●リプレイ本文
「みなさん、今日はお手伝いに来てくれてありがとうございます! それじゃ、これから問題の部室に‥‥」
アンジェリカ・ウッドサイドが集まってくれた一同にペコリと頭を下げる。多くの部活動がひしめき合う共同部活棟。これから、その様々な部活が勝手気ままににガラクタを置いていった空部室の掃除をするのだが‥‥。
「きゃ〜、エステラさんかわいい!」
まるごとネズミーを着ていたエステラ・ナルセス(ea2387)が、集まった女性陣にもみくちゃにされていた。秋の空、みんなにおもちゃにされる、最年長者27歳。ちなみに、一番喜んでいたのは暦年齢最年長のソフィア・ファーリーフ(ea3972)だった。
「が、がんばって、お掃除しましょうね‥‥」
ようやく開放され、ネズミーを脱いだエステラ。越後屋手拭いを被って気持ちを引き締めるが、すでに疲れているようなのは気のせいだろうか。
「はい、お掃除張り切っていきま‥‥しょぉ!?」
ソフィアも気合いをいれて、部室のドアを開ける。が、そこはまさに足の踏み場もないガラクタの森だった。
「これは‥‥とりあえず、足場を確保するために全部外に出してしまおう」
「重い物は任せてよ、これでもファイターだからね」
茉莉花緋雨(eb3226)が軽くため息をついて指示を出すと、ユーディス・レクベル(ea0425)が自分の腕をポンと叩いて頷いた。
「大きいものは私も手伝うわ」
「はぁ、これは思ったよりも大変そうだわね。よくもまぁ、ここまで」
サラン・ヘリオドール(eb2357)はユーディスと協力して大きい物を運び出し。エリザベート・ロッズ(eb3350)は部屋の惨状に呆れながら、足元に散らばる小さな物を一つにまとめた。
「こら! ちんちくりんたちも遊んでないで手伝いなさい!」
初日は、イシュやジェシュ、やゆよなどお子様組も手伝いに来たのだが、壊れたおもちゃ箱状態で脱線しまくったとか。
次の日、ようやく室内に入れるようになったガラクタ部屋で、引き続き各部屋のガラクタを外に運び出す一同。
「うわ〜、臭い! なにこれ〜、臭い!」
ソフィアがクンクンと臭いを嗅いでる物は、いつから放置されていたかわからない保存食だった。なにかいい感じに発酵しているようでかなり臭い。ソフィアは癖なのか、顔をしかめつつも、その臭いを何度も嗅いでいる。
「ジャパンにも、そういう臭い保存食があるが、それは‥‥」
「じゃあ、あげます」
「たんに腐って‥‥え?」
茉莉花が話を言い終えるまえに、その保存食をソフィアに押し付けられる。茉莉花『強烈な匂いの保存食』ゲット! おそらく食べられる‥‥かな? たぶん‥‥。
「話には聞いてたけど、ほんとガラクタばっかり‥‥あれ、これなにかしら?」
アンジェリカが苦笑しながら、ガラクタを木箱に詰めていたところ、埋もれていた白い物体を見つけて手にとった。
「‥‥が、がいこつ〜!? きゃ〜〜〜〜〜!!」
なんと、それはガイコツの顔。アンジェリカは悲鳴をあげて、持っていたソレを後ろに放り投げた。宙で放物線を描いたガイコツは、後ろで作業していたエリザベートの手元に。
「なに騒いで‥‥ひっ! なんでこんな所にがいこつがあるのよぉ!!」
エリザベートも、突然ガイコツが降ってくれば、驚きの悲鳴をあげてまた放り投げる。
「いやぁ! こっちに投げないでぇ!」
「だからって、私に寄越さないでよ!」
再びアンジェリカに戻ってきたガイコツに、また悲鳴を上げる。きゃ〜きゃ〜と二人の少女は悲鳴をあげながら、ガイコツの押し付け合い状態。
「ねぇ、どうかしたの?」
「ユーディス! がいこつが、がいこつが!」
「ん? がいこつってコレ?」
集めたガラクタを外に運び出していたユーディスが、戻ってきて不思議そうに首をかしげた。エリザベートが、半狂乱状態で押し付け合っていたガイコツを手渡すと、臆した様子も無くソレをまじまじと見つめた。
「あはは! これ作り物のお面だよ。よくできてるけどね」
「へ? お面‥‥?」
ユーディスは、可笑しそうに笑って、ガイコツをコンコンと叩きながら教える。スカルフェイス、ガイコツの顔そっくりの顔を守るお面だった。
「へぇ、これまだ使えそうだね。もらってもいい?」
「いらないいらない! そんな気色悪い物あげるから、どっか持ってって!」
ユーディスが面白半分でガイコツを被ると、アンジェリカとエリザベートは大きく首を横に振るのだった。
「ん〜、届きませんわね。ヘリオドール様、お願いできますか?」
「はいはい。おや? こんなのがあったわよ」
エステラでは届かない棚の上を、サランが片付けていると、鳥の形のペンダントが見つかった。
「あらこれは‥‥コマドリのペンダントですわね。でも片方だけ‥‥」
本来はつがいの二つのペンダントであるが、見つかったのは雄の片方だけだった。
「こんな所に放置しておくなんて、嘆かわしいですわ」
