オーガの落し物
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■ショートシナリオ
担当:緑野まりも
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月16日〜11月19日
リプレイ公開日:2005年11月25日
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●オープニング
「ぐおぉぉぉ!!」
「人に仇なすオーガよ! 恨みは無いが、村の安寧のために退治させてもらう!」
雄たけびをあげて突進してくる巨漢。俺は、キッと相手を睨みつけ、クレイモアを握る両手に力を込める。
「さらばだ! ‥‥よ!」
そして、渾身の力を込めてクレイモアを振り下ろした。
「落し物の捜索ですか?」
「うむ、今朝見たら無くなっているのに気付いてな」
オーガ似のジャイアント騎士、FORの講師オルガ・アーヴィズはクエストリガーに落し物の捜索を依頼しに来た。
「それで、いったいなにをお探しすればよろしいのですか?」
「角だ」
「は‥‥?」
「だから、角。オーガの角を見つけて欲しいのだ」
「ああ、なるほど‥‥痛っ!」
「変な納得をするな!」
納得したように頷く受付の少年の頭をゲンコツで殴るオルガ講師。少年が、『やっぱりオルガ先生ってオーガだったんだ』と納得するのも致し方ないのだが。
「俺が持ち歩いていた、オーガの角を探してきて欲しいと言っているのだ。俺がオーガだったという意味ではない!」
「うう、なんも言ってないのにぃ。そ、それで何故オーガの角なんて持ち歩いてたんですか?」
「ともの‥‥ゴホン! いや、俺が若い頃に懲らしめたオーガの角を、戦いの記念というか、お守りとして持ち歩いているのだ。珍しい物かもしれんが、他人にはたいした価値があるものではない」
「‥‥‥」
オルガ講師は、一つ咳払いをして、オーガの角を持ち歩いている理由を説明する。話を聞いて、一人でオーガを倒すなんてどっちが化け物なんだ、と思うが口にしない受付の少年。
「昨日の朝はたしかにあったから、どうやら昨日どこかで落としたらしい。自宅の中は探したが見つからなかった。おそらく学園か街の中で落としたのだと思うのだが‥‥どうにも心当たりがなくてな。人を集めて探して欲しいのだ」
「わかりました。では、落し物の捜索ということで依頼を出しておきます。一応、昨日行った場所を教えていただけますか?」
「ふむ、昨日は‥‥」
昨日は、いつものように自宅で目を覚ますと、ルディ(犬)の散歩に出かけた。しばらく走って、自宅へ戻り。朝食を食べて、学園に出勤した。この時点で、オーガの角を持っていたことは確認してある。
学園に着くと、一度職員室に寄って、日中は屋外訓練場でずっと生徒をしごいていた。途中、食堂で昼食をとって、夕方まで訓練場にいたな。その後に、職員室に寄ってから学園を後にした。
その後は、共同浴場で疲れを取って‥‥いやケンブリッジに来て一番驚いたことだなこれは、大変素晴らしい。食堂で夕食と酒を飲んで、自宅に帰宅した。この日は他には特に仕事が無かったのでそのまま寝てしまったよ。
「それで、朝に確認してみたら角がなくなっていたことに気付いた、ということだ」
「なるほど。それで、盗まれたとかそういう可能性はないんですか?」
「いや、本当に他人にとっては価値のないものだからな。わざわざ盗むようなヤツもおらんだろう。それに一応肌身離さず持っていたものだから、盗もうとされたならすぐわかる」
まぁ、落としてしまったがな。とばつが悪そうに頬を掻くオルガ講師。珍しく困っている様子に、それが彼にとっては大事な物だということが見て取れる。
「長さは人差し指ほどの長さで、手の中に納まる程度の大きさだ。落としてしまったのは確かなようだが、誰かがわけもわからずに拾っている可能性もある。俺にとっては大事な物なのだ、なんとか見つけ出してくれ、頼む!」
「あ、頭は上げてください。ちゃんと依頼のほうは出しておきますので」
「期待してるぞ!」
わざわざ持ち歩いているのだから、なにかいわくのあるものなのだろう。こうして、オーガの角の捜索は依頼されたのであった。
●リプレイ本文
「犬小屋の中をみたいだぁ?」
「ああ、飼い犬が主人の物を住処に持ち込んでいるというのは、よくある話だ」
「そうね、意外に犬が収集してるかもしれないし」
依頼人オルガ・アーヴィズの自宅へと赴いたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)とサイレント・ラストワード(eb3730)は、オルガの飼っている犬に注目していた。早速、犬小屋を見せて欲しいと頼む二人だが。
「見せるのはかまわないんだが、気をつけろよ。ウチのルディは人見知りが激しいからなぁ。吼えられても、あまり驚かんでくれ」
「はぁ、いまさら犬ぐらいで驚いたりはしないよ」
「‥‥レーション? どうしたの?」
少し困った表情を浮かべながら犬小屋に案内するオルガ。犬ぐらいでなにを心配がと呆れるエルンストであったが、サイレントの飼い犬レーションがなにか怯えたようにその場から動こうとしない。
「でかい‥‥な」
案内された犬小屋は、全長2メートルほど、大人でも入ることができるほどの大きさであった。どんな大型犬かと少し心配になるエルンスト。
「じゃあ、ルディを呼ぶが決して驚くんじゃないぞ。あいつはそういうのに敏感に反応して、下手すれば噛みつかれるからな。ルディ! こい!」
二人に忠告して、飼い犬を呼ぶオルガ。犬小屋の薄暗がりに、キラリと光る二つの瞳が映ったかと思うと、巨大な獣が飛び出してきた!
