悲痛な願い

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 75 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月09日〜09月17日

リプレイ公開日:2005年09月18日

●オープニング

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥、ここまで来れれば‥‥」
 一人の男が、息を荒げながら逃げ込むように岩壁の影へと隠れた。額からは血が流れ、片腕は強い打撃を受けたように潰れて、すでに使い物にならない。アバラも何本か折れ、息をするのも辛そうだった。
「くそ‥‥ドジっちまったぜ。あんなところでオーガと遭っちまうなんてな」
 男は、苦し紛れに毒づき、力なく地に座り込んだ。身体はすでに麻痺して痛みを感じない。目が霞み、意識が遠くなっていく。
「ああ‥‥リズ。帰ったら‥‥君に‥‥渡したいものが‥‥あった‥‥んだけ‥‥どな‥‥。どう‥‥やら‥‥無理‥‥みたい‥‥だ‥‥」
 言葉にならない言葉を呟きながら、愛しい者の姿を思い浮かべる。しかしその姿も霞んでいき、やがて男の意識は闇へと落ちていった。

「あの、お願いです。私の彼を探していただけませんか‥‥」
 冒険者ギルドに、20歳前後の若い女性が悲痛な面持ちで現れた。腰まである長く美しいブロンドの髪が印象的な、スラリとした美女だった。
「私はリーズリットと言います。恋人のジルリードが遺跡の探索に出かけたのですが、予定の日を過ぎても帰ってこないのです。彼にもしものことがあったのではないかと心配で‥‥。どうかお願いします、ジルリードを探していただけませんか」
 彼女の話では、数日前に彼女の恋人であり、冒険者のジルリードが遺跡探索に出かけ。帰る予定の日を過ぎても戻ってこないのだそうだ。そこで、ギルドにお願いしてジルリードの捜索の依頼を出すこととなった。
 ギルドでも、ジルリードの名は把握していた。遺跡探索を主とする冒険者で、その実力はなかなかのものであると言われていた。
 今回ジルリードが探索しに向かった遺跡は、あまり人が近づかない場所にあるようであった。付近はオーガが住んでいるという森に囲まれており、縄張りを荒らす者には容赦なく襲い掛かってくるそうだ。ジルリードが、何故そのような危険な場所へ一人で向かったのかはわからないが、帰ってこない所をみると何か大変なことが起きてしまったと予想される。
「依頼料の方は‥‥その‥‥なんとか用意しますので、どうかあの人を助けてください。私にはわかるんです、彼が生きていて助けを待っているって‥‥」
 リーズリットは訴えるように見つめてそう言った。しかし、行方不明からすでに数日、生存の可能性は絶望的であった。

●今回の参加者

 ea9929 ヒューイ・グランツ(28歳・♀・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb1231 フィリア・レスクルト(16歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2275 オスカー・モーゼニア(37歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2766 光城 白夜(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3421 アンデッタ・アンラッキー(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

パミット・ページ(eb0167

●リプレイ本文

 街道への入り口、冒険者ジルリードの捜索に向かう一行を依頼人の女性リーズリットが見送りに来ていた。
「どうか、ジルのことをお願いします‥‥」
 長く綺麗なブロンドが印象的な、整った顔立ちの女性であったが。今は悲しみをこらえた悲痛な表情で、願うように一同に頭を下げる。
『必ず助けますから、そんな顔はしないでください』
「彼女は『必ず助けるからそんな顔はしないでください』と‥‥。私も貴方の悲しげな顔はみたくはありません、ですからかならずジルリードさんを助けます」
 フィリア・レスクルト(eb1231)が、リーズリットを励ますように周囲を飛ぶ。ベアータ・レジーネス(eb1422)がイギリス語を話せないフィリアの言葉を通訳し、そして同じようにリーズリットを励ました。
 一行は、一刻の猶予もない状況に、パーティを馬で行く者と徒歩で行く者の二班に分けることにした。
「うわっとと‥‥、頼むからおとなしくしてよ」
「どうどう‥‥やはりいきなりでは無理だ。俺と光城が馬で先に行きましょう」
「‥‥連れて帰ってくる‥‥」
 自分の馬に跨るアンデッタ・アンラッキー(eb3421)だが、騎乗の技能を持たない彼女は駿馬を全速力で走らせると御することができなかった。山本修一郎(eb1293)がその様子に苦笑し、光城白夜(eb2766)と共に馬で先を急ぐこととなった。
「私達も急いでまいります。無理はなさらないでくださいね」
「森にはオーガも出るという、くれぐれも気をつけて」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)とオスカー・モーゼニア(eb2275)が、先に行く二人を気遣うように声をかける。後発組は少しでも早く着けるように、セブンリーグブーツや韋駄天の草履といった長距離を早く歩くことができる履物を利用して遺跡に向かうことにした。魔法の靴がないものには、光城が貸し出すこととなった。
「ベアータさん、すみませんがよろしく頼みます」
「いえ、気にしないで」
 ヒューイ・グランツ(ea9929)が申し訳なさそうにベアータに声をかける。彼女は極度の方向音痴のため、道中はベアータについていくようである。
 こうして一行は、寝る間を惜しみながらジルリードの行方がわからなくなった遺跡のある森へと向かうのであった。

