WANTED〜リーザ&グロッグ

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月19日〜04月24日

リプレイ公開日:2005年04月26日

●オープニング

 月の明るい夜だった。酒場の扉が開き、一人の男がふらりと月夜の街に出る。男はまだ駆け出しの冒険者だが、このところ依頼は成功続きでお金は貯まる一方。今夜は仲間たちと派手に飲み食いしたが、それでも懐はまだまだ暖かい。さて、今夜はもう少し寄り道していくか。
 春の夜風に誘われるまま、男はふらりふらりと夜の街を歩いていく。
 ふと、男は気付いた。誰かが後をつけている。
 男は振り向いた。そして、尾行者と視線があった。
 女だ。それも初めて見る顔だ。胸元や太股を見せびらかすようなひらひらした衣装は、冒険者にしては露出度が高すぎる。いくら暖かい春でも、これはやりすぎだ。危ないシュミの持ち主か? それとも夜の街で危ない商売を営んでいるのか?
「うふふ‥‥」
 女は鼻で笑ってウインク。その唇で何かを囁きつつ、ダンスでも踊るようなしなやかな動きで体をくねらせる。
「(ん? あの手の動きは‥‥)」
 優雅に動くその手の平が魔法印を形作ったのに男は気づいた。しかし次の瞬間には、女への疑いは消え失せ、別の考えが男の心を支配していた。
「(この女、俺の後をつけて来た。ということは‥‥俺に気があるんだな! そうとも、俺は将来有望な冒険者だし、顔だってハンサムだし‥‥)」
「やあ、どこかで会ったかな?」
 男が女に言葉をかけると、女は笑いながら路地裏に姿を消す。
「おい! 待てよ!」
 男は女を追いかけ、女は追いかけっこを楽しむように路地の奥へ奥へと逃げる。やっとのことで男が女を捕まえた場所は、灯りもなく人気も無い場所。
「せめて名前くらい教えてくれよな」
「うふふ。あたしの名前はリーザ」
 女は笑いながら、誘うように男の首に手を回す。
「俺のこと、好きなんだろ?」
「いいえ。あんたなんか大嫌いよ。だって、あなたは冒険者だもの」
「冒険者が嫌い? そりゃまた、どうしてだい?」
「理由を聞きたい? なら教えてあげる」
 女の顔から笑いが消えた。
「あたしには兄さんがいるの。たった一人の兄さん、大好きな兄さん、世界で一番大切な兄さん。‥‥その兄さんの人生を、冒険者たちが奪ったのよ!」
 殺気をはらむ女の声。月に照らされたその顔が、美しくも青ざめて恐ろしく見える。背筋を悪寒が走り抜けたが、男は無理して平気なふりを装う。
「詳しい話を聞かせろよ」
 返事は男の背後から返ってきた。野太い男の声で。
「その先は俺が教えてやろう」
 ぎょっとして男が振り向くと、そこには重厚なアーマーとヘルムで身を固め、ヘビーアックスを握りしめた大男が立っていた。
「も‥‥もしかして、あなたは‥‥」
「そうとも。俺がリーザの兄のグロッグだ。かつては俺も冒険者の一人で、仲間と一緒に毎日を冒険に明け暮れていた。あの頃は楽しかったぜ」
「あ、そりゃ結構なことで‥‥」
「だがな!」
 憎悪に歪んだグロッグの顔が、男の前にぬうっと突き出す。
「あの日、仲間は俺を裏切りやがった! 奴らは金と持ち物を盗んだ挙げ句、俺をモンスターのうろつく暗い森の中に置き去りにしやがったんだ! 俺は何十日もかかってモンスターの森を抜け出したが、命が助かった代わりに重い心の病気にかかっちまった」
「‥‥心の病気ですかい?」
「そうとも。俺には妹以外の人間がみんな、モンスターに見えちまうのさ」
 その言葉が終わるや否や、
「うがああああっー!!」
 獣のごとき咆哮と共にグロッグはヘビーアックスを振り上げ、冒険者の男に襲いかかった。
「ひぇぇ!」
 冒険者は逃げ回り、グロッグは得物を振り回して怒鳴り散らす。
「モンスターめぇぇ!! モンスターめぇぇ!! よくも俺を騙したなぁぁ!! おまえらみんな、人間の皮をかぶったモンスターだぁぁ!! ぶっ殺すっ!! ぶっ殺すっ!! ぶっ殺すーっっっ!!」
「た、助けてくれぇ!!」
 冒険者はリーザの足下にしがみつく。
「命が惜しければ、金と持ち物を置いていくのね」
「わ、分かったぁ〜!!」
 男は金袋と荷物を放り出すと、命からがら逃げていく。
「やったね兄さん。モンスターはお金とアイテムを置いて逃げていったわ」
 リーザは金袋を拾い上げて懐に収め、グロッグは荷物の中味をあらためる。
「ヒーリングポーションにリカバーポーションにソルフの実か。大した収穫だぜ」
 と、二人の耳に迫ってくる大勢の足音が聞こえてきた。
「自警団がやって来たようだな」
「後は任せて、兄さん」
 リーザは高速詠唱で呪文を唱えると、夜空の月が地面に映し出した建物の影の中にすうっとすべり込んだ。
「あそこだ!」
「あそこにいるぞ!」
 自警団の男たちが口々に叫ぶ。彼らの目には、月光の下に仁王立ちするグロッグの姿が映っていた。グロッグはまるで彫像のように微動だにしない。
「観念してお縄を頂戴しろ!」
 戦闘も辞さぬ覚悟で、得物を抱えた自警団の男たちはグロッグに迫る。ところが突然、若い自警団員が得物のクラブを味方に向かって振り回し始めた。
「うがーっ!! やっつけてやる!! やっつけてやる!!」
 ぼがっ! ぼがっ! ぼがっ!
「うわ、何をする!?」
「味方をぶちのめすヤツがあるか!?」
 自警団は大混乱。それを屋根の上から見下ろすリーザ。
「あはははは! あたし達を捕まえるなんて、できっこないわよ!」
 高笑いに気付いた男たちが屋根を見上げると、リーザは屋根の煙突の影の中にすうっと消える。気がつけば、さっきまで目の前にいたはずのグロッグの姿もどこにもない。

