子猫の里親募集

■ショートシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

 学園都市ケンブリッジの一角には、各校の古くなり使われなくなった旧校舎がいまだに残っている。木造の旧校舎は、老朽化のため基本的に生徒の立ち入りは禁止となっているのだが。
「にゃんにゃにゃ〜ん」
 子供のシフールが一人、旧校舎へと向かって飛んでいた。この子の名前はルーシェ、フリーウィルの子供のシフールばかりが集まって結成された『シフール探検隊』の中で、最年少の男の子だ。
 彼は、一つの旧校舎へと来ると、いつものことのように二階にある小さな隙間から中へと忍び込む。旧校舎の中は薄暗く、所々壊れている床壁などあるが、ルーシェは気にせず一つの教室へと向かう。
「こんにちにゃ〜ん」
 ルーシェの向かった教室、そこには薄暗がりの中いくつもの小さなシルエットが浮かび上がっていた。キラキラと光る双眸、ピョコンと立つ二つの耳、小さく可愛らしい尻尾‥‥にゃ〜んと幼げに鳴くそれは、猫の子供であった。
「あはは、くすぐったいよ」
 ルーシェが近づくと、子猫達は嬉しそうに鳴き声を上げると、ぺろぺろとルーシェの手のひらやホッペを舐める。ある事件で、この旧校舎に住む子猫たちを知ったルーシェは、それからすっかり仲良くなり、こうやって毎日のように子猫と戯れに来ていた。
「あ、お母さん、こんにちにゃ〜ん」
 母猫が子猫達の所へとやってきたがルーシェが挨拶をすると、世話を任せるように一声鳴いて教室を出て行ってしまう。どうやら、親の信任も厚いようだ。
「お前達も、どんどん大きくなっていくね。僕もがんばらないと」
 子猫と出逢ってから数週間、成長期の子猫達はすくすくと大きくなっていく。その姿に、嬉しさと羨ましさを感じるルーシェ。自分も早く一人前になりたいと思うのだった。
 しばらく、そうして子猫と戯れていると、突然子猫達がピンと尻尾を立てて何かを見上げるように顔をあげる。
「んにゃ? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないだろう‥‥ここは生徒立ち入り禁止だぞ」
「わわ!?」
 子猫達の様子に首をかしげたルーシェだが、突然襟をつかまれたかと思うと、何者のかに持ち上げられるように宙に浮く。子猫達はその様子に驚き、ピュ〜っと蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまう。
「ああ、子猫達が〜」
「子猫達がじゃない。どうしてこんなところにシフールの子供がいるんだ」
 逃げてしまった子猫達に残念そうな声をあげるルーシェ。その襟首を捕まえたまま、自分の顔へと近づける人影。
「きゃ〜〜! モンスターだ〜! たべられる〜!!」
「こらこら誰がモンスターだ。ええぃ、暴れるな。私はFORの講師だ」
「きゃ〜‥‥え、先生‥‥なの?」
 ルーシェの目の前には、巨大なオーガ‥‥もといオーガ似のジャイアント講師オルガ・アーヴィズの顔があった。驚き暴れるルーシェに苦笑を浮かべながら、オルガ講師は落ち着いた声で自分の素性を説明する。ルーシェは、しばらくジタバタした後、ようやく落ち着いた。
「それで、何故お前さんはこんなところにいたんだ。ここは一般立ち入り禁止だぞ」
「う‥‥」
「まぁ、さっきの様子を見ればなんとなく予想は付くがな。ダメじゃないか、こんな所で猫を飼っていては」
 ルーシェに、訓練のときのような怒声ではなく優しく子供を諭すような声で問いただすオルガ講師。ルーシェは困ったように口ごもるが、オルガ講師は先ほど逃げ出す子猫を見ているので納得したように頷いた。
「あ、あの、違うの! あの子達は野良猫で、ここに住んでたの」
「ふむ、しかしここは一応学校が管理している施設だからな。見つけてしまった以上、野良猫を住まわせておくわけにはいかないな」
「そんな! どうかあの子達をここに住まわせてやって欲しいの!」
「それに、ここに子猫達がいたらまたお前さんがやってきてしまうだろう? ここは、老朽化して危険だから入ってきてはいけないんだ。お前さんに、なにかあったら親御さんが悲しむだろう?」
「う‥‥でも!」
 涙目で訴えるルーシェに、困ったような表情を浮かべるオルガ講師。しかし、立場上野良猫を旧校舎に住まわせるわけにはいかない。
「だめだ、野良猫達には旧校舎を出て行ってもらう」
「あぅ‥‥」
 首を振るオルガ講師。ルーシェは悲しそうに肩を落とした。そんな彼に、オルガ講師が厳つい顔に柔和な笑みを浮かべて声を掛ける。
「しかし、ただ追い出すというのは忍びない。そこでだ、子猫を匿ったお前さんに罰として、子猫たちの里親探しを命じる」
「え!?」
「里親が見つかるまでは、旧校舎に住まわせてやってもいいが、他の教師はどうするかわからんから、早く見つけるんだぞ」
「う、うん!」
「一人で無理なら、クエストリガーで手伝ってくれる人を募集するのも手だぞ」
「わかった、いってきます!」
 オルガ講師の提案に、ぱ〜っと表情を明るくしたルーシェは急ぎ里親探しに飛び立った。そして、アドバイスに従いクエストリガーで里親探しの依頼をするのであった。
「しかし‥‥、子猫達はどこいったんだ?」
 残されたオルガ講師は、各教室に散ってしまった子猫達を思い大きくため息をついた。

