好奇心はシフールを殺すか?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月10日

リプレイ公開日:2005年09月11日

●オープニング

 学園都市とも言えるケンブリッジでは、各学校の授業が終わり学生達が帰途につく放課後といった時間帯がもっとも賑やかになる。そして、街中に溢れかえる学生達の中でも、特に賑やかな、むしろ騒々しいといってもいいグループがあった。
「アハハハ! 今日の授業も面白かったぁ〜、ハゲがねピカピカーって‥‥」
「知ってる? 知ってる? 隣のクラスの‥‥」
「今日、学生食堂でこんな話を‥‥」
 各々好き勝手な話題で盛り上がり、楽しそうな笑い声を上げながら、学生達の溢れかえる街中の道を飛んでいる。そう、彼らはシフールのグループなのだ。
「それで、今日はどこへ探索に行こう?」
「う〜ん、そうだな。共同部活棟とか!」
「閉架書庫!」
「迷宮庭園!」
「コロッセオ!」
 一人の問いかけに、次々と候補が挙がる。10歳前後の歳若いシフールで構成されたグループはまさに好奇心の固まり、放課後になるといつも様々なところへと探検に出かけていた。彼らは自分達を『シフール探検隊』と呼んでいるのだった。
「開かずの旧校舎なんてどうかな?」
「それだ!」
「うんうん、そこ行こう!」
「行こう! 行こう!」
 また一人のシフールが提案した場所が、満場一致で可決される。ケンブリッジには、すでに古くなり打ち捨てられたような旧校舎が、取り壊されずにいくつか残っている。今回彼らは、その旧校舎の一つへと向かおうというのだ。
「よし! じゃあ、しゅっぱ〜つ!」
「お〜〜!!」
 残された旧校舎は、一般生徒立ち入りとなっているのだが、彼らにとってそれは好奇心を刺激するものでしかなかった。シフール探検隊は掛け声を合わせ、旧校舎へと向かって飛び立った。

「う〜、やっぱり開いてないね」
「あ! あそこから入れそうだよ」
「ほんとだ! 僕らなら入れるね!」
「入れる入れる、シフールって素晴らしい!」
 二階建ての旧校舎は案の定、生徒が入れないように入り口を閉められていた。しかし、目ざとい一人が二階に壊れてできたような小さな隙間があることに気づいた。ちょうど、シフール程度なら入れそうな隙間を見つけ、一行は歓声をあげて校舎内へと潜り込んだ。
「うわぁ、なんか薄暗いね」
「わわ! 蜘蛛の巣があるよ、気をつけないと!」
 中は日中とはいえ薄暗く、長らく放置されてボロボロに荒れ果てている。蜘蛛の巣もあたりにたくさん架かっており、シフール達は羽に絡まらないよう注意した。
「あ! いま、何か光ったよ!」
「どこどこ?」
「あそこだ!」
 しばらく校舎内を探検していると、キラリと光る丸い何かを発見した。暗い中では何かよくわからなかったそれを確かめるため、近づいていくシフール達であったが‥‥。
「あれ? キラキラが‥‥」
「ふ、増えてるよ。二つ、四つ、六つ‥‥いっぱい!」
「わわ! 動いた!!」
 光る何かは、シフール達が近づいていくと数を増し、暗闇の中で動き出した。やがて、黒いシルエットが見えるとそれが生き物の目であることに気づいた。そして、シフール達にとって大きなシルエットの一つが奇声を発して向かってくる。
「お化けだ〜!」
「モンスターだ〜!」
「きゃ〜! 逃げろ〜〜〜!」
「きゃ〜〜! きゃ〜〜〜!」
「あ〜、羽に蜘蛛の巣が!」
「助けて〜〜!」
 突然向かってくるシルエットに驚いたシフール探検隊の一行は、パニックになると悲鳴をあげながら慌てて逃げ出した。薄暗い中、あちらこちらの壁にぶつかりながらようやく校舎の外へと出られた一行だったが。
「お、驚いたぁ」
「あれはきっとお化けだよ!」
「違うよ、モンスターだよ!」
「‥‥あれ? 誰かいないよ?」
「え? ひぃ、ふぅ、みぃ‥‥ほんとだ! 一人いない!」
「そんな! お化けに捕まっちゃったの!?」
「お化けじゃないよ、モンスターだよ! 食べられちゃうよ!」
「どっちにしても、大変だ!」
 明るいところに出て、ようやく混乱も収まるかと思いきや、メンバーが一人足りないことに気づき、またまた騒ぎ出す一行。
「ど、どうしよう? また戻るの!?」
「ええ〜! またお化けに遭いたくないよ!」
「違うって、モンスターだよ!」
「そうだ! クエストリガーにお願いしよう!」
「そうだそうだ! クエストリガーなら何とかしてくれる!」
 なんとか話がまとまった一行は、飛ぶように(飛んでるのだけど)クエストリガーへと向かった。

