見習い騎士の試練

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月20日〜08月25日

リプレイ公開日:2005年08月26日

●オープニング

「ええ!? それ本当にやるんですか? ‥‥まぁ、言いたいことはわかりますけど」
 しぶしぶと頷いた若い騎士講師は、豪快に笑いながら去っていく彼の後姿を見送った。
「本当にいいのかな、そんなことやって‥‥」

 騎士訓練学校フォレスト・オブ・ローズでは、今日も今日とて見習い騎士たちが正式な騎士になるべく訓練を行っている。
「おい! お前たち、集合しろ!」
 若い騎士講師の号令で集まった騎士の卵たちに、彼は険しい表情を向けた。
「いま連絡があって、近くの村にオーガが出没しているそうだ。そこで、お前たちにこれの討伐を命ずる!」
 ザワ‥‥突然のことに見習い騎士たちの間に動揺のざわめきが起きた。それもしかたない、いくら騎士としての訓練をしているからといって、ほとんど実戦の経験のない彼らがいきなりオーガの討伐を命じられたのだから。
「いまのところ村人たちは避難して難を逃れているらしいが、オーガはいまだ村の近くの森にいて、いつまた被害があるかわからない。オーガは凶暴で、大変な怪力の持ち主だ。危険を伴う任務のため生半可な気持ちでいくなよ!」
 講師は厳しい表情のまま、騎士見習いたちを叱咤する。その声に、生徒達にも緊張が走る。
「騎士たるもの、領民の安全は確保せねばならない。騎士としての誇りを忘れず任務にあたってくれ。では準備ができ次第、至急現地へ向かうように。以上!」
 講師の指示が終わると、生徒たちはバタバタと慌てて準備のために解散した。そんな彼らを見送りつつ講師は‥‥。
「本当にいいのかなぁ」
 先ほどの厳しい表情はどこにいったのか、苦笑交じりに呟いた。

●今回の参加者

 eb0874 ガルディ・ドルギルス(55歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3117 陸 琢磨(31歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 ケンブリッジの出入り口『理の門』。フォレスト・オブ・ローズの見習い騎士二人は、合同で参加することになった他の学校の生徒や、協力者の冒険者と共に門を抜けた。
「ほ、本当に俺たちだけでオーガなんて倒せるのか?」
「わからねぇ、なんで先生達はついてきてくれないんだ‥‥」
「だ、大丈夫ですよ! 僕の占いでは、万事うまくいくって‥‥たぶん」
 見習い騎士達が不安げに呟くのを、マジカルシードの生徒酒井貴次(eb3367)が大きな声で大丈夫と声をかけた。しかし、言葉尻に少し自信がないのは、酒井も初めての依頼で不安なのだろう。
「まったくもって頼りないな‥‥しかし、今回のオーガ退治、どうにも怪しいな」
 同行することになった冒険者ガルディ・ドルギルス(eb0874)は、その様子に小さくため息をつく。メンバー最年長者のガルディは、依頼に臆することなく、むしろ退治するべきオーガの正体に疑いを持っていた。
『ふん、やはり騎士など‥‥』
 フリーウィルの生徒陸琢磨(eb3117)は華国語で呟き、眉をひそめた。イギリス語を習得していない陸は、通訳のできるマジカルシードの生徒マリス・メア・シュタイン(eb0888)がこの場にいないため会話が通じなかった。だが見習い騎士たちの様子を見れば、オーガに対し不安を持っていることは一目瞭然である。騎士が掲げる正義など幻想であると考える彼は、情けない騎士たちを冷ややかな目で見ていた。
「さて、出発するぞ」
 ガルディは声をかけると、率先するように前に立ち街道を進み始めた。他のメンバーはそれに従うように、オーガの出たという村へと歩き出した。

「な〜んか、今回の依頼っておかしいのよね」
 依頼について疑問を持ったマリスは他のメンバーと相談して、あとで合流することにし、依頼について学校で聞き込みをすることにした。
 尋ねた講師や生徒は、依頼について誰かに口止めされている様子だったため、たいした話は聞けなかった。しかし、一様にオーガ退治に心配をしてない様子が気になった。

