大迷路パニパニパニック!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2005年09月26日

●オープニング

 ケンブリッジから半日ほど行ったところに『マーシア迷宮庭園』と呼ばれる場所がある。マーシア婦人という人物が、自分の庭弄りの腕前を自慢するためとモンスター避けのために作った、入り組んだ迷宮のように手入れされた庭園である。ときおり、フリーウィル卒業生であった彼女の申し出で、フリーウィルなどの迷宮探索の訓練などに利用されることもあった。

「やっぱりいつ来てもすごいわねぇ、こんなに入り組んでいると自分がどこにいるのかわからなくなっちゃうわ」
「迷子にならないように、ちゃんと俺の腕を掴んでろよ? もし何かあっても、俺が護ってやるからさ」
「うふふ、頼もしい。貴方こそ、私を絶対離さないでね。貴方となら、この迷宮で一生迷っても幸せだもの」
「俺だって、お前と一緒なら幸せさ。愛してるよ‥‥」
 迷宮庭園内で、二人仲が良さそうに腕を組んで愛を語る男女。基本的に、迷宮庭園を利用するには教師の承諾が必要であるが、若い男女などがこっそり入り込んではちょっとしたデートスポットとして利用されることもあった。二人肩を並びながら、通路をゆっくりと歩いては、出口まで二人の時間を過ごすのである。
「‥‥? ねぇ、なにか音が聞こえない?」
「あん? 近くに他のカップルでもいるんじゃねぇの?」
「でも、なにか木を揺するような音に聞こえるけど‥‥」
 仲良く庭園を歩いていた男女であったが、女の方が先に異変に気づいた。聞こえてくる物音に耳を澄まし、首をかしげる。男は、たいして気にしてはいなかったが、女の様子に少し顔をしかめた。
「ほら‥‥やっぱり聞こえるわよ。ガサガサって草木を揺する音が」
「風が草木を揺する音じゃねぇか? そんな気にすることないって、俺がついて‥‥」
 少し怯えた様子の女に、男が少し苦笑しつつも安心させようと声をかけたそのとき。曲がり角を曲がって、通路の先を見た二人は硬直した。
 視線の先には、茶色い毛皮の塊‥‥庭園の壁になっている草木を揺すっては、葉っぱなどを食べているようで‥‥全長2メートルを超えるその毛皮の塊は。
「え? く‥‥」
「熊だーー!!」
 女が声を上げるよりも先に、男が悲鳴のような声を上げて一目散に逃げ出した。熊の方もその声に反応して、慌てた様子で通路の先へと逃げていってしまう。あまりに一瞬のことに、呆然としながら取り残された女は‥‥。
「あの意気地なし! 私を置いて逃げるなんて最低!!」
 熊の事も忘れて、憤慨したように何度も地面を踏み鳴らした。

「迷宮庭園に熊だって!?」
 その後すぐにクエストリガーに連絡がもたらされ。生徒会は、生徒会メンバーのシフールに迷宮庭園の上空から熊が居ることを確認させると、迷宮庭園内に人が入らぬよう厳重注意を出した。そうして、クエストリガーに『迷宮庭園内の熊を退治または追い払う』依頼を張り出すこととなった。

