WANTED〜シフール報復団
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:11人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2005年04月10日
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●オープニング
日が落ちてもなお、ドレスタットの街はなかなか眠りにつこうとしない。ここ、街の目抜き通りは日が暮れてからが書き入れ時だ。日増しに暖かみを増す季節柄、人々もついつい開放的になって外を出歩き、陽気に歌い騒ぐ酔っ払いの姿もちらほら。
通りに立ち並ぶ酒場の中でもひときわ豪華で人目を惹く店は、黒曜館という名の高級酒場だ。その扉が開き、顔を赤く染めて上機嫌の旦那が表通りに姿を現した。
「いやぁ、ちと飲み過ぎてしもうたかのぅ」
おぼつかなげな足取りで、旦那は歌を口ずさむ。
「可愛い小鳥はどこ行った♪ 鳥かごの中で死におった♪ 故郷の森が恋しいと♪ 毎日毎晩泣き暮らし♪ 食事も喉を通らずに♪ やせ細って死におった♪ ‥‥おっとっと」
「旦那、しっかり」
ふらついて倒れかけた旦那を、付き添いの男が支え込む。
「おお、ありがとよ。しかしなぁ‥‥あの店も変わったなぁ。顔馴染みの客が一人もおらんので、ちと物足りんわ」
「まぁ、あんな事件があったことですからねぇ」
かつて、黒曜館はシフール密売の温床だった。捕らえられたシフールたちが、密売人によって高値で売られていたのである。客は好事家の金持ちであった。やがて悪事は発覚。捕らえられていたシフールたちは冒険者の手で救出され、客は役人にしょっ引かれ、密売人たちは行方をくらました。黒曜館も店の持ち主も変わり、今では犯罪とは無縁の真面目な営業を続けているようだ。
「旦那も気をつけた方がいいですぜ。たかがちっぽけな小鳥のために、財産没収されて汚い牢屋にぶち込まれでもしたら、割に合わねぇ」
「なぁに、わしはたかが小鳥のせいでとっ捕まるようなヘマはやらんよ」
不意に、連れの男の目の端を小さな影がかすめた。
「ん?」
男はきょろきょろと辺りを見回す。おや? また小さな影が飛んで行った。一瞬だが、シフールのように見えた。
「どうした、何を見ておる?」
「いや、何だかさっきからシフールの影が目にちらついているような気が‥‥」
「何を気にしておるのじゃ! この街にシフールなんぞいくらでもおるわい!」
路上で言い合う男二人の足下には、店先のランプの光が浮かび上がらせた影。その影の上を、またも小さな姿が横切る。
「で、旦那。これからどちらへ‥‥」
シュッ! 言いかけた男の首筋に刃がきらめいた。指一本ほどの差し渡しながらも、鋭利な刃は首の肉を深々と切り裂き、男は首から血を吹き出して路上に転がった。
「な‥‥なんだ‥‥!?」
慌てふためく旦那の目の前に、シフールの剣士が羽ばたき浮かんでいた。その手に握られた小さな剣は、流されたばかりの血に染まっている。
「邪悪なる人間どもめ! 我らの仲間を浚い、その命を弄びし罪は万死に値す! 今、その報いを受けよ!」
「う、うわぁ!!」
ボン! 逃げ出そうとした旦那の足下で影が爆発。旦那が転ぶや、それまで物陰に隠れていたシフール達が一斉に飛び出し、情け容赦なく襲いかかる。
「報復だーっ!! 報復だーっ!!」
「腐った人間どもをやっつけてやる!!」
「よくもあたしたちの兄弟姉妹に酷いことしたわね!!」
ぐさ! ぐさ! ぐさ! ぐさ! 小さな剣やナイフが体中に突き刺さる。旦那の顔も手足も血塗れだ。
「ひぃ‥‥! ひぃ‥‥! 助けてくれ‥‥!」
突然、攻撃が止んだ。手の平で顔を隠し、うずくまっていた旦那が恐る恐る顔を上げると、先ほどのシフール剣士が目の前にいた。
「一つ聞きたいことがある。手の甲に黒い蛇の入れ墨をした男を知っているか? 我らの仲間を浚った密猟団の首魁だ」