●今回の参加者

 eb0584 ロータス・セクアット(32歳・♀・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 eb0874 ガルディ・ドルギルス(55歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244

●リプレイ本文

「リズ〜、助けて〜」
 部活棟の一室、プレートに『真冬部』と書かれた部屋で情けない声が響き渡った。部長のジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)がバックパックが重すぎて身動きが取れなくなっていたのだった。
「バカ! おいてくから!」
「ああ、待ってよ〜」
 バタン! 力いっぱい閉められたドア。妹のエリザベート・ロッズ(eb3350)に見放され、一人置いてかれたジェシュであった。‥‥荷物の持ちすぎには注意しましょう。

「あはは、結局バックパックは置いてきたよ。リズったら酷いよね」
「いや‥‥それは自業自得というか‥‥うむ‥‥」
 などといきさつを話すジェシュに、困ったような苦笑いを浮かべるガルディ・ドルギルス(eb0874)。二人は、旧校舎内に散らばってしまった子猫を捕獲するために、旧校舎へと来ていた。ちなみに、ガルディはオルガ講師にも声をかけたが、手伝え無いそうであった。
「久しぶり〜。子猫を飼ってくれる人を探しているんだって?」
「うん、この間の子猫達がね、ここから追い出されちゃうから、里親を探すの」
 目的の旧校舎前で待っていた依頼人のルーシェに、ジェシュは軽く手を振って挨拶する。ルーシェも、手を振り返して依頼の説明をした。
「で、ここがその子猫達が居る旧校舎か」
「うん、中は薄暗いから注意してね」
「心配するな、わしは夜目が利くから暗いところでも平気だ。それにこいつも居るからな」
 ガルディが木造の旧校舎を見上げて問うと、ルーシェが頷いて中の様子を注意した。ガルディは頷き、連れてきていたボーダーコリーに視線を向けた。
「リズ達は、先に里親探しをしてるから、僕達も子猫達を早く捕まえてしまおうよ」
「うんわかったよ」
「狩りならばまかせろ」
 ジェシュの言葉に、ルーシェとガルディは頷き、一同は旧校舎へと入っていった。
「そういえば、前はここでリズが転んだんだよね、あはは」

「クシュン!」
「風邪‥‥ですか?」
「ううん違うと思う。誰かが噂してるのかも」
 子猫の里親探しに街中を歩いていたエリザベートと、ロータス・セクアット(eb0584)。クシャミをしたエリザベートを気遣うように、ロータスが声をかける。だが、なんとなく思い当たることがあったエリザベートは、首を振って顔をしかめた。
「とにかく手分けしましょ。私は学校のほうにいってみるわ」
「はい。私は、一般の寄宿舎などでペットが飼えるかどうか聞いてみます」
 エリザベートの言葉に、ロータスは頷き。それぞれ分かれて、子猫を飼ってくれる人を探すために、学校や寄宿舎を回るのだった。

