●リプレイ本文
●10名の勇者候補ってカンジぃ?
「ちょっと聞いていいか?」
ジェイミー・ジェスティ(ea1953)はレオンスート・ヴィルジナ(ea2206)に尋ねた。
「その言葉はキミの家の方言だろうか?」
村に向かう途中、すでに役割を決めていた。到着と同時に行動に移った方がいい。子供が発病しギルドに依頼があるまでの時間を考えると、かなりの時間が費やされていることだろう。子供ゆえに生命は強いかも知れないが、大人ほど体力があるわけではない。自然治癒の望みは‥‥。
「そう簡単にはいかんじゃろ」
リサー・ムードルイ(ea3381)は楽観視を否定した。それよりも子供を看病している親、さらには周囲の家。最悪の場合村全体に病気が広がっているかも知れない。
「伝染病じゃなきゃいいんじゃがの」
フランク・マッカラン(ea1690)は気が気ではなかった。
「病気の子供への聞き込みは僕がやるよ。大勢で行っても警戒されるよね」
パリのような都会では無い。素朴な村では全員が知った顔、生まれた時からの見慣れた顔なのである。子供を援けに来た自分たちも、余所者として警戒されることだろう。
「その点は覚悟しておいた方がいいよ」
ナナイア・ユーフラテス(ea2063)は注意を促した。今回のパーティはどうも俗世間ばなれしたメンツがいる。
「そんなことはありません」
すかさずその筆頭のフランシア・ド・フルール(ea3047)が反論。
「まぁいいじゃろ。行ってみればわかるからのう」
フランクが間にはいる。
●村の出迎え
「感じないか?」
「敵対的っていうかぁ」
「相当殺気だっているような感じだな」
10人は途中野宿して翌日の昼くらいに目的の村にたどり着いた。かなりの強行軍だったせいもあり、多少の疲れはある。準備をして明日の朝早くから目的の屋敷に向かう予定だった。ゴブリンなら昼の方が行動を制限されるはずだ。森の中でも夜よりははるかにいいと思う。
そのために、手分けして仕事に入ろうと村に近づいた途端。幾人かの村人が見張りをしていたらしく、冒険者が近づくのを発見して大声を上げる。
「まさか歓声で迎えられるととは思わなかったけど、敵意剥き出しとはちょっと酷くないか」
ジェイミーはやはりという感じで呟く。
彼らは未知の病気に対する恐怖がかなり高まっているようだ。小さな村は閉鎖的たまにやってくるバードなら歓迎されることもあるが、いかつい冒険者となると恐怖がまじるのも無理は無い。
「わたくしたちはギルドからの依頼を受けてきた冒険者です。村長殿はいますか?」
フランシアが一行の前にでる。こういう場合はクレリックの方が安心感を与えるはずだ。育ちの良さそうな顔だちはけっこうお得である。
案の定雰囲気が少し和らぐ。しかし緊張はあまり解けない。
(「疫病かも知れない状態におかれた村はこれほど心が荒廃するものなのか」)
敵意に反発していた心が次第に同情へと変わっていく。
「やっと来てくれたか。村の衆彼らは安全じゃ。見張りを続けてくれ。こっちへ」
村長は村人にもとの警戒体制にもどるように言いつけて、冒険者たちを自分の家に招いた。
「けっこう広いんだな」
紫微 亮(ea2021)が呟く。村の他の家よりもはるかに大きい。
「そりゃ村長だもの」
テュール・ヘインツ(ea1683)はそれに答えたようで、答えになっていない。
「村長は家が広いのは、集会を行ったり領主やその代理人が来たときに宿泊するためです」
フレアム・ド・ロレーヌ(ea3274)はそのあたりの事情を説明する。こんな小さな村でも不在領主がいるだろうし、その代理人が年貢を取り立てにくるということだ。宿屋がないから、村長の家でもてなすことになっている。
「だいたいの事情は聞いています。しかし‥‥、ギルドには話せない事情もあるでしょうからもし差し支えなかったら話してもらえませんか」
フランシアがレオンスートが口を開く前に話しはじめる。レオンスートも神聖騎士なのだから信用を得るはずだが、彼の口調で村長は悪い反応を示さないとも限らない。
「屋敷の主は昔は冒険者だったらしい。男の周囲にいる生き物、ゴブリンが昼間からまして働くなど聞いたこともないので、本当のことは判らない。但し、双方干渉せずにやってきました。数年前不作の時に屋敷に入り込んだ子供がいて、その子が貰って来た種だけは収穫が上手くいって、なんとか食いつないだことがあります。村の者はその時のことを恩に思っている者と今回のことに憤りを感じているものの二つに別れています。もし、冒険者なら私達が束になっても適わないし、そうでなくても武器をもって争ったとなればどんなお咎めがあるか」
「病気の子のお見舞いに行ってきたいけど」
インヒ・ムン(ea1656)は話が終わりそうなので、口に出した。
