ストーカーを捕まえろ! 〜影の視線〜

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月14日〜09月19日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

 下校時間、マジカルシードの校舎から一人の少女が出てくる。年の頃15歳、ブロンドの髪をポニーテールにしている可愛らしい顔立ちの少女だった。彼女は不安そうな面持ちで付近を見渡し、何もなかったのかホッとため息をついて歩き出した。
「チェ〜リッシュ!」
「ひゃぁ!!」
 少女チェリッシュは、突然肩を叩かれて驚きの声をあげる。周りの生徒が何事かと彼女を見るが、チェリッシュには周りを気にする余裕はなかった。身を縮こませながら、恐る恐る肩を叩いた人物を見た。
「ロ、ロイド‥‥驚いた〜」
「ご、ごめん。まさかそんなに驚くなんて思わなくて」
 チェリッシュの視線の先には、キョトンとした様子の少年が立っていた。年の頃はチェリッシュと同年代で、フリーウィルの制服を着た、大人しめな顔立ちで痩せ型の体型の気弱そうな少年だった。チェリッシュは、安心したように肩を落として苦笑を浮かべる。ロイドと呼ばれた少年は、そんな彼女の様子に心配そうに表情を曇らせた。
「なにかあったの? その‥‥、僕じゃ役に立てないかもしれないけど、話ぐらいなら聞くよ」
「う、うん、ちょっと‥‥ね」
 ロイドとチェリッシュは幼馴染の関係だった。彼の心配そうな問いかけに、チェリッシュは少し困ったような表情を浮かべながら話をし始めた。
「この間、ナンパされちゃったんだけど‥‥」
「ナ、ナンパ!? だ、大丈夫だった? 変なことされなかった?」
「変なことはされなかったけど、その男の人がちょっとしつこくて。それで、クエストリガーに頼んで追い払ってもらったんだけど‥‥」
 チェリッシュはハァっとため息をつく。ナンパ師は纏わりつくことはなくなったのだが、いつまた現れるのではないかと心配を抱えていた。
「ふふ、ロイドにそんな話をしてもしかたないよね。ごめん、変な心配かけちゃって。大丈夫、またなにかあったらクエストリガーに頼んで何とかしてもらうから」
「う、うん、僕に何か役に立てることがあればよかったんだけど‥‥」
「いいの! 話を聞いてもらっただけで、少し気が楽になったから。それじゃ、またねバイバイ!」
「あ、またね‥‥」
 チェリッシュは笑みを浮かべると、ロイドに別れを告げて手を振りながらその場をあとにした。ロイドは手を振って彼女を見送りながらため息をつく。
「チェリッシュ‥‥本当に大丈夫かな。僕にもなにかできればいいのに‥‥。でもナンパかぁ、チェリッシュ可愛いからやっぱりモテるんだろうな‥‥」
 そう呟くと、ロイドは別の意味でも心配のため息をつくのであった。

 数日後、チェリッシュはクエストリガーへと来ていた。
「あの‥‥、ここ数日の間、下校の際に視線を感じるんです」
 彼女の話では、学校の下校の時にときおり誰かに見られているような気がするらしい。視線を感じてそちらを見ても誰もいないのだが、たしかに誰かに見られており不安だというのだ。
「もしかして、またキリアスさんなんじゃないかと心配なんです。もしかして、なにか善からぬ事をされるのではないかって‥‥」
 前に彼女に付きまとっていたナンパ師ではないかと、彼女は不安げに表情を曇らせる。
「どうか助けてください、なんとか犯人を見つけて欲しいんです」

