流し雛でお節句じゃ〜☆

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月05日〜03月08日

リプレイ公開日:2005年03月13日

●オープニング

 もうすぐ春。厳しい冬の寒さもいくぶん和らぎ、太陽の日差しも暖かみを増してきた。
 今日のドレスタットは小春日和。
「もうすぐ、春であるなぁ」
 屋敷の縁側から庭を見やり、桃山鳳太郎はふとつぶやいた。
 ここが祖国ジャパンであれば、庭の梅の木にウグイスが止まってホ〜ホケキョと鳴くにもまだ早すぎる時分。しかし、ここドレスタットにある鳳太郎の屋敷の庭では、庭に植えられた洋ナシの木の枝で、早くも2匹のコマドリが囀り合っている。
 ピー!ピー!ピー!ピー!
 ピー!ピー!ピー!ピー!
 囀りながら羽根をばたつかせ、嘴でつつき合う。小鳥のケンカである。ふと、鳳太郎がそれに見とれていると、海岸から迷い込んできたウミネコが鳴きながら空を横切る。
 ニィー!ニィー!
 その鳴き声に驚いて、コマドリはさっと飛び立った。
「いや、なかなかに騒々しい春であるなぁ」
 屋敷の奥から妻のカトリーヌが顔を出した。
「どうしたのよ? あなたったら、さっきから大声で独り言ばかり言って」
「いやぁ。春というものは、気持ちいいものであるなぁ」
 妙に浮き浮きした鳳太郎の様子を見て、カトリーヌははたと気付く。
「ああ、そうか! もうすぐ月道経由でジャパンから取り寄せた品物が、パリからドレスタットへ運ばれて来るんだったわよね」
「そうなのだ。もうすぐ懐かしき故郷の味が、やって来るのだ」
 カトリーヌの言葉に、にんまりと笑みを見せる鳳太郎。
 月道貿易を営む大商人に大枚はたいて取り寄せたのは、米に麹に醤油に味噌その他諸々のジャパンの食材だ。ノルマンでの戦で功を上げ名を成し、ノルマン人の妻を娶って二人の子どもを儲けた鳳太郎であるが、幼き頃より慣れ親しんだ故郷の味は忘れ難い。ノルマンで生まれ育った妻と子ども達にも、故国ジャパンの味というものを教えてやりたい。たかが食べ物と言うなかれ。故郷の味のためなら例え千金を払っても惜しくはない。鳳太郎ならずとも、味というものへのこだわりはかくも強きものなのである。
「ジャパンの米はおいしいぞ。いや、楽しみであるなぁ」

「今日は神聖暦1000年の3月3日。すなわち上巳の節句の日でございます」
 桃山家に仕える家老の鷹岡龍平が、鳳太郎の娘のアンジュ(安珠)にかしこまって言う。
「上巳の節句の日には、厄払いの儀を執り行うのが世の習わしでございます。左様なわけでこの龍平、夜なべしてこしらえたのが、この流し雛でございます」
「ふ〜ん」
 龍平が差し出した人形を、アンジュは不思議そうな目で見つめる。布で作られた、人の赤子ほどの大きさの人形である。凝り性の龍平の手になるだけに、細部までよく仕上げられている。小さな着物を着せられ、布を細工して作った髪の毛までついている。胸に抱いて通りを歩けば、本物の赤ん坊と見間違えられるほど。ただし、顔には目鼻も描かれず、白い布地ののっぺらぼうのままだ。
「では安珠様、厄を払いに参りましょう」
 流し雛とは、ジャパンに伝わる厄払いの儀式である。3月3日のこの日、女の子が生まれた家では、女児をかたどった人形でその身を撫でて厄を人形に移し、川へ流し去るのである。
「それにしても、よく出来た人形じゃな。川に流すのは、ちともったいない気もするのぉ」
「それが、流し雛のお役目にござりますれば」
 ドレスタットの街を流れて海へと注ぐ川まで来ると、龍平は人形でアンジュの体を撫で、その人形を川へ流した。人形はぷかぷかと漂いながら、海へと流れていく。
 そこへ、一隻の船が通りかかった。積み荷を満載した艀(はしけ)である。
「うわっ! 大変だ! 赤ん坊が流されてるぞ!」
 川面に浮かぶ人形を見て、艀の船頭が叫ぶ。
「艀を寄せて引き上げろ!」
 船人足たちが大慌てで櫓(ろ)を漕ぎ、艀が人形に近づくや手を伸ばして引き寄せようとした。ところが重たい積み荷を積んでいたものだから、バランスが崩れた。
「あ!」
「あーっ!!」
 ざばん!!
 龍平とアンジュの見ている前で、艀がひっくり返った。
「これは一大事!」
 龍平、すっ飛んで行って川縁から手を伸ばし、川に落ちた船人足たちを引き上げる。川の水は凍るように冷たいが、転覆場所が川縁近くだったことが幸いして、船頭も船人足たちも溺れる者なく全員が陸に上がってきた。が、積み荷は全て川の底。しかも赤子と思って引き上げたそれを、船頭がよくよく見るとただの人形。
「な、何だこりゃ!? 赤ん坊と思ったら人形じゃねぇか!?」
「おお、それは拙者の流した流し雛ではないか」
 船頭、思わず龍平を怒鳴りつける。
「ばかやろぉ!! ロクでもねぇ物、川に流しやがってぇ!! 桃山様にお届けするはずの六俵の米俵が、全部川の底に沈んじまったじゃねぇか!! この落とし前、いったいどうつけてくれるんでぇ!?」
「何!? 米俵が!?」
 龍平、川面を透かして水底を見ると、確かに6つの米俵が転がっている。
「ああ、もったいない。もったいない。拙者の流した流し雛のおかげでこんなことになってしまうとは。何とかしてあれを引き上げねば、鳳太郎様に申し訳が立たぬ」