 こうして、旧校舎で行方不明になったシフールを探す依頼がクエストリガーに張り出されることになった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1263 比良坂 初音(28歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3489 テリー・ジャックマン(25歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ここが旧校舎ですね。さすがに作りが古いなぁ」
「旧校舎の不思議は、九項目あります‥‥」
「あはは、七不思議じゃないんだ」
 シフール捜索の依頼を受けて旧校舎へと向かった一行。酒井貴次(eb3367)が興味深げに旧校舎を眺めていると、大宗院透(ea0050)がぽつりと駄洒落を漏らし、それを聞いた蔵王美影(ea1000)が面白そうに笑う。
「立ち入り禁止に勝手に入って行方不明‥‥まったく自業自得だわ」
「まぁまぁ、冒険者たるもの好奇心旺盛でなくてはね。とにかくお宝‥‥もといシフールを探さないと」
 比良坂初音(eb1263)が呆れたようにため息をつくと、テリー・ジャックマン(eb3489)が気楽な調子で声をかけてニコリと笑った。ちなみに、比良坂が依頼人のシフール達を連れてこようとしたところ、イヤと駄々をこねられ、しまいには泣き出す子供もいて手に負えられなかった。
「あ、あそこからシフール達は入り込んだみたいね。ちょっと見てくるよ」
 マリス・メア・シュタイン(eb0888)が二階の小さな隙間を見つけると、スクロールを広げてレビテーションの魔法を使った。
「うわぁ、すごいなぁ」
「こら、ちんちくりん。覗いちゃダメよ」
「はは、僕がそんなことするわけないだろリズ」
 ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が空中に浮くマリスを見上げて、感心するように声を上げると、エリザベート・ロッズ(eb3350)が少し顔をしかめてジェシュを注意する。ジェシュは軽く首を振って、エリザベートに笑いかけた。傍から見れば仲の良い二人は兄妹であった。
「暗くてよくわからなかったわ。まぁ、どのみち私達じゃあそこから入れないし、だいたいの場所だけ覚えておくね」
 隙間を覗き込んでいたマリスは、地上に降りると肩をすくめて苦笑する。やはり、一行は一階の入り口から探索を開始するしかないようであった。