「事情はわかりました。早速行動を開始します。村の内外を動き回りますが、決して危害を加えませんから、安心していいと伝えてください」
「もちろんです。このところ皆疲れていれ、失礼しました」
「いいえ。よくあることですから」
徒に不安がらせぬよう、経験を積んだ者として振舞うほうが良いだろう。
とりあえず、インヒが子供の家に入って子供から状況を聞き出した。レオンスートも名乗り出たが、筋肉質の大きな身体では子供が引きつけを起こしかねない。
「ちょっと傷ついたってカンジぃ」
「‥‥だから(そりゃそういう環境で育ったんだろうけどさ。どうも違和感あるんだよな)」
レオンスートの口調にジェイミーは抱脱力したように口を噤んだ。
さて、ジェイミーとテュールが組んで村の中の聞き込みを行う。テュールはサンワードを使うつもりだ。
フランクとナナイアは一足さきに件の屋敷に向かって周辺を偵察する。晴れていればナナイアのテレスコープやサンワードで離れた位置から偵察できるはずだ。
「ゴブリンとの戦闘は出来る限り避けるつもりだ」
尤もゴブリンの謂いは未確認情報であり、さほど知識のない村人の証言である。
「もっと強い奴だったら危険じゃからのう」
そうは言ったものの、相手の態度を硬化させることだけを危惧している。
亮、レオンスート、フランシア、リサーが屋敷へ交渉に向かった。
フレアムは、馬を持っているため連絡役として備える。
「子供の家にはわたくしもいかせてほしいのです」
フランシアは交渉する前に子供の様子を見ておきたかった。そうしなければ屋敷の主との交渉もリアリティが伝わらない。
「いいよ。一緒に行こう」
●偵察
フランクは村を出て屋敷のある場所の周辺に向かう。子供が入り込んたくらいだから抜け道くらいはあるだろう。ゴブリンにしても子供が無事だったことを考えれば無闇に攻撃してこないのだろう。と思うのだが実際には分からない。
「状況はわかったか?」
亮も様子を見にきていた。交渉は明日になるが、スムーズにいかない場合のことも考えておかなければ。
「そうなったらワシラの負けじゃ」
●聞き込み
「ここが子供の家か。覚悟はいいか」
「?」
フランシアはインヒに尋ねる。病気がうつるかも知れない。
「病状はどうなのじゃ?」
リサーも思い当たる症状についての資料を調べてきたので病状を実際に見てみたいとついてきた。
意識はほとんどない状態らしい。熱は下がらない。かなりの体力を消耗しているのであと数日こ状態が続けばあぶないかも知れない。ぐらいのことしか分からない。
ジェイミーとインヒが交代で子供のために演奏したりするが意識がない状態では、あまり効果はなさそうだが、多少は表情が休らいでみえる。
「どうするのじゃ?」
「子供の一人で怪しい屋敷に忍び込んだりしない。一緒に行った子供が2、3人はいるはず。そこの窓から覗いているような」
フランシアが窓から心配そうに覗きこんでいる子供を発見した。
「危害を加えぬから逃げるな」
フレアムは子供の家を覗き込んでいた子供の襟首を捕まえた。
「それじゃあの日、二人で屋敷に忍びこんだんだね」
テュールはフレアムが捕まえた子供から聞き出した。
屋敷の外で見張りが二人で屋敷の中に二人入った。別行動を取ったからあっちの子のことを全てみていないが、どうから何かの液体を被ったらしい。
「濡れていたんだ。ビッショリにとっても気持ち悪い臭いがして。それで川に行って洗ったんだ」
「川は1本。村から屋敷の方に向かって流れている。生活水って感じね。村には井戸もあるけど。たぶん屋敷にもあるでしょうね。森の中はわからない」
サンワードでできるだけ今日のうちに集められるだけの情報を集めておく。ナナイアは周囲の状況を調べていた。
夕方になるとそれぞれが情報をもって村長の家に集合。
「明日は朝から屋敷周辺の進出して、状況を細部に偵察。できるだけ穏便に屋敷に入って交渉を行って協力を得る。子供が何か壊した可能性があるからその点は村の方から謝罪させた方がいいかも」
「液体を川で洗ったってことは、その川の水を屋敷の主が飲んで同じ病気になっていたら大変ね。ゴブリンを使役しているって主自身がモンスターってことはないみたいだけど、ゴブリンなんて強いものに靡くから、病気で弱ったら殺されているかも」
●突入
「正面から行くのじゃ」
リサーと手土産のワインを手にしたレオンスートの二人を先頭にしてフランシアとフレアムが続く、紫微亮が最後尾の5人が交渉に向かう。
フランクとナナイアは、屋敷の周囲から万が一に備えて見張りにつく。
インヒ、テュール、ジェイミーの3人は村で村人が暴走しないように見張る。インヒとジェイミーが琵琶を奏で、テュールが民俗舞踊で村人の敵意を抑えることになっている。
