我がマイルストーン
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■ショートシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:9人
冒険期間:04月26日〜05月11日
リプレイ公開日:2005年05月03日
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●オープニング
深い森の迫った地にバルディエ辺境伯の所領はある。その未来の中心都市と成るべき4つの丘陵の狭間にある湾曲した河に囲まれた地。近くの森から木材が伐採され、柵や作業小屋が建てられる。橋や堤が築かれる。今日も斧打つ響きが木霊し、薮が切り払われる。
少しづつながら街の地割りが進んで行くそんなある日、森の中で一つの石碑のような物が発見された。
「これは、古代に存在した街道の道標のようです。文字が消えて読めませんが、おおよそドレスタットの方を示しています」
付近を掘ってみると石を敷き詰めた層が帯のように石碑が示す先へと続いている。幅は馬車二台がすれ違うほどの広さであった。もしも、新しい森を抜ける交易路が発見されたら、現在の大森林を大きく迂回する道よりも、ドレスタットが近くなるだろう。時間を掛けて整備すれば、それは街の発展に大きく寄与することは間違いない。
4月20日。奇しくもイースターの礼拝に赴く時に報告を受けたバルディエは、しばし黙し、司祭を公証人として一葉の布告書を書き上げた。
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告
森を抜ける古代の道を踏破して、新しき交易路を発見せよ。
格別の褒賞を与えるほか、街道の名に永くその名を記して功に報いん。
福音を宣べ伝える聖なる書物に手を置き、我厳かにこれを誓う。
アレクス・バルディエ
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しかし深い森を畏れる者は多く、なかなか志願者は見つからない。使者が冒険者ギルドに依頼を持ち込んだのは尤もだと言えよう。
●リプレイ本文
●探索
深い森の中を、驢馬を連れた一行は平地を行くが如く速やかに進む。彼らは驚く程に軽装で、荷物も最低限度のものを驢馬に積んだだけだった。
「よし、この辺りで一度確認しておこうか」
最後尾から用心深く辺りを見回し、ツルギ・アウローラ(ea8342)が声をかけた。
「多分‥‥この辺りが道だと思います」
両腕をいっぱいに伸ばして表現するユキ・ヤツシロ(ea9342)。彼女に、レオン・クライブ(ea9513)も頷いて見せた。スコップで地面を掘り返してみればその通り、石畳の道が顔を出す。しっかりと作られた、立派な道だ。一見、すっかり埋もれてしまった様に見えるこの道だが、ある程度森を知る者ならば、地形や木々の分布から辛うじてその痕跡を読み取る事が可能だった。
「道というものは、思っている以上に大きな意味を持つものです。それによって付近の生活が一変しますし、場合によっては国に影響を与える事さえあります。特に今回のように、噂に名高いバルディエ辺境伯の地を結ぶものとなれば‥‥」
是非とも再生したいものですね、とアーク・ランサーンス(ea3630)。
「何故これほどの街道が使われなくなり、忘れ去られたのか気になる所ではあるが‥‥。まあいい、どんなルートでも踏破してみせるさ」
そう嘯くレオンに、ツルギがにやりと笑い、
「そういう事だな」
と相槌を打った。フードですっかり顔を隠し目だけを鋭く光らせたレオンと、乱暴な物言いで不敵な笑みを浮かべるツルギ。この2人が話をしていると、探索の相談というよりは強盗の打ち合わせを思わせた。
「今のところ、道は真っ直ぐにドレスタットを目指していますね」
円周(eb0132)は目測と測量の結果を羊皮紙に書き込んで、地図の製作に取り組んでいる。サポート組が収拾してくれた情報、現在の街道の様子など組み合わせてみると、今までの道が広大な森を大きく迂回していた事が良く分かる。彼の作業が一段落すると、再び前進だ。緊張に表情を硬くするユキの肩を、長里雲水(ea9968)がぽんと叩いた。
「意気込むのもいいが、あんまり気張り過ぎてても途中で倒れちまう。冒険を楽しむぐらいの心持ちで十分だよ」
雲水は、あくまでのんびり。
「それにしても、ここを道として使えるようにするには、それなりの手間がかかりそうよね」
