WANTED〜カラス使いネメリス
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 19 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月23日〜03月28日
リプレイ公開日:2005年03月31日
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●オープニング
「ママ‥‥どうしてぼくを抱いてくれないの? ママ‥‥ぼくのこと嫌いなの? ぼくはいつも泣いているのに、どうしてママはぼくのことを置き去りにしたの? ママ‥‥ママ‥‥どこにいってしまったの? ママ‥‥ママ‥‥お願いだから戻ってきてよ。ママ‥‥ママ‥‥ママ‥‥ママ‥‥」
ドレスタットの町中を春風が爽やかに駆け抜ける。季節はもう春。ここ、大きな商店やレストランの建ち並ぶ街の大通りは、あでやかに着飾った婦人や令嬢たちのお気に入りの場所だ。ある者は恰幅のいい紳士にエスコートされ、ある者は身なりのいい従者にかしずかれている。中には独りで道を行く女性もいるが、皆うきうきと顔をほころばせている。今日のお出かけのお楽しみはお買い物だろうか? 陶器に宝石にドレス、この街には船や月道で届いた異国情緒あふれる品々があふれている。それとも、これから大切な思い人との逢瀬が待っているのだろうか?
大通りを行く彼女たちは、さながら春の花のよう。ふわふわのドレス、ふわふわの羽根帽子につば広帽。その胸元にはペンダントやブローチに仕立てられた色とりどりの宝石が、きらきら輝いている‥‥。
「グァーッ!! グァーッ!!」
春めいたのどかな雰囲気を、空よりの不気味な鳴き声がかき消した。
ジャイアントクロウ(大ガラス)の群だ。死肉漁りを好みとする忌まわしき大型鳥。それが、なぜか道行く女性たちに襲いかかる。
「いやーっ!!」
「助けてぇーっ!!」
のどかな春の大通りは、逃げ惑う女性たちの悲鳴が飛び交う修羅場と化した。
「何事だっ!?」
クロウを追い払おうと、手に手に得物を握りしめた男たちが駆けつけた。その目の前で、クロウが1羽また2羽と空に舞い上がっていく。その太い嘴(くちばし)にはさまざまな戦利品が挟み込まれていた。帽子、マフラー、スカーフ、胸元からちぎり取られたブローチに、鎖の切れたペンダント。身につけた体から無理矢理奪ったのだろう、血にまみれたイヤリングや指輪を嘴に挟んで飛んでいくものもいる。
「おい! あそこにいるのは誰だ?」
男の一人が路地裏の陰を指さす。そこに黒い服を着たエルフが立っていた。痩せこけて青白い顔で、背丈は少年ほどしかない。
「そこで何をしている!?」
男たちが誰何しようと駆け寄った途端、エルフは逃げ出した。
「こら! 待て!」
後を追いかけたようとした途端、まるで待ち伏せでもしていたように、路地裏から飛び出したクロウが男たちに襲いかかる。
「うわっ!」
「忌々しい鳥め!」
得物を振り回して何とかクロウを追い払ったものの、既にエルフの姿はどこにも見あたらない。
「あれはネメリスだな」
自警団の古参の男が言う。
「子どもの頃、親に捨てられ、街のあちこちで弾き語りのバードをやって暮らしていたヤツさ。だけど盗み癖があってな。置き引き、万引きは言うに及ばず。飼い慣らしたカラスを使って、店先から食い物をかすめ取ったこともある。そいつがとうとう、こんな大それたことをしでかすまでになっちまうとはな」
目撃情報などから事件の首謀者が判明したのは、ジャイアントクロウが女性たちを襲い、身につけた物品を奪い去る事件が繰り返されて後のことだ。捜査の末、ネメリスの潜伏場所はドレスタットからさほど遠くはない廃村であることが判明。ネメリス逮捕のため、街の自警団員数名が廃村に送られた。
「で、ヤツはどこに隠れていやがる?」
「この墓地が怪しそうだな」
廃村の荒れ果てた墓地に自警団員の男たちは踏み込む。頭上には群をなして舞うジャイアントクロウの群。手分けしてネメリスを探していると、朽ち果てた納骨堂の中を覗き込んだ男が叫ぶ。
「おい! これを見ろよ!」
納骨堂の床には、盗まれた装飾品が所狭しとぶちまけられていた。男の一人がそれを拾い上げようとした時、いきなり頭の中で声がした。
(「そいつに触るな! それは僕のものだ!」)
「何だ!? 今の声は!?」
周囲を見回すと、半ば開け放たれた納骨堂の扉の向こうに、逃げていくエルフの影が見えた。ネメリスだ。