「!!」
「よ〜しよし、ルディ。いい子だ」
ルディと呼ばれた獣は、凄い勢いでオルガに飛びつく。オルガは慣れているのか、それを受け止めて、大きな手でワシワシと獣の頭を撫でる。全長1.5メートルを超える、少し藍色がかった艶のある黒毛の大型犬‥‥というよりむしろ。
「これって、狼じゃない‥‥」
動物知識のあるサイレントが、犬との差異に気付き言葉を漏らす。顔立ちや尾の形など、それはたしかに狼に類するものだとわかる。
「ま、まぁ‥‥犬も狼もたいした違いはないだろ」
「‥‥人に害がなければかまわないのだけれど」
苦笑するオルガ。サイレントは反論したいところであったが、いまはそんなことを言いにきたのではないので、やめておく。
「と、とにかく、小屋の中をあらためさせていただくぞ‥‥っと!?」
「グガァァ!」
「こらルディ! おとなしくしていろ!」
「クゥ〜ン‥‥」
「‥‥悪いが、少しの間向こうへ連れて行っててくれないか‥‥」
「うむ、終わったら呼んでくれ」
エルンストが犬小屋に近づこうとすると、突然ルディが大きな声で吼える。すぐに、オルガに叱られて頭を垂れるルディであったが、エルンストはヒヤリと一筋の冷や汗を流してルディを遠ざけた。まぁ、吼える狼より、むしろそれを一発で従わせるオルガに驚きを隠せないのだが。
結局その後、小屋の中をくまなく探したが目的のものは見つからなかった。オルガにも聞いてみたが、ルディには特に収集癖はないそうだ。二人はくれぐれも放し飼いはしてくれるなとお願いして、その場をあとにした。
FORの職員室へと向かった大宗院亞莉子(ea8484)は、何故かわざわざ女性教師風の変装をしていた。
「ああ、アーヴィズ先生から話は聞いてるよ。先生の落とした物を探してるそうだね。‥‥ところで、その格好はいったい‥‥」
「私もぉ、これで美人教師ってカンジィ。職員室もばっちりってカンジィ!」
「え、あ、まぁ‥‥間違ってはいない‥‥と思うけどね」
亜莉子はスラッとした礼服姿の美人教師風なのだが‥‥胸とかお尻とか出ていて随分と色っぽい、しかも何故かスカートは妙に短い。応対した若い騎士講師は、目のやり場に困るように視線を逸らした。
「それじゃぁ、床に落ちてないか探すね?」
「ああ、どうぞ‥‥。私は授業があるのでこれで‥‥」
「お、俺も訓練場へ‥‥」
「い、いやぁ、僕もちょうど身体を動かしたかったところですよ、お供します‥‥」
早速、四つん這いになって床を探し出す亜莉子。と同時に、慌てたように次々と職員室を出て行ってしまう男性教師陣‥‥心中お察しします。
「一所懸命にレディが探し物しているのにぃ、FORの先生が誰も手伝ってくれないなんてぇ、名倒れってカンジィ」
ぞろぞろと出て行ってしまう教師達に、理由もわからずに不満を漏らす亜莉子であった。
「身体を動かすこの場所に落ちてる可能性が高そうです‥‥」
FORの生徒に化けて訓練場に向かった大宗院透(ea0050)は、オーガの角らしきものを探しながら、居合わせた生徒達に落し物を見なかったか聞いて回る。
「オーガ先生の授業? ああ、あれは厳しいからなぁ」
「角? そういえば、オーガ先生ってなんか角のような物をお守りみたいに持ってたっけ。ん〜、この間の訓練の時に持ってたかどうかなんて覚えてないなぁ」
「いや、角が落ちてたなんて話は聞いてないな」
「そうですか‥‥」
幾人かに話を聞いたが、これといった情報はなかった。そのうちに、男性教師陣がやってきて随分と熱心な訓練が始まったので、その場を退散することにした。
「亜莉子‥‥みつかりまし‥‥なんですかその格好は」
「透〜! どう、美人教師の格好、似合ぅ? でも、困ってる美人教師を誰も助けてくれないのぉ、酷いってカンジィ」
「‥‥そんな格好してれば、誰も近づきたくないのは当たり前です」
「え〜、なんでぇ? ああん、まってよ透〜!」
「誤解されます、付いて来ないでください‥‥」
「もぉ照れちゃって。でもそんな透も大好き!」
職員室に立ち寄った透は、亜利子の姿をみてすぐにその場を立ち去ろうとする。その後は、追いかけてきた亜莉子と共に捜索をするが、結局FORでは角は見つけることができなかった。
