謎の一団から荷を守れ!
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:緑野まりも
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月23日〜08月29日
リプレイ公開日:2005年08月28日
|
●オープニング
ガタンゴトン、ガタンゴトン、薄暗い森の中を荷馬車が通る。街へと向かうその荷台には、多くの商品が詰め込まれていた。
この森を抜ければ、街まではもう少しだ。御者の男も、数日振りの街の賑やかな酒場で飲む酒や綺麗な女に想いを馳せた。
ヒュン、ビシュ! 突然、風を切る音が聞こえたかと思うと、荷馬車を引く馬の足元の地面が爆ぜる。
「!?」
ヒヒーン!! 馬は驚き、前足を上げる。御者は慌てて手綱を引くと馬を落ち着かせた。
「な、なんだ?」
「その荷物、あたし達グレイト団がいただくよ!」
周囲を見渡す御者に、良く通る若い女性の声が届く。声のするほうを見てみれば、街道の先に3人の人影のようなものが見えた。
「おとなしく荷を渡せば命だけは助けてやる。さっさと荷馬車から降りな!」
近づいてくる人影、命令してくる女性は長身でグラマラスな体型で、身を包むマントの下には肌の露出度が高い黒いレザーを身に着けている。その手には鞭を持ち、おそらくそれで馬を止めたのだろう。
「そうそう、無理に荷馬車に乗ったまま逃げないほうが身のためですよ? そんなことをしても、わたくしのダーツが貴方の眉間を打ち抜くことなど造作もないことなのですから。それに‥‥美しくありませんからね」
やけに芝居がかった抑揚のある口調の男は、この場には似合わない、まるで社交界に出るような煌びやかな衣装を纏っていた。腰には細剣、その手に持ったダーツの先がキラリと光る。
「お、おまえ、言うごど聞ぐ。で、でないど、じぬ」
ほかの二人と比べると、ずいぶんと小柄な男はくぐもった声で、所々つっかかるように話す。実用的なレザーアーマーを着込んだ男は、身長に似合わず筋肉質な体型で、大きなハルバードを肩に担いでいる。
3人とも、ダンスパーティでつけるような、派手なマスクをつけていて、容姿はわからない。
「ひ、ひぃ! 荷は渡すから命ばかりはお助けを!」
「さっさといきな!」
謎の盗賊に脅され、御者は抵抗する気力もなく御者台から降りると一目散に来た道を逃げ出した。男の姿が見えなくなると、3人は荷馬車へと近づいた。
「よしお前たち、誰も来ないうちに荷を運んじまうよ!」
「ぐ〜れいと!」
女性の命令に、謎の掛け声を上げて男二人は荷馬車ごと荷を運び出した。
ふと森の奥から、ギャーギャーとなにやら叫び声のようなものが聞こえる。リーダー格の女性は、その声を聞いて眉をひそめた。
「このあたりもそろそろ潮時かねぇ‥‥」
「なんだと!? また荷を奪われた!」
数日後、ようやく街へと戻った荷馬車の男から報告を受けて、商人の男が声を上げた。
「グレイト団とか名乗っていた? なんなんだそいつらは!」
ここ数回にわたって、謎の一団に荷を奪われるという事件が起きていた。なぜか毎回、荷馬車と馬は街の近くに放置されているのだが、荷がなくなっていては話にならない。
「なんてことだ、これでは在庫がなくなってしまう。しかたない、冒険者でも雇って護衛をつけよう」