「ここが‥‥ジルリードが来ていたという森‥‥」
「どうどう、よくがんばったなお前達。どうやら、これより先は歩くしかないようですね」
 馬を走らせ先を急いだ光城と山本は、遺跡があるという森の手前まで来ていた。馬を気遣いながら森を見る山本達は、草木が鬱蒼と茂る森の様子にしかたなくここで馬を置いていく事にした。
 二人は、とりあえず遺跡へと向かおうと森へと入る。オーガが生息するという森、遺跡の場所も詳しくわからなかっため、森に慣れていない二人は特に慎重に辺りを警戒しながら探索を行った。
「ここがジルリードさんが向かったという遺跡か」
 結果、二人は日が暮れる直前にようやく遺跡を発見した。風化して崩れたのか、すでに天井はなく、岩壁と柱だけが残る遺跡。二人は願う気持ちで中へと入った。
「これは‥‥血痕‥‥」
 遺跡の入り口付近で、それまでは気づかなかったが床に血痕らしきものが残っていることに気づいた二人は、その血の跡を追っていく。やがて、岩壁にもたれ掛かるように座り込んだ人影を見つけた。
「う‥‥」
「まだ息があるようだ。しかし危険な状態なのは確かですね」
 駆け寄る光城達に呻く様に反応する人影。冒険者風の男は、酷い重傷を負っていた。
「さぁ‥‥これを飲んで‥‥」
 光城がヒーリングポーションを取り出し、男に飲ませる。すぐにポーションの効き目によって血の気が戻り、傷が癒されていく。
「う‥‥君達は‥‥俺は助かった‥‥のか?」
「あなたはジルリードさんですね? 俺達はリーズリットさんの依頼であなたを助けに来ました」
「リズ‥‥が。そうか‥‥ありがとう」
「礼はリーズリットに‥‥ボクはただ依頼を遂行しただけだから‥‥。とにかく‥‥あんたが生きていてよかった」
 ジルリードの礼にぶっきらぼうに答える光城であったが、一番心配していたのが彼であるということを知っている山本は、光城の態度を見て柔らかく微笑んだ。
 ヒーリングポーション1つでは回復し切れなかったジルリードに、光城がリカバーポーションを提供する。傷が癒えた彼の話では、遺跡探索の帰りにオーガに襲われて傷を負い、なんとかここまで逃げてきたが身動きがとれずにいたそうだ。
 すでに日は暮れていたので、一同はとりあえずここで夜を明かし、次の日に他のメンバーと合流して帰還することになった。