「待て! 逃げるな!」
後を追う自警団の男たち。すると突然、一寸先も見えない暗闇が男たちを飲み込んだ。男たちは悲鳴を上げて慌てふためき、闇の中でじたばたする。うち一人が何とか闇の中から這い出すと、目の前にネメリスが立っていた。
「ネメリス! 魔法を使いやがったな!」
男がネメリスに掴みかかろうとするや、ネメリスの口から聞き取れないほどの早口の言葉が飛び出した。高速詠唱された魔法の呪文だ。途端、男の足が地面から離れなくなる。まるで地面に釘付けにされたかのように。
「これ以上、僕の邪魔をしたら承知しないよ。生きたまま、その目玉をジャイアントクロウに食わせてやる」
そう言い残すと、ネメリスは納骨堂の中の盗品を掻き集め、男の目の前から姿を消した。
「あんな野郎が相手では、俺たち自警団の手に余る」
かくしてネメリスの逮捕は、冒険者ギルドに委ねられた。現在、ネメリスは隠れ家を廃村の教会堂に変え、時おりその教会塔の窓辺に姿を見せるという。ネメリスは月の聖霊魔法の使い手。加えて、飼い慣らされた10羽以上のジャイアントクロウを従えている。決して油断してかかってはならない相手だ。
では冒険者諸君、健闘を祈る!
●リプレイ本文
●過去の傷
「今の内に、ネメリスさんをマトモな道に戻してあげられればいいんすが」
作戦会議で、真っ先にそう言ったのは以心伝助(ea4744)。相手は犯罪者とはいえ、捨て置けないものを感じているのはヴェガ・キュアノス(ea7463)も同じだ。
「エルフ故、捨てられた悲しみも深く長いものじゃろう。戦で散り散りになった故郷の村の子らと重なりおって見過ごせぬ。今手の届く所に居るあの子を救うてやらねば」
被害者の中に身内や知り合いがいたとしたら、ネメリスの所業は許せぬだろうとイルニアス・エルトファーム(ea1625)は思う。しかしまた、こうも思う。
「襲われる女性、親に捨てられたネメリス‥‥母親の面影を追い求めているのかもな」
他にもネメリスを救おうとする仲間は多く、極力戦闘を避けて説得に当たる方向で作戦会議は進む。そして会議はレオニール・グリューネバーグ(ea7211)の言葉で締めくくられた。
「罪を犯した者を裁くは当然のこと。だが、不必要な戦いをせず事が済むに超す事は無い。説得できるという貴君らを信じるからな」
冒険者達は聞き込みを開始した。ネメリスの素性や過去を知ることは、説得を成功させる鍵だ。やがて冒険者たちは、ネメリスの過去を詳しく知る者と出会った。街の広場で弾き語りをしていたエルフのバードだ。
「ここだけの話けど、ネメリスは昔の仲間だったんだよ」
バードの言うには、ネメリスが生まれたのは神聖歴965年頃だという。
「昔はそれなりに幸せだったらしい。でも、ローマ兵がやって来てから変わっちまったんだ」
ノルマン王国が一時滅亡し、ローマの支配が始まった年が神聖歴979年。当時、ネメリスは人間の歳なら5歳程だったはずだ。
「あの頃はローマ兵があちこちうろついて、エルフというだけで虐められたりとか、色々あったろ? でも、土地によってはもっと酷いことがあったんだ。あたしの村とか‥‥ネメリスの生まれた村とかさ」
バードの口調は重くなる。あの過酷な時代のことは、思い出すだけで苦痛なのだろう。
「親父を戦で亡くし、お袋にも捨てられてたネメリスは、流浪のエルフの一団に拾われたのさ。そしてあたしと出会ったってわけ。ネメリスもあたしも各地を放浪しながら、仲間から歌と魔法を教わったんだよ。まあ、ノルマン王国が復興してローマ兵が出てってくれたおかげで、あたしは元の生活に戻れたけど‥‥ネメリスにはそれが出来なかった」
また、ルメリア・アドミナル(ea8594)は、かつての依頼で世話になったベレガンプ神父を訪ね、その助言を仰いだ。
「法律のことなら他の者を頼るべきとは思うが‥‥」
そう前置きして、神父は答える。
「齢と共に積みを重ねる程に、悪の道より抜け出すことは困難になるものじゃ。恐らくその子にとっては、これが立ち直りのための最後の機会。その覚悟を持って、事に臨むがよい」
●廃村
フェネック・ローキドール(ea1605)はネメリスの潜む廃村にやって来た。最初は村の隅に居座り、廃村のそこかしこに居るジャイアントクロウをキラキラ光る星の飾りや鏡で誘き寄せた。クロウが1羽、2羽とやって来ると、テレパシーで人語によらぬ会話を試みる。
──ネメリスをどう思っているの?