「どのように角を所持していたのですか? 入浴中や就寝中は? 紛失した日、飲酒していたそうですね。どれだけの量でしたか、記憶はありましたか?」
「そう矢継ぎ早に聞かれると困るぞ」
「そうですか、では女性関係にトラブルは?」
「は?」
「冗談です」
ニッコリと微笑むバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)。その笑顔の裏で、なにを考えているのか‥‥。
オルガにある程度詳しい話を聞いたバーゼリオは、帰りに立ち寄ったという食堂へと向かう。
「酒を飲んで暴れたりはしませんでしたか? よっぱらって、普段とは違うことをするとか」
「オルガ先生かい? いや、その日は普通に陽気に笑ってただけで、暴れたりはしてないよ。まぁ、あの人の場合、暴れるといっても暴力とかは振るわないしね。しかも、よっぱらって大騒ぎした次の日なんか、わざわざ謝りにくるくらいさ」
「見た目ほど凶暴ではないと」
「ははは、言うね兄ちゃん」
「いえ、それほどでも」
ニコニコと笑みを浮かべながら、サラリとキツイことを言うバーゼリオ。とにかく、食堂でも角は見つからなかったようだ。
主だったところは探し終えたが、結局角はみつからず、街中をくまなく探そうかと考え始めた一同であったが。
「共同浴場の近くで角を拾ったって人が、届けてきてくれたわ」
サイレントが、オーガの角を持って現れた。なんでも、サイレントが知り合いのクロルと共に作って張り出した、張り紙を見て持って来てくれたらしい。その人は、オルガ先生にはいつもお世話になってるから、と用意した報酬を受け取らずに帰っていた。
「そういえば、共同浴場は探しませんでしたね、あはは」
納得したように、ぽんと手を叩くバーゼリオ。他の皆も、思い出したように頷くのだった。
「おお、たしかにこれは、俺の角だ。よく見つけ出してきてくれた!」
「それにしても、なんでオーガの角を持ち歩いてたんですか? ただ退治しただけで角を御守りにしませんよね」
「もしよろしければ、この角についてのお話など聞かせてもらえないかしら」
オーガの角を返しにいった一同。喜ぶオルガに、バーゼリオとサイレントが、角についてのことを尋ねた。
「ん、ああ、まぁ別に隠しておくことではないし、聞きたければかまわんぞ」
オルガは、一同に頷き、手の中の角を懐かしそうに見つめると話し始める。
「そうあれは、俺がまだ若い頃の話だ。騎士に憧れて村を飛び出し、街を目指す途中の森で道に迷った時だった‥‥。俺は、暗い森の中で一匹の若いオーガと出逢った」
「オーガはオーガた(大型)モンスターです‥‥」
「きゃ〜、透の駄洒落は面白〜い」
「だまってろ、バカップル」
「‥‥‥」
話の途中で、ぽつりと呟く透に亜莉子が嬌声をあげるが、バーゼリオが爽やか笑顔で黙らせる。
「ごほん! それで、普通なら俺がオーガに襲われて一巻のおしまいって所なんだが‥‥。このオーガは変わり者で、人間の俺と仲良くなりたいなんて言ってきやがった」
「まぁ、似てますし‥‥」
「あなたも黙ってなさい」
今度は、バーゼリオがサイレントに怒られた。
「俺も最初は驚いたが、結構気のいいヤツでな、すぐに友人と呼べる関係になった。俺は、しばらくそいつと森で過ごした後、また騎士になるべく街へ向かった‥‥」
それまでは、思い出を楽しむような感じで話していたオルガであったが、急に表情を曇らせる。
「数年後、俺は騎士となり。民を守るために戦うようになった。もちろんそれが正義であると疑いもせずに‥‥。ある時、モンスターに脅かされた村を救うために、暴れるモンスターを退治するため森へと向かうことになった」
「‥‥‥」
「あとは、なんとなくわかるだろう? 俺は村を救うために、森に巣くうオーガを退治した。戦いなんてものは人もモンスターも関係なく、ましてや正義なんてたんなるエゴで、結局奪うか奪われるかそれだけなんだ。俺はそのことの戒めとして、友の角を持っているわけだ」
オルガは、苦笑を浮かべつつも少し悲しそうに『友』と口にして話を終えた。一同は、話の礼を述べると、それぞれ思うところを胸に秘めてオルガ宅を後にするのだった。