から判断するに、君達が苦戦するような相手ではないと思うよ。ただ、足元をすくわれさえしなければね」

●幽霊屋敷の探索
 目的の屋敷は話通りの大邸宅であるにも関わらず、近付くまでその姿を見る事が出来なかった。手入れをする者がいないせいだろう、もう半ば、森に飲み込まれかけている。
「確かに、我が国の様式じゃ」
「うむ。年代の割に、かなり古風な様だが‥‥」
 ローマ出身の神聖騎士、フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)とガブリエル・アシュロック(ea4677)が顔を見合わせ、頷き合う。ここに、同胞が残した厄介事が潜んでいるのだ。
「まずはロビーにキャンプを張り、そこを基点に屋敷内を探索するのが良いじゃろう」
 そうだな、と頷きながら、鳳 飛牙(ea1544)が軋む扉を押し開く。と、僅かに開いたところで、パタン、と閉じてしまった。
「‥‥でっかい顔と目が合っちまったよ」
 振り向いて、少々引き攣り気味の笑みを浮かべる。すかさず駆け寄った龍 麗蘭(ea4441)が扉の向こうの気配を探り、一気に蹴り開けた。バニス・グレイ(ea4815)と我羅 斑鮫(ea4266)が間髪入れずに斬り込んだが、そこには何もおらず、ただ長年溜まった埃がもうもうと舞い上がるのみ。
「挨拶がわりという訳か、行き届いた事だ」
 剣を収めながら、バニスが吐き捨てる。薄暗い室内は古めかしい様式も手伝って薄気味悪い事この上無かったが、フォルテシモが窓という窓を開け放ち光を入れると、その印象を一変させた。それは朽ちかけながらも、確かに美しかったのだ。
「傷みはひどいが、この柱の細工は実に見事な‥‥」
 ウインディア・ジグヴァント(ea4621)はアガチオンより、屋敷の文化的価値の方にご執心。
「しかし実際、たいした屋敷だ。いずれは私もこんな家を持ってみたいもんだ」
 しみじみと語るガブリエル。
「これが、この屋敷の見取り図です。依頼人に借りて来ました」
 ナスターシャが床に広げて見せた図面は、敷物か何かかと思える程に大きかった。何せこの屋敷、総部屋数が100に迫ろうかという代物なのだから仕方が無い。
「職人達がロクでもない目に遭ったってのは、こことここと‥‥ 化け物の種類もまちまちで、今のところ規則性は感じられないっスね」
 ジャック・ファンダネリ(ea4746)が職人達から聞き出した内容を説明する。
「どうも彼らは客を喜ばないらしい。いや、喜んでいるのか? ともかく、俺達が動き回れば頼まずとも出てきてくれるだろう、さっきみたいに」
 真っ黒けになった絵画を眺めながら、ウインディアが言う。彼らは班を2つに分け、それぞれに探索を開始した。

 ナスターシャ達は幾つかの広間、使用人部屋、厨房と片っ端から調べて回り、やがて、地下室へと踏み込んでいた。しかし、目ぼしいものは見当たらない。ワイン蔵には陶器の破片が散乱するばかり。雨漏りがあるのか、武器庫に残された武具は錆付いてボロボロになり、木製の棚は腐って倒れていた。この辺りでは骸骨の目撃情報があったのだが、どうやら今日は休業らしい。
「こっちに灯りをくれ」
 斑鮫に言われ、ジャックがランタンをかざす。何かありそうか? と問うジャックに、こことは違う臭いを感じる、と斑鮫。彼は暫らく床を這いずったり壁をペタペタやったりしていたが、何かを見出したのか、倒れた棚を除け始めた。と、出現したのは狭苦しい階段。当然の如く、彼らはその先へと進む。
「書庫‥‥ か」
 円 巴(ea3738)が呟く。冷たい空気と湿気、カビの臭いが漂う部屋だった。彼女は警戒しつつ踏み込み、部屋の中をぐるりと見回す。かなりの蔵書だが、ここにも雨漏りがあると見え、本は朽ちて書架にへばりついていた。惜しいな、とバニスが一言。本は貴重品なのだ。まともな状態ならこれだけの蔵書、ちょっとした宝の山に化けた筈だ。
 ナスターシャは、部屋の隅に置かれたデスクの上に、無造作に放置された金属製のゴブレットを発見した。かつては何らかの力を秘めていたとしても、すっかり錆付いてしまった今ではもう、失われてしまっているのは一目瞭然。ゴブレットは、全部で5つ。それを手に取り、眺めながら考え込んでいた彼女は、妙な気配に顔を上げた。と、そこには唸り声をあげる虎の姿があった。しかも3頭だ。
「虎‥‥ 虎はないでしょう」
 ナスターシャ、興ざめと言わんばかりに首を振る。
「いいですか、そもそも虎の生態を考えれば‥‥」
 とうとうと、この場に虎が出現する事の不自然さを語る彼女。虎が唸ろうが鋭い爪を振り回そうが一顧だにしない。困り果てる虎達。そうする間に、異変を察して駆けつけた巴が声もあげずに疾走し、抜刀するや、虎の側面から渾身の突きを叩き込んでいた。避ける間とてなく貫かれ、苦悶の表情を浮かべた虎は次の瞬間、その本性‥‥ 慎重50cmほどの醜い小人の姿を露にしていた。残りの2頭が慌てて飛び退き、返す刀で薙いだ一刀をかわしたものの、いつの間にやら背後から忍び寄っていた斑鮫の不意打ちを受け、完全に劣勢に回ってしまった。逃げようにも、唯一の出口は既にジャックが押さえている。剣を引き抜きつつ迫るバニスが『デス』を用いようとしているのを見て、彼らは大慌てで本性を現し、這いつくばって降参の意思を示したのだった。
「‥‥と、いうのは常識ですよ。ですから‥‥ あら」
 状況の変化にようやく気付き、きょとんとしているナスターシャに皆が笑う。斑鮫は物珍しげにアガチオンを突ついて、彼らに嫌がられていた。
「で、どうするんスかこいつら。俺としては誰も傷つけた訳じゃなし、あまり手荒な事はしたくない‥‥」
 話していたジャックは、背後でした物音に振り返った。
「しまった、もう1匹いたか」
「やはり、一思いに始末しておくべきだったか」
 隆々たる体躯の壮年神聖騎士バニスに睨みつけられ、アガチオン達は只々もう、震え上がるばかりだった。

