【聖夜防衛戦】マジカルシード大脱出

■ショートシナリオ


担当:緑野まりも

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2006年01月05日

●オープニング

「儂の目的を邪魔する者は、少ない方が良い。アンジェはもちろん協力してくれるのじゃろう?」
「は、はい、ル・フェイ先輩‥‥あたし、先輩のためになんでもします」
「ふふふ、愛いやつじゃのう」
 マジカルシードの生徒ル・フェイは妖艶な笑みを浮かべ、同じ学園の生徒アンジェリカ・ウッドサイドを見つめた。その笑みに見惚れたように、トロンと惚けた表情を浮かべたアンジェリカは、ル・フェイの言葉に対し何も疑いを持たずただ頷く。
「そなたは、マジカルシードにて儂に従わぬ者達を捕らえておくのじゃ」
「はい‥‥でも、あたし一人じゃ」
「気にすることはない。多くの者が、儂の命に従っておる。その者達と共にマジカルシードを占拠するのじゃ」
「わかりました‥‥」
 アンジェリカは完全にル・フェイの虜になっていた。ル・フェイの一言一言が、彼女の頭の中に浸透し、まったく逆らう気を起こさせない。まるで恋の熱病にかかったかのように、熱いまなざしでル・フェイを見つめ信頼しきっている。
「あと、すでに無用となったとはいえ、いらぬ情報を与えぬためにも9階のあの部屋には、何人も近づかせるでないぞ」
「秘密の部屋ですね‥‥はい、あたしがんばります、先輩のために」
「うむ、頼んじゃぞ‥‥ふふふ‥‥」
 アンジェリカの様子に満足そうに笑みを零したル・フェイ。真の名をモーガン・ル・フェイ、ゴルロイス3姉妹の三女であった‥‥。

 聖夜祭当日、お祝いに賑わうはずだったマジカルシードは大混乱に見舞われていた。いやマジカルシードだけでなく、ケンブリッジ全体が混乱していた。
「なんだお前達!?」
「うるさい‥‥黙って俺達に従え‥‥」
「みんなどうしちゃったのよ! 先生まで!?」
「ル・フェイ様の命に従わない子は、罰を与えますよ‥‥」
 モーガンに操られた生徒、教師は虚ろな瞳でマジカルシードの校舎を襲い、残っている正気の者達を拘束しようとする。意表を付かれた正気の者達は、まともな抵抗もできずに次々と自由を奪われていくのだった。
「みんな、ル・フェイ先輩のために、邪魔する者達を捕まえるのよ‥‥」
「おお!」
 モーガンに操られた者達の中、アンジェリカも彼女の命に従い、モーガンに従わぬ者達を拘束していく。
「そうだ‥‥、9階に誰も近づけないようにしなくちゃ‥‥」

 6階食堂、聖夜祭の準備にきていた貴方達は、突然起きた異変に驚いていた。
「たいへんだ! 下の階で、みんなが暴れてる! 生徒だけじゃなく、先生までおかしいんだ!」
 下の様子を見に行っていた生徒が、慌てながら異変の内容を伝えに来るが、その生徒にも詳しい事情などわかるはずもない。
「みんな虚ろな表情で、口々にル・フェイ様って叫んでる。いったいどうなっちまったんだ!」
 食堂にいた貴方達以外の生徒は、この状況に混乱しどうしたらいいのかわからない様子だ。
「そうだ、お前達は冒険の経験があるんだよな! 頼む、なんとかこの場を脱出して、助けを呼んできてくれ!」
 冒険者としての経験がある貴方達は、一般生徒の頼みで助けを呼んでくることになった。しかし、下の階には多くのモーガンに操られた者達がいる。はたして、無事脱出して助けを呼ぶことができるのだろうか‥‥。

●今回の参加者

 ea0105 セーツィナ・サラソォーンジュ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3573 ヴァレリア・フェイスロッド(34歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2874 アレナサーラ・クレオポリス(27歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3467 紗夢 紅蘭(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