「と、いうわけで‥‥これがモモヤマ家からの依頼よ」
 依頼書を壁に貼りだし、ギルドの新米事務員のお姉さんは冒険者たちににっこり笑った。
「川に沈んだ6つのコメダワラを無事に回収してちょーだいね。川の水は冷たいし、コメダワラは重いけど、がんばってちょーだい。川の深さは人の背丈よりちょっと深いくらいだけど、あの辺は海の水が入り交じるあたりだから、回収したお米はすぐに使わないと痛んじゃうのよね。だからモモヤマ家では回収したお米、炊き込みゴハンやアマザケにしてすぐに使っちゃうって話だし、依頼を成功させた後はアマザケ飲み放題の宴会になるかもよ? 楽しいでしょ? ‥‥え? アマザケって何かって? ジャパンの名産品、お米から作る甘いお酒のことよ。それに海に潜れば海の幸も盛りだくさん。クラゲにタコにウツボにウミウシ、ジャパンの名物料理のスシやサシミの食材だって、た〜っぷり手に入るんだから。え!? そんなゲテモノ食べたくない? ま、食の好みは人によりけりだけどね。んじゃ、冒険者のみんな。がんばってお仕事してきてね〜!」

●今回の参加者

 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2815 ネフェリム・ヒム(42歳・♂・クレリック・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9841 柚羅 桐生(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0254 源 靖久(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●川底に沈んだ米俵
 ドレスタットに少しずつ春がやってきた。
 冬の時分、凍るほどに冷たかった空気も、少しずつ暖かみを増してきた。凍てつく大気を貫いて射し込む太陽の光さえ冷たく思えた程であったのに、今では日差しも肌に柔らかく感じられる。
 そんな折り。ドレスタットの街を流れて海へと注ぐ川縁に、冒険者たちの一行が現れた。多くはそれぞれの馬を従えている。彼らは桃山家の依頼を受け、米俵の引き上げにやって来た者たちであった。
「春の訪れ、良いものじゃ。しかし人形を川に流すとは、不思議な慣わしじゃな」
 そう呟いたヴェガ・キュアノス(ea7463)が川の水面を透かして川底を見れば、確かに6つの米俵が沈んでいる。
「これはこれは‥‥桃山のご主人とご一家のためにも、是非とも引き上げなくてはならぬな」
 柚羅桐生(ea9841)はそう言うと、片手を川の水に浸してみた。すごく冷たい。ジェイラン・マルフィー(ea3000)も川に手を突っ込み、その冷たさに顔をしかめる。
「う! ‥‥すごく冷たいじゃん! この中に潜るのは、ちょっと大変じゃねーの?」
 源靖久(eb0254)の調べによれば、今は丁度、日差しを受けて溶けた雪解け水が川に流れ込む時分なのだ。土地の者の話によると、この川の水が1年のうちで最も清らかになるという。流れ込む雪解け水の関係で、川の流れは夕方にもっとも早くなるらしい。
 引き上げた米俵の運搬用に、ドロシー・ジュティーア(ea8252)が荷車を自分の馬に牽かせてやって来ると、冒険者たちの打ち合わせが始まった。
「雪解け水による増水に加え、この場所は河口近くで潮の満ち干の影響もありますから、それら全てを考慮に入れると、引き上げに一番適しているのはお昼の少し前になります」
 航海術に詳しく海の変化に明るいイリア・アドミナル(ea2564)が、引き上げ作業の開始時刻を決めた。
 皆にロープの結び方を教えるのは、イレイズ・アーレイノース(ea5934)。漁師で生計を立てているだけに、こういうことはお手の物だ。
「コメダワラの引き上げには、舫い(もやい)結びを使いましょう」
