青年よ、大志を抱け!

■ショートシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月16日〜07月21日

リプレイ公開日:2005年07月21日

●オープニング

「単刀直入に申し上げます。ウチの馬鹿亭主の頭、冷やしていただけません?」
「はあ。時と場合と事情によりますわね。まあまずは、お話を聞かせてもらえます?」
 冒険者ギルド受付にて。
 受付のカウンターに陣取るや、即そう言った依頼人の女性に対し、受付嬢は努めて冷静にそう返した。この程度で慌てていては、ギルドの受付など務まらない。小娘というほど幼くもないが中年というには若い年齢のその女性は、頷くと軽く咳払いをし、語り始める。
「わたし、ミアと申します。見ておわかりの通り、一介の農夫の妻です。お願いしたいのは先ほども言いましたとおり、馬鹿亭主の矯正です」
「どういった事情で?」
「ええ。グレン‥‥ウチの亭主の名前ですけど、彼は生まれてこの方農業一筋でやってきた生粋の農夫なんです。作物と土のことにかけてはピカイチですけど、それ以外については子供並というか、まあ、いわゆる専門バカってやつですね。その亭主が、1年ほど前に知人の薬師と一緒に森に入ったおり、いくつかの珍しい薬草を見つけてきたんです」
 その時見つけた薬草の中には、“稀少もの”として高値で取引されているものもあった。ミアの亭主グレンは、これを売り払うことであっさりと、これまで見たこともない大金を手に入れることになったのである。これまでの人生をこつこつと働き、地道に収入を得ていた男にとってはまさしく青天の霹靂、驚天動地、悪魔の誘惑、である。
 そしてその誘惑に、グレンはあっさりと篭絡された。以来彼は、農夫としての自分の仕事を放棄。一攫千金を夢見、今度は珍品中の珍品であるマンドラゴラを、あるいはそれ以上の価値あるものを再び手にすべく、野望に燃えて森に入り浸るようになってしまったのである。しかし‥‥。
「今日に到るまで成果は0。当然です。だいたい、トーシロのウチの亭主にそんなに簡単に見つけられるようなら、希少価値なんかつくもんですか」
 呆れたようにミアが言う。まあ、もっともである。
「これ以上、こんな当て所ないことに現を抜かさせるわけにはいきません。よしんば“マンドラゴラ”を見つけたとしても、無事で済むとは限りませんし。取り返しのつかない事態になる前に、目を覚まさせてやらないと。さすがに、自分ひとりでは手に余ると思いだしたんでしょうね。今度は『その道のプロ』と一緒に森へ入ると言い出しました。そこで、こちらにお願いにあがったわけです」
「はあ」
「『その道のプロ』といったって、生粋の農夫にそんなコネがあるわけでなし。絶対、こちらに仲間集めを依頼するに決まっています」
 ミアの言葉に、受付嬢の視線がちらり、と、傍らの依頼を貼り出した掲示板へと向けられる。果たして。そこには確かに、彼女が言ったとおりの依頼が貼り出されていた。

――森への希少植物探索へ同行する仲間を求む。
  その方面の知識に長けた者、またモンスターとの戦闘に慣れた者が望ましい。
  もし当方の希望に適うものを上手く発見できた場合、
  それにより得られた利益の一割を特別報酬として別途支給する。
                                依頼人:グレン・オリヴァ ――

「わたしからの依頼は、亭主の出すその依頼を受けていただいた方へのお願いなんです。亭主に同行して、一攫千金に目が眩んでるあのバカの頭を冷やしてやってください。森がどんなに怖いところで、自分がやっていることがいかに危ないことなのか。『その道のプロ』である冒険者の皆さんから、みっちりと教えてやってくださいな。再起不能にならない限り手段は問いませんから、確実に目を覚まさせてやってください。勿論依頼料は、亭主からの依頼料とは別にお支払いします。よろしくお願いします」