 翌日。事件は冒険者ギルドに持ち込まれた。
「リーザとグロッグは冒険者狙いの夜盗二人組。これで犠牲者は6人目だ。冒険者に怨みあっての犯行らしいが、あんな奴らが野放しになっていては、冒険者ギルドにとっても由々しき問題だろう?」
 自警団の親父の言葉に、ギルドの事務員は素直に頷く。
「確かに、冒険者たちの身辺が物騒になるのは困りものです」
「で、奴らの手口についてだが──二人が冒険者を襲うのは、決まって月の明るい夜だ。場所も下町の酒場の近くと決まっている。冒険者が酒場から出て来ると、妹のリーザが魔法と色仕掛けで冒険者をたらし込む。冒険者が油断して隙を見せると、兄のグロッグが襲いかかって金品を巻き上げる。その後でリーザが月魔法を使い、まんまと逃げおおせるというわけだ」
「厄介な相手ですね」
「加えて、奴らには冒険者から奪ったポーション類がある。身動き取れぬほどの傷を与えても、ポーションで回復されて逃げられるかもしれん。出来れば生かしたまま捕らえたいが、抵抗して暴れるようなら無理は言わん。冒険者から死人を出すよりは、奴らを死人にした方がよっぽどマシだ。では、任せたぞ」
 依頼は受理された。さあ、次は冒険者たちの出番だ。

●今回の参加者

 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2601 ツヴァイン・シュプリメン(54歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●月の夜に
「つまりは、八つ当たりということだな」
 作戦会議の最中、ツヴァイン・シュプリメン(ea2601)が今回の事件をそのように評したが、正にその通りである。
「冒険者を襲う元冒険者‥‥何ともやりきれない話ですね。せめて悲劇の犠牲者をこれ以上増やす前に片を付けましょう」
 シクル・ザーン(ea2350)の意見、いかにも初々しい少年神聖騎士らしいが、これぞ正論というものだろう。
 では、如何にしてリーザとグロッグの夜盗二人組を捕らえるか?
「囮作戦でいきましょう」
 それが一番いいと皆も納得。そして月の明るい夜、冒険者たちは下町の酒場の扉をくぐる。酒場の主人がお客向けの笑顔で迎えた。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「冷たい水を‥‥」
 言いかけたツヴァインに構わず、シクルが注文を頼む。
「上物のワインに蒸し魚にチーズに黒パン、人数分頼みます」
 早々と注文を済ませると、仲間たちに囁く。
「ここは贅沢に散財しておいた方が、リーザの目を引くはずです」
 店は今夜も賑わっている。一見して冒険者と分かる客が多い。大きなデカンタに入ったワインが運ばれて来ると、シクルは隣のテーブルの冒険者たちにもワインを振る舞った。
「お近づきのしるしに。私からの奢りです」
「おっ! ありがとよ!」
 居心地のいい店だ。酒も旨いし料理も旨い。
「それにしても、リーザはいつ現れるんだ?」
 魚料理を口に運びながら呟くツヴァイン。店に入って以来、気になるのはその事ばかりだ。
「まだ頃合いではなさそうじゃな。今しばらく待つが良かろう」
 そう答える七刻双武(ea3866)は窓際の席に陣取り、酒を楽しむふりを装いつつ外の様子に油断なく目を光らせている。
 夜は深まり月はますます天高く昇り、店の客もまばらになり始めた頃。
「出て来おったようじゃな」
 双武が外に目配せする。道を挟んだ酒場の真向かい、路地の暗がりに身を潜めるように女が立っていた。男の欲望を持つ者であれば、思わず視線を吸い寄せられてしまう悩ましい衣装に身を包んで。
「では、行くとするか」
 ツヴァインがおもむろに立ち上がる。酔っ払いを装い、千鳥足で出入り口に向かう。
「‥‥と、その前に」
 店を出る前に、ツヴァインは仲間たちを外から見えぬ一角に誘い、一人一人にフレイムエリベイションの魔法をかける。最後に自分にも。シクルはレジストマジックの魔法を自分にかける。これでリーザの月魔法に対する備えは出来た。ただし効果時間は短く、何度もかけ直しが必要だ。
 そして冒険者たちは酒場の扉をくぐり、月の光が注ぐ外に出た。

