おっとびっくりドンキーレース
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月06日〜04月09日
リプレイ公開日:2005年04月14日
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●オープニング
春の日差しは暖かに、ドレスタットの学舎に差し込む。下級貴族や裕福な商人の子弟が通う教室に、綴りを学ぶ石版の音が響く。教師から見て最前列の席は、意外と死角であった。
――なあ、聞いたか? 大人達は冒険者を雇って、馬に乗せてレースさせてるらしいぜ?
――マジで?! いいなぁ。冒険者って、ただでいい馬に乗せてもらえるんだ。
――タダじゃねぇよ。一番早く馬を走らせた奴には賞金も出るんだってさ。
――いいなぁー。俺も馬乗りてぇなあ。気持ちいいだろうなぁ。
――僕も僕も。真っ白な馬でお姫様を乗せて‥‥
――お姫様? お前のお姫様ってメアリだろ? あの赤毛の鼻ぺちゃでチビのメアリ。
「メアリは鼻ぺちゃなんかじゃないぞ!!」
‥‥一瞬の静寂の後。教室は爆笑に包まれた。勢いに任せて席を立ってしまい真っ赤な顔したティムと、同じ位真っ赤な顔したまま俯いてしまったメアリ。二人をはやし立てる声をおさめながら、授業を中断された教師は何が起きたのかと説明を求める。ティムはこれまでの私語の内容を、赤い顔のまま問われるままに答えた。さっきまではやし立ててた級友の恨めしそうな視線に耐えながら。
「‥‥まあ、私語については後でしっかり反省してもらうとしましょう。しかし、馬で競争ですか‥‥生憎この辺りでは『速く走る事を目的として』馬を育てる事はないですからねえ」
教師はほんの少し困った顔をしながら。
「ロバや普通の馬では駄目なのですか? 充分可愛らしいじゃないですか」
その言葉に子供たちの中から不満の声が漏れる。
「確かに可愛いけどさぁ。ロバでレースは出来ないよ先生」
「そんな事はないですよ。ロバだって愛情を注げば一生懸命‥‥」
教師は少し考えた。生徒たちは静かに次の言葉を待つ。
「‥‥冒険者の人達にお願いして、ロバのレースをやってみましょうか。そうだね、私達からも一組代表を出すとして」
わぁ、と声が上がった。冒険者といえば子供達にとっては難民であった自分達助けてくれた、ちょっとしたヒーローである。そんな彼らを呼んでロバのレース。いったいどんなものになるだろう?!
「じゃあ、皆の代表を決めようか。誰か立候補はあるかな?」
「「「ティムとメアリがいいとおもいまーす!!」」」
最初は笑い声も上がったが。
「‥‥僕、頑張ります」
ティムの意気込みにメアリも頷き、二人は皆の拍手で学校代表と決定された。
その日の夕刻の冒険者ギルド。
小さな白い髪の女の子が背伸びをして張り出された依頼を見ている。うーん。と悩みながら、愛らしい茶色の目を動かしていると。ひょいっとかなり上から覗き込む少年が、からかうように呼び掛けた。
「まー、お子チャマには難しい依頼ばかりだからなー?」
「また子供扱いしたな〜〜〜ッ!? ガウガウガウ!」
暴れる女の子の頭を押さえつけ。じたばた叩こうとしている彼女に
「ふ‥‥リーチが足りないな?」
そんないつもの風景を、またやってるよ。と横目で見ながら、ギルドの職員は一枚の依頼書を壁に貼る。
(「確かにいろいろな依頼があるが、まさか自分がレースのルールを決める事になるとは思わなかったな」)
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ロバの荷運びレース参加者募集。
賞金1G。ペアを組み、ロバ二頭立ての荷車でどれだけ荷物を崩さずに運べるかを
競争します。ロバの持参許可、貸し出しも可能。
同時に掛け金と配当を管理する者も募集。報酬5S。
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●リプレイ本文
●パドック?!