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1583 エルド・ヴァンシュタイン(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●さあ出発だ!
「君達が今回、僕の依頼を受けてくれた冒険者さんかい? よろしく、グレン・オリヴァだ」
「ああ、俺は巴渓だ。よろしくな」
「よろしく、エルド・ヴァンシュタインだ」
 巴渓(ea0167)とエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)の2人が、冒険者を代表する形でそれぞれ挨拶の言葉を述べる。
 現れた『問題亭主』グレン・オリヴァ。ことの経緯を聞いた渓の言葉を借りるなら、『たまたま当たった博打に舞い上がっちまった農家の旦那』ということになるが。現れた青年はどう見ても純朴で気のいい好青年である。ぱっと見、伸るか反るかの博打人生になど到底縁のなさそうな雰囲気だ。
――まあ、だからこそ舞い上がってしまったんでしょうけどね。
 内心で呟くのはスニア・ロランド(ea5929)。今回の自分達の依頼は、森での彼の護衛。かつ彼に森の怖さを理解させ、とっくりとお灸を据えること、である。
 今回赴く森は、カイ・ミスト(ea1911)の意見を組み入れ、パリから徒歩で1日ほどの距離にある。それでどうかと確認すると、グレン自身は一度その森に赴いたことがあるようだった。しかし。
「でもその時は一人だったし。今回は君達『プロ』が一緒だからね。僕には見つけられなかったものが見つけられるかもしれない。さあ行こう!」
 と、一も二もなく意見を受け入れる。今回は『その道のプロ』――即ち冒険者達が一緒、ということで。ルートや探索地域に関しては全面的に任せるつもりでいるらしい。かつ『プロ』が一緒なのだから、今回こそは絶対に、何らかの成果が得られるだろうと期待一杯・御満悦だ。それはそれで結構なことだ、と、胸の内で思うエルド。これならば、行く先々について何やかやと反論されたりなど面倒な事は起こりにくいだろう。
「はあ‥‥何か悪い人ではないみたいなんですけどねえ‥‥」
 大張り切りの依頼人を見やり、ぽつりと淋麗(ea7509)が呟く。依頼されてのこととはいえ、自分達が今回やるのはある意味『騙し討ち』。しかし、こうも純粋に喜ばれてしまうと‥‥少々心苦しいものがある。
 そんな麗の一言を耳聡く聞きつけたアミィ・エル(ea6592)が、ちろり、とそんな彼女をねめつける。
「相変わらずのあまちゃんですわねぇ。言っておきますけど、わたくし達の役目はあくまで“依頼を果たすこと”ですからね。それを忘れないように」
「わかってます。一緒に頑張りましょう、アミィさん」
 皮肉がわかっているのかいないのか。明るく答えた麗に、呆れたように肩を竦めるアミィ。
「‥‥と。あれ? ギルドからの話では、確か後もう2人ぐらい、依頼を受けてくださった方がいるんじゃ」
「あ、ああ! えぇと彼らですけど! 急に別の依頼で是非に、という指名を受けてしまったんですよ‥‥」
「そうなんです。申し訳ないんですけど」
 グレンの指摘に、アルル・ベルティーノ(ea4470)とセシリア・カータ(ea1643)が慌ててフォローを入れる。クリシュナ・パラハ(ea1850)と、今回この森を探索の場にと提案したカイ・ミスト。ギルドから通達のあったこの2人は現在、この場に現れていない。勿論依頼放棄をしたわけではないのだが、その理由をグレンに知られるわけにはいかない。
「ふぅん。まあ‥‥皆さん実力者ですもんね。そういうことなら仕方がない。それにしても、是非にと指名されるほどの人たちが協力してくれるなんて嬉しいな。よし! 今度こそ絶対に、でかい成果をあげて見せるぞぉ!!」
「それはもう、楽しみにしてらして!」
 拳を握り締めて期待に瞳を輝かせるグレンと、高らかに笑いながらそれに答えるアミィ。その状況に一部は呆れたように嘆息し、あるいはコッソリと苦笑を漏らしたが。当の依頼人グレンが、それに気付いた様子はない。
 ともあれ、出発である。