 舫い結びは、船と船とをつなぎ合わせるのによく使われる結び方である。先ず、ロープの端のほうに小さな輪を作り、その輪にロープの先端を通す。さらに、その先端を長く伸びるロープの真下にくぐらせると、もう一つの輪が出来るから、その輪に再びロープの先端を通す。最後にロープの端とロープの結び目の手前を持ち、ぎゅっと引き締めて結び目を固くして出来上がり。これで端っこに輪のついたロープが出来上がる。この輪を物にひっかけてロープを引っ張れば、その力で輪が締まっていくから、物の引き上げには適した結び方だ。
「沈んだ物を引き上げるのはなかなかの重労働です。コメダワラにロープを括り付ける際には、梃子の要領でコメダワラと地面の間に隙間を作り、そこにロープを通して結ぶ事にします」
「だけどこのロープ、ちょっと短すぎじゃないっすか?」
 以心伝助(ea4744)が言う。確かに冒険者たちの用意したエチゴヤロープだと、引き上げ作業に使うには短すぎる感がある。
「本結びで繋ぎ合わせましょ」
「先生、質問〜。本結びって何なん?」
 クレー・ブラト(ea6282)が質問する。
「これが本結びっす」
 漁師から教わった本結びで、伝助は2本のロープをつなぎ合わせて見せた。本結びのやり方だが、まず1本目のロープの先に輪をつくり、2本目のロープの端を通す。さらに、2本目のロープの端で輪をつくり、その輪の中に1本目のロープの端を通す。2つの輪がちょうど対称形となるようにだ。そして結び目を固く引き締めれば、本結びの出来上がりだ。結び目の強度が強く、なかなかほどけないので便利である。
「引き上げし易い様にアレを用意したんやけど、使ってみてくれへんか?」
 クレーが示すのは、自前で用意して運ばせてきたいくつもの空樽。しかしイリアとイレイズは首を振る。
「あの樽を使って米俵を浮かせると、かえって川の流れに流され易くなりそうですね」
「それに空樽を浮きにするとなると、作業が余計に複雑になります。川の水の冷たさを考えると、安全のためにも川の中の作業は出来るだけ時間を切りつめなければなりません。空樽を使うのは見合わせたほうが良さそうです」
 この判断にクレーも従うことにした。
 イレイズは漁師仲間の伝を頼り、梃子にする棒と石、それに漁師道具のひと揃いを近場から借りてきた。引き上げ作業のついでに、後の宴会で使う食材も手に入れようと考えていたから、漁業の許可も一緒に貰ってある。この川も地元の漁師たちの漁場なので、筋を通すのが礼儀というものだ。
「今度の川にはどんな魚がいるでやんすかね‥‥」
 ひょいと川をのぞき込んだ伝助だったが、何か言いたそうな仲間の視線に気付き、慌てて取り繕う。
「いや、そうじゃなくて。久し振りに故郷の料理が食べられる機会でやんすから、気合入れて寒中水泳っす」
 川に潜っての作業に志願したのは伝助、ジェイラン、イレイズ、靖久、ネフェリム・ヒム(ea2815)、利賀桐まくる(ea5297)、桐生の合計7名。桐生は自前で水遁の術が使える。また、ジェイランはウォーターダイブの魔法が使えるので、それを自分と他の者たちにかけてやることで作業ははかどるはずだ。ちなみにジェイランの魔法だと、1回につき6分間だけ水中で呼吸できるようになる。
「まくるちゃんも水に入って作業するの? 水冷たいからあんまり無理しちゃダメじゃん」
 知る人ぞ知る妹背の仲のまくるに、あらかじめ注意するジェイラン。水中で呼吸ができても、水の冷たさは作業の大敵になろう。水から上がった後は十分に体を温めねばならない。加えて、水中では視界もぼやける上に、互いの言葉が通じない。意志疎通は身振り手振りや相手の体に触れる動作に頼ることとなる。
「まあ、わしは力弱き乙女ゆえコメダワラの回収作業には向かぬが、皆の応援をさせてもらうでな」
 ぬくぬくと防寒服を着込んだヴェガは、そう言って仲間と共に焚き火の準備を始めた。焚き火ついでにレンガを並べ、即席の竈(かまど)をこさえておこう。

