歩け! 歩け!
|
■ショートシナリオ
担当:緑野まりも
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月13日〜10月20日
リプレイ公開日:2005年10月19日
|
●オープニング
「母ちゃん、いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
フリーウィルの制服に袖を通したパラの少女が、元気な声を上げて家を飛び出る。少女の名はアップル、歳は15、6でボサボサの赤茶の髪が印象的な、元気な女の子である。
ある事件をきっかけにして、憧れの冒険者養成学校フリーウィルに入学することになったアップルは、毎日楽しそうに学校に通うのであった。
「おはようございます!」
「おはようアップル君、毎朝ご苦労さんだね」
朝早く登校したアップルは、初老の講師に挨拶をすると、校内の掃除を始める。床拭き、ごみ拾い、草むしりなどなど、朝の掃除は彼女の毎日の日課であった。
「しかし、もう罰はすでに済んでいるのだから、君がそんなことをしなくてもいいのだよ?」
「ううん、貧乏なオレっちを入学させてくれたこの学校に、少しでもお礼したいし。なんか習慣になっちゃったしね、へへ‥‥」
初老の講師に言われ、小さく首を振って照れくさそうに笑うアップル。元々は、彼女を奨学生として入学させる条件の一つとして課せられたことであったのだが、入学後も習慣のように行っていたのだった。
「さぁ、掃除はそのへんにして教室に向かいなさい。そろそろ、授業の始まる頃だよ」
「うん! わかりました」
「勉強がんばりなさい。‥‥紆余曲折はあったようだが、良い子のようでよかった」
授業の時間になり、初老の講師に促されて教室へと向かうアップル。彼女を奨学生に推薦した講師は、楽しそうに走っていく少女の姿に、満足そうにニッコリと微笑んだ。
「なぁアップル聞いたか? 今度、生徒会の企画で交流遠歩大会があるんだってよ」
「交流遠歩大会? なにそれ? 遠足と違うのか?」
「なんでも、決められたルートを歩いて近隣の村に立ち寄り、そこで色々な手伝いをしてポイントを稼ぎつつケンブリッジに戻ってくるんだってよ」
授業も終わり、下校しようとしていたアップルに、クラスの友人が声をかけてきた。友人の話は、『交流遠歩(えんぽ)大会』というものが開催されるというものだった。内容は、決められたルートを七日間かけて歩き、途中にある村に立ち寄っては村の手伝いなどをしてポイントを稼ぎ、そのポイントの多さで順位を決めるというものだった。
主な目的は、ケンブリッジと近隣の村の交流を深めようというもので、村のお手伝いをするのはそのためであった。交流をちょっとしたゲーム感覚で楽しんでもらおうと、生徒会が企画したのだが、上位入賞者にはなにかしらの賞品が出るらしい。
「なに!? 賞品も出るのか! よし、オレっちも参加してみようかな」
「お前ならそういうと思ったぜ!」
話を聞いたアップルは、グッと拳を握って気合をいれると頷いた。話をした友人も、二カッと楽しそうに笑う。近隣の村のお手伝いというのも、また一つの冒険者の勉強になるだろう。アップルは、賞品のためだけでなく、自分の力を試すということも兼ねて大会に参加することにした。
生徒会より‥‥『交流遠歩大会』貴方も参加してみませんか? 参加受付はクエストリガーにて行っております。
●リプレイ本文
晴れ渡る空、気持ちのいい秋空の下、『理の門』には多くの人が集まっていた。
「お集まりの皆様、本日は交流遠歩大会にご参加いただきありがとうございます! え〜、お日柄も良く‥‥」
ワイワイガヤガヤといつになく賑やかな中、司会の生徒会役員が声を張り上げるが、何人が聞いているのやら。
「ふむ、天候の方は問題なしと‥‥あら、可愛らしい猫ね! お名前はなんていうの?」
「イドラだよ。せっかくだし、一緒に歩こうと思ってさ」
魔法でこれからの天候を調べていたサラン・ヘリオドール(eb2357)は、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)の連れている猫を見つけて笑みを浮かべる。デメトリオスは、猫の名を聞かれると嬉しそうに答え優しく撫でた。
「へえ、そっちの子はイドラっていうんだ。あたしの子はレヴァだよ」
