しつこい男撃退作戦
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:緑野まりも
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月23日〜08月30日
リプレイ公開日:2005年08月28日
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●オープニング
市場の通りを一人の少女が歩いている。歳は15歳ほど、綺麗なブロンドの髪を後ろに縛ってポニーテールにしている。小柄な体型で大きな瞳が印象的な、美しいというよりも可愛らしいといったやや幼さを残した顔立ちの少女だ。
マジカルシードの制服を着た彼女は、購入した筆記用具をバックにいれ帰途につこうとしていた。
「ねぇ、そこの可愛い子ちゃん」
「‥‥?」
「君だよ、君! 無視しないでよ」
一瞬誰に向けられた言葉かわからなかったが、周囲を見渡して該当する者が自分しかいないことに気づいた少女は、声をかけてきた人物へと振り向いた。そこには、やけに長い前髪が印象的な端整だがどこか軽薄そうな顔立ちの男が立っていた。
男は年の頃17、8ぐらいか、フォレスト・オブ・ローズの制服を着ている。口元をやや歪ませた様な笑みを浮かべながら少女のことを見つめている。少女にとって、彼は初対面のはずだった。
「あの、なにかご用でしょうか?」
「用って言うか、これから僕とお茶しようぜ」
見知らぬ男性に声をかけられ、不安そうに問いかける少女に、男は笑みを浮かべたままずいぶんと気安い口調で誘う。
「え‥‥、私そういったことはちょっと」
おそらくナンパというものなのだろうが、少女は困ったように首を振った。見知らぬ男性の誘いに乗るほど男性慣れしているわけではないし、正直あまり好みではない。
「まぁ少しぐらいいいだろ、奢るからさ」
「困ります、あの‥‥私、帰らないと」
少女は、しつこく誘ってくる男から逃げようと背を向ける。しかし、男から笑みが消え、顔をしかめて少女の肩に手を伸ばした。
「待てよ! 僕の誘い断るわけ? 僕これでも子爵の息子なんだけど? あんまり僕を怒らせないほうがいいんじゃないかなぁ。ちょっとお茶するだけだろ、いいから付き合えって」
「!!」
男は肩を掴み、やや強い口調で少女を引き止めると、脅迫とも取れる言葉で無理やりに酒場へと連れて行こうとする。少女は男の態度に、怯えたような表情を浮かべると諦めたように無言で男に従った。
「ふふ、なんだかんだ言いつつも結構楽しそうにしてたじゃないか。また誘ってやるからさ、楽しみにしてろよ」
「‥‥はぁ」
数時間後、ようやく男から解放された少女は満足そうに立ち去る男の背中を見送りながら大きくため息をついた。大して面白くもない話を、てきとーに相槌を打ちながら聞かされるのは正直苦痛だった。‥‥しかし、彼女の受難はまだ続く。
数日後、クエストリガーの受付にたつ少女の姿があった。
「‥‥それで、ずっと付きまとわれて困ってるんです」
少女が男とお茶してから数日間、彼はほぼ毎日のようにマジカルシードの校門で待ち伏せしてはデートに誘ってくるのだ。何度断っても聞く耳を持たず、時には強引に付き合わせようとする。なんとかやり過ごそうと試みたが、かなり目ざとい性格らしく上手くいかない。
「ですから、あの、なんとかしてもらえないでしょうか?」
聞いたところによると、男はかなり評判が悪く、可愛い子とみると無理やりにでもデートに誘うナンパ師であるようだ。対応に困った少女は、ギルドへと助けを求めた。
なんとか、男をやり過ごしたり誘いを断るのを助けてほしいのだそうだ。男はかなり気が移ろいやすい性格なので、一週間もすれば諦めてくれるだろう。
「私の名前はチェリッシュ、彼はキリアス・ジェニスというそうです。どうか助けてください、本当に困ってるんです」
少女は大きな瞳に苦悩の影を落として頭を下げた。
●リプレイ本文
●一日目
授業も終わりマジカルシードから出てくる二人の少女(?)、一人はチェリッシュ、もう一人はフリーウィルの生徒大宗院透(ea0050)は、仲の良さそうな友人のフリをして歩いている。大宗院は、いまはマジカルシードの制服を着込み女装している‥‥つまりは、男の子なのだが日ごろの鍛錬と容姿が相まって下手な女の子より、女の子らしかった。
「本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫‥‥でも、そんなに嫌なら私が影で全治一ヶ月ぐらいの怪我をさせてきますが‥‥」
「ととと、とんでもない! 怪我をさせるなんてそんな」
「そう‥‥」
仲の良さそうに会話をしている二人であったが、その内容はかなり危ないものだった。チェリッシュは慌てたように首を振り、少し顔を青ざめる。怪我を負わせてまで追い払いたいとは思ってはいないのだ。大宗院も、ほんの冗談だったのかすぐに諦める。