「あう〜、なんでこんなことになったのヨ〜」
「奴らどこにいった!」
「逃がすな! 見つけて捕まえるんだ!」
 紗夢紅蘭(eb3467)たちを探す声が、廊下に響き渡る。教室に逃げ込んだ紗夢は、机の下に隠れながら困ったように呟いた。
「うふふ、子供の頃遊んだかくれんぼや鬼ごっこのようねぇ」
「そんなのん気なことを言っている場合か。こんな所に隠れていてもいずれ見つかってしまうぞ」
 同じように机の下に隠れているセーツィナ・サラソォーンジュ(ea0105)が童心を思い出したように言うと、ヴァレリア・フェイスロッド(ea3573)が顔をしかめた。
「とにかく、いつまでもここに隠れていてもしかたない。なんとしてでもマジカルシードを脱出して、救援を呼ばないとならない」
「そうはいってもネ、廊下には操られてる人がいるしどうするノ?」
 ひそひそと机の下で相談している間も、廊下では彼女らを探している足音が聞こえている。出入り口が一つしかない教室から出れば、すぐにでも見つかってしまうだろう。
「強行突破しようにも、こちらは三人、向こうは何人いるかわからないがかなりの数だろう。それに、彼らは操られている一般人だ、危害を加えるのは避けたい‥‥」
「そうネ、できるならば怪我はさせたくないネ。なんとか一人でも外に出れればいいのだけれど‥‥」
「食堂にシフールがいなくて残念だわぁ。窓からぴゅ〜っと飛んで人を呼んできてくれたのに〜」
 残念そうにため息をつくセーツィナ。残っていた一般生徒の中には、協力してくれるシフールはいなかったようだ。
「何とか追っ手を分散できれば‥‥」
「うん、二人が囮になって、もう一人を逃がすのがいいかもネ」
「あら、では逃げる人は責任重大ですね〜、それでどなたが?」
 ヴァレリアと紗夢の意見に、セーツィナが頷いて二人を見るが‥‥。ヴァレリアと紗夢はお互い納得したように頷いた。
「え?」
「やはりマジカルシードをよくわかっている者のほうが脱出はたやすいだろう」
「いざとなったら魔法で追っ手を撒けるしネ!」
「ええ!? 私なのぉ?」
 二人に見つめられて、びっくりしたように自分を指差すセーツィナ。
「私かくれんぼは得意だけれど、鬼ごっこは苦手よ?」
「大丈夫だ、私達が敵を引き付けるから、セーツィナ殿はその隙に逃げてくれればいい」
「そうヨ、あたしも囮になるからあなたを追う人は少ないヨ‥‥たぶん」
「う〜ん、でも危険さならあなた達のほうが大変だものね、私がんばるわぁ」
 二人にお願いされると、お人よしのセーツィナは仕方ない様子で大きく頷いた。
「おい! いまこの教室で物音が聞こえなかったか?」
「誰かいるかもしれない、調べてみよう!」
「まずい‥‥よし、セーティナ殿の魔法と同時に教室を飛び出すぞ。その後は、いま話した通りに!」
「わかったヨ! みんな二人とも気をつけてネ!」
「はい〜、それじゃ唱えますよぉ‥‥霧よ視界を奪い我らの身を隠せ、ミストフィールドぉ」
 相談が終わると同時に、廊下の人の気配が隠れている教室へと入ってくる。一行は魔法の霧を出して飛び出すのだった。

「皆さん大丈夫でしょうか‥‥」
 正気の一般生徒を連れて上の階へと逃げるアレナサーラ・クレオポリス(eb2874)。助けを呼びに行った三人の安否を気にしながら、自分達も捕まらない努力をしていた。
「とりあえずバリケードはこれでいいのかしら?」
「俺、頭脳派なのになんでこんなことを‥‥」
 一般生徒と共に階段にバリケードを築き、上へ上へと逃げていく。生徒達も文句を言いながらも、この異様な状況に対抗しようとがんばっている。
「なんだこれは!」
「まだル・フェイ先輩に従わない人がいるのね! はやくどかしちゃってくださ〜い!」
「さぁ、皆さん逃げましょう」
 下の階でバリケードに気付いた者達が声をあげるのを聞いて、アレナサーラ達はあわてて上の階へと逃げるのだった。

 一方、脱出のために囮となった紗夢とヴァレリアは‥‥。
「いたぞ! 捕まえろ!」
「アイヤ〜、見つかってしまったヨ! でも、捕まるわけにはいかないのよネ!」
「気は進まないがしかたない、多少痛い目にあっても恨むなよ!」
 わざと見つかるように勢いよく下の階へと降りた二人は、襲い掛かってくる生徒達に対し拳を握り締めた。
「ル・フェイ様を邪魔するヤツは許さないぞ!」
「足元がお留守ヨ!」
「うわっ!」
「はい! ちょっと痛いけど眠っててネ!」
「うっ!?」
 殴りかかってくる生徒に、紗夢は素早くしゃがみこみ、足元をすくうように回し蹴りを放つ。そして、足元をすくわれてしりもちをつく生徒の腹部を、拳で思いっきり殴る。生徒はうめき声をあげて倒れこんだ。
「よくも仲間を!」
「正気に戻れ! 貴殿達は操られているんだ!」
「ひっ!」
 ヴァレリアも、シールドを構え勢いよく顔に叩きつける‥‥直前に寸止めして相手を怯ませた。あまりのことに放心してペタンと腰を落とす生徒。魔法学校の生徒とはいえ、戦い慣れしていない一般生徒達は、冒険者である彼女達の敵ではないようだ。
「こいつら結構やるぞ!?」
「仲間をもっと集めてくるんだ! 相手はたった二人だ、数で押せばなんとかなる!」
 二人の実力に、慌てた生徒達は下の階の味方を呼んで数で襲い掛かってくる。
「ちっ、さすがに多いな。一度退却するぞ!」
「了解!」
「逃がすな、追うぞ!」
 多くの生徒達が集まってくると、ヴァレリア達は降りてきたはずの階段を逃げるように上に登っていく。そして生徒達が、二人を追いかけて階段を登って追いかけていく。
「‥‥行ってしまったようねぇ。二人とも大丈夫かしらぁ」
 ヴァレリア達が生徒を引き付けて登っていった階の教室から、ひょっこりとセーティナが顔を出した。上の階では、生徒達の怒声が響いている。
「さて、二人が人を引き付けてくれてる間に、脱出しないといけないわねぇ」
「うう‥‥」
「あら、まだ残ってる方が‥‥そうですわ! この者を氷の棺に封じよ、アイスコフィン!」
 こっそりと階段を下りていくセーティナ。途中、紗夢達が倒した生徒達がうめき声をあげているのを見て、何か思いついたようにポンと手を叩くと、倒れた生徒達に魔法をかけて氷に封じ込めた。生徒を封じ込めた氷は、うまい具合に階段を塞ぎ、上の階から生徒達が戻ってくるのを邪魔するようになった。
「ごめんなさい、ちょっとのあいだここをお願いねぇ。それにしても‥‥罪の無い生徒さん達を操るなんて、何て自分勝手な方なんでしょうねぇ」
 氷に封じられた生徒達に頭を下げ、生徒達を操る黒幕に対し怒りを覚えるセーティナだが‥‥その生徒達を氷漬けにしてバリケードにする彼女はどうなのだろうか。