 目的地へと向かう一行は、オーガの出た森の近くの村に一泊することになった。食事を終えて一時の団欒を迎える。
「‥‥おい、おぬしら剣の手入れがなっとらんぞ」
 鍛冶屋を生業とするガルディは、見習い騎士達の持つ剣の様子に顔をしかめて、手入れの仕方や重要性について講義し始める。
「細かい刃こぼれが生死を分けるというぞ。手入れは真剣にやれ」
 生死といわれ、オーガ退治に不安を持っている騎士達はビクッと表情を引き締め、ガルディの手ほどきを真剣に受けることになった。
 陸は、その様子を少し離れた所で壁に寄りかかりながら見ていた。通訳のできるマリスがいない今は、言葉が通じないので彼らの輪に入れない。しかし、もとより騎士達と馴れ合うつもりはなかったので好都合だった。
「あの‥‥、僕、今回が初めての依頼で右も左も分からないですけど、いきなりオーガ退治とか大丈夫なんでしょうか。ちょっと不安です‥‥」
『?』
 そんな陸に、酒井が声をかけた。陸にはやはり酒井の言葉はわからなかったが、その不安そうに俯く少年の様子に気持ちを察したようで。
『がんばれ』
「あ‥‥、はい! 頑張ります!」
 ポンポンと優しく酒井の頭を撫でると、陸は口元に軽く笑みを浮かべた。それを見て酒井は、元気が出たように大きく頷いた。

 早朝、村を出立して森へと向かう一行。通訳のできるマリスが合流して、ようやく会話ができるようになった陸だが。
「陸さんは『本物のオーガかどうかわからないが、全力で倒すアルネ』って言ってるわ」
 マリスの随分とテンションの高い通訳のおかげで、陸の知らないうちに他のメンバーからの印象が良くなっていた。
『あんたが来てくれて助かった』
『どういたしまして』
 陸が通訳に対して礼を述べるのを、マリスはにっこりと微笑んで頷いた。