●今回の参加者

 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3425 カッツェ・シャープネス(31歳・♀・レンジャー・ジャイアント・イスパニア王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3575 アシャンティーア・ライオット(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「何を作ってるの?」
「これは、眠気を催す毒草をこねて団子を作ってるんだよ」
 アシャンティーア・ライオット(eb3575)が、興味に目を輝かせてカッツェ・シャープネス(eb3425)に問いかける。カッツェは、数日掛けて取ってきた毒草をスリングで飛ばせるように、小麦粉に混ぜてこねて団子状にしていた。即効性はないし、丸薬にするにはいささか時間が足りないからだ。
「お団子? 美味しそうね!」
「いや、食べちゃだめだよ‥‥これは熊に食べさせるんだから」
 カッツェの説明に、アシャンは何故か嬉しそうに笑みを浮かべる。カッツェは、苦笑して首を振った。
 いま彼女達は、熊を迷宮庭園から追い出すための準備をしていた。熊をなるべく生かして森に帰したいという考えの下、熊を捕らえる罠を作っているのだ。
「偵察してきたわよ」
「やっぱり、まだ庭園の中をグルグル回ってたよ」
 魔法で上から迷宮庭園の様子を見てきたマリス・メア・シュタイン(eb0888)とデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)。二人の報告では、熊は庭園の中をグルグルと回りながら、草木を食べたりしていて一向に出て行く気配はないようであった。
「それで、とりあえず罠を仕掛ける場所を見つけておいたんだけど、どうやって穴を掘るの?」
「それなら、あたしが生徒会からスコップを借りてきたよ。それと、お肉屋さんで熊の餌を買ってきた!」
 落とし穴について問いかけるマリス。アシャンは、事前に借りてきたスコップと、自費で買ってきた鶏肉を自慢げに取り出した。
「スコップかぁ、あまり力仕事は得意じゃないんだけどねぇ」
「まぁ、あたいががんばるさ」
「おいらもがんばる!」
「それじゃ私は、熊が近づいてきてないか見張ってるわ」
 マリスがスコップを見て困ったように頬を掻くと、カッツェが肩をすくめて苦笑する。デメトリオスも、気合を入れているが体力はマリスとさほどかわらないだろう。
「あたしもやるよ〜。でも、デメトリオスさんは掘りすぎると出れなくなるかもね」
「まじ!? ど、どうしよう」
 アシャンも手を上げるが、デメトリオスを見てクスっと笑う。デメトリオスは困ったように慌てる。
「あんた、空に浮けるでしょ」
「あ、そっか‥‥おいら魔法で空に浮けるから大丈夫だった‥‥」
 マリスのツッコミに、デメトリオスはホッと胸を撫で下ろした。どうやら本気で心配していたようだ。
「さてこっちの準備も終わったし、そろそろ落とし穴でも掘りに行くか」
「お〜!」
 カッツェが団子を作り終え立ち上がると、一同は気合を入れるように腕を振り上げ声を上げた。