「なかなかいないわねぇ」
 エリザベートは、各学校を回って生徒達に声をかけてみたが、猫に興味はあっても飼いたいという者はなかなかいなかった。少々困った表情で、次の学校へと向かおうとしたエリザベートだが。
「あの‥‥子猫の里親を探してるという方は貴女ですか?」
「え、あ、うん、そうだけど‥‥」
 急に後ろから声を掛けられて振り返るエリザベート。そこには、フリーウィルの制服を着た、少々気弱そうな少年が立っていた。
「よ、よければ、僕に子猫を譲って欲しいのですが」
「あら、貰ってくれるなら歓迎するけど、あなたが飼ってくれるの?」
「い、いえ、僕の幼馴染が猫が好きでして。その‥‥」
 エリザベートの問いかけに、照れた様子でしどろもどろに答える少年。とにもかくにも、里親の当てができたことにエリザベートはニッコリと笑みを浮かべた。
「そうなの。じゃあ、あとで連絡するわね。お名前は?」
「僕は、ロイド・ジュールといいます‥‥」

「そう、寮の中ではペット不可なの」
「ええ、屋外の敷地でなら飼うのはかまわないそうなんですが、子猫にはちょっと。ですからケンブリッジに自宅をお持ちの方とかでないと難しいですね」
 エリザベートとロータスは、一通り巡ると合流して、捕獲の様子を見に旧校舎へと向かった。
「ちんちくりん。子猫は捕まえ終わった? ミルク持ってきたんだけど」
「やぁリズ。うん、だいたい見つけ終わったよ。それでいま最後の一匹を‥‥」
 校舎内でジェシュを見つけたエリザベートは、近くの牧場から貰ってきたミルクを見せながら声をかけた。ジェシュが笑みを浮かべて答えようとしたとき、廊下の向こうからワンワンと犬の鳴き声が聞こえてきた。
「‥‥? 子猫を探しているのに、何故犬の鳴き声がするのでしょう?」
「おい! そっちへ行ったぞ!」
 その鳴き声に、ロータスが不思議そうに首をかしげる。すると、ガルディの声が聞こえ、足元を小さな影が通り抜ける。
「きゃ! なに!?」
「はい、捕まえた」
 影に驚くエリザベートをよそに、ジェシュがしゃがみこんでその小さな影を捕まえた。ジェシュの腕の中で、にゃ〜にゃ〜と鳴き声をあげるそれは大きな瞳の子猫であった。
「これで全部捕まえたよ」
「こいつは、なかなかすばしっこかったな」
 ニコリと笑みを浮かべるジェシュ。ガルディが、廊下の向こうからやってきて、満足そうに頷いた。その傍らには、さきほどの鳴き声の主であろうボーダーコリーが尻尾を振っている。
「旧校舎というのも、なかなか面白い狩場だったな」
「狩り‥‥ですか。でも、子猫を脅かして捕まえるなんて、少し可哀想です」
「あはは。うん、まぁそうかもしれないんだけど、お陰で早く捕まれられたしね。他の子たちは、いまルーシェ君が世話してるよ」
「あはは、じゃないわよまったく‥‥」
 ガルディの言葉に、ロータスが少し哀れむように子猫を見る。ジェシュは、特に気にしてない様子で笑みを浮かべるが、エリザベートは呆れたようにため息をついた。
「とにかく、子猫は見つけられたわけだし、明日からはみんなで手分けしましょ」
「はい、でも明日からなんですか?」
「え、ええ、ほら一応私達も子猫のお世話をして、人間に慣らさせておかないと‥‥ね?」
「ただ、猫と遊びたいだけじゃないのかなぁ」
「そこウルサイ!」
「兄妹揃ってのん気だな」
 ジェシュのツッコミで慌てるエリザベートに、一同は楽しそうに笑うのであった。