さて、その日がやってきた。
冒険者達もなかなか楽しみにしていたらしい。
「うーん、いい天気〜!!」
彼ら‥‥いや、今回のメンバーなら「彼女たち」か、その中でも一番張り切っているのがミヤ・ラスカリア(ea8111)である。依頼主が自分と同じような年代の子たちであった為か、それとも自分の愛(驢)馬とともに活躍するチャンスを待っていたのか。騎士様というには少々微笑ましい光景を見せている。
「私がお子ちゃまでない事をあいつに証明してやるぞぉ〜!! 『トロンベ・キント』、頑張らなかったら市場で売っちゃうからねっ」
‥‥ロバにとっては少々物騒なご主人様のようである。しかし、『トロンベ・キント』とはどこかで聞いたような。‥‥『竜巻』『子供』? まあいいや。
「ミヤさん、すみませんけど甲冑積むの手伝って下さいな」
その元気なミヤのパートナーはフィオナ・グルンバード(ea8850)。ヘアスタイルなどで耳を隠し、冒険者として初めての仕事に彼女も燃えているようだ。口調が穏やかなのでそうとは取れ難いかもしれないが。力を合わせて大きな藁人形に甲冑を着せていく。‥‥なにやら二人の間にひそひそ話が交わされていたのは、どうやら誰も気がついていないようだ。
「わぁ、この子がアルカちゃん? かわいいっ☆ 僕ラフィー、よろしくね♪」
少年‥‥のように見えるシフールがマリーナ・アルミランテ(ea8928)のロバに近づいて挨拶する。めれん、と顔をひと舐めされ、慌てながらもまだ笑っているのはマリーナの相方のラフィー・ミティック(ea4439)だ。
「バックパックも先生に預かって貰ったし、荷車が二十、果物が十五。ラフィーさんはだいたい‥‥で、ウチが‥‥うん、大丈夫ですわね」
さすがに乙女の秘密はシークレットという事で。
「重量もばっちり。こぼれても拾いやすいし、ばっちりですわね。‥‥コースで迷う事さえなければ」
それも微妙に心配ではあるが。
「‥‥果物、食べちゃ駄目なのかな?」
こっちもだいぶ心配だぞ、おい。
「しかし、ロバ達には申し訳ないねえ。何せ一人はかわいらしいお嬢さんだがもう一人はこんな四十男だ、勝てない事は目に見えてる」
借り物のロバの背を撫でながら、今回唯一の男性参加者五十鈴桜(ea9166)が呟く。その呟きを聞いたフランカ・ライプニッツ(eb1633)が彼の斜め上から声をかけた。
「確かに今回は子供達の方が有利ですわね。今回はレースに勝つ事よりも、レースを行ない、楽しむ事、動物と触れ合う事の方に重点を置く事としましょう」
「ああ、そうだな。本来ロバはそれほど急がせるものじゃない。勝敗には拘らずに行こうか」
そんな事を言いながら笑顔を交わす、だんでぃなおぢさんとフランカ先生。
‥‥そんな事言ったところで、その何か企んでる瞳とやる気満々の微笑み見たら誰も信じませんぜお二人さん。
「‥‥ロバさん」
きゅ、と今日の自分のパートナーを抱き締めて、レティア・エストニア(ea7348)が溜め息をついた。ご挨拶をしたロバのその瞳に、何か思うところがあったらしい。バーバラ・ミュー(eb1932)が少し慌てた口調で注意する。
「ああ、ほら、レティア嬢ちゃん。あまり強く抱きしめるんじゃないよ、ロバが嫌がる。もっと優しく‥‥そうそう、そんな具合に」
流石はレンジャー、そして長い間共同とはいえ農耕馬を扱ってきただけの事はある。ほんの少しの力の入れ具合がロバのご機嫌を変えるのだ。そのアドバイスも扱う腕も見事である。亀の甲より‥‥げふんげふん。
「バーバラ様と組めて、学ぶ事が多いですわ。本当にありがとうございます」
広く浅く、実体験を伴わない学問は時に危険である。ロバを撫でる、縄をくくる、一つ一つ丁寧に行うことによって自分の新たな力、知識として蓄えられるのだ。
で、礼を言われたバーバラはというと。
