●リプレイ本文
●模擬戦
冒険者達は指定場所についた。先ずは、与えられた武器を確認せねば。
熟練した冒険ならば、使い込んだ武器を用いるからこんな依頼は受けたがらない。さりとて騎士団に頼める筋の話でもない。新しい武器と言うものはそれが強力であればあるほど、卑怯なものとして映るからである。
「登録を済ませてくれ」
「武道家の鳳 飛牙(ea1544)だ」
「武器は何を使う?」
「このナックル」
「困ったなナックルは今回の対象外だ。まあ試験相手なら敵に武道家がいるかもしれないしな」
「シン・ウィンドフェザー(ea1819)、ロングソードを使う」
「期待しています」
結局ロングソードの試験台として、アマツ・オオトリ(ea1842)、ヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)、ベイン・ヴァル(ea1987)、カルロス・ポルザンパルク(ea2049)、キアラ・アレクサンデル(ea2083)、アリアス・サーレク(ea2699)がいた。神聖騎士のディアルト・ヘレス(ea2181)もロングソードを受け取る。日本刀を使う円 巴(ea3738)、七刻 双武(ea3866)、薊 鬼十郎(ea4004)もロングソードを受け取る。忍者の相馬 景滋(ea3350)も同様だった。さっそく出来について調べはじめる。
「お坊様が何しに見えたのですか?」
「なにも前衛で戦うばかりがこの依頼の本質ではないのでしょう? あなたの開発した武器が優秀と言えど、武器の性能を見る前に使用者や見届け役が倒れてしまっては意味が無いですからね。クックックッ」
サーガイン・サウンドブレード(ea3811)は話術で丸め込もうとしたが、これはいかにも無理というもの。
「‥‥もしかして、前衛で戦う積もりはないと?」
「いやいやそんなことは。それから模擬戦には出ません」
「それでは報酬をお支払い出来ませんよ。良いですね。ではこのメイスで存分に戦ってください」
冒険者が揃ったところで依頼主の代理人から説明がある。
「これから模擬戦を行います。あくまても技量を見るのが目的です。同時に得物の扱いに慣れてもらいます。最初にお断りしますが、技量次第では参加をお断りすることもあります。無駄な犠牲を出せませんから」
視線がサーガインに向けられる。彼にはかなりのハードルになりそうだ。
「では第1戦、飛牙とキアラ」
「怪我しても恨みっこなしだ。行くぞ鳳」
「そうそう怪我はしないでくださいね」
突っ込もうとしたキアラがたたらを踏む。
「寸止めができるくらいの技量が必要なんですよ」
模擬戦が順調に進み。あとは問題のサーガインだった。
「軽く相手をすればいい」
アマツはサーガインを見つめる。年下か。
「ちょっと待った」
「待たない!」
アマツがロングソードを構えて、メイスを振り回しながら逃げるサーガインを追いかけるようになった。
「はい、それまで。サーガイン、あなたの技量はよ〜くわかりました」
「代理人殿、提案があるのじゃが」
双武とアマツが模擬戦の後、代理人の所を訪れる。
「何でしょう? 試験の足しになることであれば採用します」
「まずは、これから向かうダンジョンの情報を事前に集めるために、忍者に探らせたいのですが」
「構いません。こちらとしても、どんな相手との戦闘になるか想定しておきたいことです」
「では次に、班を組んでローテーションで」
「いいでしょう。ただし、簡単に交代されては困ります。耐久力や継続時間のテストでもあるのですから。ある程度疲労するまで戦って貰わなければ困ります。班の組み合わせは決めてください。いずれにしてもダンジョンの中は、全員が展開して戦えるほどの広さはありませんよ」
「撤退する時期ですが、過半数の武器が全損した時、あるいは過半数のものが負傷した時、もちろん、かすり傷程度は含みません」
「無理と思えば、こちらで撤退指示を出します。こちらも死人を出したくありませんからね。でもあまり無様な醜態は見せないで下さいね。もちろん、必要なだけのデータが確認されれば、その段階で撤収します。そのため、私は常に最前で戦闘を見せてもらいますよ」
代理人が見届け人も兼ねるようだ。模擬戦で技量を見て取るあたり、それなりに腕が立つはずである。
「それから、サーガインも連れていきます。あの人が一番危ないですから気をつけてあげてください」
「エチゴヤ関係者、もしくはギルドからの第三者による中立な見届け人の要請します」
「却下です」
「何故ですか?」
「企業秘密を他の人には見られたくありません。それから結果については他言無用です。これは絶対に守って貰います」
「はい」