「おいらのは太助っていうんだ〜‥‥って、驚かしちゃった?」
「わわ! イドラ暴れちゃダメだよ。大丈夫だから、大丈夫、よしよし‥‥」
二人の会話に混ざるように、ミカエル・クライム(ea4675)と蔵王美影(ea1000)も自分のペットの紹介をする。しかし、蔵王のボーダーコリーにデメトリオスの猫が驚いてしまい、デメトリオスの肩によじ登ろうとする猫を慌てて落ち着かせることになった。
「ふふ、楽しそうね。あ、そろそろスタートするみたいだわ」
「‥‥それでは、交流遠歩大会開始致します! よーい、スタート!!」
その様子を楽しそうに眺めていたサランが、司会の様子に気付き皆に注意を促す。司会は、ようやく前口上が終わったのか、大会の開始を宣言し大きく手を振りかぶる。これから七日間をかけて村々を巡る、交流遠歩大会が開始されるのだった。スタートの合図と共に、参加者一同は一斉に門を抜ける。
「よし、あたし達も出発しよう! 楽しんでいきましょね!」
「うん! あ、太助待ってよ〜」
「さ、イドラ、おいら達もがんばるぞ!」
「私は、風景を楽しみつつゆっくり行くわね」
ミカエル達も『理の門』を抜けて、街道を歩き出す。一部の走り出す参加者につられたのか、蔵王のコリーが走り出し、それを追いかけて蔵王も走り出すのであった。
「あら、綺麗な川ね」
ゆっくりと風景を楽しみながら歩くサランは、街道を少し逸れた場所にある川に立ち寄ってみた。川はキラキラと陽光を返し、せせらぎが気を落ち着けさせてくれる。どうやら幾人かの遠歩参加者も、ここで休憩しているようだ。
「あの子、川に入ってなにやってるのかしら?」
「えい! やった、取れた!」
サランが川を眺めていると、ボサボサな赤髪の少女が川に入って何かをやっていた。少女は、しばらくの間ジッと水面を見つめると、パッと両手を水中に突き入れて、一瞬のうちに魚を掴み上げた。
「へぇ、なかなかやるわね〜。ねぇ、その魚どうするの?」
「ん、もちろん今日の昼飯だよ」
その様子に興味を覚えて、サランが少女に話しかける。少女は魚を掴んだまま、満面の笑みで答えた。少女も遠歩の参加者のようだが、用意された保存食だけでは物足りないらしい。
「そうなんだ、よかったら私もお昼ご一緒していいかしら?」
「ん、いいよ〜。じゃあ、お姉さんの分も魚取ってやるよ!」
「ありがとう。私はサラン、あなたの名前は?」
「オレっちはアップル! よろしくな!」
ひょんなところで赤毛の少女アップルと仲良くなったサランは、一緒に魚を食べるのだった。
遠歩二日目、一つ目の村にたどり着いた参加者一同、ここでは畑仕事の手伝いを頼まれることとなった。麦の刈り取り、野菜の収穫、畑の開墾、牧畜の世話などなど、各々が得意なことを手伝っている。
「ふむふむ鎌の使い方はこうだね‥‥うん、わかったやってみる!」
村の者に教わりながら麦を刈り取りを手伝う蔵王。麦畑の中で隠れそうになりながら、なれない手つきで麦を刈っていく。
「よっと、うまく手首のスナップを利かせてっと‥‥」
「もうコツを掴んだのかい? 君は物覚えが速いね、お陰で助かるよ」
「へへへ、どういたしまして!」
しばらくすると手先の器用な蔵王は、鎌の使い方のコツを掴み。サクサクと麦を刈り取っては、村人に褒められるのだった。
「ぷはぁ〜、疲れた。少し休憩‥‥」
「ごくろうさま。はい、これをどうぞ。冷えているから、疲れた身体に気持ちいいのよ」
疲れた蔵王が休憩していると、サランが冷たい水を持ってやってくる。彼女は、よく冷えた村の井戸水を畑仕事をしている村人や参加者達に配っていた。
「ありがとう! よしまたがんばるぞ」
「ふふ、元気ね、がんばって」
飲み物を飲んだ蔵王は元気を取り戻したかのようにピョンと跳ね起きる。サランは、その様子に小さく笑みを零して、軽く手を振りながら次の人へと飲み物を配りに行くのだった。
遠歩四日目、二つ目の村に着いた一同は、村の特産品のリンゴの収穫をお願いされた。木になっている綺麗に色づいた秋の味覚リンゴに、一同は目を輝かせる。
「うはぁ、美味しそうだなぁ、ジュル‥‥」
「勝手に食べちゃだめよ? あ、でもお手伝いのお礼に少し分けてもらうとか〜、こう丸ごとカプっとかじりつくと最高‥‥」
リンゴの木を見上げてついついヨダレが出てしまうデメトリオス。その様子にミカエルは注意するが、どうやら彼女もリンゴに誘惑されているようだ。