 一行は、預かっていた鍵で旧校舎の戸を開けて中へと入る。事前に、校舎の間取りを聞いておいた一行であるが、薄暗く足元もおぼつかない校舎内のために、用心をしてランタンに明かりをつけて捜索することとなった。
「とりあえず、二階かな?」
「そうですね、一階に誰かが入り込んだ様子はありません‥‥」
 蔵王の意見に、床の埃の様子を調べていた大宗院が頷く。事前に聞いておいたシフール達の話では、直接二階から入って、一階には降りていないとのことであった。
「じゃあ、こっちの階段から行こうか」
「一応、彼の名前を呼びながらいきましょう。ルーシェく〜ん」
『迷子の迷子のルーシェく〜ん』
 比良坂の指示で階段へと向かう一行。酒井は行方不明のシフールの名前を呼びながらその姿を探し、テリーもシフール語で呼びかけてみるが反応はないようであった。
「あ、リズ‥‥」
「なによ、ちんちくりっ‥‥!?」
「そこ、穴が開いてるって言おうと思ったんだけど」
「言うのが遅い!」
 途中、腐って小さな穴が開いていた所にエリザベートが躓いて転んだ以外は、特になにもなく階段へとついた一行。上へと向かう階段はやはり薄暗く、足を取られて転ばないように注意しなくてはならなかった。
「旧校舎の階段は急勾配、なんてね」
「パチパチパチ、素晴らしいです‥‥」
 階段を見て蔵王が呟いた駄洒落に、大宗院が無表情ながら小さく手を叩き感嘆の言葉を漏らす。実際は言うほど急ではないのだが‥‥。
「底‥‥抜けないわよね」
「ちょ、ちょっと心配ですよね」
 ミシミシと音を立てる階段を一歩一歩慎重に上る比良坂が心配そうに呟くのを、酒井も引きつった笑みを浮かべながら頷いた。
「さて、二階についたね。ちょっとみんな静かにしててね」
 二階に着くと、マリスが先ほどとは違うスクロールを取り出して、バイブレーションセンサーの魔法を使った。壁や床の振動で動くものを感知する魔法である。
「う〜ん、この付近には動くものはいないみたい」
 自分達以外の動くものを感知できなかったマリスは少し残念そうに首をかしげる。とりあえず一行は、部屋を探索しながらシフール達が入り込んだ隙間まで行くことにした。
「あんまり固まりすぎると床が抜けるかもしれないから気をつけてね」
「リズも気をつけてよ、さすがに二階から落ちたら痛いからね」
「さ、さっきのはたまたまよ、たまたま!」
 蔵王の注意に、ジェシュが心配そうにエリザベートを見る。エリザベートは顔を赤くして、照れ隠しに怒った。
「そこ、光が漏れてますね」
「隙間から光射漏れる旧校舎ね‥‥」
「素敵です‥‥」
 少し先へと進むと、テリーがいち早く隙間を見つける。比良坂がポツリと呟くのを聞いて、大宗院がまた感嘆したように手を叩いた。何故か大宗院の駄洒落癖がうつってるようである。
「僕も何か考えた方がいいのかなぁ」
「考えなくていいわよ!」
 そんな様子にジェシュが考え込むと、エリザベートがついついツッコミを入れてしまった。
「あ! いま、なにか光ったよ!」
 そんなことをしていると、蔵王が廊下の先に光るものを見つけた。それは暗闇で光る二つの小さな球のようなもので、まるで中空に浮いている宝石のようであった。
「宝石みたいに見えますよ」
「え? 宝石!?」
 テリーの言葉に、宝石好きのエリザベートが興味津々な様子で光る球に近づく。すると、光の球はフッと暗闇に消えてしまう。
「追いかけます‥‥」
「おいらも!」
 光る球、もしかするとシフール達の言っていたモンスターかもしれなかった。身軽な大宗院と蔵王が、消えた光の球を追いかけて廊下を疾走する。所々床が脆くなっている部分もあったが、忍者として訓練された彼らにはたいした障害にはならなかった。
「はぁ、素早いね〜」
「本当ですね〜」
 ジェシュと酒井がのん気にそんなことを呟いているうちに、二人が戻ってきた。
「捕まえました‥‥」