「どなたか飼って下さる方はいらっしゃらないでしょうか‥‥ねぇ、お前達?」
「貴女のですか? 可愛い子達ですね」
 子猫を抱えて街中を歩いていたロータスは、FORの制服を着た濃いブラウンの髪の少女に声を掛けられた。
「いえ、実はいまこの子達の里親になってくださる方を探してるのですけれど‥‥」
「まぁ‥‥」
 子猫に興味があるような彼女に、ロータスは子猫の事情について説明する。少女は話を聞き、子猫を愛しそうに見つめた。
「飼いたいのは山々なのですけれど、お嬢様がなんとおっしゃるか‥‥」
「あら、わたくしはかまわなくてよ? でも、お世話はアルマがしてね、ふふっ」
 しかしなにか問題があるのか、困ったような表情を浮かべた少女。すると少女の後ろから、やはりFORの制服を着たキリッとした顔立ちのブロンドの少女が声をかけた。
「わたくしも猫は好きですもの。あら、もう一匹いらっしゃいますわね。よろしければ、そちらの子も譲ってくださらない?」
「はい、ありがとうございます。この子達も、一緒にいられて嬉しいでしょう」
「ありがとう、大事にいたしますわ」
 ロータスは、ニコリと笑みを浮かべブロンドの少女へと子猫を手渡す。ブロンドの少女は、子猫を受け取ると優しく抱きしめてその子にキスをするのであった。

 マジカルシードに里親を探しにきたジェシュは、一人の少女に子猫を譲ることになった。
「はいどうぞ。可愛がってあげてね」
「可愛い! ありがとうございます!」
 嬉しそうに微笑む少女。その少女のもとに、一人の少年がやってきた。オズオズとした様子で、声をかける少年であったが。
「あの‥‥チェリッシュ」
「あ、ロイド! 見て見て、可愛いでしょう!」
「え‥‥あ、あれ?」
「今日から家で飼うことにしたの。あら? ロイドも子猫を?」
 チェリッシュと呼ばれた少女に子猫を見せられ戸惑う少年。ロイドと呼ばれた少年の腕の中にも子猫がいた。
「あ、う、うん! 僕もね、子猫を飼うことにしたんだよ」
「そう、偶然ね! 今度一緒に遊ばせましょう」
「そ、そうだね‥‥あは、あははは‥‥」
「あれって‥‥、リズが持ってった子‥‥?」
 慌てて取り繕った様子のロイド。ジェシュは、そんな二人を見ながら不思議そうに首をかしげるのであった。

「一匹は見つかったか。しかし、あと一匹のあてが」
 鍛冶屋仲間や商店街で里親を探したガルディ。宿屋の主人が一匹飼ってくれることになったのだが、残り一匹のあてが見つからなかった。
「む、こら暴れるな。‥‥待て!」
 しかも、犬で追い立てたせいか、突然子猫はガルディから逃げ出した。すばしっこく路地裏に逃げる子猫を追いかけるガルディ。
「どうしたもんか‥‥む、この声は」
 しばらく路地裏を探していたガルディは、ふと子猫の鳴き声に気付きそちらへと向かう。すると、破れた袖がむき出しになったフリーウィルの制服を着た大柄な男が子猫と戯れている場面に出くわした。
「おぬし、その子を飼ってみんか?」
「‥‥ああ」
 見た目は不良風の男であったが、猫を可愛がる様子にダメもとで聞いてみるガルディ。男は、子猫とガルディを交互に見ると、短く答えて頷いた。

「よかったぁ、子猫達はみんな飼ってくれる人が見つかったんだね」
 報告を聞いたルーシェは、ほっとした様子で胸を撫で下ろした。
「ちょっと寂しいけど、本当によかったよ。お母さん猫はね、僕の家で飼うことにしたの」
 仲の良かった子猫達がいなくなって少し寂しそうなルーシェであったが、すぐにニコリと笑って母猫のことを皆に伝える。
 こうして、無事旧校舎に住んでいた猫はそれぞれ新しい住処を得て、依頼は成功となった。