●準備はいいかい?
 さてその頃。指名を受けて別の依頼に引き抜かれたことにされたクリシュナとカイ、そして、彼の妻の依頼のみを受けたルイス・マリスカル(ea3063)の3人はというと。一足先に問題の森を訪れていた。
「えぇと、工作はこんなものでいいでしょうか‥‥」
 クリシュナの目の前に広がる森の一部。そこは一見すると何やら大きな動物が暴れまわったような様相を呈していた。勿論、実際にそんな危険動物が現れてそんな被害をもたらしたわけではない。『森がどんなに危険な場所か』をグレンに知らしめるための、舞台設定のひとつである。
「ああ、問題ないと思う。‥‥そろそろ、護衛班の連中が森に入る頃だな」
「道行きには、目印になるよう、枝を折る他にもいくつか本物の薬草も植えつけておきました」
 打ち合わせに従い、こういった「獣の暴れた跡」などの他、ルートとなる「偽の獣道」等も用立てるのが彼らの第一の仕事だ。このルートを使い‥‥あとは、仕上げをごろうじろ、というところか。
「なら、そう迷うこともないでしょう。後は打ち合わせどおりに。では私はこれで」
「お気をつけて、ルイスさん」
 クリシュナの言葉にルイスが頷き、その場を離れる。その姿はあっという間に木々に紛れて見えなくなった。
「さて、我々も行動開始だ」
「はい」
 カイとクリシュナの二人も動き出す。
 そして数刻後。森の中に甲高い絶叫が響き渡った。

●森の中には危険がいっぱい!
 一行が森に入るや否や、奥から響き渡った絶叫に。すわ伝説の『マンドラゴラ』の悲鳴かと飛び出しかけたグレンを、麗とセシリアが必死になって押さえ込んでいた。その傍らで、慌てる彼らを呆れたように見据えつつ、アミィがぽつり。
「『マンドラゴラ』の絶叫は、心の弱いものが聞けば瞬時に気が狂うだけの力があるものですわ。わたくしはともかく、そこにいる麗がなんともないのですもの。アレはその類のものでは有り得ませんわね!」
「ともかく、アルルが戻るのを待ちましょう‥‥」
 パイプ片手にのんびり、とエルド。その後しばしの時間が流れ――しかし、その“様子を見に行った”アルルが戻ってこない。「ちょっと確かめてくるわ」と、その絶叫の方向に進んだ渓が、間もなく顔をしかめて戻ってくる。
「何かあったんですか?」
「ちょいとな‥‥。この先でこんなのを見つけた。アルルはどこへ行ったのかわからねえ」
 言って渓が差し出したのは、明らかにアルルが身につけていた衣装の切れ端。まさか、とグレンが息を呑んだ気配がした。
「‥‥まあ、彼女も『プロの』冒険者です。命のやり取りには慣れているはず」
「そうですね。遺体がなかったのなら、どこかに逃げ遂せた可能性もあります。あるいは、『危険な猛獣を』私達から引き離してくれたか‥‥」
 言いながら、ちらり、とグレンの方を盗み見るスニア。グレンは多少顔色を青ざめさせていたが、しかし、ごく、と唾を飲み込むと姿勢を正す。
「どうします? 先へ進みます?」
「え‥‥え。ともかく、この先に何かあるのは間違いないと思います‥‥ので。それにもし万一のことがあっても。今回は皆さんが一緒、です、から‥‥」
「おぉよ、任しときな。俺様の『熊殺し』の称号はダテじゃねぇぜ」
 頼るように見つめてくるグレンに、力強く答える渓。
 かくして、一行は歩みを進める――。