 夜が明け日が昇る頃、こちらへと向かっているはずの後発組を待っていた光城と山本であったが‥‥。
「くっ、ついてませんね。こんな所で‥‥」
「ボク達がやつらの相手をする、ジルリードは下がって‥‥」
 運悪く、遺跡の近くにまできていたオーガに見つかってしまう。オーガは二匹、二人はジルリードを護るように剣を構えそれぞれを相手するように対峙する。緊張が走り厳しい表情を浮かべる二人。
「光城さん! 山本さん! オーガから離れてください! ファイヤーボム!」
 突然、声が聞こえたかと思うとオーガを巻き込むように爆発が起こる。飛び退く二人の目の前でオーガが苦悶の叫びを上げた。それは、ジークリンデの放った魔法であった。
『二人とも、お怪我はありませんか?』
 シフールのフィリアが、オーガを飛び越えて光城達の目の前に現れる。彼女は、二人に特に目立った外傷がない様子にホッと胸をなでおろした。
「フフン、武器なんて錆びさせるよ! クイックラスト」
「足止めになればいいのですが。ストーム!」
 アンデッタがオーガの金棒を錆びさせ、ベアータの出した暴風によって抵抗に失敗したオーガが吹き飛ばされた。
「ジルリードは見つけたのですか」
 オスカーは、光城達の後ろにジルリードの姿を確認しホッと一息つける。そして、キッとオーガを睨みつけるとレイピアを華麗に構えた。
「さぁいらっしゃい。私が相手をしてさしあげましょう」
 後衛の魔法の援護で勢いを得たオスカー達がオーガへと切りかかる。
「援護します! ヤァ!」
 ヒューイが投げるダーツが、確実にオーガの急所へと命中した。ダーツ自体はたいしたダメージにはならなかったが、一瞬の隙を作ることに成功する。その一瞬で、前衛達がオーガ一匹に致命的なダメージを与える。そして、残り一匹も優位に戦いを進め追い払うことに成功した。
「間に合ってよかったです」
 ジークリンデがニコリと笑みを浮かべ頷いた。後発組は、ジークリンデがジルリードの匂いを覚えさせた犬に先導させたことにより、いち早く遺跡を発見することができたのだった。
『とにかくもジルリードさんが無事なようでよかったです。でも何でたった一人でこんな場所に来たんですか?』
「まぁ、それは帰りの道すがらにでも。ここは危険だ、またオーガが来ないうちに行きましょう」
 フィリアが問いかけに頷きながらも、ベアータが森から出ることを促す。一同は頷いて遺跡をあとにした。

 森を出た一行。途中何故一人で遺跡にという質問に、ジルリードは元々から実入りの良い一人での遺跡探索をするトレジャーハンターであるという説明をした。
「ぴゅい〜ぴゅい〜」
『口笛ですか、なんて曲ですか?』
「ん? てきと〜だよ。気が乗ってるときに口笛を吹くのが趣味なんだ」
 一行は予定よりも一日早く帰ってくることができた。気分良くアンデッタが口笛を吹くのを聞いて、フィリアが問いかけるが、アンデッタは微笑を浮かべて小さく首を振った。
「街が見えてきたよ。ん、あれは‥‥」
 ようやく街が見えてきた辺りで、視力の良いヒューイが門の前で立っている人影にいち早く気づいた。
「リズ!」
「ジル! やっぱり生きて帰ってきてくれたのね!」
 人影は、依頼人のリーズリットであった。一日早く帰ってきた彼らを待っていたということは、もしかすると毎日そこで待っていたのかもしれなかった。ジルリードの無事な姿に嬉しそうに駆け寄る彼女。
「よかった‥‥本当によかった‥‥」
「すまない、心配をかけてしまって。君のおかげでこうして生きて戻ることができた」
「ううん、貴方がこうして無事に戻ってきてくれただけで‥‥」
 喜び合う二人、リーズリットは涙を流しながらジルリードに微笑みかける。
「リズ‥‥? 君、髪はどうしたんだい?」
 ふと気づいたようにジルリードは、彼女の髪を見て困ったように問いかける。よくみれば、リーズリットの長く美しいブロンドの髪はバッサリと切られ無くなっていた。
「‥‥髪は、貴方の無事を祈って神に捧げてしまったの」
「そんな! 髪は君の命じゃないか!」
「貴方の命を助けるためだもの、私も命を捧げなければ‥‥ね」
 驚くジルリードに、リーズリットが優しく微笑んだ。ジルリードはその微笑みに、嬉しいがどこか残念そうな表情を浮かべた。
「ありがとうリズ‥‥。しかし、これは無駄になってしまったな。今回の冒険が終わったら君に渡そうと思っていたんだけど‥‥」
 そういってジルリードが差し出したものは、美しい装飾が施された櫛であった。彼女が長い髪のままであれば、それはとても映えたであろう。リーズリットはそれを受け取ると、ギュッと胸に抱え込んで。
「髪はすぐに伸びるわ、だって貴方が生きて戻ってきたのだもの。それまでこれは大事にしまっておくわね」
 そして満面の笑みを浮かべ、ジルリードに口付けを交わした。こうして、一行は依頼人に恋人の無事という最高のプレゼントを渡せたのであった。
「君達のおかげで助かったよ。これはそのときに使ってくれたポーションだ」
 次の日、一行はリーズリット達に食事に招待された。その際、光城は律儀にもポーションを返されるのであった。