 一方、飛牙達は主の書斎、寝室、子供部屋、ゲストルームなどを調べて回ったが、これという成果を上げられずにいた。気が付くと、窓の外はもう薄暗に包まれているではないか。やがて陽は落ち、闇が辺りを支配する。森に囲まれ周囲に人家の無い事もあって、その暗さは一際だった。フォルテシモがランタンを用意し、灯を入れる。それから、どれほど探索を続けただろうか。そろそろキャンプに戻って休もうか、と相談し始めた頃になって、敵はようやく現れた。
「グール‥‥」
 麗蘭が呟く。腐乱した死体が、牙を剥き出しにして彼らに向かって迫って来る。この凶暴なアンデットモンスターは、今の彼らにとって明らかに手に余る相手だ。
「うーむ、見事なものだ。まるで臭って来るようなこの質感はどうだろう」
 ところがウインディア、その手を取ってまじまじと観察しているではないか。グールが呆然としている内に、フォルテシモが皆に『レジストデビル』を付与して行く。
「こんなとこに住み着くとは、贅沢なオバケだな!」
 ガブリエルが盾で身を守りつつ、クルスソードを構えて突進する。彼が使うのは、派手さは無いが、故に付け入る隙も少ない王道のエンペラン。苦し紛れの攻撃を難なく盾でいなし、裂帛の気合いと共に一撃を叩き込んだ。グールは額を微かに斬られながらもそれをかわして見せたのだが‥‥ へなへなと崩れ落ちたかと思うと、その本性を現していた。逃げようとしたところを、ウインディアの『アイスコフィン』で固められて万事休す。
 と。突き当たりの部屋から、誰か来て! と必死に叫ぶ声が。それは、ナスターシャの声だった。
「ナスターシャさんか? どうした?」
 只ならぬ様子に飛牙が聞き返すと、彼女は震える声で助けを求めた。
「ああ、良かった! お願い、た、助けて! 早く助けて!!」
 驚いて向かおうとする皆を、フォルテシモが仕草で制す。
「おかしい。まだ短い付き合いでしかないが、彼女はこの様な取り乱し方をする人では無い様に思うのじゃ」
 言われて皆、はっとなった。確かに、彼女らしくない。いや、冒険者という生き方をしている者なら、危険のある、あるいはあった部屋に仲間を呼び込もうという時に、助けての一点張りで何の情報も与えないなどという事は有り得ない。
 音も無く扉に張り付き、麗蘭は飛牙に頷いて見せた。
「畜生、今行くぞっ!」
 殊更大きな足音を立てながら、飛牙がドアノブに手をかける。何かが動く気配。2人は次の瞬間、同時に爆虎掌を放っていた。扉は軽く軋んだだけ。しかし、扉の向こうで凄まじい音がした。飛牙が間を空けず部屋の中に飛び込み、麗蘭もそれに続く。案の定、そこには目を回してノビているアガチオンの姿があった。