●獲物を狙う目
 リーザはいつものように物陰に潜み、酒場から出てくる客を物色していた。
 店の扉が開き、一目でジャパンの志士と分かる老人が出てきた。鍛え上げられた体の筋骨隆々ぶりが、着物の上から見てとれる。
(「あのお爺さん手強そう。やめとくわ」)
 続いて40を過ぎたばかりの身なりのいい男が現れた。
(「いかにも堅物って顔してるわね。チャームをかけても抵抗されそうだわ」)
 さらに、ジャイアントの少年騎士が店から出てきた。道ばたで弾き語りするバードにチップを弾んだり、高価そうな銀の短剣を見せびらかすように拭いたりしている。
(「ずいぶん羽振りが良さそうな坊やね。だけどあのばかでかい図体で抵抗されたら面倒よね」)
 三人の冒険者たちにリーザがハゲタカのような目線を送っていると、またも酒場の扉が開いて客が出てきた。ギルドの依頼で来た冒険者ではない。たまたま店にいた新米の冒険者だ。小柄な体には似合わないジャイアントソードを背中に背負っているが、すっかり酔っぱらって顔は真っ赤っ赤、足は千鳥足で至るところ隙だらけ。リーザはにんまりほくそ笑む。
(「決まりね。今夜の獲物は、あ・な・た・よ!」)
 夜風のごとく軽やかにリーザは姿を現した。その唇がチャームの呪文を紡ぎ、指が魔法印を形作る。