「わ、ちょっと‥‥暴れちゃダメだよ」
 戻ってきた二人、蔵王が腕の中に抱えていたそれは‥‥。
「ね、猫ぉ!?」
「猫ね‥‥、まさかあの子達が見たモンスターの正体って」
 エリザベートのモンスター知識を持ってしても、それはどう見てもただの猫であった。比良坂が依頼人達の様子を思い出しながら顔をしかめる。シフール達は、旧校舎で襲ってきたシルエットをよく確認しないで逃げ出していたようであった。たしかに、シフールの子供の目線で見れば大きい、シルエットしか見ていないならなおさら大きく感じるだろう。そして奇声、猫が威嚇してくる声は奇声と取れないこともなかった‥‥。
「でも、いくつも目があったって‥‥痛っ!」
 蔵王がシフール達の言葉を思い出していると、腕の中の猫が爪で引っ掻いて逃げ出した。そして、あっというまにどこかの部屋へと逃げ込んでしまったようだ。
「ちょっと待ってね‥‥ん、今度は反応があるわ」
 猫を追いかけようとする一同を留めて、マリスが再びスクロールを開いて魔法を使った。床の反応を確かめると、一箇所にいくつもの小さな物体が動いていることがわかる。一行は、その反応があった部屋へと向かうことにした。
「この部屋なんだけど‥‥あ!」
「むにゃむにゃ‥‥くすぐったいよぉ」
 マリス達が部屋をランタンで照らすと、いくつもの小さなシルエットが浮かび上がる。そしてその中に一つだけ人型のシルエットがあった。近づいて見ると、それはたくさんの子猫たちと、気持ち良さそうに寝ているシフールの子供であった。シフールは子猫に舐められて、くすぐったそうにモゾモゾと動いている。
「いくつもの目の正体‥‥ね」
「あはは、可愛い〜」
 比良坂が額に手を置いて大きくため息。ジェシュは子猫たちの様子に目を細めて笑みを浮かべた。
「ん‥‥もう朝ぁ? お姉ちゃんたち、誰?」
「え〜‥‥っと、あなたを助けにきたんだけどね‥‥」
「助け‥‥? ふぁ〜あ。僕、子猫と遊んでたら眠くなって、ここで寝ちゃってた」
「‥‥‥」
 ランタンの明かりで目を覚ましたシフールの子ルーシェに、エリザベートが少し困ったように説明する。ルーシェは大きく欠伸をして、思い出したように辺りを見回した。言葉を失って、苦笑する一同。結局この事件、シフール達の勘違いで起きたようであった。
「ねぇ、この猫どうする?」
「素敵です‥‥」
「え!? 今の駄洒落じゃないよ!」
 マリスが子猫たちを見て呟くと、大宗院が小さく手を叩く。マリスは慌てて首を振るが、周りからも生暖かい視線で見られていた。
「あ! この子達のこと秘密にしてほしいの! 先生達に言ったら追い出されちゃうよ」
「う〜ん、追い出されちゃうのは可哀想だね」
「まぁ、僕達の今回の目的は、シフールの捜索なわけですし‥‥」
 ルーシェが慌てて子猫達を護るように両手を広げて立ち上がると、願うように一同を見つめる。蔵王と酒井が、子猫とルーシェを見て困ったように呟いて。他の者達も悩むように首をかしげる。
「黙っててもいいんじゃないかな。ま、なるようになるよ」
「ありがとう!」
 ジェシュが気楽に言うと、結局一同もそれに頷き。猫のことは黙っていることになった。ルーシェが、嬉しそうにクルクルと一同の周りを飛び回り。子猫達も、わけはわからないのだろうがにゃ〜にゃ〜と嬉しそうに鳴いた。
 こうして旧校舎のシフール捜索は終わることとなる。このあと、シフール探検隊に一同から説教があったのだが、どうやらあまり効果はなかったようだ‥‥。
「次は、どこへ探索に行こうっか!」

「こらぁ!! そこのお前、なにをやっている!」
「おっと、見つかってしまいましたね」
 その夜、旧校舎に密かにムーンロードを探そうと侵入していたテリーが、見回りに来ていた教員に見つかってちょっとした騒ぎになることとなった‥‥。不法侵入はいけないことだという良い(悪い?)見本かもしれない。