最近は、そんなわけのわからない謎の盗賊以外にも、ゴブリンなどの出没もあるようで。商人の男はしかたなく冒険者を雇って護衛につけることにした。
●リプレイ本文
キャメロットより三日ほど行った村、護衛のため雇われた冒険者達は荷を積み込み終わった荷馬車を前にしていた。
「みなさん、護衛のほうよろしくおねがいしますよ」
「任せときなって。まぁ、気楽に行こうや」
「はぁ‥‥」
御者の男に頼まれ、アルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)が気軽な様子で笑みを浮かべる。調子の良いアルの様子に、御者は逆に少し心配になったように苦笑いを浮かべた。
「積荷は特におかしな物は無いようだな」
積荷を調べたり、村人から情報を聞いていたローガン・カーティス(eb3087)であったが、積荷は村の特産品としてそこそこ高級なものであったが特に怪しいものでもなく、また村人達も盗賊団について知るものはいなかった。
「では出発しましょう」
メンバー最年長メアリ・テューダー(eb2205)の号令に他のメンバーは頷き、荷馬車を護衛しつつ村をあとにした。
街に向かって二日、夜間は二人ずつ交代で見張りをしてきたが、ここまでは特に問題なく進んでいた。三日目、薄暗い森の街道を抜ければ街まではもうすぐだ。
「この辺り‥‥ですね」
「ああ、聞いた話では前回はここを抜けるときに襲われたらしい」
レザード・リグラス(eb1171)の呟きに、ローガンが頷く。前回はこの森を抜ける際に、謎の盗賊に襲われ荷を奪われたのだった。メンバーは周囲の警戒を慎重にしながら街道を進む。
ザザ‥‥最初に気づいたのはレザードだった。彼の聴覚は前方の動くものを感知する。
「何かいますよ‥‥」
レザードの合図に、メンバーは前方へと意識を向けた。その先には、街道のど真ん中に立つ3つの人影。
「そこの荷馬車、止まりな! その荷はあたし達グレイト団がいただくよ。命が惜しかったら‥‥」
「ファイヤーボム!!」
人影の一人、グラマラスな女性が口上を述べようとしたそのとき、すでに詠唱を終えていたローガンがそれを遮るように魔法を唱えた。手のひらから現れた火球が人影へと放たれる。
「ちぃ! なんてやつらだい! 人の前口上ぐらい聞くもんだよ!」
憎憎しげに叫びながら、人影達は素早い動きで森の木々の中へと隠れる。街道で火球が破裂し炎の爆発が起き、馬が驚きの声をあげる。御者が忠告されていた通り、なんとか馬を落ち着かせる。
「今のうちに‥‥む!」
ローガンの提案で、この隙に全員荷馬車に乗り突破するはずであったが‥‥。炎の爆発の中から人影が現れ、荷馬車を遮る。
「ごご‥‥どうさない」
ブォンとハルバードを振るい炎を吹き飛ばす小柄な男。ファイヤーボムの爆発を直に受けても軽い火傷程度の傷しか負っていなかった。と、思えば爆発の拍子にマスクが飛ばされたようで‥‥。
「ああ! おでのだいじなまずく!」
男は慌てて周囲を見回しマスクを取りに行く‥‥一瞬愛嬌のある素顔が見えたような気がした‥‥。
「ええい、なにやってんだいスカポンタン! さっさと荷を奪うよ!」
「ぐ〜れいと!」
木を盾にして爆発を防いでいたリーダー格の女性の声に、他の二人が謎の掛け声をあげて荷馬車へと襲い掛かる!