「デメトリオス君、結局聞き込みのことはどうなったんだい?」
「うん、生徒会とか色々聞いて回ってみたけど、特にこの事件で行方不明になった人はいないみたいだよ。熊になる呪いも調べたけど、見つからなかったなぁ。ミミクリーじゃ体格までは変わらないし」
 捕縛作戦当日、庭園に入る前にカッツェがデメトリオスに問いかける。デメトリオスは、何らかの理由で人が熊になっている可能性を考え聞き込みをしてみたが、とくにそういった気配はないようであった。
「何度来ても、この入り口に立つとドキドキするよね〜。あ、今度はみんなで遊びに来ない?」
「面白そうね、次は魔法無しでインチキしないで出口までいきたいな」
「う〜ん、一応先生の許可が必要なはずなんだけどね。まぁ、あたいが許可を取っておいてあげるよ」
「さすがは姉御だ〜」
 迷宮庭園の入り口に立ったアシャンが、ニッコリ笑って一同に提案すると、みんな結構乗り気で頷く。捕縛作戦前なのに、あまり緊張感のない一同であった。
「さて、中へ入ろうか。先導お願い」
「あいよ〜、リトルフライ!」
 カッツェの言葉に頷き、デメトリオスが魔法を唱えて宙に浮く。ふわふわと庭園の上空に浮きながら、迷路になっている通路の適切なルートを指示していく。一行はしばらくして、前日のうちに用意しておいた落とし穴の所までたどり着いた。
「じゃあ、ここに誘導するからマリスさんよろしく」
「うん、まかせといて! カッツェさんも気をつけてね」
 作戦を確認すると、カッツェが落とし穴まで誘導して、マリスが落ちた熊を魔法で捕らえる作戦だ。マリスはグッと拳を握ってガッツポーズをする。その手にはアイスコフィンのスクロールが握られていた。
「よし、餌セット! あたしもカッツェさんについてくね」
 落とし穴の上に、買っておいた鶏肉をセットするアシャン。彼女も、カッツェを魔法で援護するためについていくことになった。
「お〜い、熊はここよりもうすこしあっちに行ったほうで葉っぱを食べてるよ」
 空からの偵察をしていたデメトリオスが、東の方を指差しながら戻ってきた。どうやら、熊はそれほど遠い場所にはいないようである。誘導するチャンスだった。カッツェとアシャンは頷き合うと、デメトリオスの先導の下に熊へと近づく。
「そこを曲がったところから見えると思う」
「いた! あれが熊だな」
 カッツェ達が曲がり角の影から覗き込むと、たしかに茶色の毛をした熊が草木の壁を齧っている。大きな身体を丸くしながら、一生懸命草木を食べているようであった。
「うっわ〜、さすがに大きいね。でもなんか可愛い」
「可愛いって‥‥とにかく熊の気を引いて誘導しないと」
 熊の様子にアシャンが目を輝かせるのを、苦笑しながらカッツェはスリングに用意しておいた毒草団子をセットする。
「じゃあ、先にあたしがサイレンスを掛けて驚かせるね」
「わかった、熊がこっちを向いたら毒草団子をプレゼントしてやるよ」
 熊がこちらに気付いたら、すぐに落とし穴の方へと逃げないと危ない。二人は緊張した表情になる。アシャンが魔法の詠唱にはいり、カッツェはスリングの狙いを熊に定めた。
「彼の者に静寂を‥‥サイレンス!」
 アシャンが魔法を唱える。しばらくして熊が異変に気付いたのか、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回しだす。カッツェは、真剣な表情で熊の様子を観察し‥‥。
「いまだ!」
 熊が声を上げようとしたのか、大きく口を開けた瞬間、カッツェのスリングから打ち出された毒草団子がその口の中へと飛び込む。突然のことに驚いて咳き込む熊であったが、どうやら口の中に入ったものを飲み込んでしまったようで。
「よし、ほらこっちだぞ〜」
 その様子に、カッツェはニヤリと笑い、影から出て熊に姿を見せた。熊はカッツェに気付くと、先ほどのことに怒ったのか一直線に向かってくるのであった。
「うわ! 結構早い!」
「早く逃げよう!」
 ドタドタと地面を蹴りながら、猛スピードで突っ込んでくる熊。その速さに驚きながら、カッツェとアシャンは駆け足で罠のある場所へと逃げ出した。
「急いで! そのままじゃ追いつかれる!」
 デメトリオスが空から二人を叱咤する。二人の全力疾走よりも、熊のほうがよほど足が速い。下手をすれば、罠にたどり着く前に追いつかれる可能性もあった。と、いう所で。
「ドガァ!」
 大きな音と共に何かが木々に突っ込む音。どうやら、勢いあまって熊が草木の壁に突っ込んだらしい。さすがに貫通はしないが、木々が折れ、穴のようになってしまった。頭を振ってノソノソと出てくる熊。しかしすぐにカッツェ達の姿を見つけると、そちらへとむかってまた爆走し始めた。
「あはは、なんかこの追いかけっこもちょっと楽しいかも」
「楽しくない!!」
 必死で逃げる二人。何度も曲がり角を曲がり、予定のルートを走る。熊は何度か道を行過ぎそうになるが、それでも猛スピードで追いかけてくる。熊に追い付かれれば大怪我になるのは必至だ、だがアシャンはどこか楽しそうだった。
「そこを真っ直ぐ! じゃなかった‥‥ゴメン、右!」
「うわっとと、頼むから間違えないでくれ!」
 途中、デメトリオスが道の指示を間違えるといったハプニングもありながら、何とか逃げる二人。
「こっちこっち! 急いで!」
「見えた、ゴールだ!」
 ようやくマリスが手を振る姿が見える。二人は最後の力を振り絞って走った。しかしすぐ後ろには、荒い息を上げながら熊が追いすがっている。いまにも、熊がカッツェに襲い掛かろうとするそのとき。
「ジャンプ!」
 二人は、目印の鶏肉をまたぐように飛び越える。ドシャァ! そのすぐ後で、豪快な音を立てて熊が落とし穴に落ちるのであった。
「いまね、アイスコフィン!」
 熊が落とし穴に落ちると、マリスは用意してあったスクロールを使う。熊の周囲に冷気が集まっていくが‥‥。
「抵抗された!?」
 熊が身体を身震いすると、一瞬のうちに冷気が吹き飛ぶ。どうやら、魔法を抵抗されたようだ。さすがに、そう簡単には効く魔法ではない。
「お、眠りの団子もようやく効いてきたようだ」
「だったら、もう一回!」
 だが熊の様子を見れば、毒草団子が効いてきたのか動きが緩慢になってきていた。そして熊が落とし穴から出てくる前にと、マリスがもう一度スクロールを使う。ようやく今度は成功したようで、熊は氷の棺に封じ込められカチンコチンになるのだった。

 その後。生徒会からの依頼ということで『特別』に集められた人達によって、氷が溶けないうちに、氷ごと熊は森の奥へと搬送された。こうして、なんとか熊を迷宮庭園から追い出すことに成功したのであった。