シークレットガード
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:マレーア
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 12 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月04日〜03月14日
リプレイ公開日:2005年03月12日
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●オープニング
「これが依頼、ですか?」
この日、ギルドにある依頼を持ち込んだ人物がいた。
「この村はいたって平和だと聞いていますが」
依頼の内容は、村の付近に危険なモンスターが出現して村人を苦しめている。それを退治して欲しいというものだった。ギルドもある程度周囲の状況を把握している。冒険者が行った報告は単に単独の依頼達成だけでなく、依頼のあった地域の周囲も情報として入ってくるからだ。
「危険なモンスターの正体は分かっていますか? それによって集める冒険者の熟練度に違いが出るもので」
村人にとって危険でも、冒険を生業にしている冒険者には大したことない相手という場合が多い。その逆もあり得る。
「詳しいことは、ここに書いた屋敷に来ていただいた時にお話します。ということにしてもらえないでしょうか?」
屋敷の場所を書いた紙を渡すとギルドの受け付け係に、囁きかけるような仕種をする。ギルドの受付係が耳を近づけると。
「え? それは、まあ、そういうことならば、冒険者へはあなたのいうような依頼で募集をかけます。しかし、どういう理由であれ、正直に言ってもらえねば依頼は受けられません」
「何分極秘を要することですので、依頼人はローズ。その名前を屋敷にきた時に告げてください」
ギルドの受付係は、あわてて周囲を見渡す。取り敢えず、今はギルドの内部には該当者が居ないことを確認した。
ギルドでは、『冒険者求む。危険なモンスター退治』として募集が張り出された。
詳細については依頼人の家において説明し、詳細を聞いた後に受ける受けないを決めていいという。
「よくお出でくださいました」
指定された屋敷は、ドレスタッドでも大きなと言えるレベルに入るだろう。最初この屋敷を訪れた時対応は非常に悪かったが、ギルドから聞いていた依頼人の名前を告げると急変した。これほど差があるということは、依頼人はよほど重要な人物か。たぶん、この屋敷の主ではないのだろう。この屋敷の主が依頼人なら、最初から同じ対応のはずだ。
案の定、屋敷に入ってみると、依頼はこの屋敷の主人ではなく、その友人だという。
奥の部屋で屋敷の主と依頼人の少女が待っていた。少女がいたのはそろそろ依頼を受けた冒険者がくる頃だと思ったからだろう。運が悪ければ会えなかったはずだ。
「実はあの依頼はカムフラージュです。ギルドの受け付けの方には、訳を話してあのような依頼にさせて頂きました。本当はある人の護衛を、その人に分からないようにして欲しいのです。もちろん、護衛ということがばれてしまっては報酬はお支払いできません」
少女は、難しい依頼を簡単なことのように告げた。実際には非常に難しい依頼だ。ギルドに依頼してここまで手の込んだ依頼をするのは、よほど大事なのだろう。
「その人はもう高齢ですが、祖父の代から我が家に仕えてくれていて、昔は冒険者だったということで、今でも強いつもりでいます。面倒なことに時々ギルドにも顔を出しているので、護衛という依頼では耳に入ってしまうかもしれません。今回依頼した村には代官として、村で起こっている事件の状況を調査に行くことになっています。しかし、最近我が家の代官があちこちで襲撃される事件が起こっています。他の方には護衛を付けていますが、この人は‥‥」
当然護衛を拒否したのだろう。そのため顔を知られていない冒険者ならと、モンスター退治の依頼を出させた。もっとも、もと冒険者の代官が調査に行く程度の事件は起こっているのだろう。
「我が家にとっては、いえ私にとっては大切な人です。犯人やモンスターを捕まえるよりも、護衛を優先させてください」
「ところで村で起こっている事件というのは?」
「それは‥‥」
村では、モンスターらしき足跡が村の付近で見かけられているという。足跡だとコボルトらしいということだ。今回の依頼を受ける冒険者にとっては楽勝な相手だろう。もちろん、モンスターの知識のない村人の確認では不確かなことだ。
●リプレイ本文
●ローズ
貴族の屋敷の1室。調度品はあまり豪華ではない。