「‥‥それなりに効いてはいるみたいですが、まだ詰めには至ってませんね」
「そうですね」
 先へ進み始めた一行の後をコッソリと追尾しながら、クリシュナ。それに頷くのは、先刻姿を消したアルルである。
「まあ、コレはまだ第一弾だからな‥‥次はルイスの仕掛けで、あとはアルル、貴殿の出番だ。頼んだぞ」
「はい」
 カイの言葉に、アルルが頷く。ちなみに先ほどの絶叫は、『スクリーマー』と呼ばれる茸によるものだ。極彩色の毒々しい茸で、張り巡らされた菌糸に接触すると絶叫にも似た音を出すが、それ以外は何の害もないものである。今回のこれは、この茸の菌糸を先行班がそうとは知らず踏みつけてしまったために起こったのだが‥‥なかなかいい効果だったと思う。

 『森』の知識に詳しいエルドが、“祖国の話”と称して森の恐怖を訥々と語る一方で、渓やアミィが「腕自慢」を行ないつつ森の中を進み続ける依頼人グレンと護衛メンバー。そんな彼らの目の前に、ズタボロになった旅人風の男が現れた。先行し、別行動を取っていたルイスである。
「‥‥いやあ、参った。この森に伝説の金角の白鹿がいるとの噂を聞き、一攫千金を夢見て来たんだが‥‥。獣に襲われた上、大樹の化け物に出くわし散々だ。この先に進むなら気を付けたほうがいいぞ」
「大樹の‥‥」
 ルイスの忠告に、思わず息を呑むグレン。しかし、彼が去ってもまだ諦めようとはしない。結構しぶといというか、なかなかの意志の強さであった。――が。
「ひ、ひぃぃ、熊! 熊だぁぁ!!」
「任せな!」
「グレンさんは逃げてください!」
 大熊の襲撃を受け、それを迎え討った渓とセシリアが戻らず(しかも戦ったと思しき場所には、大量の血痕と思しきものが残されていた)。
「ぎゃあああ、へ、へ、蛇! 蛇がッッ!!」
「ここは私に任せて! 皆さんは逃げてくださいッッ!!」
 大蛇の襲撃を受け、スニアが身を挺して一行を庇い(‥‥と、グレンが言っていた)。
 一人、また一人と『腕利き』と紹介された冒険者が減っていくこの現実に。さしものグレンの顔色も青を通り越して土気色になっていく。
「‥‥森とは、こんなに恐ろしいものなんでしょうか。確かに、こんなに奥まで入ったのは初めてですけど‥‥まさかこれほどとは」
「そうでしょ……っ?!」
「大丈夫! グレンさんはわたくしどもがお守りしますわ。ですから大船に乗ったつもりで安心してらして!」
 グレンの様子に申し訳なさげに答えた麗をさりげなくつねり上げて黙らせ、アミィが笑う。
 さてそろそろ、最後の仕掛けかな‥‥?
 エルドがぼんやりそう思った頃。先頭を歩いていたグレンがまたしても悲鳴を上げ、腰が抜けたようにすとん、と地べたに座り込む。
「ば‥‥化け物‥‥大樹の化け物がああぁぁ!!!!」
 ひいぃ、と半ば泣き声をあげ、エルドにしがみ付いてくる。正直、イイ歳の男に抱きつかれても嬉しくはないのだが、これもまた仕事、である。
「‥‥樹人、か」
 顔をしかめて目を細める。残念ながら初級スクロールによる幻影なので、問題の『トレント』が見えているのはグレンだけなのだ。だが、それを悟られてしまっては意味がない。彼の反応に合わせて、適当に相槌を打っておく。
 そしてふと気がつけば。当のグレンはエルドに抱きついたまま、白目を剥いて意識を飛ばしていた。
「‥‥やり過ぎました?」
 その様子を見て、木陰から現れた仕掛け人であるアルルが恐る恐る尋ねた。それに、離脱後は先行班と共に陰から事態を見守っていた渓があっさり、と肩を竦める。
「いやあ。やり過ぎ、くらいやってやらねェと理解できねえだろ」
「じゃ、戻るか。ルイスが御自宅で奥さんと一緒に待っててくれてるはずだから」
「‥‥ごめんなさいね」
 エルドの号令に、合流した全員が立ち上がる。気絶したグレンに、思わずそっと謝罪しまう麗だった。

