捻れた選民達

■ショートシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月06日〜10月11日

リプレイ公開日:2005年10月17日

●オープニング

 騎士訓練学校フォレスト・オブ・ローズ。騎士道を学ぶためのこの学校は、規則が厳しいことではケンブリッジ一である。騎士に相応しくない者は即刻退学となり、記録にも残るので二度と騎士となる夢をかなえることは困難となる。そして生徒達も、誇りある騎士になるべく日々努力を惜しまず勉強をするのである。
 しかし、FORの生徒が必ずしも人格者ばかりかと言えば、残念ながらそうではない。FORにも少なからず、自分の欲を第一に考える者がいる。そういった者達は、講師の目を欺き、規則の裏でこっそりと自分の欲を満たしていた。

「今日の訓練も大変だったな」
「ああ、オーガ先生のシゴキは辛いからなぁ」
 賑やかな学生食堂、その一角でFORの戦学クラスのグループが、テーブルを囲み和やかに談笑していた。しかしそこに近づくグループがあった。
「そこのお前達、邪魔だ席を譲れ」
「な、急に何を言うんだ。見ての通り、ここは俺達が‥‥」
「お、おい、彼らは‥‥」
 近づいてきたグループは、突然命令するように言うと追い払うように手を振る。一人が、相手の態度に顔をしかめて断ろうとするが、他の者が気付いたように彼を止めた。
 後から来たグループもFORの生徒達であったが、、先に居たグループと違うのは、彼らが文学クラスだということだった。文学クラスとは、騎士道と教養を主に学ぶクラスで。一般的に上流階級と呼ばれる少年少女が集うクラスであった。
「‥‥彼らとは関わりあわない方がいい」
 戦学クラスの一人が、仲間に小さく耳打ちする。もちろんFOR内でクラスの違いでの身分差などはないが、彼がそう言うには理由があった。
 この文学クラスのグループは、自らを『キングエリート』と呼ぶ貴族の子息の集まりだった。彼らは自分達こそが統治する者であり、他の者は自分達に従うべきだという歪んだ選民思想の持ち主であった。校内では優等生を装いながら、校外や陰では戦学クラスや他校の生徒をないがしろにして自分勝手に振舞い。絶えず集団で行動し、多の論理で自分達の行動を正当化するのであった。一部では、彼らのことを『キンクエリート(捻れた選民)』という俗称で呼んでいた。
「僕達をいつまで待たせるんだ、どけと言ったら、どけばいいんだよ」
「く‥‥わかり‥‥ました」
 その横暴な態度に、悔しそうに顔を歪めながらも、席を立とうとする戦学クラスの生徒達だったが。
「そんな命令に従う必要はありませんわ」
「なんだと!?」
「あ、貴女は‥‥」
 突然、横から掛けられた凛とした声に、一同は振り向いた。その視線に映る、凛々しく美しいブロンドの少女。
「貴方がたが、先に席についていたのですもの。自ら望んでならともかくとして、命令されて譲る必要などありませんわよ」
「イーリス嬢‥‥彼らは、望んで僕らに席を譲ってくれるんだよ。まるで強要したような風に言わないでもらいたいな」
「‥‥最初から全て聞いておりました。命令して席を奪い取る、騎士としてその行動はいかがなものかしら?」
 少女は、『キングエリート』に毅然と言い放つ。彼らはその態度に少したじろいだ。彼女の名はイーリス・ロッテンマイヤー。FOR文学クラスの生徒で、歳は17、8。釣り目がちな瞳や細い眉など凛々しい顔立ちの少女である。学内では文武両道の、本当の優等生で、文学・戦学クラス両方の生徒に慕う者もいる。
「く‥‥僕達に指図するつもりかい。君だって貴族だ、だったら僕達が選ばれた者であり、下の者は統治され従っていればいいってことぐらいわかるだろう?」
「わかりませんわね。それに、わたくしはFORの生徒として、一騎士として、貴方がたの行為を見過ごすわけには参りません」
「ち‥‥気分が悪い。残念だけど、今日のところはこの辺で失礼するよ。戦学クラスのみなも失礼した、お詫びにこれで好きな物を食べてくれ」
 イーリスにおされ気味の『キングエリート』。一同は顔をしかめ、負け惜しみのようなセリフを残すと、テーブルにお金を置いてその場をあとにした。
「ありがとうございました」
「いえ、余計なお世話だったかしら? でも、貴方がたもあのような者達に負けぬよう、毅然と騎士としての誇りを持ってくださいね。ではごきげんよう」
「は、はい!」
 戦学クラスの生徒達は、尊敬の眼差しで彼女に礼を述べる。イーリスはニコリと笑みを返しつつ、励ましの言葉を残してその場を立ち去った。
「‥‥アイツ、目障りだな」
 食堂の出入り口で立ち止まった『キングエリート』の者達。彼らはイーリスを見て小さく呟くのであった。