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「みなさん、どうぞよろしくおねがいします」
 ブロンドの髪をポニーテールにした可愛らしい顔立ちの少女チェリッシュが、集まった一同にペコリと頭を下げる。
「まかせて! ちゃんとチェリッシュさんを守って、ストーカーも捕まえるから」
 ニック・ウォルフ(ea2767)が笑みを浮かべる。彼はチェリッシュの弟に成り済ますために髪をブロンドに染めていた。
「やはり、キリアスさんは、弱みではなく、全治一ヶ月にすればよかったのでは‥‥」
「依頼人殿ォ、必ずやそのストーカー野郎をブチ殺して引きずり出して御覧に入れますからねェ〜、報酬ははずんでくださいよォ〜」
 前にチェリッシュに付きまとっていた男と関わったことがある大宗院透(ea0050)がポツリと呟き、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が短刀をキラリと光らせ嬉しそうに笑う。透は冗談のつもりなのであろうが、無表情で言われるので本気かどうか判断がつきにくく、ヴァラスは当然のように本気であろう。
「そんな、大怪我をさせるのはちょっと‥‥それにまだキリアスさんとは‥‥。ええ!? 殺すなんてダメですよ〜!」
「ちっ‥‥」
 二人の言葉に慌てて首を振るチェリッシュ。ヴァラスはつまらなそうに舌打ちした。
「でもぉ、ちょっとそのストーカーの気持ち分かるってカンジィ。私もぉ、透をずっと見ていたいもん」
「‥‥‥」
 大宗院亞莉子(ea8484)が、人差し指を自分の顎に添えて透に熱い視線を送る。その様子に、透は無言で呆れたような視線を返した。
「もぉ、透ったら照れちゃって〜」
「照れてません‥‥」
「お二人は仲がよろしいんですね、苗字も同じだしもしかしてご姉妹ですか?」
「いえ‥‥」
 亞莉子と透の様子に、チェリッシュがニコリと笑みを浮かべて問いかける。透は、忍者がわざわざ身の上を言うこともないので言葉少なに否定したが‥‥。
「違う違う、私達は夫婦なのぉ」
「え‥‥夫婦って、お二人とも女の子なのに‥‥? ジャパンでは女性同士も結婚できるんですか‥‥」
「あはは、チェリッシュちゃんおもしろ〜い。女性同士が結婚なんてできないって、っていうかぁ透は女の子じゃないしぃ」
「え!? 私、ずっと女の子だと‥‥ごめんなさい」
「いえ‥‥」
 亞莉子があっさりと関係をバラし、透が男であることを教える。チェリッシュは驚いて、まじまじと透を見つめると、申し訳なさそうに呟く。透は大きくため息をついて小さく首を振った。

 一同は数日の間、チェリッシュの警護をしつつ身辺を探る。その結果、姿を見ることはできなかったが、ときおり何者かの気配を感じるのであった。どうやら、たしかに彼女を尾行ける者がいるようである。一計を案じた一同は‥‥。
「はぁ〜い、完成。もぅ、かんぺきイケイケってカンジィ」
「う‥‥こんな格好初めてします‥‥」
 亞莉子が満足そうに笑みを浮かべると、チェリッシュは恥ずかしそうに顔を赤らめた。比較的大人しめなイメージのチェリッシュが、派手なアクセサリーや、わざと跳ねさせたような髪で、すっかり派手な女性へと変身していた。亞莉子の、変装してみたらどうか? という案の結果である。
「はい、こちらもできたよ」
「とおる〜、どぉ似合う?」
「似ているか、の間違いじゃないですか‥‥」
 次に、ニックが手伝って亞莉子が髪をブロンドのポニーテールにする。亞莉子がチェリッシュに変装して囮になる作戦であった。自分の姿を見せつけようとする亞莉子に、呆れたようにため息をつく透。
「へっへっへっ、囮の準備もできたことだし、ストーカー野郎を誘き出してぶっ殺してやろぅぜぇ〜」
「あ、あの、なるべく穏便に‥‥」
「わかってるってぇ、死なねぇ程度に痛めつけるだけだからよぉ」
「うぅ‥‥」
 準備ができるのを、刃物の手入れをしながら待っていたヴァラス。ニヤリと笑うその様子に、不安そうに念を押すチェリッシュだが、あまり意味はないようであった。
 とにかくも、囮作戦を決行する一行。亞莉子がマジカルシードの校舎を先に出て、ストーカーを誘き寄せることとなった。