「遺産相続の件以来だが、元気そうだな」
アレクシアス・フェザント(ea1565)は、ローズに会いにきていた。
「ええ、どうにか。でも、今回の襲撃は非常に難事なの」
ローズも未熟な面を残しているものの、多少は貫祿もつきつつある、ように見える。まだまだ子供だが。
「やはり揉め事は絶えないな」
「今回もお願いします」
「ディアルト・ヘレス(ea2181)が偶然を装って代官に合流護衛する。他は先行して村で合流する」
道中なら一人で十分と考えてのことだ。もしも村での騒ぎがターゲットをおびき寄せるための罠なら、村での対策こそ戦力を配分しておくほうがいい。今回の依頼には、予定したほど冒険者が集まらなかった。本来なら偶然を装って合流する人数は3人ぐらいがいいのだが、生憎3人も回してしまったら村で事前に活動する人数が不足する。
「一人の方が正体もばれないだろう」
ディアルトの演技によっては、全員の報酬が良くて減額、悪くて無くなってしまう。
ローズがアレクシアスの顔をじっと見つめた。
「先日、最初の犠牲者が出ました。護衛を付けていましたが、全員。敵は凄腕のようです。十分に気をつけて」
依頼を出した段階では死者は出ていなかった。しかし、敵の襲撃が本格化したらしい。それで臆するはずもない。表情には出さないが、事実を告げてくれたことは嬉しかった。
アレクシアスは依頼人の意思が確認できたことに満足して部屋を出ようとして振り返る、右手を握りしめ親指を上に向ける。
「任せておけ」
●馬に乗って
「良くもまあ、揃えたものだ」
冒険者が持つ馬らしく、特徴がない馬を用意してくれた。ファング・ダイモス(ea7482)はジャイアントであるため、彼でも乗っていけるだけのガタイの大きな馬だ。軍馬ではない。軍馬となると維持費がかさみ、冒険者が持っているにはあまりに不自然なためだ。
「騎乗経験のない人は、馬に乗せてもらって。とにかく村に向かいます」
深螺藤咲(ea8218)が騎乗スキルのないウィレム・サルサエル(ea2771)とファングを振り返る。騎乗戦闘ができないと、敵の襲撃を受けたら、護衛はおろか、逆に足手まといになりかねない。そのため、ディアルトのみが代官と合流した。
「ウィレム、大丈夫か? ま、そちらはそちらでどうにかしてもらおう。さてこっちはこっちで行くとしよう」
4騎が村に向かったのを見届けて、ディアルトも馬を進める。代官が村に向かうルートを目指す。もちろん、代官の動向はローズからの情報で知っている。出発すると雪が降り始めた。
視界には問題ないものの、寒さは酷くなってくる。
「これでは得物を握るのもつらいな」
手が寒さで動きが悪くならないように温める。その様子は、演技する以上にディアルトを貴族のボンボンのように見せた。
「そろそろ時間だ」
代官と思われる馬が近づいてきた。雪に降られて困ったような顔で馬を近づける。
「すみません」
代官がディアルトの方を向く。
「? 貴族のボンボンか。どうした、何か困りごとか」
代官は優しそうな声を出した。代官になるには、通常それなりの人気が出なければ役目を果たせない。苛烈過ぎれば反発を招く、穏やかすぎても軽く見られる。代官の声に、ディアルトが思わず好意を持ちそうになった。依頼のあった村までの地図を取り出す。。
「この村に行きたいのですが、道に迷ってしまって」
代官は、ディアルトの顔と地図を見比べてからこう言った。
「この村ならこれから向かうから一緒に行こう」
そして代官が先導する。道が分からない(ということにしてある)ので、前には出られない。襲撃があったら、馬が暴走したふりをして代官と刺客の間に割って入ろうと思った。
暫くすると代官の馬が急に止まった。ちょうどディアルトが日本刀の柄を確認した時だった。悟られたのかとはっとした。しかし次の瞬間、代官はロングソードを引き抜くとそのまま構える。
代官の剣から凄まじいまでの殺気が放たれる。ディアルトに向かったものでなかったが、恐怖で動きを止めるほどの凄さがあった。ディアルトが動けなかったのは、ほんの一瞬。しかし、その一瞬のうちに代官の剣が数回動いた。
「動いたとしか言えない」
後に合流した時ディアルトはその時のことをそう言った。まるで代官の振るった剣に刺客の放った矢が吸いよせられるように近づいて、折られて地面に落ちた。
実際には、代官の剣が狙って放たれた矢を悉く空中で叩き落としたのだが、逆のように見えてしまった。矢を放った弓弦の音は、雪で届いていなかった。空中で飛翔する矢が雪にあたった音を聞き分けてその方向を正確に認識したのだろう。雪が降っていなければ、矢羽根が風を切る音を聞き分けるように。