「そっち大丈夫?」
「うん。ティム君、頑張ろうね」
「‥‥初々しいのう、ほほほ」
一生懸命荷車に、大きな樽を積んでいるティムとメアリに目を奪われてたりするのだった。
そんなこんなで、準備は整った。‥‥みたい。
●深呼吸して
レースの話は街の人たちにまで広がっていた。少々予想外のギャラリーの数に、冒険者たちもティムもメアリも少し緊張気味である。
「ははは、これ位観客いないと遣り甲斐ないわな。せっかくのレースだ、自分達も客も楽しまにゃ損だぜ?」
少々伸びてきた無精ひげをさすりながら、桜がティムに向かって笑いかけた。
「そうじゃぞ、この位でビビっておったら領主様の前になんぞ十年は出られんな」
「十年後だとボク四十歳かぁ。大人の女って感じになれてればい〜なぁ〜」
バーバラの言葉にラフィーが竪琴引きながらすっとぼけたような返事を返す。思わず噴出したフランカから、笑いの輪が広まった。どうやらみんな緊張もほぐれたようである。
「さぁ、それでは皆さん、位置について下さい!!」
依頼主である先生が大きな声で宣言した。
生徒の一人であろう少年が、スタートラインの端に立つ。
果物カゴを積んだラフィーとマリーナ。
バーバラの後ろで藁束を支えるレティア。
自分の身体よりも大きな甲冑を運ぶフィオナとミヤ。
フランカは桜に手綱を任せ、羊毛の上に浮かんでいる。
そして、普段はめったに運ぶことのない樽を積んだティムとメアリ。
少年の旗が、大きく振られた。
●いろんな思惑ありまして
飛び出したのはミヤ・フィオナ組。どうやら「逃げ」の戦法を採ったらしい。これまで馬に乗ることはあってもロバの扱いは実は慣れていないミヤ。しかしその体躯に合っているのか、トロンベ・キントとの息はばっちりだ。
「わ、早〜いっ! 皆様、お先に失礼しま〜す☆」
「あはははは、なんぴとたりとも私の前は走らせないぞ〜♪」
それに続くはバーバラ・レティア組。騎乗でのシューティングを得意とするバーバラ、年齢を感じさせない手綱捌きを見せる。安定した走りは流石だ‥‥って、あれ、なんかレティアの乗ってる後ろが不安定?
三番手はラフィー・マリーナ組。こちらはどうやらラフィーが苦労している模様。
「わわわ、右みぎ右みぎっ」
「右〜? ああ、こちらですね」
街中を駆け抜けるレース、方向音痴のマリーナは無事にゴールまで辿り着けるのか。
ティムとメアリの荷車は四番手だ。道を知っている分だけ有利かと思われたが、樽の古ワインに気を取られてなかなかスピードが出せないようだ。それでも走り始めた頃よりはスピードが乗ってきている。
シンガリは桜・フランカ組。どんなに早くても荷物を崩してはそこで終わりだ、と、どうやらスピードよりも確実性を取った模様。無論フランカは荷物にも目を配りながら、桜に的確な体重移動の指示を出す。
だがしかし、フランカは気がついていたのだろうか?
桜の「内」に眠る、とんでもない「爆弾」を。
最初に崩れたのは、なんとバーバラとレティの荷車だ。
「ああ、バーバラ様! 其方には大きな石が‥‥あ、わ、きゃあああああっ!!」
どうやら事前準備の際に見落としがあったらしい。風に飛ばされかけた藁束を支えようとしたレティ。そこへパラの子供であるミヤの独走に焦りを見せたバーバラが、下見してチェックしていたはずの道の荒れに突っ込んだのだ。笑い声を上げながら逃げるギャラリーたち。
大丈夫? とでも言いたげなロバ二頭。その鼻先の藁束から、勢いよく二人の頭が飛び出した。
「ぬぅ‥‥わしとしたことがっ!」
とても悔しげなバーバラの隣で、
「バーバラ様‥‥理解出来たような気がします。動物達と触れ合う心、飼い葉にまみれ、共に生きよ‥‥ということですね‥‥」
呆然とレティが言った。何事もこれ勉強なり、らしい。
バーバラ・レティ組、脱落!!