クロウは色々なことを答えてくれた。ただし言葉ではなくイメージで。
──アイツはオマエと同じ力が使える。
──アイツは食べ物をくれる。
──アイツは光る物やふわふわした物が大好きだ。
──アイツに光る物やふわふわした物を持っていけば、食べ物をくれる。
──だから俺達はアイツが好きだ。
クロウたちはテレパシーの魔法とエサでもって、ネメリスに手懐けられている様子だ。
ふと教会の塔を見ると、そこにネメリスの顔があった。やがてネメリスは塔から降り、自分からフェネックに近づいてきた。
「エルフがこんな所で何してるんだい?」
「ただの暇つぶしです」
「クロウが好きなの?」
「ええ、それなりに。あなたは?」
「クロウは僕の友達さ」
そう言って、ネメリスはクロウにエサを投げ与える。ネズミの死骸だ。それをクロウの1羽がさっとついばみ、腹の中へ収めた。
「ネズミを捕まえるのが上手そうですね」
「簡単だよ。シャドウボムで影を爆発させて、気絶したところを捕まえるのさ」
何時のまにか、二人はむき出しの土台石に座って話し込んでいた。
こうして話をしてみると、ネメリスはごく普通の少年と変わりない。
「ねえ、何か歌を聴かせてよ」
せがまれるまま、フェネックは歌を口ずさむ。フェネックの知る子守歌だが、それをどこで覚えたかは記憶に無い。歌い終わるとネメリスが再びせがむ。
「ねえ、もう一度歌ってよ」
もう一度歌うと、またネメリスがせがむ。そうして何度も歌い続けるうちに、ふと柔らかい感触を感じる。ネメリスがその体をフェネックにぴったり寄り添わせていた。歌い続けるうちに奇妙な気分になった。歌の力に魅せられたか、それとも失ったはずの記憶が呼んでいるのだろうか。依頼のことなど忘れ、こうしてネメリスの温もりを感じながら歌い続けていたい誘惑にかられてしまいそう──。
「あれ? またエルフが来たよ」
ネメリスの声で気がついた。やって来たのは仲間の紅天華(ea0926)。
「あなたも旅のバードかい?」
「いいや、私は旅の尼僧だ」
その答にネメリスは不思議そうな顔をする。
「神に仕える人? その服だけど、遠くの国の人なの?」
「生まれは華仙教大国だ」
「僕に説教しに来たの?」
「私も未だ修行の身、人を諭すような話は出来んよ‥‥」
言いがてら、天華は食べ物の欠片をクロウに投げてやる。
やがて取り留めのない話が始まり、日が暮れていく。
「あの教会は貴方の住処ですか? だったら今夜、泊めていただけますか?」
「いいよ。エルフは仲間だから」
フェネックの頼みに、ネメリスは快く同意した。
「おまえ、こんな殺風景な場所に好きこのんで住んでいるのか?」
ふと、天華が疑問を口にする。
「そうさ。ここは落ち着くんだ。棒で僕を追い回す奴らはいないからさ」
●説得
廃村が夜闇に包まれると、残る冒険者の一団も教会に接近する。クロウの群はそこかしこで眠り込んでいた。伝助の見込んだ通り。接近にこの時間を選んだのは正解だった。近づくにつれ、ひそひそ話の声が聞こえてきた。明かりも灯さぬ闇の中で、フェネックが今もネメリスと話を続けている。
近づくランタンの光にネメリスが気付いた。
「誰!?」
ルメリアが真っ先に口を開く。
「ネメリスさん、貴方にお話が有って来ました」
続いて、ヴェガ。
「セーラ神の愛児、ネメリスよ。望んでいた存在とは異なるやもしれぬが、おぬしを迎えにきた者じゃ」