●川底には海の幸がいっぱい
「さて、と。自分は志士でもあることだし、火魔法を有効活用すっかな」
 拾ったり貰ったりして調達した木ぎれの山に、里見夏沙(ea2700)がヒートハンドの手を触れる。ぽっと炎が燃え上がった。
「ほい、焚き火」
「では、身体を温める為に簡単なスープでも作るかの」
 炎の入った即席竈の上に、ヴェガが水を満たした煮込み鍋を乗せる。
「あー、大根とかねぇか? なけりゃ適当な食材を放り込めばいいや」
 夏沙はとりあえず、引き上げ交代要員として火の傍で待機。
「俺は水の中で役に立ちそうな技も魔法も持ってないし、体力も自信ないし。つか――多分、俺よか俺の馬の方が役にたつ」
 そんなわけで、夏沙の持ち馬は米俵の引き上げ用に貸し出し。
 川に潜る者たちは2人1組を基本に、計3つの班に分かれて作業を行う。2人のうち1人が米俵を棒で動かし、もう1人がロープをかけるのだ。川に沈んだ米俵は合計6つだから、1つの班につき2個の米俵を受け持つことになる。
 一番先に潜るのは、ネフェリムとイレイズの二人組。二人はそれぞれ棒とロープを携えると、服を着たまま川の岸辺から水の中に降り立つ。水に足の先を浸し、そのままずぶずぶと足を突っ込む。水はあまりにも冷たく、思わず音を上げそうになる。ひやっとするどころか、びっしりと一面に敷き詰められた氷の針がぶすぶす突き刺さってくるよう。
 それでも二人はぐっとこらえて、肩まで水に浸かった。ここでジェイランが川岸から手を伸ばし、二人にウォーターダイブの魔法を付与。そして二人は川底を歩き、米俵の沈んだ場所へ向かう。ほどなく、イレイズの頭は水面下に没した。
 水が視界を覆うと、全てがぼやけて見える。上の方には太陽の光を浴びてキラキラと光る川面の輝き。目の端をすい、すいとかすめる影は、水の中の魚であろう。横を向けば、共に歩くネフェリムの巨体が見える。ネフェリムはジャイアントだけあって、その頭はなおも水面から突き出ている。
 それにしても、全身くまなく襲ってくる水の冷たさは強烈である。気持ちを張りつめていないと、気が遠くなって気を失いそうだ。
(「そのまま20歩も歩けば米俵があります。見えますか? 見えますか?」)
 陸にいるフェネック・ローキドール(ea1605)がテレパシーの魔法を使い、言葉を直接にイレイズの頭の中へ送ってくる。水底に転がる大きな物体の影をイレイズは認めた。
(「見えたぞ。あれがコメダワラだな?」)
 すぐ隣にいるネフェリムの背中を叩いて合図。ネフェリムは携えてきた棒を米俵の下に突っ込み、テコの要領で米俵の端を川底から浮かす。イレイズは、舫い結びで作ったロープの輪の中に米俵をくぐらせ、ロープを引っ張ってぎゅっと締め付けた。さらにもう一個の米俵を動かしてロープをかけ、作業は終わる。
(「終わったぞ。岸に上がろう」)
 二人は足早に川岸へ向かい──といっても水の中だから動きは鈍るが、何とか無事に川から上がった。体の芯まで凍えそうな冷たさなものだから、イレイズは毛布にくるまり、ネフェリムは持参の防寒着『まるごとトナカイさん』を着込んで焚き火にあたる。
「ご苦労じゃったの」
 二人はヴェガから、出来たばかりの暖かいスープをふるまわれた。ヴェガとイリアが二人してこしらえた魚貝のスープだ。

 続いて川に潜るのは、伝助と桐生の二人組だ。伝助は颯爽と服を脱ぎ、上半身裸になって川に入ろうとすると、桐生が呼び止めた。
「下は脱がないのか?」
「これだけ女性が沢山いる前で褌一丁は、流石に恥ずかしいっす」
 伝助は袴をはいたまま、桐生は着の身着のままで川の水に体を浸す。そしてジェイランによる魔法付与。
「ううっ‥‥流石に冷たいな」
 つぶやく桐生。
「いや〜。今の時分、川の水の冷たさは格別っすよ〜」
 などと言っている伝助だが、ここ暫く、何かと言っては河に飛び込む運命の彼にとっては、寒中水泳は日常的なものなのか、馴れた動作で水の中を進んでいく。それに遅れじと、桐生も奥歯をぎゅっと噛みしめながら進んでいくが、二人の頭が水面下に没してまもなく、その足が何かをごりっと踏みつけた。
(「何だ、今のは?」)
 ごりっ。また、得体の知れない何かを踏んづけた。
(「伝助、下に何か妙なものが転がっていないか?」)
 伝助の肩を叩いて身振りで示すと、伝助は川底に転がるそれを拾い上げ、水の中で桐生の目の前にぶら下げる。
(「何すかこれは?」)
 子どもの腕くらいの長さの物体だ。が、水のせいでぼやけていて、それが何なのか理解できない。
 伝助が身振りで何か伝えている。こんな物には構わず仕事仕事と言いたいようだ。二人して米俵の場所まで行き、米俵2つにロープをかけて戻ろうとすると、桐生の目の前を奇妙な物体が通り過ぎる。全体的に黒っぽく、広がったり縮んだりを繰り返つつ、水中の彼方に消えた。
(「この川では妙なものを色々と見かけるな」)
 陸に上がると、桐生は焚き火にあたりながら伝助に訊ねてみた。
「川の中で、妙な物を踏んづけたが‥‥」
「ああ、これっすね」
 伝助、川底で拾ってきたものを、桐生の目の前にごろりと転がした。
「うっ‥‥!」
 思わず顔をしかめて唸る桐生。それは大きな軟体動物であった。