「あの‥‥いったい‥‥えっと怪我はありませんか」
ディアルトの口から出た言葉は、演技ではなかった。演技をする心の余裕はなかった。
「良くあることだ。昔冒険者をやっていたから、その時の仇か」
冒険者も請け負った仕事によっては逆恨みされることがある。山賊退治の依頼を請け負って山賊を退治したら、その残党に恨まれるだろう。
護衛が必要なのかこの人に、と思った。
「雪が本降りになる前に村に行こう。温かいスープくらいにはありつけるだろう」
代官に元気づけられて村に急ぐ。
(「今でも十分凄腕なんじゃないか」)
これでは、どちらが護衛か分からない。
●先行隊
「ディアルトが到着する前に、村での安全を確保しておく」
アレクシアスが手順を説明する。
村でのコボルト騒動が刺客の罠だとしたら、まずは村に入った直後の代官を狙う可能性がある。この雪だ。コボルトの調査に代官が出てくるのを雪の中で待つのはしんどいはずだ。下手をすれば凍死する。
ならば、村の一角で待ち伏せて、村に入った直後に狙う方が確実だ。雪とはいえ、村を通ってその先に向かう人がいないこともないだろう。雪が降っていても、必要な物資を届ける人は通る。そのような人に成りすませて村に入って準備する。冒険者のフリをしてもっと先の村の依頼を受けに行く途中で雪のために休むということだってありえる。
村人はいずれの場合でも、無下にすることはない。自分たちに必要な品を届けてもらう場合もあれば、自分たちで冒険者を依頼することもあるのだ。
「まずは、村人、以外が、村にいるか、どうか」
ファングは自分の乗っている馬以上に疲労しつつ、どうにか声を出していた。
「これなら自分の足で歩いた方が良かったかも」
と思わず、楽ができなかったことを後悔した。
4人が村に入ってくると雪の中、村人が出迎えてくれた。
「ローズ様から聞いています」
ローズの方から、村の上層部には話が伝わっているらしい。知っているのは上の方だけで下の村人には冒険者が来るから協力するように、程度のことが伝わっているのだろう。
「口裏を合わせてくださいね」
藤咲は安心して村を見て回ることにした。
「行ける?」
藤咲はファングに声をかけた。
「大丈夫です。見回りですね。行きます」
藤咲はファングを連れて村人に最近の様子を聞いて回る。
「村に酒場はあるか?」
アレクシアスはウィレムを連れて酒場に行ってみる。
「村の酒場は、昼しか開いていない」
とはいえこの雪、家に籠もるよりも交流の場になる。村人以外がいれば、分かるだろう。
「どうだった?」
アレクシアスの方は、収穫なしだった。酒場にはローズからの村人への指示で、すでに余所者が待ち伏せるような雰囲気では無かった。代官が村の様子を見るために雑多な酒場に立ち寄った場合に、人に紛れて背後から襲えば一人でも実行は可能だ。それを考えての酒場の調査だったが、すでに行われていた。
「あのお嬢ちゃん、けっこうやるな」
アレクシアスは思わずにんまりした。成長しているようで楽しい。
「森の中では、あったらしい」
ファングは、聞き込みの成果を披露した。
「やはり森の中か。村での襲撃がないだけでもましか」
5人でも森の中だけならどうにかなるかも。
雪は徐々に強くなっている。新雪が降り積もっていく。
「刺客どもも、この雪では苦労しているだろうか」
「いや、村での襲撃が無理とわかれば、それなりの準備をしているはずだ。雪の中に穴を掘って防寒対策は立てているだろう。代官は調査にいかなくてはならないし」
「俺たちだけで先に行っても」
「雪の中で無視しているだけだろう」
「コボルトのいた形跡がなければ、雇われた冒険者は虚しく帰るだけだろうし」
「それじゃ」
「危険だが、代官のじーさんに行ってもらうしかないってことだろ」
●出陣
「無事について良かった」
ディアルトは、大きく深呼吸した。緊張し続けたため、肩は凝るし、雪はつもるし。心底冷えてしまった。
代官は村の入り口で、冒険者たちの姿を見てつぶやいた。
「冒険者か」
ウィレムが前に出た。彼が一番冒険者らしい。
「コボルト退治を請け負った冒険者だ。代官殿には協力をお願いしたい」
これでもウィレムは、せいいっぱいていねいに話しているのだ。
代官は、ウィレムの名演技(地?)で普通の冒険者だと判断したらしい。
「村人には協力させよう。私も村での仕事が終わったら手伝おう、いや先に済ませてしまうか」
代官は冷えたついでに、仕事も片づけてしまおうと考えたか、あるいは冒険者を利用しようと思ったのか、そのように答えた。