●さあ、懲りたかな?
 その後、気絶したグレンをその妻・ミアの待つ自宅へと運び、意識が戻るのを待って。集まった一行は今回の件についての経緯を語り、グレンに反省を促した。
 最初は、ほとんど『騙されていた』も同然の事態に怒りの色を見せた彼だったが、しかし、何故妻であるミアが、冒険者達に頼み込んでまでこんなことをしたのか――それらをエルドやルイス、カイ、アルルらに諭され、結局押し黙らざるをえなくなる。
「まあアレだ。農夫が無理すんな、ってことだよ。生兵法は怪我の元だぜ!」
「人には向き不向きがあるものですわ。あなたはその後者、不向きの部類に入りますわね。下手に失敗する前に諦めるのが得策ですわ。家族を養うあなたにもしものことがあったらいけませんでしょう」
 渓とアミィからの厳しい一言。事実なだけに反論できないようだ。絶句するグレンを慰めるように、麗が続ける。
「でも、夢を諦める必要はないと思います。例えば私達冒険者も、それぞれの器に合った依頼があるように。グレンさんの仕事にだってそれはあるはずです。家族を蔑ろにすることは避けなければいけませんので、今の農業を続けながら、日々の研究を行い、自分にあったレベルからはじめるのはどうでしょうか?」
「夢に向けて努力するのは良いことです。私達が『冒険』のプロであるように、グレンさんは農業にプロなのですから。“薬草”に夢と野望をお持ちなら、それを活かして達成を目指してみては? 例えば農業の知識や経験と、薬草の知識をあわせて『薬草園』を作ってみるとか。それだったら、グレンさんの十八番じゃないですか。そのために知識が必要なら、私達も喜んで協力しますよ」
 アルルの言葉に、エルドが控えめに頷く。
 結局その日のうちに、グレンが答えを出すことはなかった。が、依頼を受けた自分達に出来るのはここまでだ。あとは彼が選び、そして決めるだけ。
「‥‥薬草園、か」
 ミアの心づくしのもてなしに礼を言い、暇を告げたとき。それを見送りながらグレンがポツリ、と呟く。そんな彼にスニアがそっと近づき、束ねた羊皮紙を手渡した。
「これを差し上げます。余計なお世話かもしれませんけど、あなたが森で活動していた時と、農作業に腕を振るっていた時の“結果”を簡単にまとめてみたものです。‥‥そしてこれからどうするか、は、あなたの自由です」

 数日後。
 彼の妻であるミアが、改めて冒険者ギルドに謝礼に訪れた時に語ったことには。あれ以来、グレンは『自分の器』をそれなりに理解し、以前のように真面目に農作業に従事するようになったという。
 が‥‥その一方で。今度は将来“稀少な薬草”を中心に栽培する薬草園を作るんだ! という新たな野望に燃えており、いずれ準備が整ったら、薬草園の苗を探しにまた森へ行く! と張り切っているんだそうな。その際にはやはり是非、冒険者ギルドに協力願いたい、と。ちなみに最終的には、伝説の『マンドラゴラ』を栽培する薬草園にするつもりだとか。
「――そんなわけですから。申し訳ありませんが、そのときはまたよろしくお願いしますね‥‥今度は本当に、護衛の方で」
 報告に呆然、となる受付嬢を前に、呆れ顔でミアが言った。

 夢はでっかく、野望は果てなく。
 青年よ、大志を抱け!