なんだかんだ言いながら、コツさえ掴めば荒れ道もそれほど恐れるものではない。気がつけばラフィー・マリーナ組、ティム・メアリ組がほぼ並んでミヤ・フィオナ組を追い込んでいた。
「わ、みんな結構早いなぁ。ちょっと体力温存しすぎちゃったか」
適切な手綱捌きでコーナーで引き離そうとしても、引き離せる距離は少しずつ短くなってきているようだ。
「ミヤさん、もうそろそろいいでしょうか?」
「んー‥‥ほんとはもう少し競り合いたいんだけどねー。ま、いっか☆」
では次の曲がり角で、とフィオナが笑顔を見せた。
辻を曲がる。
瞬間、しっかりと結んで甲冑を支えていたはずの紐が、『偶然』解けた。
「「あ〜っ!!」」
少々わざとらしい悲鳴だったかもしれないが、二人の声は甲冑の派手に落ちる音にかき消された。
ミヤ・フィオナ組、失格、である。
「‥‥あーあ、ちょっともったいなかったかな?」
「まあ、いいじゃないですか」
失格しても笑顔、である。
あと少し。数十メートルでゴール。支え役と御者役が息を合わせ、あと一息の距離を詰めていく。と、そこへ。
「‥‥ねえ、マリーナさんラフィさん」
ティムの後ろで樽を支えていたメアリが、隣に並ぶ二人に声をかけた。
「さっきからなんか変な声が聞こえるような気が‥‥するんだけど」
そう言われてみれば。
後ろから男の野太い笑い声が聞こえてくるような‥‥?
ティムも含め、そーっと後ろを覗いてみると。
「わはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
‥‥満面の、というか、あいつどっかおかしくなったんじゃねえか、といった笑いをあげて。
桜・フランカ組が追い込んできたのだ。
‥‥正確には桜の暴走によりフランカがものすごい勢いで引っ張られている、といった形だが。
「あわわわわ、さ、さ、桜さん〜?! は、速さより、あんていせいをぉ〜?!」
確かに手を抜かない、わざと負ける気はないとは言ったが、まさかこんな事になろうとはフランカも思っていなかったようだ。
「わははははははははは、これぞ秘技『暴走馬術・狂繰桜』!! ああ懐かしき青春時代、おぢさんにも若かりし時があったのだああぁぁぁっっっ!!!!!」
そう叫んだまま。
桜とフランカを乗せた驢馬車は。
勢いよくコーナーに突っ込み、荷物をぶちまけた。
‥‥桜・フランカ組、失格。
「なんだったんだろ、今のおじさん‥‥」
「あ、それより、あっち!」
改めてゴールの方を向けば、一足早く動いたのはラフィとマリーナのロバだ!
ティムとメアリが気づいた時にはもう遅い。
ラフィ・マリーナ組、一着でゴール!
マリーナがロバ達の歩みを止めた頃に、ティム達の荷車がゴールに滑り込んだのだった。
さて、ルール再確認。
「ゴールの後で荷物を計測、落としてきていたら失格」
つまり、どんなに早くゴールしても荷物の重さが合わなければ負けである。
すでに脱落している仲間達やギャラリーの見守る中、まずは樽の重さが量られる。
‥‥勿論、壊れている訳でもない樽はきちんと十五キロを示した。
さて、問題は現在一位のマリーナ達の荷物である。
「ラフィさん、大丈夫ですよね、落としてきてはいない筈ですよね‥‥」
「うん、だいじょ〜ぶ〜☆ 林檎おいしいよ、マリーナさんもどうぞ♪」
小さな歯形のついた林檎を差し出すラフィ。その歯形のない所を選んでかじると、確かに歯応えもよく甘酸っぱい林檎である。
「あら、本当‥‥って、ラフィさん、これ、どこから?」
「え?」
計測人の周りから、どよめきが漏れた。
「足りないぞ! 林檎一個分、足りない!!」
‥‥おいしい林檎と引き換えに。
ラフィ・マリーナ組、失格。
「ティムが優勝だ!」
子供達がわぁっと駆け寄る。冒険者様に勝った! これは子供達にとってはものすごい事である。
賞賛の声に混じって、小さく。
「この間は、ごめんな」
そんな声が聞こえた。
冒険者達も一緒になって、お疲れ様でしたの食事会。桜はティムに近寄ると、頭にぽふりと手を乗せた。
「少年。君は愛する女を守れる男になれ。いいか、『だんでぃ』な男になるんだ」
間違ってもおぢさんのような流浪人になってはいけないぞ、と笑った。きょとんとしていたティムも、にっこりと笑っていった。
「後の方はわからないけど、愛する女を守れる男になるよ。うん、頑張ってみる」
レースも終わり、日も暮れる。
今日の勉強はこれでおしまい。
明日もまた、みんな頑張ろう。