リーダーの秘密

■ショートシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2005年11月06日

●オープニング

「ふぁ〜あ、今日は珍しく暇だなぁ」
 受付の少年が大きく欠伸をする。いつもは多くの人で賑わうクエストリガーであるが、今日は珍しく人が少なかった。退屈そうに受付の机に頬杖つく少年、このまま何事も無く一日が終わればと思うのだが、その思いは儚くも散ってしまう。
「邪魔するぜ、このやろう!」
「ひぇ!?」
 突然、入り口のほうから大きな声が聞こえたかと思うと、受付の少年の前に厳ついお兄さんが立っていた。お兄さんといっても、もちろん彼の兄というわけではない。一見して不良といった感じの、おっかないお兄さんということである。
「ここが仕事を請け負ってるっつうクエストリガーだな、そうだろ!」
「は、はい!」
 絶えず眉を寄せて厳しい表情を浮かべ、フリーウィルの制服をだらしなく着崩し、威嚇するような大きな声で話しかけてくる男。どこからどう見ても不良の彼に、恐れおののく少年。不良は、初めて来るのか確かめるように周囲を見渡し、ドンと受付の机に膝をつくと、まるで睨みつけるかのように下か少年を見上げる。
「オレは邪鬼のリックってもんだ!」
「ひ! は、はい‥‥そ、それでご用件は‥‥」
 厳つい男に睨まれて、身を振るわせる少年。『邪鬼』といえば、フリーウィルの不良グループで有名で、一般学生には迷惑をかけないをモットーにしていると聞いているが。相手の様子では、なにか依頼中に彼らと問題でも起こして、クエストリガーにお礼参りにでもきたのだろうか。そんなことを考えて、少年は誰か助けてと心の中で祈る。ちなみに、周囲のほかの受付仲間達は離れて様子をみている薄情者だ。
「おぅ! ちょっと頼みたいことがあってよ!」
「た、頼みたいこと‥‥ですか?」
「そうだよ、お前んとこじゃ冒険者ギルドみたいに依頼を受けて、それを斡旋してんだろ!」
「え、ええ、まぁ‥‥そうなんですけど」
「だから、その依頼ってやつをしにきたんだよ!」
「う、はい‥‥。そ、それでどのようなご依頼なのでしょうか?」
 予想外の言葉に驚く少年。いやクエストリガーに来るのは依頼を受けに来るか、頼みに来るかのどちらかなのだが。とにかく、ようやく気を取り直した少年は、恐る恐る不良に問いかける。これで、喧嘩の手伝いとかだったどうしようかと思うが。
「それがよぅ、最近ウチのリーダーの様子がおかしいんだ」
「は、はぁ‥‥」
 彼の話では、ここ数日、邪鬼のリーダーの様子がおかしいらしい。よく一人でフラリとどこかに消えてしまい、足取りがつかめないそうなのだ。集会に遅れて現れたりすることも、いままでにないことだ。どうやら何か隠しているようなのだが。
「そこでよぅ、お前らにちょっと探ってもらおうと思ってよ。リーダーに気付かれないようにして、なにをされてんだか調べて欲しいんだ。受けてくれるか!」
「そ、それは良いのですが‥‥。直接尋ねられた方がいいのでは」
「それができれば誰も頼みにこねえ!」
「ひぃ!」
 ついついと、素直に言葉を漏らしてしまう少年。リックがドンと受付の机に両手を叩きつけるのを、怯えて身を引く。
「おっとすまねえ、ついつい声が大きくなっちまった。俺たちのモットーは一般生徒に迷惑をかけねぇことだからな、脅かしちまったら謝る」
「い、いえ‥‥」
「本当は、リーダーのやってることを詮索するようなことはしたくねえんだ。だけどよ、最近なんか色々一人で考え込んでるようでよ、オレは心配なんだ! 何か困ってるんじゃねえかってよ。といって、リーダーの事だ、聞いてもオレらに迷惑かけねえようになんでもないって答えるに決まってる。だから、お前らに頼んでこっそりと様子を見て欲しいんだよ!」
 リックは少年に軽く頭を下げると、なにやら悔しそうに拳を握り締めて語りだす。少年は、怯えながらも依頼内容を書き留めることにした。
「わ、わかりました‥‥では、リーダーさんの調査ということで依頼を出しておきます。ほかに、なにか気付いた所はありませんか?」
「おぅ頼んだぜ! ん、あとは最近リーダーの雰囲気が和らいでるような気がするぐれえだな。そうそう、くれぐれもリーダーには内密にな! もしバレたら‥‥わかってるよな!」
「は、はい‥‥」
 依頼が受理されると、嬉しそうに顔を上げるリック。しかし、忠告するように一瞬少年を睨みつける。その視線に怯えながら、何度もコクコクと頷く少年。
「じゃ、よろしく頼むぜ!」
「‥‥は、はぁ‥‥殺されるかと思った」
 ようやく意気揚々と帰っていくリックを見送り、少年は大きくため息をつくのであった。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5996 エルフィーナ・モードレット(21歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 eb3425 カッツェ・シャープネス(31歳・♀・レンジャー・ジャイアント・イスパニア王国)