好き放題に伸びる植物を切り払い、道を作る劉星慧(eb2005)。と、何かに気付いたマリーナ・アルミランテ(ea8928)が、待ってください! と慌てて星慧を止めた。
「その植物、毒シダの一種です! 葉っぱの裏についた胞子に猛毒があるんです!」
気が付けば、その恐ろしげな毒シダが辺り一帯にびっしりと生えている。切り払われた衝撃で、胞子が黄色く靄の様に舞っていた。逃げたいのは山々だが、周り中に生えているので皆、動き様が無い。
「少し、吸い込んだかも‥‥」
「植物毒用の解毒剤があります、使って下さい」
げほげほと咳き込む星慧に、ビズ・ドノフ(eb0666)が解毒剤を手渡した。持つべきものは、用意の良い仲間である。ふと一瞬、ビズは森のほうに目を遣ったが、すぐに視線を戻し、星慧の介抱に掛かりきりとなった。
毒シダの群生地は間もなく途切れ、皆をほっと安心させた。ただし、代わりに現れたのはスクリーマーの群生地。まるで植えたかの如く大量に生えたスクリーマーの菌糸を踏みつけてしまったらしく、凄まじい悲鳴に閉口する事になる。
●野営
彼らは行程を急ぐ一方で、必ず暗くなる前に野営を整え、十分に休息を取った。この日も、いつもの様にファオリア・ヴェルガンシィ(eb1013)が野営地の周囲にファイヤートラップを仕掛け、マリーナが行程の植生など書き止めつつ、ヒソヒソ声で薬草談義に花を咲かせる。周が地図を整理する中、ユキは毛布に包まって横になり、星の名前を呟いているが、疲労の波にさらわれて、すぐに寝息を立て始める。
夜が更け、見張り役が3班に移った頃。
「俺ぁ、ちょっと外国の文化ってもんが実際に見たくて、ふらっと旅立った訳だが‥‥ お前さんはどうだい?」
「私は、商いを‥‥」
雲水と他愛も無い話に興じていたビズは、森の中に動く気配を感じ、口を噤んだ。雲水も視線を動かす。時折、現れては一行を追い、いつの間にか消えている妙な気配。敵意は感じないので放置していた彼らだが、あまり気持ちの良いものではない。と。
「かえれ〜」
「か〜え〜れ〜」
闇に包まれた森の中に、不気味な声が響き渡る。そっと体を起こしたマリーナが、デティクトライフフォースを唱えた。
「小さな反応が‥‥。あ、別の反応が動いて‥‥」
言い終わらない内に、ファオリアのトラップが火を噴いた。皆、飛び起きて武器に手をかけ、暗闇に向かって目を凝らす。燃え上がる炎に照らされて、確かに何かが近付いていた。マリーナが感じ取ったのは、小さな反応が10ほど、俊敏な獣の反応が20超。野犬か狼か、闇の中にぎらぎらと光る無数の目。だが、ファオリアの背筋に冷たいものが走るのは、数に対する恐怖からばかりでは無い。犬達はその嗅覚の成せる業か、彼女のトラップを最低限の損害で突破している。その行動には、獣らしからぬ冷徹な計算と知性が感じられたのだ。
「撃退するのは難しいと思います」
獣達を目で追いながら、ファオリアは思う通りを口にした。ツルギはそうだな、と頷き、皆に野営地を引き払う様、合図を送る。スクロールを手に取り、クエイクの呪文を発動させる彼。暗闇の中に、獣達の悲鳴と咆哮が轟く。その間に、ユキ、レオン、周は驢馬を導いて逃走に移っていた。夜の移動は危険だが止むを得ない。ユキとレオンの土地勘が頼りだった。星慧が犬達を牽制し、逃走経路を確保する。
一団の頭目らしき野犬は、狼の血でも混ざっているのか、やたらに体が大きく、また恐ろしげな目をしていた。ツルギの腕に、血が滴っている。不意の襲撃に、思わずスクロールを取り落としてしまったのは不覚だった。敵が立ち直りかけているのが、気配で分かる。彼は巻物ひとつと自分の命を天秤にかける様な真似はしなかった。アークと雲水がフォローに入りつつ、撤退に移る彼ら。遥か後方から打ち込まれたレオンのライトニングサンダーボルトが、彼を追おうとした犬達を蹴散らした。祝詞を捧げ、天の神に雨を請う周。元々ぐずり気味だった天気は間もなく雨へと変わり、執拗な追跡者から一行を守ったのだった。
「まるで森そのものを敵に回してるみたいだな」
そう言って肩を竦めるレオン。表現が的確過ぎて、一層気が滅入る。
「このくらいの血なら、大丈夫ですから」
アークとユキがツルギの治療を終えると、日の出まで身を隠し、雨の中、彼らは出発した。
●道程
時々地面を掘り返し地下の石畳を確認し、マイルストーンを探し当て、その回りを切り払って印を付ける。そこを野営地に利用すると共に周りを調査し、水の便を調べ防護の逆茂木を並べる。
無理はすまい。遭難しては事だし、この作業その物が彼らの蹟(あと)を辿る者を弼(たす)ける。道と拠点を造りながらの遠征であった。途中、蛇や毒蜘蛛の巣、巨大な蜂の巣に遭い、慌てて迂回する事もあった。