「おいお前。FORの生徒だからって御高く留まってんじゃねえぞ!」
 ある日、イーリスが下校の途中、他校の不良に絡まれた。理由はまったくいわれなきものであり、不良達は勝手に因縁をつけてはイーリスを脅かそうとする。
「相手にする気にもなれませんわ。どいてくださる?」
「お、お嬢様‥‥」
 イーリスは、不良達を相手にせず、そのまま行こうとするのだが。不良達が道を塞いでいて先へと通れない。彼女に付き従う使用人であり、同じFORの戦学クラスのアルマが、不安そうに声をかけるが、イーリスは毅然と不良達を睨みつける。不良達は、その視線に激昂したように拳を振り上げたが、、イーリスは小さくため息をつき、キッと気迫のこもった表情浮かべるのだった。
「てめぇ! 俺達を舐めてるのか! 女だからって容赦しねえぞ!」
「暴力を振るうというのなら‥‥覚悟はよろしくて」

「く、くそ! こんなに強いなんて聞いてねえぞ! に、逃げろ!」
「ふぅ、口だけですわね。やっぱり相手になりませんわ」
「そ、そうですね‥‥」
 逃げていく不良達の様子に、軽く肩をすくめて剣を収めるイーリスとアルマ。日々訓練している彼女達にとって、ただの不良では相手にならなかった。
「‥‥彼らにも困ったものですわね」
「お嬢様‥‥?」
 ふとアルマがイーリスを見ると、彼女は路地の影を見つめていた。なにやら大きくため息をつく彼女に、アルマが心配そうに問いかける。
「アルマ、少し寄っていく場所ができましたわ」
「はい? あ、お嬢様お待ちを!」
 アルマの問いに答えず、イーリスは歩き出す。アルマは慌ててイーリスを追いかけた。

「ネズミを懲らしめようと思いますの。少し、人を集めてくださらない?」
「ね、ネズミですか?」
「ええ、ちょっと大きなネズミなんですけど、手伝ってくださる方を募集しますわ。詳しくは、わたくしの屋敷にてお話しますので」
「は、はぁ、ではネズミ退治の手伝いの依頼ということで‥‥」
 イーリスはクエストリガーに立ち寄ると、このような依頼をして後にした。数日後、募集によって集まった者達に。
「実は、懲らしめていただきたいネズミというのが‥‥」
 集まった者達に告げられたのは、最近彼女の周りで嫌がらせが多く、その首謀者を懲らしめて欲しいという話であった。首謀者の目星はついており、それはFORの文学クラスの生徒グループの一つ『キングエリート』なのだそうだ。彼らの嫌がらせの証拠を掴み、二度とそういうことをしないよう懲らしめる手伝いをして欲しいとのことであった。
「貴方達をこうして呼んだのは、事を荒立ててFORの品位を下げたくなかったからですわ。生徒会にも知らせるつもりもありませんので、くれぐれも内密にお願いいたします。では、よろしく頼みますわよ」

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1263 比良坂 初音(28歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3117 陸 琢磨(31歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「親の脛かじりで威張るのは情けないです‥‥」
「ええ、僕もそう思いますよ。高貴な者を自認するにはお粗末ですねぇ」
 人遁の術でFORの生徒に変装した大宗院透(ea0050)が小さくつぶやくと、校舎内を案内していたトリア・サテッレウス(ea1716)がニコニコと笑みを浮かべたまま頷く。彼らは、依頼人への嫌がらせの犯人と思われる貴族グループ『キング・エリート』の、学校内での動向を探ろうとFORに来ていた。
「さて、僕は彼らを探して取り入ってきますか」
「私は情報収集と尾行を‥‥」
 トリアは、グループに取り入り真相を聞きだすことにし、大宗院は忍者の身のこなしを利用して聞き込みと主要メンバーの尾行を行うことにした。
「キングエリートは金の襟と驕りが目印です‥‥ちょっと、無理があります‥‥」
「はは、駄洒落ですか? それでは、いきますね」
 大宗院がポツリと駄洒落を呟くが、上手くネタが思いつかなかったらしく少し残念そう。トリアは、その様子にも笑みを崩さず軽く手を振って分かれるのだった。