●サポート参加者

エルネスト・ナルセス(ea6004

●リプレイ本文

「やぁ、この間はすまなかったね。お詫びも兼ねてちょいと様子を見にきたよ」
 邪鬼のリーダーの動向を探ることを依頼されたカッツェ・シャープネス(eb3425)だったが、いきなり邪鬼の溜まり場に向かうとリーダーに挨拶をした。
「アンタか‥‥こっちもたいして役に立てずに悪かったな」
「いや、おまえさんの気持ちはだいたいわかってるからかまわないよ」
 彼女は、前にリーダーと話したことがあったので、それを話のネタに彼の様子を探りに来ていた。リーダーも、無下には追い返さずに、カッチェに挨拶を返す。
「ところで、気のせいかも知れないけどさ、悩みとかあるんじゃないのか?」
「‥‥いや、ないな」
 カッチェは前のことを少し話した後、今回のことを切り出してみた。しかし、リーダーは厳つい表情を変えることも無く軽く否定する。
「そうかい、まぁなにかあったら話に乗るよ。それじゃまたね」
「‥‥‥」
 カッチェは、あまり長居するのも怪しまれると思い、ここで退散することにした。たいした収穫にはならなかったが、一つわかったことは、たしかに雰囲気が少し和らいでるように感じたことだった。

「聞き込みですか? よろしければ私も同行いたしましょう」
「あら、よろしいんですの?」
「ええ、女性一人では危険な場所もありますからね」
 聞き込みを開始したエステラ・ナルセス(ea2387)にルーウィン・ルクレール(ea1364)が同行することになった。エステラはなにやら楽しそうにクスッと笑みを零す。
「なにか?」
「いえ、素敵な殿方とご一緒できるのは嬉しいのですが、旦那様が嫉妬されるのではないかと、ふふ」
「む‥‥」
 楽しそうに笑うエステラに、少し困ったように眉をひそめるルーウィン。
「ところで‥‥それはネズミ‥‥ですか?」
「ええ、そうですわ。なにかおかしな所でも?」
「いえ、どちらかといえば愛らしいですが‥‥なぜそのような格好を」
「まぁ、嬉しい。これを着ると暖かいからですわ」
「そうですか‥‥」
 ルーウィンが、エステラの姿に不思議そうに問いかける。というのも、エステラは全身ネズミの格好をしていたからだ。エステラも小首を傾げて聞き返し、その返事に嬉しそうに微笑んで、その格好の説明を簡潔に答える。ルーウィンは、顔には出さなかったが、いささか困惑したようであった。
 街中を歩きながら、エステラはため息をつく。
「赤の他人であるわたくしたちが、本当に調べて良いのかしら? リーダーの方の矜持に関わる事を知ってしまったら、申し訳ないと思いますわ」
「依頼である以上仕方ないでしょう。私達は、依頼通りに彼を調べればよい。その後のことは当人に任せます」
「そうです‥‥わね」
 エステラは、依頼であるので仕方ないが、できれば当人自身で解決する問題であると思っているのであろう。それに対し、ルーウィンは感情のこもっていない声で答え、仕事と割り切っているようであった。
「さて、聞き込みを致しましょうか。まずはあの方から‥‥。こういった方を探しているのですが、なにかご存知ではありませんでしょうか? いえ、先日助けていただいてお礼を言いたいのですけれど」
 エステラ達は、彼女の夫が調べてくれた情報をもとに、聞き込みを開始する。ネズミ姿に驚く者もいたが、理由を話せばある程度のことは話してくれた。嘘も方便と彼女は思うのだけれど、まさか仲間がその通りの目に遭っているとは思ってもいなかった。