 ジェイラン、まくる、靖久、最後の班の三人が川に潜る番がやってきた。
 ジェイランは服を着たままだが、まくるは泳ぎ易いように褌とサラシの姿。靖久も動きやすいよう上半身は裸だ。三人して水につかると、強烈な水の冷たさでジェイランの歯がガチガチ鳴る。
「うへぇ‥‥! 死にそうじゃん!」
 気力を振り絞り、魔法呪文だけは何とか正確に唱え、自分とまくるに魔法付与。
「ま、まくるちゃん‥‥だ、大‥丈夫?」
「う、うん‥‥大‥丈‥夫」
 靖久はと見ると、冷たい水の中も苦にならぬ様子。もっともこれは、フレイムエリベイションの魔法を自分にかけているおかげでもある。
「利賀桐さん、ジェイラン君、それに源さんも。寒いけど気をつけてね」
 イリアの声に送られ、三人は川に潜っていった。離ればなれにならぬよう、互いの手を繋いで水中を進んでいく。ジェイランにとっては死ぬほど冷たい水の中だが、何とか米俵の場所までやって来た。
(「は、は、は、始めるじゃん。‥‥にしても、寒いじゃんか!!」)
 水の中で動きが鈍る上に、冷たい水が体温を奪うので体が強ばり、なかなか思うように動けない。それでもジェイランは棒を米俵の下に突っ込み、その端を持ち上げた。
(「さあ、まくるちゃん。早く、早く‥‥」)
 まくるが米俵にロープを引っかけたその時、米俵の影から得たいの知れない何かがにゅ〜っと伸びた。
(「え!? これ‥‥何‥‥!?」)
 まくるが水中で叫ぶ。次の瞬間、まくるの周囲の水がもあっと黒く染まる。
(「うわ!? 何!? 何があったじゃん!?」)
 突然、ジェイランの視界が不気味な影に覆われ、気色悪いべちゃべちゃした物が顔に張り付いた。
(「○×▽◇△××○ーっ!!」)
 もはや言葉にならない叫びを上げ、ジェイランは水中でひっくり返る。もう何が何だか訳が分からず、手足をじたばた。その手をまくると靖久の手が掴み、ジェイランを立ち上がらせて川岸へと引っ張っていく。
「さあ、掴まれ」
 岸辺からネフェリムとイレイズの手が差し伸べられ、ジェイランとまくるを川から引っ張り上げた。
「あ〜びっくりしたじゃん。だけど、さっきのはいったい?」
 寒さで歯をガチガチさせながら呟くジェイラン。
「こいつだな」
 靖久が目の前にぽんと投げ出した物を見て、ジェイランは思わず叫んで後じさりした。
「うわっ! タ、タコじゃん!」
 八本足をぐにゃぐにゃ動かしてはいずり回る、ぬらぬらしたタコである。
「お刺身や‥‥酢の物にすると‥‥おいしいんだよ」
 まくるの言葉を、ジェイランはにわかには受け入れがたい。
「マジぃ!? こんなの食べられるわけないじゃん!?」
「へぇ、旨そうなタコでやんすね」
 伝助がひょいと顔を出す。
「‥‥にしても、河口の割には妙に海産物が豊富っすね。この川は」
 ふと伝助が川縁を見回すと、海での漁を終えた漁師の一団がやって来た。網を広げると、その中から海産物を選り分け、いらない物をぽんぽんと川の中に放り込んでいる。クラゲに得体の知れない軟体動物にタコにヒトデ、ご当地の者にとってはゲテ物ばかりだ。
「あ、そうか。この川は土地で食わない海産物の捨て場だったんすね。納得、納得」