ディアルト(先行した冒険者とは仲間と思わせないため)、ウィレムに合図を送る。ディアルトが仲間だとわかってしまっては、寒い中一人で苦労したことが無駄になる。
「もちろん、私も協力します」
ディアルトはここに一人残って温まるわけにもいかず、少しは休みたいなと思いつつも協力を申し出た。
「いい経験をさせてもらいます。後学のために」
代官の近くにディアルト、残り4人がその前方を広範囲に移動しつつさぐるように進んでいく。
「痕跡はないか」
「がせじゃないんだろうな」
と、いかにもコボルト退治を請け負った冒険者のような口調で、呼び合っている。
「足跡があったのはこのあたりです」
案内してきた村人が、コボルトの足跡があったあたりを示す。
雪に埋もれて足跡は見えるはずもない。しかし、もしコボルトなら一カ所だけということはない。代官は降り積もった雪を見つめる。
「コボルトではない。偽装だ」
代官はあっさりと断定した。
その声を合図にしたように、突風が襲ってきた。突風は降り続いていた雪を巻き込み、吹雪となる。吹雪が視界を塞ぐ。
「くっ」
こんなに急に吹雪になるはずはない。
「来る!」
吹雪で視界が悪くなったが、その中でも幾本かの雪柱が立つのが見えた。何か大きなものが雪の中から一気に飛び上がってきたようだ。
一番近くにいたのは藤咲だった。吹雪とともに襲撃を感じて日本刀にバーニングソードをかけていた。吹雪の中、襲いくる刺客に対して炎の剣を振う。その剣は刺客の一人の剣を受け止めた。視界が悪いにも係わらず、藤咲の方が押していた。互いの刃が交差し、視線がぶつかりあう。刺客の得物の刃には、黒々としたものが塗られてあった。
「毒!」
他の刺客のも同じだろう。
刺客の一人が、仲間の不利を見取って藤咲の背後に回る。こちらの数を知ったのだろう。一人ずつ始末していけば、有利になると。しかもこちらは、纏まっていない。
前の一人だけで、背後からの攻撃までは対応できない。その時ウィレムが向かい風をものともせずに、突進して背後から切りかかろうとした刺客に日本刀で切りかかる。
「4人行ったぞ」
ウィレムが仲間に向かって叫ぶ。
アレクシアスが左腕のライトシールドを刺客の目の前に広げて道を塞ぐ。突然、目の前の塞がれた刺客は、アレクシアスに向き直る。さらにもう一人に対して右手の日本刀で切り付けて手傷を負わせる。
すかさず、ファングが太刀を上段から一気に振り下ろす。負傷した刺客は慌てて剣で受けようとしたものの、渾身の力を込めた一撃は、構える時間も与えずに、邪魔するすべてのものを両断していく。首筋から肺そして腰当たりまで切り裂かれた刺客は、断末魔の叫びすら上げられずに雪の中に沈んだ。
4人は阻まれたものの、残り二人が代官に迫る。代官自ら剣を振るって、往年の凄さを見せつけるように一人に致命傷を負わせるものの、足元は雪。しかも寒さと歳で動きの悪さは隠せるはずもなく、最後の一人が回り込んで背後から切りかかってきた。
毒を塗った刃はかすり傷でも致命傷と同じ。
しかし、刺客の剣は振り下ろそうしたまま止まった。そしてその刺客の胸から切っ先が姿を現す。
「私を無視しては困りますね」
ディアルトが刺客の背後から小太刀で刺し貫いていた。
突風が止んだ。刺客もそのころには全員が雪の中に倒れていた。
「刺客は捨て駒だ」
微かに気配を感じる。まだ遠くには行っていないだろう。
一瞬追いかけようとしたが、他に刺客が隠れていないという保証はない。気配を残して逃げるあたり、その可能性は高い。コボルト騒ぎが罠であったなら、代官はここに留まる必要はない。
「怪我した人はいない?」
藤咲が全員を心配して見て回っている。調査を終えた一行は村に戻った。温かい部屋で熱いスープを飲むとようやく人心地つく。
「山賊にしては、まあまあの腕だったな。コボルトに罪をなすり付けようなんざ。カス以下だ」
アレクシアスは意味ありげなセリフを言った。そしてウィレムがそれに合わせる。
「これでコボルト事件も解決だ」
「‥‥ということにしておくか。冒険者諸君ご苦労だった。君達の将来を楽しみにしている」
代官もそろそろ気づいたようだ。しかし、口には出さない。
●報告
代官の仕事を終えた後、パリまで代官とともに戻ってきた。襲撃の可能性は、捨てきれない。そして代官と別れるとローズに知らせを届けた。
「ご苦労様でした」
ローズはファングに可憐な微笑みを向ける。
(「ぽわっ」)
ファングはその微笑みに、顔を真っ赤にしてしまう。
「‥‥代官さんは分かっていたかも知れませんよ」
ファングは顔を真っ赤にしたまま、部屋を出た。
「何で顔真っ赤にしているんだよ」
部屋の外でウィレムがファングをからかう声が聞こえた。
「面白い人達」