「FORでの調査はトリアと透に任せて、俺達は姫を襲ったという不良どもを探すか」
「そうですね、イーリス嬢の護衛は付いてますし。我々は手分けして実行犯を捕まえましょう」
 ライノセラス・バートン(ea0582)とルーウィン・ルクレール(ea1364)もFORで調査を行う予定であったが、忍者の大宗院の方が適任だと考え、FORの調査にこれ以上人員を割くのを止めた。
 何故か、依頼人のイーリス嬢を『姫』と呼ぶライノセラス。彼らは手分けして、事前に聞いておいた不良達の人相などを思い出しつつ、街中で情報収集することになった。

「ふん、手加減してやっただけありがたく思うんだな」
「ふふ、他愛も無いこと」
「うぐぁ! 護衛がいるなんて聞いてねぇぞ。覚えてやがれ!」
 イーリスの護衛についていた陸琢磨(eb3117)と比良坂初音(eb1263)は、勝手なインネンをつけて殴りかかってきた不良達を追い払った。お決まりの捨て台詞を残し逃げていく不良達。
「ただいま〜」
 空から声が聞こえデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)がゆっくりと地面に降りてきた。
「お帰りなさい、それでどうでしたの?」
「うん、予想通り不審なFORの生徒がいたから追いかけてったら、お屋敷の中へと入って行ったよ」
「この辺りで屋敷を持っている者は限られてるわね」
 魔法で空から不審者を警戒していたデメトリオスの報告で、不良達の結果を見届ける者が屋敷に入っていったことがわかった。力を誇示するような貴族風の屋敷、比良坂が言うようにキングエリートの一人が住んでいる屋敷であった。
「乗り込むか?」
「いえ、ちゃんと証言を集めてからですわ」
「ふん、悠長なことだ」
 陸に小さく首を振るイーリス。つまらなそうに肩を竦める陸だった。

「あの女には、僕もいささか思う所がありまして。あの様な者は、貴方がたに従ってこそ。そうでしょう? よければ、僕もお仲間に加えていただきたいのですが」
「よくわかってるじゃないか。まぁ、僕達のような本当に選ばれた者こそ人の上に立つのに相応しい。お前も僕達に従うなら、使ってやってもいいぞ」
「ありがたき幸せ‥‥」
 グループに上手く取り入ったトリア。彼らの言動を不快に思っても、笑みを絶やさないのはさすがといったところであろう。

「なるほど‥‥人の上に立つというわりには、あのグループ自体にはリーダーがいないですね‥‥」
 聞き込みと尾行を続けていた大宗院。その調査によりキングエリートの構成をある程度掴むことに成功した。
 貴族の子息の集まりであるキングエリートには、明確なリーダーが存在しない。自分達のわがままを押し通すために、絶えず集団で行動しているというだけで、先導者のいないまとまりの無いグループであった。しかし逆に、リーダーがいないために実態が把握しづらいということもあるようだ。
「前にそのようなことが‥‥」
 聞いたところ、グループ内で何人か退学者が出ているようであった。どうやらグループの保身のためにスケープゴートとして切り捨てられたらしい。大宗院は彼らの心の醜さに顔をしかめるのであった。

「姫を襲ったのはお前達だな!」
「何故、イーリス嬢を襲ったのか言いなさい」
 手分けしてイーリスを襲った不良達を探したライノセラスとルーウィンは、彼らが溜まり場にしている路地裏に乗り込んだ。不良達は抵抗するが、熟練の騎士である二人の相手ではない。
「お、俺達はただたんに金を貰って頼まれただけで‥‥」
「誰に頼まれた!」
「貴族のぼっちゃんだよぉ、FORの制服を着てたな。頼むからもう許してくれ〜」
「やはりそうですか‥‥。貴方達には証人になっていただきます、いいですね?」
「わかった、わかったから‥‥」
 おとなしくなった不良達を問いただす二人。不良達の話から、やはりキングエリートの仕業であることを突き止めると、不良達に証人になることを約束させるのだった。