●月下の闘い
「あ、リーザが!」
「これはいかん!」
 囮となった自分たちにリーザが引っかからず、代わりに新米冒険者が魔法でたぶらかされたのを見て、依頼を受けた冒険者たちは慌てた。リーザは誘うような仕草を残して路地の奥へ消え、それを新米冒険者が追っていく。さらにその後を追って駆け出すシクル、ツヴァイン、双武。
「囮作戦は失敗か? ならば勝手にやらせてもらうぞ」
 酒場の近くに潜んでいたジャドウ・ロスト(ea2030)も状況を掴むや、ファイヤーバードのスクロール魔法を発動。魔法炎をまとっと夜空に舞い上がり、リーザの逃げた方角へ先回り。
 追ってきたシクルたちの足音に気付き、リーザが立ち止まる。
「あら? ずいぶん大勢付いてきたわね。あなたのお仲間さんかしら?」
 リーザの言葉に新米冒険者も立ち止まって振り向いた。
「いいや、知らない連中だな。誰なんだ、あんた達は?」
 ゴウッ!! 小さな竜巻が突然現れ、空気の渦がリーザを飲み込んだ。リーザの体はそのまま上方へ3mも飛ばされ、そのまま地面に墜落。あまりの出来事に新米冒険者が呆気にとられていると、暗がりから不気味な男が現れた。たった今、リーザを竜巻で吹き飛ばした張本人、ジャドウである。白き肌に赤い目、禍々しきブラック・ローブに身を包み、その周囲にはアイスミラーの氷の小片をも纏わせる。青白き月光に照らし出されたその姿は、さながら悪魔の化身のごとし。
 墜落して横たわるリーザにジャドウは歩み寄ると、クーリングの魔法を高速詠唱し、冷気を帯びた手でリーザの口を塞いだ。
「これで呪文も使えまい」
 体の血も凍るかのごとき冷気。そのもたらす苦痛にリーザの顔が歪む。やにわにリーザは腰のダガーを引き抜き、口を塞ぐジャドウの手に思いっきり切りつけた。
「うっ‥‥!」
 今度はジャドウが苦痛に顔を歪めた。思わずリーザから離したその手はざっくり切り裂かれ、傷からあふれ出る血に染まる。
「うああああああっ!!」
 背後から叫び声。ジャドウが振り向くや、ジャイアントソードを振り上げた新米冒険者の姿がその瞳に映る。咄嗟に刃をかわすジャドウに口汚い罵りが浴びせられる。
「この悪魔野郎! よくも彼女に酷いことしやがったな!!」
 新米冒険者は完全にチャームの虜だ。リーザはと見れば、傷ついた体を引きずるようにして、月の光が形作った建物の影に向かって逃げていく。それを追いかける暇も与えず、罵りの叫びと共にジャイアントソードの刃が迫る。
「悪魔野郎!! 地獄に落ちやがれ!!」
「誰かこの馬鹿を何とかしろ!!」
 堪りかねてジャドウも罵り返す。
「待って下さい! これには訳が‥‥!」
 シクル、ツヴァイン、双武の3人で新米冒険者をなだめにかかるが、酔っ払いにジャイアントソードという取り合わせは真に始末が悪い。ばかでかい剣をぶんぶん振り回すものだから、迂闊に近づくことも出来ない。
 その攻撃が唐突に止んだ。一瞬の間に、新米冒険者は身の丈以上もある氷りの塊の中に閉じこめられていた。
「しばらく大人しくしていてね」
 エレアノール・プランタジネット(ea2361)のその声は、すぐ近くの屋根の上から聞こえてきた。リトルフライの魔法を使って屋根に上った彼女は、アイスコフィンの魔法を放って迷惑な酔っ払いの動きを封じたのである。
 しかし時既に遅し。リーザはムーンシャドウの魔法を使い、月下の影の中へと姿を消していた。
「‥‥逃げられましたね」
 落胆のため息と共に呟くシクル。
「ふん。これで逃げたつもりか」
 シクルの呟きには耳を貸さず、ジャドウはムーンアローの呪文を唱える。威力は小さいが100m先の敵にまで届く光の矢。その標的はリーザだ。
 呪文が成就するや、放たれた光の矢は1直線に飛び去り、そして戻って来なかった。
「リーザの居場所は、あの方角だな」
 ジャドウは冷酷に唇を歪め、矢の消えた方向を指さした。さらにリカバーポーションを飲み干し、塞がった手の傷の血をぬぐい去る。
 エレアノールがリトルフライの魔法を唱えて夜空に舞い、仲間たちに叫んだ。
「ここは路地が入り組んでいる場所よ! 近道なら空から見た方が分かりやすいわ!」