「し‥‥知らない‥‥そんな男は知らない‥‥」
「そうか。では、これまでだ」
小さな剣が閃く。斬りつけられた首から血が派手に噴き出し、旦那は気を失った。
「早く逃げて! 人間たちがやって来るよ!」
シフール剣士に、仲間のシフールの一人が叫ぶ。騒ぎを聞きつけてやって来たのは、街の自警団だ。
「これは何の騒ぎだ!? 全員、そこを動くな!! 直ちに武器を捨てよ!! さもないと‥‥」
強烈な光が自警団の男たちの目をくらませる。陽の聖霊魔法ダズリングアーマーの強烈な輝き。その光に紛れてシフールたちは夜空へと飛散し、後には瀕死で路上に倒れた男二人だけが残された。
黒曜館の客がシフールに襲撃される事件は相次ぎ、ついに自警団の団長が黒曜館の店主と共に冒険者ギルドへ現れた。
「あのシフールどもを一網打尽にするのに力を貸してくれ」
話をきくなり、ギルドの事務員は黒曜館の店主に疑わしげな視線を向ける。
「念のため、あなたの手を見せてくれないか?」
「あんたまで私を疑うのか! 私は被害者なんだぞ!」
怒りの言葉と共に突き出された店主の手には、入れ墨など彫られていない。自警団の団長が口添えする。
「俺も念のため、黒曜館に出入りする者たちを調べたが、手に黒い蛇の入れ墨をした者は一人もいなかった」
「そうか。それにしてもシフール密売、ここのところ鳴りを潜めていたと思ったら、またぞろ息を吹き返したのかねぇ‥‥」
つぶやきながら、事務員は書類の作成に取りかかった。
「で、シフールたちが探している入れ墨野郎はともかくとして、だ。冒険者ギルドの仕事は、復讐にはやるシフールたちを引っ捕らえることでいいんだね?」
「そうだ。彼らの復讐心も理解できるが、やっていることは紛れもない犯罪だ。幸いなことに被害者たちは一命を取り留めてはいるものの、このままではいつ死人が出てもおかしくはない。そうなる前に彼らを捕らえ、しかるべき処罰をせねばならん。ことに、首謀者と目されるシフール剣士には、厳罰を下さねばなるまいな」
そして、自警団の団長は作戦を提案した。
「冒険者諸氏には、客として黒曜館で飲み食いして欲しい。黒曜館に客が来れば、シフールの襲撃者たちも必ず現れる。そこを手の者で取り囲んで一網打尽にすればいいのだが、何せ相手は動きが素早く、魔法も使うシフール達だ。捕らえるにはそれなりに智恵を絞る必要があるだろう。ああ、それから黒曜館での飲食費については、店主が負担してくれるそうだ」
すると、店主が渋い顔で言い添えた。
「ただし、飲食は常識内の範囲でお願いしますよ。襲撃事件のせいで客足が遠のき、店はガラガラ。大赤字で大変なんです、頼みますよ」
●リプレイ本文
●罪には罰を
「同じシフールによる事件‥‥言い分はわたくしだってわからなくもないですけれど‥‥」
シフールのシャクリローゼ・ライラ(ea2762)が言う。罪には罰を与えねばならぬのは当然の理。なれどシフール報復団による襲撃は、同族が虐げられる事への義憤から発したこと。
「怒りを何処かにぶつけたい気持ちはわからんでは無い。が、それでは憎悪の連鎖を生むだけだ」
石動悠一郎(ea8417)の言葉も的を射てはいる。が、キラ・ジェネシコフ(ea4100)はあえて反駁した。
「だけど。自分達が立ち上がって犯人に復讐をするという行為、けして悪いとは思えませんのよ。人は受身のままでは何も変わらない。行動を起こしてからこそ、進歩していけるのですから」
しかし問題は、シフール達の怒りの矛先が正しい方向に向かっていないことだ。スニア・ロランド(ea5929)がその事を指摘した。
「悪事の証拠を掴んでもいないのに襲撃を繰り返せば、シフールと他種族との間に種族間憎悪が生まれかねないわ」
彼らの所行を放置する訳にはいかない。冒険者たちは作戦会議の結果、おとり作戦でシフール報復団をおびき出すことにした。『4月6日の夜、ドレスタットの港を取引場所としてシフール密売が行われ、その客が黒曜館に来る』という噂を流すのだ。手助けしてくれるシフールは街のあちこちにいる。シフールの口に乗って流れる噂は、程なく報復団にも伝わろう。