 こうして米俵全部にロープがかけられると、引き上げが始まった。
 ドロシーがロープの端を愛馬の馬具に結わえ、引き上げるよう指図する。
「さあ、ヘクトル。頑張っていくよ」
 続いてクレーも、引き上げの準備をして愛馬の耳に囁いた。
「伯爵も手伝ってくれへん?」
 ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)も、愛馬ならぬ愛驢馬ジョゼフィーヌの馬具にロープの端を結わえる。他にも仲間の馬は沢山いるから、米俵を川岸まで引っ張ってくるのは苦でもない。それでも、米俵を水面より高く持ち上げる時には最も力がいるし、気も使う。水を吸った米俵はやたらと重いから尚更だ。腕力と体力のあるネフェリムは、最後まで水に浸かっての仕事を受け持つことになった。
「これで、最後です」
 川の中に半身浸かったネフェリムが米俵を持ち上げ、上からは冒険者たちが総出でロープを引っ張り、最後の米俵を陸に上げる。
「お風邪をひかないよう、これを」
 水から上がったネフェリムは、フェネックが差し出したタオルで体を拭くと、再び『まるごとトナカイさん』を着込んで焚き火に当たった。すぐ横では、着替えを終えたジェイランとまくるが、一つの毛布にくるまって焚き火に当たっている。
「さむいなか、ごくろうさまでございました」
 休息中の冒険者たちに、桃山家のライアンが礼を言う。まだ幼いので動作がぎこちないが、それもまた可愛らしい。ライアンはヴェガに連れて来られ、ずっと引き上げ作業を見学していたのだ。
「冷えた体には温かい飲み物が一番だな」
 桐生が熱いハーブティーを入れ、皆にふるまった。イリアが選んでくれた、爽やかな香りのするハーブだ。桐生としてはジャパンの緑茶にしたかったのだが、ここノルマンでは月道経由で取り寄せる高級品になってしまうので、滅多なことでは飲む機会が無いのが残念だ。

●雪の流し雛
 水に浸かった米俵は強度が弱くなっている恐れがあったので、中味の米は別の麻袋に移し替えられた。これで作業は一段落。ガレットが桃山家に頼んでお湯を用意してもらったので、川に潜って体の芯まで冷え切った冒険者たちも、今度は思う存分に暖まることができた。
 しかし、まだ何かやり残していることがありそうだ。
「これが流し雛かの? 斯様な人形が流れてきたら、わしでも勘違いしてしまうところじゃ」
 龍平が川に流し、船頭に拾われて舞い戻ってきた人形を見て、ヴェガがしみじみと言った。
「雛流しか‥‥。雛なるもの即ち珍しく良いものは外からきて、外へ去って行く。これを夷という。その意味が転じて、形代の役割を果たすようになったのが、この流し雛であろう。形代とは、魂が宿りやすいという人形に厄を肩代わりさせる呪物のことだ」
 気がつけば蘊蓄(うんちく)を披露している円巴(ea3738)であった。
 ライアンが訊ねる。
「どうして、にんぎょうをつかってヤクをはらえるの?」
「何も無いところに意味を見出し、垣根を創ることが魔法の始まり。とある札を引いた日に悪いことがあればそれは凶兆の占い札、もっと簡単に言えば光あれと言ったそのときに昼と夜の区別は始まった。それと似たようなものだ。我ら世界を切り出す石工なり、とはよく言ったものだな」
 巴の答は、あまりにも難しすぎてライアンには分からない。思わずう〜むとうなって考え込んでしまった。
「折角だから、流し雛をやり直さないか? 中途半端のまんまじゃ安珠が可哀想だもんな」
「そりゃいい考えっすよ!」
 夏沙の言葉に伝助は真っ先に賛意を示す。他の仲間も異存はなかった。
「だけどこの人形を流したら、また同じ事になりかねないでやんすから、代わりに雪で人形を作ってみたいっす。溶ける事で厄払いになる雛人形、厄を払うついでに春まで呼ぶ雛人形! ‥‥ってことで」
 伝助の提案で、屋敷の庭の残り雪を使って、雪の人形が作られた。出来た人形にイリアがアイスコフィンの魔法をかけて氷の中に閉じこると、皆で人形を川に流した。人形は川の流れに運ばれ、無事に海へと流れていった。
「それにしても、よくできた人形じゃ」
 手元に残った人形を抱きしめ、アンジュが言う。
「おまえはきっと流されるのが嫌で、ここに戻ってきたのじゃな?」
 龍平がアンジュから人形を受け取り、しげしげと見つめて言った。
「この人形にはきちんと目鼻を付けて、大事に飾っておくとしましょう。人形もそれが一番うれしいことでしょう」