「ダンジョン内で使う照明用の油についてはこちらで用意します。残りが半分になったら撤退します。それとCOの使用は構いませんが、回復以外の魔法は撤退確定までは禁じます。武器の試験ではなくなりますからね。誰かが使った時点でこの依頼は放棄とみなします」
本人たちの希望を入れて班編成すると‥‥。
1班 シン・ウィンドフェザー、アリアス・サーレク、薊 鬼十郎。
2班 ベイン・ヴァル、円 巴、相馬 景滋、カルロス・ポルザンパルク。
3班 七刻 双武、アマツ・オオトリ、ディアルト・ヘレス、サーガイン・サウンドブレード。
4班 鳳 飛牙、ヴォルディ・ダークハウンド、キアラ・アレクサンデル。
「突入は明後日になります。それまでに準備を整えておいてください」
●偵察
「さて現場の様子に探り入れとくか。深入りする気はさらさらないが」
景滋が呟くと、ちょうど良いとばかりにアマツが洞窟周辺の偵察を頼みに来た。
「いいさ。危なくなったら直ぐに撤退するからそのくらいだと思ってくれ」
サーガインは、まずは依頼人にわかる限りのモンスターの事を聞いてみた。
「あなたに聞くのが一番早いですよねぇ」
「詳しいことは分かっていない。奥に行くほど強い奴がいるらしい。今回の参加者は強い奴と戦いたいのが多いようだから、期待している」
「今回の参加者と? ということは前回もあったと」
「時々。そういえば前回は奥に行き過ぎて、見届け人すら戻らなかったらしい。今回は全員無事に帰ってきてほしいところですが‥‥」
事も無く言う。
「そういえば、見届け人の周辺警護をしたいようなことを言っていたから、一緒に最前線に行ってもらいましょうか? その特別製のメイスでしっかり守ってもらいますよ」
と、半ば強引に前に出されてしまった。
(「模擬戦に出ないと言ったこと相当根に持っているな」)
「俺が護衛するからいいよ」
飛牙が横から口を出した。無理無茶無策無謀の四無主義者で完全にサーガインと対蹠的な性格をしている。
見届け人はこっちのタイプの方が好みのようだ。サーガインを放り出して飛牙とモンスターの話を始める。
「どうしたのじゃ? 顔が赤いのう」
第3班は戦力外のサーガイン抜きで洞窟内の戦闘を話し込む。
「病気なら大変だ。大丈夫か?」
双武はアマツの顔が赤いことに気づいた。
「なんでもないんだ」
「ならいいんじゃが」
まだアマツが年上のおじ様好みだとは知られていない。リカバーが使えるのでディアルトが配置されたが、ちょっとお邪魔虫っぽい。
「?」
ディアルトはアマツのことを心配したが、帰ってきたのは邪魔しないでよ光線だった。この時点でアマツの七刻ラブを見抜いたのはキアラだけである。
シンと鬼十郎は、アリアスの提案でダンジョン内のマッピングをする予定になっている。筆記用具は鬼十郎のをアリアスが使う。明かりは鬼十郎が持つ。モンスターの知識のあるシンはやや後方。急襲を受けにくい位置に着く。
第2班。ベインとカルロスが主に重量級の戦闘を行い、巴が即攻、景滋が後方支援という役割だ。班の中では一番いいデーターが取れそうなメンバーである。リカバリーポーションの消耗だけが問題だが。
「よっし、ヤるからには、ガンバローじゃないか♪」
第4班。キアラはアマツの七刻ラブを耳元で囁いて、追いかけられて、いい運動をした後に見届け人から情報を仕入れてきた飛牙とヴォルディを交えて打ち合わせに入った。飛牙の手によるロングソードは、味方にとって脅威なので、最初の予定どおりナックルを使うことにした。役目は見届け人の護衛。と言っても、彼が間近で戦闘を良く見たがっているから、けっこう大変かも知れない。
「ダンジョンに入らずに外におびき寄せれることができれば一番いいんだけど」
「で偵察の結果は?」
景滋が偵察から帰ってきた。
「周囲にはモンスターは出てこないみたいだ」
周辺で聞き込みを行った鬼十郎もモンスターの被害はあまりないということを聞き込んでいる。
「あんまりいないってこと?」
アマツの問いに、景滋は首を振る。
「ダンジョンの中も少し入ってみた」
ダンジョンの中は予想どおりジメジメしていて、いるだけで不快指数が高くなりそうだった。
「4無主義者の暴走を抑える必要があるだろうな。それに」
不意打ちを受けやすい地形だという。
●突入
「では、皆さん頑張っていきましょう」
見届け人の掛け声とともに、ダンジョンに向かう。
「第2班のベイン、巴、景滋、カルロスの4名、先頭に入ってください。続いて、第1班シン、アリアス、鬼十郎。第3班双武、アマツ、ディアルト、サーガイン。第4班飛牙、ヴォルディ、キアラの順で入ります。もちろん、戦闘状態によっては班単位で交代します。ダンジョン内は狭いので入れ替わりも容易ではないため、十分に注意してください」