「ハーブティーです、よろしければどうぞ」
「これは、わざわざどうも」
「うわぁ、こんな食べ物おいら初めて食うよ。さすがは貴族だなぁ」
「家主として、客をもてなすのは当然ですわ。それで、証拠は掴めまして?」
 使用人のアルマに差し出されたお茶とお菓子に、頭を下げるライノセラスと目を輝かすデメトリオス。数日たち、調査の報告に集まった一同は、イーリス宅にてもてなしを受けつつ報告を行った。
「そうですか、まったく彼らにも困ったものですわね。自尊心が高いだけで、貴族としても、騎士としてもなってませんわね」
「まったく、一部の者とはいえ情けない話です。私もFORの者として悲しく思います」
「人間としてもどうかと思いますけどね。イーリスさんの持ち物を盗んでくるよう命令されてしまいましたよ、ははは」
「あら、でしたらこの羽ペンでもお持ちになって。良い証拠になるでしょう」
 報告を聞き、大きくため息をつくイーリス。ルーウィンが同意するように頷く。トリアが、キングエリートに命令されたことを伝えると、イーリスは高級そうな羽ペンを取り出して手渡した。
「それで、これだけの証拠と証人があれば言い逃れもできないと思うけれど。決闘や訓練という名目で呼び出します?」
「そうですわね、決闘はともかくとして、一緒に訓練とでもいって呼び出しましょう」
 比良坂の問いかけに、イーリスは頷いた。ちなみにイギリスで『決闘』というと、基本的には馬上でのランスチャージによる一騎打ちが主流だ。さすがにそんな大げさなことにはできないので、訓練という名目で呼び出すことにした。
「後腐れなく暗殺した方がよろしいのでは‥‥」
「ようやく出番か、楽しみだ」
「あら、手荒なまねはなるべくしてはなりませんよ。事を大きくしたくはありませんからね」
「む‥‥しかたない‥‥か」
 真顔で冗談を言う大宗院と、ボキッと楽しそうに拳を鳴らす陸に、イーリスは釘を差した。陸はいささか不服そうだが、依頼人の言うことなのでしかたなく従うことにした。

「やぁイーリス嬢。こんなところに僕らを呼び出して訓練とは、なんのつもりだい?」
「わざわざ来ていただき恐縮ですわ、訓練というより少しお話をと。でも、貴方がたも他の者には聞かれたくないことでしょうから」
「なに‥‥。い、いったい、なんのことかな?」
 校舎の隅に呼び出された貴族グループ『キング・エリート』。最初余裕を持っていた様子の彼らであったが、イーリスの話に動揺したようにざわつきだした。
「ここ数日、わたくしに嫌がらせをしていらしゃったでしょう?」
「なにを証拠に。変な言い掛かりはやめてくれないか」
「証人ならいますよ」
「ああ、間違いない。そこのヤツが、女にいちゃもんつけろって命令したんだ」
 とぼけようとする彼らに、校舎の影から現れたライノセラスが、不良に証言させる。不良は、グループの中の一人を指差した。
「ど、どこの馬の骨とも知らない不良の話など真に受けてもらっても困りますね」
「申し訳ありませんが、貴方がたを尾行して命令した所をみています‥‥」
「おいらも、不良の様子を見て逃げてったそこの人が、屋敷に入っていく所をちゃんとみているんだぞ」
「ぐ‥‥」
 不良の証言を無視しようとする貴族たちだが、大宗院とデメトリオスが問いただす。
「物的証拠がないじゃないか! あまり僕らを侮辱すると許さないぞ!」
「すいませんねぇ。物的証拠‥‥あるんですよねこれが」
「な、なに!? お前、裏切るのか!!」
「はい。まぁ、最初からその予定だったんですけどね」
 強気に出ようとする彼らの中から、ニッコリと笑みを浮かべたトリアが出てきた。その手には、イーリスから盗んだ(ということになっている)羽ペンがある。突然の裏切りに、焦るキングエリート。
「まだ言い逃れをしようというのかしら? 下衆ども‥‥」
「これ以上何か言うのなら、徹底的にやらさせて貰おう‥‥」
「わ、わかった! これ以上、イーリス嬢にはなにもしない! うわぁ!」
 比良坂と陸は凄みを利かせて詰め寄る。二人の本気の様子を感じ取ったのか、慌てて罪を認めると一人が逃げ出し、それにあわせて他の者達も逃げ出した。
「待て!」
「もう結構ですわ。これであの方達も多少は懲りたでしょう」
「甘いな‥‥あの程度ではあの下衆どもは何も変わりはしないぞ」
「わたくし、弱い者いじめは嫌いですの。そんなことをしてはあの方達と変わりませんから」
 追いかけようとする陸を止めるイーリス。不服そうな陸に、イーリスは首を振ってニッコリと微笑んだ。
 とにかくもこの事件で、しばらくのあいだキングエリートはおとなしくなったようだった。