●桃山家の宴
 流し雛を無事に終えると、今度は待ちに待った宴会だ。
 桃山家がジャパンから取り寄せた品々は、米俵以外は無事に届けられていた。味噌に醤油に米麹。
 川から引き上げた米を炊き込んでお湯を加え、さらに米麹を加えて温かいままにして寝かせると、半日ほどで甘酒が出来上がる。ジャパンでは『酒』と名の付くものの、厳密に言えば甘酒は酒のうちに入らないので、飲んで酔っぱらうことはない。酔って楽しく騒ぎたい向きには、ジャパンから取り寄せた酒がお勧めだ。
 台所には海産物がどっさり。引き上げ仕事が終わった後で、イレイズが漁をして採ってきたものだ。さまざまな種類の貝を始め、クラゲにタコにヒトデにウミウシにイソギンチャク、そしてさまざまな種類の貝。ノルマン人の目からすれば、その多くがゲテモノにしか見えない。その色とりどりの食材を、夏沙がせっせと選り分けている。
「どうしてタコは食べるのに、ヒトデとウミウシは食べないのですか?」
 厨房を覗き込んだネフェリムが、大まじめで訊いてきた。
「味見して較べてみりゃ、分かると思うけどな。‥‥お、この貝はハマグリっぽいな」
 クレーが魚市場から仕入れてきた食材も、まな板の上に乗っかっている。それを巴が巧みな包丁さばきで切りさばいていく。今回の料理は海鮮たきこみ御飯とちらし寿司。ちらしは薄焼き卵の細切り、水貝に甘く味付けした魚などを載せ、炊き込みは平影虎に習って豪快に。米の量が少なくても、見た目が豪華になるよう具を入れる。
「お米の感触って、サラサラしてて気持ちいいね」
 手伝いでお米をといでいたガレットが、率直な感想を述べた。
 一方、クレーはヴェガと共に、赤ワインのリゾット作りに挑戦。
「ジャパンでは、お祝い事には赤いライスを食べるって聞いた事があるしね」
 最も、クレーは料理の腕前がまだまだだから、調理はほとんどヴェガに任せ、自分はもっぱらその手伝いをしている。ちなみにヴェガは、台所に山と持ち込まれたゲテモノにはなるべく触ることのないよう、自分の仕事だけに専念している。

 ドロシーと桐生がお座敷にお膳を並べ、おいしい料理を盛った皿や小鉢を乗せていく。こうして宴の準備は全て整った。冒険者たちは皆、それぞれの席につく。
「いや先月こっちに渡ってきたばっかだから、懐かしいってのはあんまないけど――でも、なんかホッと安心する感じだよな。こっちの空気も悪かないけど、俺はやっぱりジャパンの子だし」
 やはり夏沙にとっても、ジャパン風の宴の席は心落ち着くものだ。
 靖久もジャパンにいた昔、従妹の節句に付き合わされた事がある。良くは思い出せないが、何処か懐かしい感じがする。
「オセックって、女の子のお祭りだっけ? むしろ子供が健やかに育つよう願う親のためのお祭りだったりして。子供って小さい時はよく病気するじゃない。‥‥でもアンジュちゃんは大丈夫だね」
 アンジュとにこやかに談笑するガレットも、ジャパン風の着物をアンジュに借りて着込んでいる。
「ガレットどの。その着物、よく似合うぞ」
 歳はアンジュよりガレットのほうがずっと上だが、パラのガレットのこと。アンジュの着物は少々窮屈だが、きちんと着こなすことができた。
 そして宴が始まる。鳳太郎に教えてもらったジャパン風のメロディを真似、横笛を吹くフェネック。その音に鳳太郎は思わず顔をほころばせる。
「おお、なつかしい音色だ。ジャパンにいた昔を思い出すのぉ」
 お膳に添えられた二本の棒を見て、クレーが不思議そうな顔をする。
「ところでこれ、何につかうん?」
「こうやって使うっすよ」
 伝助、二本の箸を巧みに操り、料理をつまんで口に運ぶ。ジャパン人にとってはごく当たり前のことだが、箸というものを知らぬ人間の目にはとても奇妙に映るようだ。
「そんなしちめんどくさいやり方で料理を食べんでも‥‥」
 思わずグチってしまうクレーだが、そんな彼らのためにスプーンやフォークも用意してあるから心配は無用。
「当地ノルマンの名酒です」
 自分の用意した酒を鳳太郎に勧めるイリア。
「おお、これはいけるな。では、こちらからもお返し致すとしよう」
 鳳太郎は日本酒をイリアの杯になみなみと注ぐ。口に含んでみると、イリアにとっては風変わりな味がした。
「とても不思議な味ですね」
「はは。さしずめ、米のワインの味であるな」
 小皿の料理を口に運んだヴェガが、妙な顔をして訊ねた。
「これも奇妙な食べ物じゃな。ぷりぷりして、とても歯ごたえがありおる」
「それはタコだ」
 靖久の言葉にドキっとするヴェガだが、すぐに気を取り直して答える。
「これがタコとな? 見かけほどに気持ちの悪い味ではないな」
 ネフェリムはさっきから、二本の箸を使って食べようと悪戦苦闘中。それを見て鳳太郎が助け船を出す。
「そう無理をせずともよいぞ。使い慣れた道具で食するがよい」
「しかし、ジャパンではこのハシを使って食するのが礼儀でございましょう? 私はこれよりジャパンに旅立とうという身。かの地で不作法があってはならぬ為の修練です」
 鳳太郎はその言葉に大きくうなずく。
「それは見事な心掛け。心ゆくまで修練致すがよい。なあに、馴れてしまえば簡単なものだ」
 頃合いを見て、まくるが挨拶に立った。
「この度は‥‥お招きありがとうございます‥‥これを」
 鳳太郎とカトリーヌ、それぞれの首にコマドリのペンダントをかける。
「まあ、素敵なペンダント!」
「縁起物であるな。夫婦揃って仲良きは良きことなり」
 続いて、鷹岡龍平に漆塗りの酒器を渡す。
「‥‥たまには‥‥思いっきり飲まれては‥‥?」
「おお、かたじけない」
 アンジュには水晶のペンダントを手渡す。
「これはいつかの首飾りじゃな」
「あのね‥‥忘れないで‥‥ヒトを殴ると自分の手も痛いよ‥‥」
「だったら手で殴らずに、棒で殴ればいいのじゃ」
 何か勘違いしているアンジュだが、まくるは優しく言い聞かせる。
「強くありたいなら‥‥周りをよく見てね」
 そしてライアンには、いつぞや渡しそこなった玩具の木彫りの舟。
「わぁい! お船だぁ!」
「なんでも簡単に‥‥諦めないで‥‥」
 続いて、桐生が鳳太郎とカトリーヌの前にやって来た。
「皆さんの健康とご多幸を祈っております」
 にっこり笑って手渡したのは、紙で折った雛人形。ちなみに、紙はジャパンから届いた品々を包んでいたものを使った。この地で、紙は貴重品である。
「まあ、良くできてるわ!」
「その気持ち、有り難く受け取ろうぞ」
 桃山夫妻は快く桐生の贈り物を受け取った。
「ああ、忘れていた。桃山殿に一つ贈り物をな」
 そう言って巴が差し出した贈り物は、ジャパン料理の『ワニ(鮫)の湯拭き』。ちなみに、ドレスタットの魚市場で調達した材料でこさえたものだ。
「これは軽くゆで、持ってきた味噌をこちらで徐々に増やしたものにつければいい」
「かたじけない。後で有り難く食するとしよう」