素早く飛び回るシフールを捕らえるなら、投げ網を用いるのが手っ取り早い。捕縛用の投げ網は自警団から借り受けられたが、この投げ網のさらなる強化を試みたのがシヴァ・アル・アジット(ea8533)である。優れた鍛冶の腕前を持つシヴァは、しなやかな鉄線を投げ網の中に仕込み、シフールの剣でも斬れない投げ網を作ろうと考えた。しかしいざ実行してみると、これが相当に難しい。鉄線が細ければ折れやすく、太くすれば単なる鉄の棒となってしまい、投げ網の用を為さなくなる。ジャパンの職人が日本刀を鍛えるような方法で鉄を鍛え、細くしなやかに曲がる鉄線を作れないこともないが、それだと鉄線1本を作るのにさえ相当な時間がかかる。結局、鉄線を仕込んだ投げ網の作成は断念する他なかった。
またツヴァイン・シュプリメン(ea2601)は魔法用スクロールを買い込み、未だ未習得の魔法を書き込もうとしたが如何せん、魔法スクロールの作成には想像を絶する程の熟練が必要な上に、そもそも覚えてもいない魔法をスクロールに書き込めるはずもない。これまた当初の目的を断念する羽目になった。
●黒曜館襲撃
当初は黒曜館での飲食費を店側が負担する手筈だったが、七刻双武(ea3866)はあえて10Gもの大枚を叩き、高級な料理とワインの提供を願った。客足が途絶えている最中、こんな有り難い話はない。店主は商売人の笑顔を満面に浮かべて頼みを聞き入れた。
そして4月6日の夜。黒曜館には大勢の客が集まり、久々の賑わいを見せた。
シフール報復団がそれを見逃す訳もない。彼らはこっそり店に近づくと物陰に身を潜め、客たちの様子を伺っては闇の中でひそひそ声の言葉を交わす。
「今夜はまたずいぶんと賑やかね」
「あんなにたらふく料理を食べて酒飲んで、いい気なものよ」
幾本もの燭台の光で贅沢に照らし出されたテーブルの上、ワインと料理が所狭しと並ぶその中央には鳥かごが一つ。
「あれを見て! シフールが捕まってる!」
鳥かごの中に閉じこめられているのは紛れもないシフールだ。
「やっぱり密売の噂は本当だったんだ!」
豪華な晩餐を楽しんでいるのは口髭をたくわえた男と、端正な顔の女性。
「どこぞの悪徳領主と、その愛人ってとこかしら?」
「あんなお上品な顔をして仲間を売り買いするなんて! 人間の皮を被った悪魔よ!」
二人の周りには、物々しい装いの護衛が大勢侍っている。うち一人はラージクレイモアにヘビーアーマーで完全武装という物々しさだ。
と、口髭の男が上機嫌で歌い出した。
「可愛い服着た小鳥さん〜♪ 篭に詰められ売られて行くよ♪ 歌の上手い小鳥さん〜♪ 篭にと詰められ売られて行くよ♪ 自由を奪われ篭の中♪ 未来を奪われ篭の中♪ 一生死ぬまで篭の中♪ ‥‥おい、おまえも何か歌わんか」
口髭の男にフォークの先でつんつん突っつかれ、囚われのシフールは狭い鳥篭の中できゃーきゃー叫ぶ。すると、連れの女が言った。
「シフールは大事にしなくてはいけませんよ。正しくしつければ、優れたペットになるのですから」
二人の行いはシフール達を憤激させるに十分だった。
「あいつら絶対許せない!」
「今すぐ襲撃してやりましょう!」
「ランプと燭台を片っ端から蹴散らして、店ごと燃やしてやるわ!」
所変わって店の中。スニアは晩餐を楽しむふりをしつつ、内心で嘆息。
「(私のこんな姿、イギリスにいるマルティナさんには絶対に見せられないわね)」
知人のシフールに今の姿を見られたら、何と思われることか。
テーブルの向かい側、それまで上機嫌で歌っていたツヴァインがおもむろに席を発つ。
「さて、そろそろ帰る潮時だな」
襲撃は恐らく店を出た直後──そう思っていたツヴァインだったが、読みが甘かった。
開け放たれた窓からシフールの群が飛び込んできた。先頭切って飛んできたシフールジプシーは天井から下がるランプに飛び付き、釣り下げ金具をフックから外して落下させた。残るシフールはテーブルの上の鳥篭に群がり寄せる。