「この部屋はいったい‥‥」
 9階に上がったアレナサーラ達は、立入禁止の張り紙がされロープの張られた廊下を抜けて、重々しい青銅製の扉を抜けて一つの部屋に入った。途中の廊下には、いくつか罠のような痕跡があったが全て解除されていた。
 教室一部屋分ほどの大きさの部屋には、天井に明り取りの窓があり、壁にはロウソクがかけてある。部屋はガランとして壁の一角に本棚と机があるだけだ。よく見れば、所々魔法を掛けたような跡が残っているが、それだけではこの部屋が何のためにあったのかわからない。
「調べてみましょう。わざわざ立入禁止にしてあったんです、なにか重要な発見があるかもしれません」
 一行はロウソクに火をつけて、部屋を明るくする。アレナサーラが魔法の跡を調べてみると、どうやら部屋の中央になにかがあった様子が見て取れた。
「これを見て! マジカルシードのできた理由が書いてある!」
「‥‥ゴモリー像?」
 本棚を調べていた生徒が、驚いた様子で一枚の羊皮紙を広げた。そこには、十数年前、当時、片田舎に過ぎなかったケンブリッジを治めていた領主が地下でブラン鉱脈跡を発見し、最深部で特殊な石化魔法を掛けられたゴモリーというデビルの像を見つけたことにより、その研究のためウィザードや学者を集めたのがマジカルシードの始まりだと記されていた。
「デビルの像? そのようなものがここに? もしかして今回の事件はそれが関係してるんじゃ!?」
「こんなところまで入り込んじゃうなんて! ル・フェイ先輩に怒られちゃうじゃない!」
「追っ手!?」
 資料を調べていたアレナサーラ達だが、アンジェリカ・ウッドサイドが怒ったように部屋へと入ってきた。彼女の言動から、どうやらこの部屋には入れさせたくなかったようだ。
「もぅ許さない! あなた達を倒して先輩に許しを請わなくちゃ! 炎の玉よ、我が敵を焼き尽くせ! ファイヤーボム!」
「こんな所で魔法を!? 危ない、みなさん壁際に避けて!」
 アンジェリカが突然魔法を唱える、このような閉鎖空間で魔法を使えば自分にも被害がくるだろうなどとは考えてないのか‥‥。
「いけぇ! ‥‥‥あれ、でない」
「失敗!? いまです、日の光よ収束し敵を討て、サンレーザー!」
「きゃぁ! う‥‥きゅぅ‥‥」
 なんとアンジェリカの魔法は失敗、かざした手からは何も出ない。アレナサーラはその隙に、天井の窓から届く日の光を集めて魔法を唱えた。光線がアンジェリカを掠めるようにドアの外へと飛んでいく。驚いたアンジェリカはゴンと青銅のドアに頭をぶつけて気絶してしまったようだ。
「あ、あら‥‥。とにかく、みなさん彼女を取り押さえてください!」
 あまりにあっけない様子に逆に驚いてしまったアレナサーラだったが、すぐに気を取り直してアンジェリカを捕まえるのだった。

 その後、無事に脱出したセーティナによって助けが呼ばれることになる。マジカルシード以外でも大変なことになっていたようだが、冒険者達の活躍によってケンブリッジは平穏を取り戻す。
 しばらくして、操られていた一般人も意識を取り戻し、助けられたマジカルシードの生徒達もヴァレリア達に感謝した。そして、中断されていた聖夜祭を一緒に祝い、冒険者達を称えるのだった。