 少し遅れて校舎を出たチェリッシュ。いまごろ亞莉子達が犯人を誘き出して捕まえているかもしれないが、チェリッシュはどこか不安そうな表情を浮かべていた。
「大丈夫。みんな頑張っているから心配いらないよ」
「は、はい‥‥むしろ、ストーカーの人がどうなるか心配で‥‥」
「チェリッシュさんは優しいね」
 護衛のために弟のフリをして付いているニックが、安心させるように声をかける。チェリッシュは、その言葉に頷くが別のことが心配なように小さくため息をついた。ニックはその様子に、優しく微笑んだ。
「‥‥誰か尾行けてきている」
「え‥‥」
 感じる気配にニックが顔をしかめて、懐に隠し持っているダーツに手を伸ばす。どうやら、尾行者は亞莉子の変装を見破り、チェリッシュを追いかけてきていたようであった。ニック達はちょうど人通りの少ない通りに来ており周囲には誰もいない。ニックは何が起きても対応できるよう気を張り巡らせた。
「ストーカーは光射す灯下を嫌います‥‥」
「!?」
 突然駄洒落が聞こえたかと思うと、ストーカーの気配の近くに新しい気配が現れる。それは、亞莉子の護衛についていたはずの透であった。
「隠密行動をするなら、気配も消さないと見つかります‥‥。それで、なぜチェリッシュさんを尾行けたんですか? ロイドさん‥‥」
「ロイド!?」
 透がストーカーを逃がさぬように退路を塞ぎながら声をかける。ストーカーは逃げるのを諦めたかのように姿を現す。その姿を見て、チェリッシュが驚きの声を上げる。フリーウィルの制服を着た、大人しめな顔立ちの少年はチェリッシュの幼馴染のロイドであった。
 透は事前の調査で幼馴染の彼が怪しいと踏んでいて、囮作戦のときもチェリッシュを密かに尾行けていたのだった。
「あ、あの、チェリッシュが‥‥」
「てめーーーーッ、そこ動くんじゃねぇ!」
「無視されて最悪ってカンジィ」
 ロイドが透の問いに答えようとしたそのとき、怒声と共にヴァラスと亞莉子が現れた。どうやら、囮がうまくいかなかったことに気付き戻ってきたようだ。ヴァラスは、ロイドを見ると獲物を獲た猟犬のように吠え立てる。
「てめぇだな、この女に付きまとってるってぇのは! 二度とそんなことができねぇようにしてやるから覚悟しやぁがれ!」
「チェ、チェリッシュ! 僕がこの男の相手をするから、早く逃げて!」
「え? え!?」
 ヴァラスが脅かすように短刀を構える。何故か、ヴァラスから庇うようにチェリッシュの前に立つロイド。チェリッシュは、展開がわからずオロオロとするばかり。
「こ、こい! チェリッシュは僕が守る!」
「いい度胸じゃねぇか! いますぐぶっ殺してやるフヘヘヘ‥‥って、これじゃ俺が悪役みてぇじゃねえか!」
「あの〜、盛り上がってる所悪いんだけど。チェリッシュさんが困ってるよ」
 緊張した面持ちで、剣を構えヴァラスと対峙するロイド。一瞬即発の状況だが、そんな二人の間に割って入ったニックは、苦笑しながらチェリッシュを指差した‥‥。

「つまりは、チェリッシュさんが心配でこっそり見守っていた‥‥と」
「う、うん。最近、チェリッシュが変なヤツに付きまとわれてたって聞いたし、またそんなのが現れたら助けたいと思って‥‥」
 少ししてようやく落ち着いたロイド(とヴァラス)は、ニック達にチェリッシュを尾行けていた理由を説明した。
「もう! だったら、ちゃんと言ってくれればいいじゃない。私、知らない人に尾行けられてるのかと思って」
「え‥‥」
「ロイドさん‥‥、私達はチェリッシュさんに頼まれてストーカーを捕まえようとしてたんです‥‥」
「ええ!? じゃあ、この暴漢さんもですか?」
 チェリッシュの抗議に言葉を失うロイド。透が自分達の説明をすると、ロイドは驚き困ったようにヴァラスを見る。
「誰が暴漢だゴルァ!」
「アハハ、たしかにそんなカンジィ」
 ロイドの視線に、眉をひそめて睨みつけるヴァラス。その様子を亞莉子はおかしそうに笑う。
「理由はどうあれ、こっそり後を尾行けまわすのは良くないと思うよ」
「う、うん。ごめんチェリッシュ‥‥」
「もういいよ‥‥。犯人はわかったし、ロイドは私を想って見守っててくれたわけだし」
 ニックの言葉に、申し訳なさそうに頭を下げるロイド。チェリッシュは気が抜けたようにため息をついた。
「みなさんご迷惑をおかけしました。ロイドにはちゃんと言っておきますので」
 犯人は幼馴染という結末に、チェリッシュが申し訳なさそうに一同に頭を下げる。一同は苦笑しつつも、事件が解決したことにホッとして成功報酬を受け取った。
「でもぉ、恋人に見守られてるってちょっと羨ましいかもぉ。私も透に見守られていた〜い。ね? と・お・る! 私ならぁ、いつでもストーカーしていいよぉん」
「知りません‥‥」
 亞莉子が透の腕を掴んでニッコリ微笑むが、透はそっけなく応える。
「恋人って、私達はただの幼馴染で‥‥。もぅ、ロイドが変なことするから勘違いされちゃったじゃない!」
「う、ゴメン‥‥。ただの幼馴染かぁ‥‥」
 亞莉子の言葉に慌てながら顔を赤らめて否定するチェリッシュ。ロイドは、気弱そうにチェリッシュに頷き、ガックリと肩を落とした。
「クス、どっちも前途多難なようだね」
 ニックが、二組(?)の男女の様子に笑みを漏らす。こうして、勘違いから起きたストーカー事件は無事解決として幕を閉じることとなった。