 森へ着いた一行は、早速村で聞いたオーガの現れた場所へと向かった。森の中を得意とする陸の先導の元、迷うことなく進む一行。
「がああああぁぁ!!」
 突然、雄たけびのような声が森に響き渡った。声のするほうへと視線を向ければ、木々の間から2メートルを超える巨体の影が見えた。
「あれが‥‥オーガ」
 酒井は初めて見るモンスターの姿に、少し怯えたように呟いた。その様子に、陸がぽんと酒井の頭に触れる。
『大丈夫だ、心配するな』
「陸さんは『大丈夫アルヨ、心配するヨクない』って言ってるわ」
 陸の言葉をマリスが通訳してにっこりと微笑んだ‥‥。
 一行は木々に潜みながらオーガを観察する、2メートルを超える体格、筋骨隆々の赤褐色の肌、額には二本の角があり、その手には大きな金棒のようなものを持っている。一見すると、それはたしかに話に聞くオーガだった。
「あ、あんな化け物、俺達が倒せるわけないよ。逃げよう」
 見習い騎士達は、自分よりも身長の高い化け物の姿を恐れたように、怯えた表情を浮かべる。
『ヤツが何であれ倒さねばならん、いくぞ!』
陸は両手に武器を構えオーガの背後を取るべく動き出した。騎士達もしかたなく武器を構え、木の陰を利用しながらオーガへと近づいていく。
 ‥‥パキ。騎士の一人が、落ちていた小枝を踏んづける。その音に、反応したようにオーガはギョロリと騎士のほうを睨みつけた。
「ぐぉぉぉぉ!!」
「ひ、ひぃ!」
 睨み付けられた騎士は、足がすくんだ様にその場に立ち尽くす。オーガは、金棒を打ち付けんとそれを振り上げる。
『ちぃ!』
 その様子に、陸は舌打ちするとオーガの背後から切りかかった! ギィン! 陸の斬撃はあっさりとオーガの金棒に弾かれる。バックアタック、背後や死角に対して攻撃受けをするCOをこのオーガは使ったのだ。
『こいつ、できる!』
 陸との攻防の隙に体勢を立て直した騎士達も、オーガに切りかかるが、腰の引けた剣では相手にかすりもしない。
「このぉ! 僕にだって手伝えるんだ! サンレーザー!」
 その様子に、後方に待機していた酒井は詠唱の終わったサンレーザーをオーガに向かって撃つ。
「ぐがぁ!」
「やった!?」
 一直線に伸びた光線が、オーガに命中する。苦悶の声をあげるオーガに、酒井は一瞬喜ぶが。
『だめだ、やつにはたいしたダメージになっていない!』
 近くでオーガのダメージを確認した陸が叫ぶ。サンレーザーでは、オーガの肌には軽い火傷程度の傷しかつけられなかった。しかし、そのダメージはオーガを怒らせたのか、金棒で周囲をなぎ払うと後方に待機していた酒井とマリスの方へと近づいていく。
「え! ちょ! こっちこないでよ!」
「う、うわぁ!」
 こちらへと向かってくる巨体に、慌てたように声をあげるマリスと酒井。サンレーザーの効かない今、攻撃手段のないマリスと酒井に身を守る術はない。
「きゃぁ!!」
「うわぁ!!」
 オーガが金棒を振りかぶる、マリスと酒井が恐怖に目をつぶり悲鳴をあげたそのとき!。
 ガキィン!! 金属の打ち合う音が森の中に響き渡った。
「え‥‥」
 目を開けたマリスの目の前では、オーガの金棒を止めるように二つの剣が十字を描いていた。
「く‥‥、女子供を守るのは‥‥騎士の本分!」
「お前達! 早く逃げろ‥‥長くは持たない‥‥」
 いつのまにか、マリス達の間に割って入っていた二人の見習い騎士が、剣をクロスしてオーガの金棒を止めていた。二人掛かりでもオーガの力は辛いのか、騎士達は歯を食いしばりながら耐えている。慌てて、マリス達はその場から退く。
『いまだ!』
「そこまで!!」
 騎士達がオーガを抑えている隙を突き、陸が背後から切りつけようとし‥‥。それを止めるように、力強い声が響いた。
 静止の声に、陸はいぶかしげな表情を浮かべながらも剣を止め。オーガも金棒を引いた。
「な、なんだ‥‥?」
「どうなってるんだ‥‥?」
 オーガとの力比べに力を使い果たした騎士達は、ガックリと膝をつきながら何が起きたのかわからないように辺りを見回した。すると、木の陰から人影が現れた。
「せ、先生?」
 現れた人影は、フォレスト・オブ・ローズの講師だった。彼は、笑みを浮かべながらオーガへと近づいていく。
「オルガ先生、どうでしたか?」
「うむ、ギリギリ合格とするか」
 講師がオーガへと声をかけると、オーガは言葉を話し顎に手を添えてニヤリと笑った。
「え? え? オーガが喋った!」
 呆然と成り行きをみていた酒井が驚いたように声をあげる。騎士達も顔を見合わせて、なにがどうなっているのか分からない様子だ。
「‥‥つまりは、このオーガ殿は偽者で。依頼はおぬしらの試験だったというわけだよ」
 傍観していたガルディが口を開く。オーガとの闘いで矢の援護をしなかったのは、モンスター知識によってオーガの正体を見破っていたためだったようだ。
「しかし、まさか教師がオーガに変装しとるとは思わなかったぞ‥‥」
「私は‥‥まぁ、あまり気乗りはしなかったんですけどね」
「騎士の本当の勇気は、実戦でなければ量れんからな、がっはっはっはっはっ!」
 ガルディの呆れた様な言葉に、講師が苦笑し、オーガ役の講師が豪快に笑った。オーガ役の講師、オルガ・アーヴィズはジャイアントである自分の体格を利用してオーガの変装をしていた。今回の依頼は、このオルガが発案した見習い騎士達の勇気を試す試験だったのだ。
 襲われるマリスと酒井を守ろうとした二人の見習い騎士は、なんとか合格ということになり、無事依頼は成功ということになった。依頼内容に疑いを持っていたメンバーは、その滅茶苦茶な試験内容に呆れながらも、依頼を達成できたことに安堵した。