「僕を、迎えに?」
ネメリスが二人に気を取られている隙に、残りの仲間はネメリスを取り囲むように動く。説得が失敗した時の戦闘に備えて。ところが、床で眠っていたクロウの一匹が、ランタンの明かりに刺激されて目を覚ました。
「ガアッ!」
クロウは舞い上がり、見慣れぬ侵入者に襲いかかった。
「慌てるな!」
レオニールがマントをはためかせ、クロウを牽制する。
「みんなで僕を捕まえにきたのか!?」
ネメリスが叫び、呪文を唱えようとした。が、それより早くハイラーン・アズリード(ea8397)がクロウに飛び付き、床に押さえつけた。
「クロウから手を離せ!」
再びネメリスが叫ぶ。戦闘を予感し、天華が呪文を唱えようと身構える。伝助はネメリスの急所に一撃見舞うべく、右腕のナックルに力を込める。
「待て。戦うには及ばん」
ハイラーンの声が冒険者たちを制した。ジャイアントクロウはハイラーンの腕の中にがっちり押さえ込まれ、逃げられないでいる。並の人間なら手に余る大きさだが、ジャイアントのハイラーンなら抑え込むのもそれほど苦ではない。
「聞け、ネメリス。クロウを殺すつもりはない」
「殺さない? 本当に?」
「こいつらはお前の友なのではと思ってな。だとしたら命を奪うわけにはいかないじゃないか」
クロウがハイラーンの腕の中でじたばた暴れた。
「それより、こいつを大人しくさせてくれないか?」
「だったら、誰かクロウに食べ物をあげてよ」
ヴェガが保存食のチーズを千切って投げてやる。ネメリスはテレパシーの魔法でクロウに話しかけた。
──こいつらは敵じゃない。おまえに食べ物を持ってきたんだ。
クロウは大人しくなり、ハイラーンが縛めを解くとチーズをついばみ始めた。
「おぬしもどうじゃ? 腹が減っておるのじゃろう?」
ヴェガがネメリスにもパンとチーズを差し出す。ネメリスは受け取るや、餓えた狼の仔のごとく一心不乱に食べ始める。空腹が満たされたのを見計らい、ヴェガは説得を始めた。
「さて、おぬしには話して聞かせねばならぬ事がある。おぬしは自分が何をしたか、分かっておるか?」
ネメリスの周りに散らばる盗品の数々にさりげなく目配せすると、ネメリスはムキになって言い返した。
「あれは返さないよ! あれは僕のものなんだ!」
「額に汗して働いて手に入れた物であれば、何も言わぬ。しかし、自分が欲しいからといって、他人の持ち物を力づくで奪い取るのは罪じゃ」
「いやだ! 絶対に返さない!」
犯した罪を少しずつ理解させようと試みるヴェガだが、ネメリスの心が言葉の一つ二つで変わるはずもない。他の冒険者は説得の進み具合をじっとうかがっていたが、ふと円巴(ea3738)が口にする。
「ネメリス。貴婦人の持ち物を狙ったのは、あれが初めてだろう?」
「どうしてそう思うのさ?」
「着飾って大通りを歩く時、賢い貴婦人ならば高価な飾り物を身に付けない。大抵は本物の金・銀・宝石に似せた模造品や、格落ちする物を身につけるものだ」
「それがどうしたのさ? 本物かまがい物かなんて僕には関係ない。女の人が身につけている物が欲しかったんだ」
その言葉に感ずるものがあり、ルメリアは訊ねた。
「貴方が盗みを働くのは、人に見て欲しいからではないでしょうか?」
ネメリスは言葉を失った。自分でも気づかずにいたことを指摘され、どう答えていいか分からないでいる様子。