「わ、わかってるよ、あはは‥‥。じゃあ、おいらは魔法で木に登ってリンゴを取るよ。リトルフライ!」
「あ、いいなぁ。う〜ん、アッシュエージェンシーじゃちょっとリンゴ狩りは無理かしら」
なにやら慌てた様子のデメトリオスが、魔法でフワリと空に昇っていくのを羨ましそうに見上げつつ、ミカエルは少し残念そうに肩を竦めた。
「‥‥ここなら、木の陰になってみえないかな。へへ、ちょっとだけならいいよね」
しばらくフワフワと浮きながらリンゴを取っていたデメトリオスだったが、我慢できなくなったのかこっそりと枝葉に隠れてリンゴをつまみ食いしていた。
「ん、美味しい! 幸せだなぁ。‥‥っと、あれは」
リンゴにかぶりつき満面の笑みを浮かべていたデメトリオスは、ふと木の陰に赤毛の少女アップルの姿を見つける。
「こんにちは〜」
「あ、お前は‥‥」
デメトリオスが声をかけると、アップルは少し驚いたように見つめて、照れたように視線をはずした。
「えっと‥‥その、お前達のおかげでフリーウィルに入ることができた。色々迷惑かけたけど、ありがとうな」
「ううん、気にしなくていいよ。いい評判聞いてるよ、これからもがんばって」
「お、おう! ところで、お前なに食べてんだよ‥‥」
「え、これ!? あ、あはは、アップルも食べる?」
「つまみ食いとかダメだろ〜。ったく、いいヤツなんだか悪いヤツなんだか‥‥あはは!」
つまみ食いを指摘されて照れ隠しに笑うデメトリオス。アップルはその様子に、同じ名前の果実が明るく色づいたように楽しげに笑うのであった。
六日目、三つの目の村で一同は、活気が満ちた様子で歓迎された。すでに村では収穫祭の準備が行われているようで、村の広場では多くの村人が集まっていた。
「お祭り! 燃えるわ!」
「おいらも祭りは大好きだ!」
ミカエルとデメトリオスは、祭りと聞いて居ても立ってもいられないようすで走り出す。二人は会場設営や、中央の焚き火などの準備を積極的に行った。
「あはは、二人とも元気だね。おいらは出し物のほうでがんばっちゃおう」
「そうね〜。あの、よろしかったら踊り手として参加させて頂けませんか?」
「ああ、もちろん大歓迎だよ。せっかくのお祭りだ、ぜひ楽しんでいってくれたまえ」
二人の様子を楽しそうに眺めながら、蔵王とサランは祭りに行う催し物の準備をする。村人達も、二人の申し出を歓迎してくれた。
準備も終わり日も暮れた頃、遠歩参加者も加わって熱気溢れる村では収穫祭が開催された。焚き火を囲んでダンスを踊り、収穫された作物で作ったたくさんの料理を食べ、新しくできたお酒を振舞っては浮かれ騒ぐ。村人も、遠歩参加者も、皆仲良く楽しんだ。
「いちば〜ん、MOONRISEの蔵王美影! 一瞬にして布の向こうの人が違う人に入れ替わるマジックを披露するよ!」
特設に設けられた壇上の上で、蔵王が布で隠れた一瞬のうちに違う人物に変身するマジックを披露する。マジックといっても忍法なのだが、そのようなことわかろうはずもなく、一瞬で入れ替わるように見えたそれに一同、ヤンヤヤンヤと囃し立てる。
「にば〜ん、踊り子サラン・ヘリオドール! おどりま〜す!」
「よし、あたしもお手伝いしよう! ファイヤーコントロール!」
お次は、サランがエジプトの民族舞踊を披露する。村人のほとんどは初めて見る踊りであったが、その優美で華麗なダンスに目を奪われる。そして、ミカエルがその踊りに合わせて焚き火の火を動かすことによって、よりいっそう幻想的な雰囲気に包まれた。
その後も、さまざまな催し事が行われ、祭りは例年よりも大きな盛り上がりをみせつつ終了した。
七日目、様々な交流を行いつつもようやく戻ってきたケンブリッジ。参加者達は、多くの思い出と経験を得て満足そうだ。
「お手伝いポイントの集計が終了しました。さぁ! おまちかねの上位入賞者の発表を行います!」
「‥‥次は各村で順当に稼ぎ、最後に美しいダンスを踊ってくれた、サラン・ヘリオドールさん!」
「わ〜! おめでとう!!」
司会の発表に歓声があがり、サランに惜しみの無い拍手が送られた。こうして入賞したサランには『イギリス王国博物誌』が贈られ。また、他の参加者にも参加賞として『チケット一番風呂ゲットだぜ!』が贈られることになった。
そして、秋の遠歩大会は盛況の元に幕を閉じるのだった。