「出てきましたね。一人‥‥でしょうか」
「ふむ、そのようじゃな。では、わしは別方向から尾行をするぞ」
「はい、私は悟られないよう離れて追いますね」
 グループの溜まり場から一人で出てくるリーダー。それを隠れて待っていたエルフィーナ・モードレット(ea5996)とメリル・マーナ(ea1822)は、彼の行動を探るために尾行を開始した。
 隠密行動の得意なメリルは、リーダーの近くで路地裏などに身を隠しながら尾行し。エルフィーナは、彼の後ろを悟られぬように離れて追いかけることにした。
 しばらく尾行を続けると、リーダーは通りを外れて一つの路地裏奥へと入っていく。聞くところによれば、学生メインの都市ケンブリッジでも比較的治安の悪い場所であった。
「このような所に、いったいどんな用事が‥‥」
 エルフィーナは、リーダーを追いかけて路地裏に入るが、薄暗い様子に不安げに顔を曇らせた。貴族故、こういった雰囲気には慣れていないのだ。
「あ、見失ってしまいますわ」
 そんな路地裏を、気にした様子も無く進んでいくリーダーを、慌てて追いかけるエルフィーナ。しかし、それを邪魔するように影が立ちふさがった。
「ね〜ちゃん、こんな所に一人でなんのようだい?」
「すいません、先を急ぎます」
 立ちふさがった影は、軽薄そうな笑みを浮かべた若い男であった。ニヤニヤと笑みを浮かべながら、からかうようにエルフィーナに声をかける。エルフィーナは、相手にせずにリーダーを追いかけようとするのだが。
「おっと、待ちなよ。女が一人でなにしにきたか知らねえけどよ、ちょっと俺達に付き合えよ」
「っ! 離しなさい、貴方がたの相手をしている暇は‥‥」
「へへ、結構べっぴんさんじゃねえか」
 男に腕をつかまれたエルフィーナ。嫌悪感で手を振り払うが、ふと気付けば周りには数人の男が、同じような下卑た笑みを浮かべて取り囲んでいた。エルフィーナは顔をしかめて、メイスへと手を伸ばし‥‥。
「なんだてめぇ‥‥ぐぁ!」
「女一人に複数で、感心できんな」
「ちっ! 邪鬼んとこの!」
 突然、一人の男が吹き飛ぶ。そして、男達は相手が誰かわかると、一目散に逃げていった。
「貴方は‥‥」
「余計なお世話だったか? だが、騎士学校の生徒がこんな所でいらぬ問題を起こすことはないだろう」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
 エルフィーナを助けた者は、彼女が追いかけていた邪鬼のリーダーであった。どうやらリーダーは、彼女が男達を追い払える実力があることに気付いたうえで助けに入ったようであった。騒ぎに気付いて、わざわざ戻ってきたのだろうか。
「とにかく、こんな所に女一人でくるもんじゃないな」
「はい‥‥あの、貴方はなぜここに?」
「ん‥‥俺の家はこの奥だからな」
 リーダーの言葉に、エルフィーナは頷いて問い返す。リーダーは路地裏の奥を指しながら答えた。つまり、彼は路地裏の奥に住んでいるということだった。
「そうですか‥‥。あの、ぶしつけですが、なにか悩みでもあるのではないですか?」
「‥‥前にもそんなことを聞かれたが、特に無いな。では、俺はそろそろ行く。アンタも早くこの場を立ち去った方がいい」
「わかりました‥‥最後に、お名前をお聞きしてよろしいですか? 私はエルフィーナ・モードレッド。貴方は?」
「ああ、ジョナサン・ジョーンズだ」
 続く問いかけには首を横に振り。名を告げて立ち去るリーダーことジョナサン。エルフィーナは、顔をあわせてしまった以上は尾行を断念し、彼の背中を見送った。