「やぁチェリッシュ、随分と楽しそうじゃないか。僕とのこと忘れてない?」
二人は学校を出てすぐ声をかけられた、問題のナンパ師キリアス・ジェニスだった。格好をつけているのか、長い前髪をファサっと手で払い、腰に手を当てポーズを取りながら二人を見ている。
「あの‥‥」
「すいませんが、本日は私たちはデートですので‥‥」
チェリッシュが何か言おうとするのを制し、大宗院が間に入る。
「でーとぉ? なに、僕以外の男と付き合おうっていうの?」
「それは‥‥」
「私がお誘いしたのです‥‥ですが、もしどうしてもとおっしゃるなら、私がお付き合います‥‥」
「‥‥ふ〜ん、君も結構可愛いじゃん。いいよ、今日のところは君に付き合ってもらうよ」
顔をしかめてチェリッシュを睨み付けるキリアスに、大宗院が言葉を続ける。キリアスは大宗院をマジマジと見つめては、その提案に乗るようにニヤリとイヤラシイ笑みを浮かべた。
「私は今日、何番(なんぱ)目にナンパされたのですか‥‥」
「‥‥‥」
大宗院の駄洒落に一瞬空気が固まった‥‥のは気のせいだろう。
●二日目
チェリッシュは、今日一人で下校することになった。少し不安になりながら、校舎を出て帰路につく。
「くそ、昨日は散々だったな、無表情で全然面白くない駄洒落言いやがって。おい、チェリッシュ!」
「!!」
不機嫌そうに、少し荒々しい口調で声をかけてくるキリアスに、ビクッと肩をすくませるチェリッシュ。キリアスは駆け寄ると、少女の肩を掴み引きとめながら笑みを浮かべた。
「今日は付き合ってもらうよ? 面白いとこ見つけたんだ、行こうぜ」
「あ、あの、今日は調べものが‥‥」
「調べものなんていつでもいいだろ、いいから付き合えよ」
断ろうとするチェリッシュの腕を無理やり掴んで連れて行こうとするキリアス。握る手の強さにチェリッシュが顔をしかめた。
「君、嫌がる女の子を無理やり誘うのはよくないですよ」
「あ、あんたは‥‥オーラチャージャー」
そんなキリアスに、フォレスト・オブ・ローズの生徒ルーウィン・ルクレール(ea1364)が落ち着き払った様子で声をかけた。その顔を一目見て、キリアスが驚いたように呟く。同じFORの生徒として、ルーウィンほどの実力者のことは知っていたようだ。
「私のことを知っているなら話は早いですね、騎士としてその行為は見逃せません。恥を晒す前に去られたほうがいいでしょう」
「く‥‥チェリッシュ、また明日来るから予定空けとけよ」
ルーウィンの言葉に怯みながら、しかたなく腕を離すとキリアスは、捨て台詞を残してその場を立ち去った。
「どうもありがとうございました」
「いえ、騎士として当然ですよ」
頭を下げるチェリッシュに、ルーウィンは二コリと笑みを浮かべた。
●三日目
「私は女装趣味じゃありません。今回は依頼のためです!」
「は、はぁ‥‥でも似合ってますよ」
「う‥‥」
マジカルシードの生徒ベアータ・レジーネス(eb1422)が念を押すように声をあげる。女子制服を着込み、大宗院の手ほどきを受けたベアータはいまや立派な女の子であった。チェリッシュは、一瞬どう答えて良いのか迷ったが、結局にっこりと微笑み素直な感想を述べた。
「まさかあんなところで邪魔が入るとは‥‥お〜い、今日は予定空けといたよな?」
「あ、あの、今日は‥‥こちらの方が貴方に用があると」
やはり下校時に声をかけてくるキリアス。しゃべると声で男とばれそうなベアータの代わりに、チェリッシュが打ち合わせどおりベアータにキリアスの注意を向かせる。
「ん、僕に? ふふん、モテる男は大変だね」
「‥‥‥」
ベアータの容姿を見て、なにやら優越感に浸っている様子のキリアス。ベアータは無言でコクコクと頷き、チェリッシュに目で合図する。
「それで私‥‥今日もちょっと用事がありまして」
「またかよ、まぁ今日はこの子と遊びに行くからいいよ」
あっさりとチェリッシュを帰し、キリアスはベアータの肩をなれなれしく抱いて歩き出す。その後、ベアータが自ら男とばらし一悶着あったらしい。
●四日目
「ナンパなどをするのは、学生として情熱を注ぐものがないからです。それを与えてあげれば、彼はあなたに付きまとわないでしょう。そして、あなたも錬金術の素晴らしさを知りましょう!」
「え、ええ!?」
錬金術の教師エリス・フェールディン(ea9520)は、情熱を孕んだ瞳でチェリッシュを見つめると、錬金術の勉強のためと図書館へと連れて行こうとする。目的が違うのではと、チェリッシュは少し慌てた。
「なんなんだ、昨日のヤツは! おい、チェリッシュ。今日こそは付き合ってもらうからね」
「あわわ‥‥」
ある意味、前門のトラ後門の狼状態のチェリッシュ。どちらに付き合っても一緒なんじゃないか?