●戦いに犠牲は付き物
 冒険者たちは逃げるリーザを追いつめる。そしてついにリーザの姿をその目に捉えた。ジャドウがムーンアローを何度も放ったため、リーザの体は傷だらけ。見ていて痛々しい程だ。
 冒険者たちに憎しみの視線を向けるや、リーザは建物の陰に逃げ込む。冒険者たちが後を追おうとするや、空からエレアノールの警告の叫びが。
「気をつけて! グロッグよ!」
 巨体が行く手を塞いだ。グロッグだ。
「よくも妹を傷つけたなぁ!! 許さんっっ!!」
 全身をプレートアーマーで固めたグロッグが、ヘビーアックスを振りかざして突進。前衛のシクルはすんでのところで身をかわす。続く双武が間合いに踏み、喉元を狙って日本刀を繰り出す。だがグロッグもその動きを読んでいた。アックスを前面に構えて攻撃を封じ、双武との間合いをさらに縮め、スタック状態に持ち込んだ。双武はグロッグの巨体に盾を押しつけ、渾身の力を込めてじりじりと間合いを開けようとする。しかしグロッグの圧しは強く、次の攻撃が繰り出せない。それでも双武は、目の前の怒りに満ちたグロッグの顔に言葉を投げつける。
「人は、魔物とな。心弱き者は、魔に魅入られる。お主もその類じゃな」
「ぬかすなぁ、爺ぃ!! 貴様に説教される筋合いはないわ!!」
 突然、グロッグが大きく後退。同時に繰り出されたヘビーアックスの一撃が、双武の盾を弾いた。とっさに手に力を込め、盾を取り落とすことは免れたが、双武は大きく態勢を崩す。その隙を逃さずグロッグが高々とヘビーアックスを振りかぶった。
 次の瞬間、火の鳥と見まごう影が空からグロッグに体当たり。ファイヤーバードの魔法炎をまとったエレアノールだ。
「うがっ! おのれ‥‥!」
 グロッグは転倒し、起きあがろうとしたところへさらなる体当たり。
「おのれぇ! 小癪な真似を!」
 罵るグロッグに、キラ・ジェネシコフ(ea4100)の情け容赦ない言葉が飛んできた。
「女一人も相手に出来ないんですの? それに、妹以外が敵に見える? 貴方、馬鹿そのものですわね。それにそのセンスのない言葉使いに顔。見るに耐えませんわ」
「うがあああああーっ!!」
 挑発に引っかかったグロッグがキラに突進するや、その後方からまたも火の鳥が。今度はジャドウのファイヤーバード攻撃だ。体当たりされ、グロッグはまたも無様に転倒。
「さあ、今のうちに‥‥」
 アイスコフィンでグロッグを氷の中に閉じこめようと、エレアノールが呪文を唱える。だがその呪文を唱え終わらぬうちに、恐ろしい姿がエレアノールの視界を塞いだ。
 目の前にドラゴンの首。エレアノールを飲み込まんばかりにカッと口を開き、牙を剥く。
「あっ‥‥!」
 思わずエレアノールは呪文を中断して後ずさる。ドラゴンの首は彫像のように身動きもせず、空中に浮かんでいる。それがイリュージョンによる幻覚だと気付いた時には、手に手に武器を構えた男たちを引き連れたリーザが迫っていた。
「お願い! お兄ちゃんを襲ってる悪い奴らを、こてんぱんにやっつけて!」
 いたいけな少女のように、男たちに懇願するリーザ。
「おう! 任せときな!」
「可愛い子ちゃんのために一肌脱ぐぜ!」
 リーザに言われるまま、男たちが冒険者たちをぐるりと囲む。
「さては、チャームの魔法で男たちをたぶらかしおったな!」
「考え直してくれませんか? できれば戦いたくありません」
 苦い顔で男たちに刀を向け、牽制をかける双武とシクル。
「片っ端からトルネードで吹き飛ばしてやるか? それともファイヤーバードで薙ぎ倒すか?」
 そう言うジャドウをツヴァインが牽制する。
「やめるんだ。一般人を巻き込みたくない」
 リーザがグロッグの手を引き、立ち上がらせる。そして冒険者たちの目の前から一歩一歩、遠ざかっていく。と、屋根の上で魔法を唱えるエレアノールの姿が、ツヴァインの目に映る。
「伏せろっ!!」
 仲間たちに一声叫んで身を伏せた次の瞬間──。
 ゴオオオオオオッ!! 突然の猛吹雪が辺りの全てを氷の刃で切り刻んだ。リーザの手勢の男たちも、そしてリーザとグロッグも猛吹雪の中にくずおれる。それを見てほくそ笑むエレアノール。
「運よくアイスブリザードの魔法が効いたわね。目一杯の力で使ったから、失敗しないか不安だったけど‥‥」
 リーザがよろよろと立ち上がる。
「酷い‥‥! 町の男たちまで巻き添えにしたわね!」
「いやほらうちら血も涙もないモンスターだから」
 その言葉にリーザが気を取られている隙に、ツヴァインが背後から突撃。
「乾坤一擲、肉弾攻!」
 リーザに組み付き取り押さえ、暴れるリーザにシクルが日本刀の峰打ちを喰らわせる。リーザは気絶した。
「‥‥おのれ! ‥‥よくも妹を!」
 立ち上がったグロッグが、ふらつきながらヘビーアックスを振り上げたが、一瞬早くエレアノールがアイスコフィンの魔法を放っていた。攻撃する暇もなく、グロッグは氷の中に閉じこめられた。アイスブリザードをくらって倒れた男たちを足下に見下ろし、エレアノールは勝利に微笑む。
「尊い犠牲だったけど、楽勝させて頂いたわ」

 所変わって自警団詰め所。
「これでも楽勝だってぇ!?」
 負傷して運び込まれてきた男たちの姿に、自警団の親父は渋い顔。
「まあいい。グロッグのアーマーを売っ払えば、治療費くらいは捻出できるだろう」
 程なくリーザとグロッグの裁きが下され、二人は公開鞭打ちの後に石切場での苦役に就かされた。