ダンジョンに入るなり、こちらの音を聞きつけたモンスターが姿を現す。
「手ぐすね引いて待っているってか?」
ベインはロングソードを構えて突進する。カルロスもそれに続く。こちらは盾を使って防御を固めている。
暗闇から姿を現したのはゴブリン5匹。もっとも一度に戦えるのは2匹か3匹だ。
ベインの攻撃は1匹にかなりのダメージを与えたようだが、一撃で倒すまでではない。カルロスはカウンターアタックをしかける。
「堅実ですね。ファイターはこうでなくては」
戦いの様子が克明に記録されて行く。ベインとカルロスの攻撃の間に、巴の一撃が手負いのゴブリンを仕留めた。2匹が倒されたところで、残り3匹は逃亡。
「待て!」
ベインが追いかけて走り出す。
「無茶するな」
カルロスは引き止めようするが、彼には届かない。
後方を警戒しながら、前に進む。第4班は入り口までの退路の確保を優先する。
「どうした急に止まるな!」
ベインが立ち止まって、追いつこうとしていたカルロスは背中にぶちあたり、縺れながら前に倒れ込んだ。
「ギギギギギ」
「ググググググ」
行く手は、かなり大きな広間になっていた。
ベインに引っ張られる形で突入した一行は、その周囲から聞こえてくる声を全身で感じた。
「たぶん。『馬鹿な人間どもが罠にかかった』か『あの女の肉は柔らかそうだ』とか言っているんじゃないですか?」
鬼十郎がこの場にあったセリフを口にする。
「ちょうどいい。思い切ってやってください」
見届け人が指示を出す。
「あっちのはホブらしい。十分に気をつけろ」
シンが、正体を告げていく。
「後方にも注意を払って。途中枝道があったかも知れないから」
アマツも声を出す。
期せずして、次々に声が出る。冒険者としての資質が言わせているのだろう。その背後からも剣戟の音が響き渡る。ヴォルディらの方でも退路を確保するための戦闘が起こったようだ。
「さあ、サーガイン、その特別製のメイスでゴブリンどもをタコ殴りしてきてください」
見届け人に背中を押されてサーガインも目の前に迫ったゴブリンとぶつからんばかりに近づく。ゴブリンの臭い息に思わず呼吸を忘れた。サーガインがゴブリンの斧で神に召される寸前に双武のロングソードがゴブリンを押し返す。しかし無理な方向から力が加わったせいか、代わりにロングソードはへし折れた。ゴブリンも戦闘不能状態に近い。双武のピンチにアマツが駆け寄ってその身で庇う。
「アマツ殿?」
「ぽ(ってそんな場合じゃなのに!)」
カルロスは倒れた時に攻撃されて怪我を負ったが、すかさず鬼十郎がリカバーポーションを使い事なきを得た。
「お互いさま」
「こっちも壊れた」
ベインはゴブリンの返り血を浴びて酷い状態になっている。多分、自身も出血しているだろう。
「そろそろ限界でしょう。シン、アリアス、ディアルト3人で殿をしてください。巴、景滋二人で退路を確保してください。第4班の飛牙らのところまでいければ脱出できるでしょう」
見届け人が大声で指示を出す。
巴と景滋が並んで進んでいく。その後を激戦を戦って疲労したベイン、カルロスが続く、そして顔を真っ赤にしたアマツが双武と寄り添うように?
「逃げないんですか?」
サーガインは取り敢えずいつでも逃げられるようにしていた。メイスはまだ汚れていない。
「そろそろいいでしょう。下がってください」
●退路の確保
「燃えろ!」
キアラは横道から出てきたゴブリンを押し返すと、照明用に預かっていた油に火をつけて、投げた。もっとも、照明用の油は魔法のように爆発的に燃焼するわけではないが、一応横道からの侵攻はくい止めた。
ヴォルディは最初に飛び出してきたゴブリン相手の戦闘でCO出しまくりの戦闘を繰り返して、みごとにロングソードをたたき折ってしまった。
「やっと戻ってきた」
飛牙とキアラが、思わず抱き合って景滋と巴の帰還を喜ぶ。もちろん、気づいて直ぐに離れた。心なしか顔が赤かったりして。
「ダンジョンを出る」
「結局、あの見届け人なんだかんだ言っていい指示出していたな」
「武器の開発って裏あるのかも‥‥。やばいことにならなきゃいいけど」
「口封じとか? まぁあたしらだってプロの冒険者だから依頼人の秘密は守るよ」
シン、双武、キアラが野営地まで戻ってきて一息ついていた。モンスターもダンジョンの外まで追ってこない。テリトリーに侵入したから必死で攻撃してきた。考えてみれば、住んでいるモンスターには迷惑なことだろう。
「武器を使ったレポート。けっこういい出来だ」
「依頼人に伝えておきましょう。では報酬を受け取ってください」
内密に、と念は押さなかった。プロ相手に念を押す必要はないと判断したのだろう。
「さぁて、無事終了を祝って一杯やろうぜ」
シンの掛け声に、同意の声があがった。