「そうですか、あなたも彼女と一緒に錬金術を学びたいのですか。これから、図書館で彼女と錬金術の勉強をするところです。遠慮せずに一緒に学びましょう。魔法なんてくだらないものを学ぶよりもずっとためになりますよ」
「はぁ、錬金術? まぁ、僕のように格好良い男を誘う気持ちはわかりますが、一応これでもFORの生徒なんでね、錬金術みたいな怪しげなものには興味がないんですよ、オバサン」
「錬金術は怪しくな‥‥お、オバ!?」
エリスの誘いに、前髪を軽く払って断るキリアス。ピシッ! そんな音が聞こえてきたかと思うと、ゴゴゴゴゴゴとエリスの銀の長い髪が逆立ち始め、その瞳が朱に染まっていく。ハーフエルフの感情の昂ぶりによって起きる狂化だった。
「! わ、悪い、今日は用事を思い出した! また明日な!」
「だ〜〜れが、オバサンですってぇ!」
さすがに危険を察知したのだろう、キリアスは慌てた様子でチェリッシュに声をかけて逃げ出す。それを髪を逆立てたエリスが鬼の形相で追いかけていく。錬金術を馬鹿にされたことより、オバサンといわれたことのほうがよほど気に障ったのだろう‥‥。
「オ〜ホッホッホッ! わたくしの誘いを断った報いをお受けなさい〜!」
「た、助かりました」
キリアスを追いかけていくエリスの後姿を見送りながら、ホッと胸を下ろすチェリッシュだった。
●五日目
「あの‥‥なぜフードをそんなに深く?」
親しい友人のフリをして隣を歩くカンタータ・ドレッドノート(ea9455)に、チェリッシュが不思議そうに問いかける。フードを目深にかぶり、耳などを隠そうとする様子が気になったのだ。
「ボクはハーフエルフですから」
「あ、ごめんなさい。でも、私はハーフエルフでも気にしませんから」
チェリッシュもハーフエルフの迫害については知っていた。カンタータの答えに少し申し訳なさそうに謝り、すぐに小さく首を振ってニッコリと微笑んだ。
「昨日はひどい目にあった‥‥それになんなんださっきのガキは、人の邪魔しやがって」
今日もまたキリアスが現れた、なにやら少し走ってきたのは何か途中で足止めでも食らったのだろう。
「チェリッシュ! 今日は‥‥」
「ボクに任せて」
小さく呟くと、声をかけようとするキリアスの間にカンタータが割り込む。そして、すっとフードをずらすと端正な顔立ちの少女の素顔が現れた。
「ひゅ〜、君、可愛いね。チェリッシュの友達?」
「はい、キリアスさんのことチェリッシュに聞いて。あの、今日はチェリッシュが用事あるみたいですし。よければボクとご一緒しませんか?」
カンタータに見惚れて、すぐに声をかけるキリアスにカンタータが微笑みを浮かべて気を引く。
「君みたいな可愛い子なら大歓迎だよ。またなチェリッシュ」
「ボクも、格好良くてお金持ちの人は好きです」
「はは、じゃあそこの酒場で高いのご馳走するよ」
「嬉しいな」
簡単にカンタータの誘いに乗るキリアス、連れ立って行ってしまった二人を見送ってチェリッシュは自分は諦めてくれそうだと期待をもった。その後、なにやら一人驚いた様子のキリアスが放置されていたらしい。
●6、7日目
この二日、結局キリアスは現れなかった。何かあったのか、それともようやくチェリッシュを諦めてくれたのか。とにかくも、ホッとして笑みをこぼすチェリッシュであった。
数日後、クエストリガーにチェリッシュの姿があった。
「それが‥‥、あのあと彼がすごい剣幕で怒っていて‥‥。私の友達に、女装をした自分の姿の幻覚を見せられたとか、私に近づくなって脅迫されたとかされたらしく。彼が付きまとわなくなったのはいいのですけど、なにか報復されそうで怖いです」
聞いたところ、彼女の友達役だったカンタータに幻覚を見せられたり、同じく友達役の大宗院に弱みを握られ脅迫されたことを怒っていたようだ。結果的に、キリアスはチェリッシュに近づかなくなったが、禍根が残ってしまったようだった。
「はうぅ‥‥」
チェリッシュは、深く深く残念そうなため息をついた。