「待ちなさい!」
ディアルト・ヘレス(ea2181)が声を発するより先に、ダズリングアーマーの強烈な光が部屋全体を包み、冒険者たちの視界を封じる。思わずディアルトは奥歯を噛みしめた。この状況では説得は無理だ。光の鎧を纏ったシフールジプシーは、テーブルに並ぶ燭台を手当たり次第に蹴散らし、その火がテーブルクロスに燃え移る。
「さあ、助けに来たわよ!」
「だけど、何て重たい鳥かごなの!?」
囚われの仲間の救出を試みたシフールたちは、強烈な光に目を細めながらも、懸命に鳥篭をぶら下げて羽ばたこうとする。だが力及ばず、とうとうシフールたちは床の上で鳥かごをごろごろ転がし始めた。
「悪いけど、店の出口まで転がしていくわ!」
「いや〜! 目が回ります!」
堪りかねて鳥かごから飛び出す囮役のシャクリローゼ。シフール達は皆、驚く。
「あなた、閉じこめられていなかったの!?」
ざばっ! 水瓶の水がテーブルの火を消した。インフラビジョンの魔法を唱えて赤外線視覚を得、ダズリングアーマーの目くらましから自由になったツヴァインは火を消すや、仲間たちにもインフラビジョンの魔法を付与する。
「あなた達は‥‥!」
パリーイングダガーで攻撃を受け、なおも説得を試みるディアルト。
「自分で自分の首を絞めている事に‥‥気がつかないのですか?」
しかし相手は複数のシフール。素早い動きに翻弄され、守るだけで手一杯だ。
「くっ! 身動きが取れぬ!」
重装備のリョウ・アスカ(ea6561)が舌打ちする。ヘビーアーマーは頑強な分だけ重たくて身動きを鈍らせ、ラージクレイモアは室内で振り回すには大きすぎる。狙いの外れた刃先がテーブルの水壺を打ち砕き、スニアの真横を掠めた。
「リョウ! 仲間を殺さないでよ!」
さっと飛びすさり、スニアが叫ぶ。
「あーっ!!」
リョウの刃を逃れ、二階に通じる階段の真下に逃げ込んだシフールが叫んだ。そこにはキラの罠が仕掛けられていた。蜘蛛の巣のように広げられた投げ網の中にシフールは飛び込んでしまい、網に絡め取られてじたばた。手持ちのナイフで網を切り裂こうとしたが、リョウのラージクレイモアが打ち下ろされる方が速かった。
ぼごっ!
ラージクレイモアの平たい剣の背でシフールはぶちのめされて悶絶。命は失わなかったものの、骨の二、三本は折れていそうだ。
「よくも仲間を!」
眩い光を放って飛び回っていたシフールジプシーだが、重傷を負った仲間に気を逸らされて動きが止まる。その隙をつき、ディアルトが自分のローブを覆い被せた。ダズリングアーマーの光はローブに遮られ、シフールジプシーはローブに絡め取られて床に落ちる。それでも暴れるシフールめがけて、またもラージクレイモアが振り下ろされる。
ぼごっ!
シフールジプシーは動かなくなり、ローブの下から死にそうなうめき声。
「さすがはラージクレイモア。威力が違います」
獲物を仕留めたリョウが呟く。
「シフールには強烈すぎたようですが‥‥」
仲間が二人もやられたのを目撃して、飛び回っていたシフール達は皆、物陰に隠れてしまった。開いた窓から逃げだそうと、隙をうかがう者もいる。
「逃げることは許さぬ!」
スニアが窓の前に立ちふさがり、退路を防ぐ。その手の中には重傷を負って息も絶え絶えのシフールジプシー。
「1人逃げれば手足を1本ずつ断つ!」
「みんな‥‥逃げて‥‥私には‥‥構わないで‥‥」
スニアの手の中のシフールが必死になって唇から言葉を絞り出す。それを聞いてスニアの心は痛んだ。戦いに勝つ為、人は時に悪魔を演じなければならぬ。とはいえ‥‥。
「お願い‥‥」
「仲間を殺さないで」
隠れていたシフール達が一人、また一人と現れる。
「安心して下さい。仲間を殺したりはしません。あなた方には非礼をお詫びします」
スニアの口調はうって変わって、柔らかなものになっていた。
冒険者たちに取り囲まれ、脅えた視線を向けるシフール達にキラが優しく言葉をかける。