「それがしども、これで全部。参ったよ旦那方。願い事、何かひとつ叶えてやるから見逃しておくれ、すぐにここは出て行くから」
 皺くちゃの顔を‥‥多分、愛想笑いなのだろう、更にクシャクシャにして、彼らは冒険者達に申し出た。
「三下魔物に叶えてもらう様な、チンケな願いは俺にはないさ」
 斑鮫はにべもない。バニスはふん、と鼻で笑った。
「俺は無事に仕事が終わればそれで満足だしなぁ」
 いらねいらね、とジャック。
「剣技は己で極めねば意味が無く、恋人は趣味が反映されなければ意味がない。辞退しよう」
 と、巴。
(「恋人募集中なんだ‥‥」)
(「でも好みはうるさいんだ」)
 男性陣が過敏に反応した事はさておいて。余りに淡白な返答に困惑するアガチオン達を置いて、冒険者達は他に潜んでいるものがいないか、さっさと探しに戻ってしまった。
「なあ、もう逃げちまおう、逃げちまおう」
「いや、待て待て。もう少し見ていよう」
「そうだな、そうだな、奴らがヒイヒイいうところが見られるかも」
「いいなそれ、いいなそれ!」
「シーッ! 気付かれる、俺たち無害。大人しいイイ使い魔」
 にやにや笑い合うアガチオン達。

●+1
 深夜。ランタンの心細げな灯りが、ぼんやりと辺りを照らしている。冒険者達は交代で見張りを立てながら、休息を取っていた。飛牙と麗蘭を起こしに来たガブリエルとバニスの黒神聖騎士コンビは、同じ寝袋で眠る2人を見てどうしたものかと途方に暮れる。彼らに気付き、起き上がった麗蘭が、彼、寝ぼけちゃったみたいなの、と苦笑する。しかし叩き出すつもりはないらしい。
 と、麗蘭が突然身構えた。バニスも剣に手がかかっている。何事か、と2人の視線の先を見やったガブリエルは、そこに武装した骸骨戦士の姿を見つけ、進み出た。
「まだ残ってたか。正体は分かってる、大人しく‥‥」
 骸骨がゆらり、と振り上げた剣を振り下ろす瞬間、ガブリエルは『防いで!』と叫んだ声に突き動かされ、盾を掲げていた。腕に、ビリビリと衝撃が残る。思ったより遥かに鋭い攻撃。声がなければ、ここで不覚を取っていたかも知れない。
「おかしいと思ってたんだ。アガチオンは昼間にしか現れない筈なのに、化け物が出るのは昼夜を問わずって話だったからさ」
 いつの間にか目を覚ましていた飛牙が、体を解しながら進み出た。警告を発するバニスの声に、皆も飛び起き、駆けつける。
「スカルウォーリアって奴だな。多分、ちょっと手強い」
 ジャックが敵を値踏みしつつ、『オーラパワー』を付与して行く。麗蘭、巴、フォルテシモにナスターシャ‥‥
「何か露骨な意図を感じるんだが気のせいか?」
 斑鮫の突っ込みにジャックが笑う。とんでもない騎士様がいたもので。暴れる骨を凌いでいた彼らは、ナスターシャの『ウインドスラッシュ』を皮切りに反撃に転じた。スカルウォーリアは全身を砕かれながらも激しい抵抗を見せたが、切り刻まれ脆くなったところにバニスの『ディストロイ』が決まり、武器を持った右腕が砕け落ちると後はもう、破壊されるに任せるばかりとなった。

 冒険者達が戻るとアガチオン達は姿を消していた。
「ああ、聞いて欲しい願い事があったんだが‥‥」
 残念そうに呟いたウインディアの言葉に応えてか、天井からひょい、と1匹が顔を出す。案外律義者なのかも知れない。
「誰の命を受けて、何時からここにいるのか知りたいんだ」
 本当に変わった旦那方だね、と呆れつつ、アガチオンは答えた。
「それがしども、この屋敷に住んでたウィザードに使われてた。この屋敷が出来た20年前からいる。もっとも、ゴブレットがダメになる最近まで、ずっと寝てたんだけどな」
 ウインディアが少し違った聞き方をすれば面白い話が聞けたかも知れないのだが、彼は聞かれた通りに、ここまでしか語らなかった。やっと自由の身になったところに人がやって来るようになったので、自分達の住処を荒らされると怒った彼らは、ちょいと脅して追い出しにかかったという事らしい。
 ふと、思いついて飛牙が言う。
「願い事なんだけど、おまえらがもう他人の願い事を叶えなくても良くなるってのはどうだ?」
「そりゃあ旦那、もっとも残酷で無茶な願い。捕まったら死ぬしかない、使えない使い魔お払い箱、楽しみの無い世の中どんより灰色、残酷残酷」
 腹を抱えてキイキイ笑う。どこまで真面目で、何処から馬鹿にしてるのやら。
「約束通り、出て行きますぜ。それがし晴れて自由の身。しかし哀れな根無し草ぁ」
 妙な節をつけて歌いながら、彼は何処かへ消えてしまった。

 冒険者達は、駆除完了の知らせを受けて依頼者が送り込んだ職人達を契約期間が切れるまで護衛したが、それ以上、何かが湧いて出る事は無かった。森に埋もれ朽ち果てたこの屋敷も、暫くすれば主自慢の、美しい庭を持つ勇壮美麗な大邸宅に生まれ変わるのだろう。それは、彼らには関係の無い事だ。‥‥多分。