「貴方達の行動、美しくありませんよ」
派手な衣装の男の右手が煌く! と同時にダーツが詠唱中のレザード達に飛ぶ。
「サイコキネシス!」
咄嗟にメアリがダーツの軌道を逸らそうと魔法を唱えるが。
「三本!?」
「くっ!」
「む‥‥」
しかし、一瞬のうちに投げられていたダーツは三本だった。メアリはかろうじて一本の軌道を逸らすが残り二本がレザードとローガンに命中、苦悶の声をあげ詠唱を止められる。その隙に、リーダー格の女が荷馬車に隣接する。
「だいじょうぶか!」
「おめぇの相手はおでなんなんだな!」
「くそ!」
アルがメアリ達のサポートに入ろうとするが、ハルバードの男が間に入り強い力で巨斧を振るう。アルはかろうじてロングソードでそれを防ぐが、これではうかつに動けない。
「まずい‥‥これでは‥‥ん? なにかいますよ!」
相手の技量の高さに劣勢になりつつあった最中、レザードは森から分け入ってくる複数の物音に気づいた。周囲を見渡せば、いつのまにか複数の小柄な影が取り囲んでいる。
「ゴブリンです!」
レザードの声に、取り囲む影を見たメアリが叫ぶ。潰れた鼻をして下顎から牙が伸び上がった醜悪な顔をしたその姿は、まさにゴブリンだった。その手には不恰好な斧のようなものを持ち、こちらが気づいたことを察知したゴブリンたちは、ギャーギャーと叫び声を上げて威嚇する。
「ちっ! とんだ邪魔が入ったもんだよ!」
リーダー格の女性が舌打ちする。オーガ族は人類の天敵、それは盗賊といえ同じだった。取り囲んだゴブリン達にとっては、メアリ達も盗賊達も同じ襲うべき対象であった。
「しかたない! お前達、今日の所は撤退するよ!」
「ぐ〜れいと!」
女性の号令のもと、盗賊達は素早く荷馬車から離れる。そして、道を遮るゴブリン達をあるいは鞭の締め付けで、あるいはレイピアの突きで、あるいはハルバードの一閃で薙ぎ払いながら駆け抜けていった。そのおかげで、ゴブリンの半数は彼らによって倒されたのだった。
「お前ら逃げんのか!」
「深追いはダメだ、それより今はこのゴブリン達をどうにかせねば」
アルが盗賊たちに追いすがろうとするのを、ローガンが制する。いまだ4匹のゴブリンが彼らを狙っているのだ。どうやら、仲間がやられたことに怒っているようで、何度も斧を振り上げている。
ゴブリン達は荷馬車が逃げられないように、街道の前を遮る。アル達は、武器を構えて敵と対峙した。盗賊達との戦いで受けたダーツのダメージは軽く、ほとんど影響はない。
「先に私がゴブリンの行動を抑制します! アグラベイション!」
「食らえ、ファイヤーボム!」
詠唱を終えたメアリが魔法で複数のゴブリンの行動を抑制する、そして動きの鈍くなった敵にローガンの火球が炸裂! 炎に焼かれ、ゴブリン達が叫び声をあげる。
「同士討ちをしてもらいましょうか、コンフュージョン!」
「いまだ! ちゃちゃっとやっちまうぜ」
レザードの魔法は、ゴブリンの一匹を混乱させる。その隙にアルがロングソードで一匹に切りかかった。斬撃はゴブリンを見事に切り裂き、魔法に弱っていた敵に重傷を与える。混乱しているゴブリンも、他のゴブリンに切りかかり同士討ちを始めた。
戦いは冒険者達の優位に進んでいた。しかし、いかんせん前衛で戦える者が一人しかいないため攻撃がアルに集中していた。
「ぐぁ!」
「アル!」
ゴブリンの斧の一撃がアルの脇腹に当たる。苦悶の表情を浮かべるアルは、すでに何度かの攻撃でダメージが蓄積していた。苦痛に膝を付くアルの姿に、悲鳴を上げるメアリ。
「お眠りなさい、スリープ!」
「こんの! 負けるかぁ!」
再びアルを攻撃しようとしてきたゴブリンをレザードが眠らせ、アルが渾身の力で立ち上がり敵を切りつける。そして、自分達が不利だと感じたのかようやくゴブリン達が悲鳴を上げて逃げ出した。
「はぁはぁ、やった‥‥」
「無理してはだめです」
ロングソードを支えにしながら、荒い息をしつつ立ち上がろうとするアルだが、体力が尽きたのか再び膝を付く。メアリが駆け寄り、その身体を支えた。
「ローガン、いつまでもこの場にいては危険です」
「ああ、そうだな。アルを荷馬車に乗せて急いでこの場を離れよう」
レザードの言葉に、ローガンが頷く。レザードの耳には、再び森の奥からこちらへと近づく複数の何かの音が聞こえていた。
その後は、再び盗賊に襲われることもなく、無事にキャメロットの街までたどり着いた。アルは怪我を負ってしまったが、荷は無事に街まで届けることもでき商人も喜んでいた。今回の護衛任務は成功といえるだろう。しかし、盗賊は結局何者なのか分からずじまいだった。