「今は捕まっておきなさい。きっと悪いようにはしない。貴方達の思っている事も理解できますもの」
●決着
月の薄明かりが照らす波止場の一角。波音の絶えぬその場所に怪しげな風体の者が二人。シフール密売に手を染める闇世界の人間に身をやつしたアマツ・オオトリ(ea1842)と双武だ。
停泊中の船の陰からじっと二人を伺う目がある。
「そこに居るのは分かっておる。隠れていても無駄じゃ」
ブレスセンサーで気配を突き止めた双武が言葉を発すると、船の陰に隠れていたシフール剣士とシフールバードが姿を現した。
「おまえ達が密売人ね! 売り飛ばそうっていう仲間はどこ!?」
シフールバードの言葉にアマツが答える。
「密売の噂は、貴殿らを誘き寄せるために流したもの。我々は貴殿らを捕らえるためにここに来た」
「そなたらは刃を振う時を間違えた、身を護る為、剣を取るは必定、しかし剣を闇雲に奮えば、己が身に帰り来る、振うべき時を今一度考え為されよ」
続く双武の言葉が終わらぬうちにシフールバードが舞い上がり、剣の届かぬ先から魔法を放とうとした。が、魔法が成就するよりも速く、衝撃波がその小さな体を打ちのめす。シフールバードは空中で弾き飛ばされ、気絶して船の甲板に落下した。ソニックブームの衝撃波を放ったのは、離れた場所に身を潜めていた悠一郎だった。
「お主等がやるべき事は復讐心にはやり、無差別に人を傷つける事ではないはずだ!」
悠一郎が叫んだ次の瞬間、シフール剣士の姿がアマツと双武の目の前からかき消えた。いや、目にも止まらぬほど素早く飛び回り、攻撃を牽制しているのだ。
「ここでむざむざ捕らえられる訳にはいかぬ!」
激しい羽音と共に声が飛んでくる。羽音が急速に近づいた次の瞬間、アマツの首筋を狙って剣が繰り出される。咄嗟に鞘ごと抜いた双武の刀が、必殺の一撃を受け止める。返し太刀の残撃をすんでの所で外したアマツの首筋には、一筋の赤い筋が。
「アマツ殿、共に戦える事嬉しく思うぞ」
羽音が遠のいた隙に双武が囁き、アマツも頷く。
「私もです。七刻様」
闇の中、羽音は再び迫り、二人の周囲をぐるぐる回っている。
「拙者が盾となる。後は任せたぞ」
双武の言葉の意味するところをアマツは即座に理解した。再び羽音が急速に迫る。さっと身を翻すアマツ。しかし双武は動かない。シフール剣士の剣が閃いた。双武の首から赤い飛沫が飛び散る。同時にシフール剣士も、今の一撃で全ての力を出し切っていた。
「その動き! 見切ったり!」
アマツが渾身の一撃を打ち込む。強烈な峰打がシフール剣士を弾き飛ばす。その一撃でシフール剣士は身動きが取れなくなり、地に落ちた所を捕らえられた。
「さて、私の出番ですね」
成り行きを見守っていたボルト・レイヴン(ea7906)が姿を現し、リカバーで双武の傷を癒す。
「見事であったな、アマツ殿」
「いいえ。レイヴン殿のかけてくれたグッドラックの魔法がなければ、こうはうまく行きませんでした」
双武の言葉に、はにかみながら答えるアマツであった。
●裁き
捕らえられたシフール達が自警団に引き渡されて後、早々に裁きは下された。首謀者のシフール剣士は長期にわたる監禁刑。しかし残りのシフールについては、冒険者たちの取りなしが功を奏し、鞭の辱めを受けた上でドレスタットより即刻追放の処分となった。
シフール達の話によれば──密売組織を率いる首領は、手の甲に黒い蛇の入れ墨をした男だという。密猟者に捕まりながらも命がけで逃げてきた仲間が、その男を見たのだ。
「報復は新たな報復を生むだけ。いつまで経っても縁は切れません」
「証拠を押さえ、悪事を立証しない限り事態は解決しませんよ」
護送用の馬車に閉じこめられたシフール達に、そう言葉を贈るシャクリローゼとディアルト。しかしシフール達は皆うなだれ、返事をする者はいない。やがて馬車は動き始め、どんどん遠ざかっていく。シフールの一人が顔を上げ、見送りの冒険者たちに叫んだ。
「私たちにはもう何もできない! お願いだから、あなた達が仇を打って!」