「ふむ、一時はどうなることかとも思ったが、噂どおり天晴れなヤツじゃの」
 その様子の一部始終を見ていたメリル。いざとなれば石でも投げつけてやろうと思っていたが、ジョナサンが助けに入ったのを見て、石を捨てて満足そうに頷いた。そして、再び尾行を再開する。
 しばらくすると、路地裏の奥にある一軒の家にジョナサンが入っていくのを突き止めたメリル。忍び足で、こっそりと家の中の様子を確かめると‥‥。
「む‥‥これは‥‥。たしかに、隠しておきたくなる気持ちはわからんでもないがのぅ‥‥。まぁ、これも仕事じゃし、報告に戻るとするかの」
 中を覗き込んだメリルは、納得したように呟き苦笑を浮かべた。そして、軽く肩をすくめて報告に戻るのであった。

「リーダーが子猫を飼ってるってぇ!?」
「うむ、おぬしの所のリーダー宅まで尾行して確認したのじゃ」
「聞き込みでも、たしかにここ数日はまっすぐ自宅に帰っている様子です。まず間違いなく、彼の悩みというか秘密はその子猫でしょう」
 依頼人リックに報告したメリル。エステラ達の調査でも、学食からミルクを貰ったり、猫の育て方を聞いたりしていたということがわかっている。
「ざけんな! あの人は硬派なんだぞ。そんな、女子供みたいなことするわけ‥‥」
「と、おぬしらがリーダーに理想を押し付けとるから、リーダーはそのことを言えんのではないか?」
「ぐっ‥‥」
 リックは、信じていない様子だったが、メリルの反論に言葉をつまらせた。思い当たる節があるのか、リックは悔しそうに顔をしかめた。
「まぁ、それならたしかに雰囲気が和らいでる理由にも当てはまるね」
「小動物は心を和ませますからね」
 カッチェとルーウィンが納得したように頷く。
「あの方は、弱き者を助けることができる優しい方です。だったら、子猫を助けて育てることも不思議ではないでしょう?」
「‥‥くそ、知ったような口利きやがって! ああ、わかってるよ! あの人は、人だろうが猫だろうが、弱いやつを助けちまう性分だってな!」
 エルフィーナの言葉に、悔しそうに、しかし気が晴れたように報告を認めたリック。
「認めたのなら、そのあとにどうするかはおぬしら次第じゃぞ」
「けっ! おせっかいなヤツラだ。依頼人が依頼の報告を認めたんだからそれでいいだろうに‥‥。俺たちはなにがあろうとリーダーについていく、リーダーが子猫を助けるんだったら、俺たちも子猫を助けるさ」
 メリル達に憎まれ口を叩きながらも、苦笑を浮かべるリック。しかし、表情は晴れやかで、リックの悩みも解消されたようであった。
 依頼は無事解決し。これからは、もっと『邪鬼』の結束が固くなるであろう。