 酒が酌み交わされるうちに、宴は盛り上がっていく。ジェイランは、ジャパンの食の一つ一つに挑戦。ついでにお酒にも挑戦したら、飲み過ぎてふらふらになった。
「あ‥‥ほっぺに御飯粒が‥‥」
 ジェイランのほっぺについたご飯粒を、まくるがぺロっと舐め取ってあげる。
「あう、まくるちゃんが二人に見えるー。どっちが本物かわからないから捕まえるじゃん」
 一目はばからず、まくるをぎゅっと抱き締めて、そのまま寝転がってしまう。思わず、まくるは真っ赤になって硬直。
「いけませぬ、こんな所で寝っ転がっては風邪をひきますぞ」
 龍平が慌てて二人を寝所に連れて行った。
「パーティには、ダンスが付き物です!! さあ、ダンスをしましょう!!」
 これまた酔っぱらったドロシーが、そばにいたアンジュの手をつかんで強引に踊り出す。完全に場にそぐわないが、アンジュはとても楽しそうだ。
「あははは! 面白いのだ!」
「これ、安寿様! はしたなすぎますぞ!」
 龍平が諫めるが、鳳太郎はおおらかに笑っている。
「まあ良いではないか。わしも若い頃、宴で大騒ぎしたものだ。挙げ句、襖をぶち破り、床に穴を開け、泥だらけで庭を駆け回り、後でこっぴどく怒られたものだがな。はははは!」
「ホウタロウ! あたしも踊るわよ!」
 つられてカトリーヌも踊り出す。
 ドロシーはクルクル踊りまくる。もはや自分の手を引くのがアンジュなのかカトリーヌなのか、それとも他の仲間の誰かなのか分からない。そしてついに、ぶっ倒れた。
 当然、翌日、記憶が無い。

 さて、宴には後日談がある。宴の席でさまざまな贈り物をしたまくるの所へ、贈り物がそっくり戻ってきたのだ。
『大切な品々をお返し致します』
 そんな龍平の付け文を添えられて。どうやら宴で酔っぱらった挙げ句、大切な品々をうっかり人に渡したものと勘違いされたようだ。世の中、なかなかうまくいかないものである。