ややあって、やっとネメリスは答えた。
「‥‥うん。気がつかなかったけど、僕は女の人たちが騒ぐのを見るのが好きだったんだ。クロウに飾り物を盗まれて大騒ぎしている女の人たちを見ていると、自分が世界の中心になったみたいな気がして‥‥」
やはり。ルメリアは納得する。小さな子どもが親の気を惹くために、いたずらをしでかすことがある。ネメリスの心理もそれと根は同じだったのだ。
「キミはどうしてバードになったんだ?」
訊ねたのはイルニアス。
「昔はバードの仲間が沢山いたんだ。みんなで歌ったり踊ったりするのがとても楽しかったから、僕もバードになった。町の人たちの前で演奏して、帽子にお金がいっぱいたまると、とても嬉しかった。でも、誰も歌を聞いてくれない時は、盗みをやって食べ物を手に入れたんだ」
答えるネメリスの目は、じっとランタンの炎を見ている。遠い昔を思い出いているのだろう。その言葉にイルニアスは微笑を浮かべた。
「その最初の気持ちを失わないうちは、まだ望みはあるな」
そしてルメリアが言う。
「確かに盗みを働けば、人は貴方に注目するでしょう。ですが、その注目は憎しみから。憎しみの視線は貴方の心を傷つけます。誰かと共に生きる事で、生きる事を分ち会えるのだと私は思うけれど、盗みを止めず人を傷つけ続けるなら、共に生きることは出来ません。もう盗みを止めましょう。そして奪った物を返しに行きましょう」
「いやだ‥‥」
なおもネメリスは頭を振る。
「わたくしが、貴方のお母さんになってあげます。それでもですか?」
その言葉にネメリスははっとなり、再び言葉を失ったままルメリアの顔を見つめ続けた。その目に戸惑いの色。唇が微かに震えている。
「どうか私に、貴方を抱きしめさせて貰えないでしょうか」
「‥‥本当に、お母さんになってくれるの? ‥‥僕を‥‥抱いてくれるの?」
エルフの少年はおずおずとルメリアに近づき、その小さな体をルメリアはぎゅっと抱き留めた。
「ネメリスさん、もう貴方は、一人では有りません」
腕の中でネメリスの体が小刻みに震えている。声を出さずに泣いているのがルメリアには分かった。
●旅立ち
翌日。ネメリスは奪った品々の全てを携え、冒険者に連れられて自警団に自首した。程なく裁判が始まったが、冒険者たちの取りなしもあり、下された裁きは傷の残らぬ軽い鞭打ち刑とドレスタットからの追放。ただし追放には三日間の猶予が与えられた。また被害者にはルメリアから、それほど多額ではないが賠償金が支払われた。
3日間の猶予期間の間に、ルメリアはヴェガの立ち会いの元、ドレスタットの教会で、ネメリスにアドミナルの姓が贈った。そしてネメリスはヴェガによって道を示された新天地、アレクス卿の街で新しい人生を始めるべく旅立つ。
「その才能、彼の地でなら活かせよう。同じ境遇の仲間もいる。だが辿り着くまでが試練。辛く苦しくとも手を汚さず真っ直ぐ生きよ。生まれ変わるのじゃ。例え遠く離れても、わしはおぬしと共に在るぞえ」
言葉と共に、ヴェガは十字架の首飾りをエルフの少年の首にかける。そしてルメリアは、親と子の絆を結んだ少年に路銀を、そしてアレクス卿に宛てた紹介状とを手渡す。
「みんなのこと、いつまでも忘れないよ」
はにかみながら、皆に笑顔を向けて旅立つネメリス。その出発を祝福するかのように、春の息吹にあふれた世界を暖かい日差しが満たしていた。