大まかな日程から位置を記し先へ進む。定かではないが、巨大な獣の影を見て、息を凝らして隠れたこともある。野獣と言うものは、食らう時か自分(含む自分の子供)の命を守るときしか闘わぬもの。そう書物で読んでいたレオンの知識が役に立った。不意に出くわした大猪から逃れるため、転んで足をくじいたユキが雲水に背負われる一幕もあったが、敵は深追いはしない。猪はあくまでも自分の命を守ろうとしただけで有ったようだ。
「わたくし、お役に立っているでしょうか」
夜。不安げに尋ねるユキにツルギは、
「早く寝ろ。不寝番は俺達の役目だ」
ぶっきらぼうに声を掛け寝袋を押しつけた。
●遮る沼
道に従い真っ直ぐに進んでいた一行は、しかしこの日、沼に突き当たって立ち往生してしまう。道は、ここで途切れていた。
「地下の水脈が変化して、水が出てしまったんですね」
周は水の流れを確かめながら、辺りを見回してみる。沼自体はさしたる大きさではないが、周辺は湿地化している。冒険者が利用するだけの抜け道ならばともかく、本格的な道をつけようと考えるなら、それなりに手の込んだ工事が必要そうだった。
「これで潰れたのかな、この道は」
レオンが呟く。水を抜いてみましょうか? と周が仲間と話している間に、水を飲み始めた驢馬。と、その前足がずるりと沼の中に減り込んだ。慌てたユキが手綱を引っ張るが、どうにもならない。
「く、底なし沼!?」
全員が驢馬に取り付き、引き上げようと奮闘するが、うっかりすると自分が填まり込んでしまう。ビズの脳裏に一瞬、仲間を危険に晒すくらいならば諦めるべき、との考えが過ぎったが‥‥ 幸いにも、荷を幾分下ろして軽くなっていた驢馬は、皆の力技でなんとか引き上げられたのだった。
「驢馬にしておいて、正解でしたね」
座り込んで、アークが呟く。確かに、馬だったらこう簡単には引き上げられなかったかも知れない。ビズが驢馬の足を何度も確かめ、大丈夫な様です、と微笑んだ。皆、ほっと安堵する。
一行は、湿地を大きく迂回して道の続きを探した。だが、当然ある筈の場所に道の続きが無い。まさか、作りかけで潰された道だったのか、との疑念が湧いて来る。
「まさか、ここまでという事は‥‥」
ファオリアは何か道の痕跡を示すものは無いかと探し始めた。他の皆もそれに倣う。
「そういえば、マリーナはどうした?」
はたと気付いた雲水。首を振る皆。
そのマリーナはと言うと。
「‥‥迷った」
がっくりと膝をつき落ち込む彼女。あれほど気をつけていたのに、ここまで来てボロが出た。方向オンチ、恐るべし。デティクトライフフォースを使い仲間の反応を探ってみる。が、得たのはあの、小さな反応。散々悩んだ末に、これも試練ですわ、と意を決してその反応を追って行った。
(「フェアリー? それともシフールかな」)
声もかけてみたが、相手は逃げるばかり。とうとう見失ってしまった。が。彼女の目の前で無造作に転がる、朽ちかけた石。そこには微かに、「マイル」の文字が読み取れた。マイル‥‥10マイル。この道の終着点まで、10マイル。それは計算上ほぼ、ドレスタットまでの距離と符合した。どうやらこの道は、湿地化した辺りの場所で幾分曲がっていたらしい。
「大変、みんなに知らせないとっ」
かくして彼らは無事に古代の道を踏破し、森を抜けてドレスタットに至る道を発見するに至ったのだった。この道を利用できる様にするには、道中の危険を排除し、道を整備しなければならないが、それに関しては後日、バルディエ卿より何らかのふれがあるだろう。
「いずれは自分が仕立てた隊商に、この道を走らせたいですね。それが、私の夢です」
ビズが嬉しそうに笑った。
「整備された後にこの街道が、兵士の道とならない事を祈りますわ」
バルディエの元に赴いたマリーナは、報告をそう締め括った。この道には、新たなマイルストーンを発見したマリ−ナ・アルミランテの名が冠される事となった。実際には、道を整備する中で重要な役割を果たした者の名も加えられるだろうから、名前は暫定という事になる。村人達は、アークがこの道を「駆け出し冒険者の道」と表現した事から、未だ開通出来るのかどうか疑わしい、石になるのか玉になるのか判然としないという含みも込めて、俗にそう呼び慣わしている様だ。
それでも、この冒険の結果、ドレスタット・バルディエ領間の道は冒険者にとって短縮されたことは間違いない。バルディエは絵師を呼び、一行一人一人の姿を写し取った。後日、主要なマイルストーンに彼らの胸像を使うためである。