屋敷は静かだ。
「やっぱり病気で動けなくなっているじゃない? こんなに静かだしぃ。やっぱり死んだってカンジぃ」
「そしたらじゃ。もしかしたら村全体がキャリアになっているかもしれんしのう」
「つまりわたしたち全員が感染しているきけんあると」
「‥‥生きていてちょうだい」
祈らずにはいられなかった。
「あれはゴブリンか。ちょっと違うようじゃが」
フランクは屋敷の周囲で雑用をしているゴブリンらしき姿を発見する。通常のゴブリンよりも弱々しい印象だ。ゴブリンの仲間の間で暮らせるほど強くないのかも知れない。とりあえず敵対的な行動に出る様子はない。が、屋敷に向かった仲間に異常がないように見張りを続ける。
「あの、どなたかいませんか」
屋敷の入り口まで来ると呼び鈴を鳴らして声をかける。
「ちょっと待ってくれ。手がふさがっていて。家に入ってもいいが、やたらに触らないでくれ」
ちょっと呑気そうな声がした。
言われたとおり、屋敷に入ると表からは想像できないくらい。イロイロなものがあった。
「元冒険者って本当みたいだ。昔得た戦利品を抱え込んでいるみたいだ」
しばらく待つと主らしい男が現れた。
「何も手を触れなかったようだな。悪いが少し観察させてもらった。手が離せなかったのも事実だけどね」
武器らしきものは持っていない。
「これワインです。手ぶらでも何ですしぃ」
レオンスートが差し出すと素直に受け取った。
「こんなところだから呉れるものは拒まん。屋敷の周囲に変なのがいるが気にしないでくれ。攻撃しなければ危害は加えない。真面目に働いてくれるので重宝している。仕込むまでは大変だったが」
「猿回しの猿の様なものか」
紫微亮はそう思った。
「ところで、近くの村の子供がここに入り込んで何かの液体を浴びたようで、そのあと病気になっています。心当たりはありますか?」
「やはりな。貴重な薬のビンが割れていたので誰か入ったとは思ったが、村の衆には悪いことしとらんのに、何で無断で貴重な財産を壊したり、奪ったりしていくんだろうな」
屋敷の主にとっては、昔の戦利品の鑑定をしたりして、研究をしたりしているのに、村人がそれを邪魔していることになる。子供の教育ぐらいしっかりやれということだろう。探検のつもりで屋敷に入り込んで物を盗んだり壊したりする。
「好奇心ゆえと許してやっていたが、こんなことなら、もっと早く罰を与えて置けばよかったな」
「その貴重な薬というのは?」
「1月前昔の冒険者仲間から貰った品で、研究の途中だった。あと1本あったはずだが見当たらない。多分、中毒だろう」
取り敢えず疫病の心配はなくなった。フレアムが頷く。
「どうしたのじゃ?」
「村に薬があるみたいです」
フレアムはフランクにそれだけ言うと馬に乗って村に向かう。
「症状を見てもらえませんか。多少の医学的知識があるようにお見受けします」
「よし行ってみよう」
「貴重な薬のビン?」
村では3人の活躍で打ち解けた雰囲気になっていた。そこにフレアムが馬で駆け込んできた。
ビンが意外にも病気の子供の持ち物の中から見つかった。それ以外にも何やら分からないものが見つかった。
「けっこう行っているみたいね。で、ご両親は知っていました? これは盗みですよ」
フレアムは子供のことを大目に見ていた親を叱りつける。
「来たぞ!」
大きな叫び声がする。
「屋敷の主が着いたようだ。自分たちのやったことを考えた方がいい」
ビンを持って外に出た。
●取り敢えず解決
「敵対派の連中が村に入れさせないようだ」
屋敷の主に同行していた4人が間に立って争いにならないようにしている。元冒険者だ。彼がその気になれば怪我人が出るくらいではすまない。
「あの」
子供の両親が出てきた。
「うちの子が盗みを働いて、申し訳なく思っています」
非は子供にある。その一言で村人の敵意は失われた。
「やはり薬の効果だな。しかし、ちょっと厄介だな。まずは薬を抜くことから。毒消しは利くとは限らない」
あとは屋敷の主が治療していく。
「取り敢えず依頼は解決かな。治療には時間かかりそうだけど」
●後日談
パリに戻ってきて報酬を受け取った後、数日して子供が意識を回復したという知らせがあった。
「それであの薬なんだったの?」
インヒが興味本位で尋ねる。もしかして変な薬だったらと思ったのだ。
「それがね。惚れ薬だったらしいの。意識が戻って一番最初に見た人を好きになるって言う。だからあの主は大変なことになっているみたい。もしかして、効能を消す方法を探す依頼があるかも」
「ちょうどいいんじゃない。村との交流が出てきて」
唯一の問題は歳の差ではないだろう。いや、確かめたわけではないが‥‥女の子が、普通人様の屋敷に忍び込むなどの冒険はすまい。