「うん、可哀想ね‥‥」
なんとなく誰かの恋の終わりを感じられるソレに、二人は大きくため息をついた。
「これ、貰ってってもいいかしら? いつか、運命のもう一匹に会わせてあげたいわ」
「まぁ、素敵ですわね。どうぞ、お持ちになられていいと思いますわよ」
サランが思いついたように申し出ると、エステラは満面の笑みを浮かべて頷いた。
数日かけてガラクタを外に運び出した一同。ようやく、掃き拭き掃除ができるようになる。
「お掃除は、高いところから順にしていくのが基本ですわ。わたくし届きませんから、みなさまにお任せしますね」
真面目なふりして、こっそり楽するエステラ。その間に、ちゃっかりガラクタを物色する。
「あら、これはもしかして‥‥フライング」
「ねぎ?」
「違いますわ! あら、茉莉花様‥‥」
「ちょうど箒が欲しかったところだったんだ、見つけてくれてありがとう」
「い、いえ、どういたしましてですわ」
魔法学校印の箒を見つけたエステラであったが、掃き掃除にと茉莉花に持っていかれてしまった。
「箒‥‥狙ってましたのに‥‥」
残念そうに肩を落とすエステラ。ちなみに、これは結局ただの箒だったそうな。
「水拭きって苦手なのよ〜。私の祖国だと、下手すると凍ってしまうから」
桶に汲んできた水の温度を確かめるように触れるエリザベートが、苦笑を浮かべる。さすがに、極北ロシアほどでないにしろ、冬に近くなったこの時期の水は冷たい。
「私も〜、肌が真っ赤になってしまうものね」
「嫌いじゃないけれど、結構辛いわよね」
ソフィアとサランも同意するように頷き苦笑を返す。言いつつも、すでに雑巾を絞った手は真っ赤だ。
「そうかい? 私は結構平気だな。毎日剣を握ってるから、皮が厚いからかな」
そんな中、ユーディスだけは冷たい水も気にした様子も無く、ガシガシと床を水拭きするのだった。
「はい、部室のお掃除ご苦労様でした! あとは、このガラクタを整理して終わりよ」
乱雑としてガラクタ置き場となっていた部室も、綺麗さっぱりピカピカになり。残りは、溜まったガラクタの整理だけとなった。運び出す際に、ゴミと使える物はある程度わけてあるので、『物色タイム』といった感じだ。
「あ、これこれ、こういうのが欲しかったんだ」
ユーディスは、ふわふわふさふさな襟飾りを手に取った。多少汚れていたが、洗えば問題ないだろう。
「どう? 似合いますかしら?」
エステラは、とんがり帽子と日用品に毛布を貰う。帽子姿が妖精のようで愛らしい。
「あ、これは! 見つけまスターとか」
キラッと光るソレは、聖なる夜に飾る星。見つけたソフィアは、トナカイの鼻をつけておどけて見せた。
「あらら、これまだ使えそうなのに‥‥」
芸人用の小道具を見つけたサラン。ちょっと修理すれば十分使えるであろうそれで、教会の子供達を楽しませてあげようと思う。
「へぇ、携帯用のスコップか。何かの役に立つかな」
茉莉花が手に取ったのは、持ち運びが楽な携帯スコップ。結構実用的だ。
「なにこれ!? せっかくのスクロールが台無しよ。ん?」
兄に頼まれて探していたスクロールだが、見つけたのは酷い落書きとボロボロになって使い物にならない物だけだった。しかたないので、他の物を探すと光る物を見つける。拾い上げたのは、おそらく古代の貨幣と思われる古いメダルだった。
「さて、みんな欲しい物は取った? じゃあ、あとは処分しちゃうわね」
ゴミは燃やしてソフィアのウォールホールで埋める。使えそうな物は雑貨屋に買い取ってもらって、代金はみんなで山分けした。
「はい、これでお掃除は終了よ! みんなごくろうさまでした!」
「それでは、これからみなさんでお風呂にいきましょう?」
「お〜!」
数日かけた掃除もようやく終了し、エステラの提案でみんなで共同浴場へと行くことになった。
「うわぁ、ユーディスさんも緋雨さんも大きいわね‥‥」
浴場に入るとアンジェリカは羨ましそうに二人の胸を見る。
「アンジェリカさんだって、じきに大きくなるよ」
「ああ、アンジェリカ殿はまだお若い。すぐに成長するだろう」
「そ、そうかしら‥‥」
逆に二人に励まされて照れるアンジェリカ。
「私は、サランさんのような美しい肌が羨ましいけどな」
「ふふ、嬉しいわ。でも、二十歳過ぎるとちゃんとお肌の手入れをしないとね‥‥」
「それは確かに‥‥」
ユーディスの言葉に、嬉しそうに微笑むサラン。しかし、続くサランの言葉に大きくため息つく人間の女性一同。そして、その視線の先には。
「ふぅ、体の芯まで温まりますわ〜。あら、どうされました?」
「あれは‥‥」
「反則よね」
「‥‥‥」
子供のようなスベスベお肌のエステラ。子持ちには見えません。
「うう‥‥アンジェリカにも負けた」
「ご愁傷様‥‥」
そんな中、真っ赤な顔で悔しそうなソフィアに、ポンと哀れみの言葉をかけるエリザベートであった。