別荘へ行こう! 幽霊付き?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:緑野まりも
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月28日〜09月04日
リプレイ公開日:2005年09月04日
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●オープニング
「退屈ですわぁ〜」
腰までもある長く美しいブロンドの髪を、サラリと手で払って、端正な顔つきの少女が憂鬱そうに呟いた。名はイーリス・ロッテンマイヤー、貴族の令嬢だ。
年のころは17、8歳、少々釣り目がちの瞳や細い眉が知性を感じられるキリッとした顔立ちの少女‥‥なのだが、今の彼女は少々ダラケ気味で椅子の背もたれに寄りかかっている。
「お、お嬢様‥‥そんなみっともない格好で」
室内に控えるように立っていたもう一人の少女が、困ったような表情でたしなめる様に彼女に声をかけた。彼女はアルマ・キャロル、イーリス付きの使用人だった。
髪は濃いブラウンで、ストレートショートに綺麗に切りそろえられている。太い眉、幼さを残す大きな瞳が印象的で、ぽっちゃり系の可愛らしい顔立ちをしている。体型は小柄で、その顔立ちと相まって幼く見えるが、ブロンドの少女と同年代のはずだ。両方の少女とも、フォレスト・オブ・ローズの制服を着ている。
「だって、暇なんですもの。せっかくの夏だというのに、こんな所でジッとしているなんて耐えられませんわ。退屈ですわ〜、退屈ですわ〜。」
イーリスは日ごろ優等生として凛々しく振舞っている少女とは思えないほど、幼い子供のように両足をブラつかせて声をあげる。こんな姿を見せるのは、二人きりの時だけだということをアルマは知っていた。
「そう申されても‥‥市場にでも参られますか?」
「却下! あんな人ごみの多いところになんて行けませんわ」
アルマの提案はあっさり否決された。たしかに市場での買い物はアルマの仕事であり、彼女が行くことはほとんどない。
「ではどうされますか‥‥」
「そうですわ! 別荘に行きましょう。別荘の近くには泉もあったはずですわ。幼い頃は、夏になるとよく行ったものですわ」
「え‥‥」
妙案を思いついたようにぽんと手をたたき、イーリスが憂鬱そうな表情から、楽しそうな表情へと変わる。しかし、アルマは顔を引きつらせた。
「なんですの?」
「い、いえ‥‥。あの別荘は最近使われてなかったはずですが‥‥」
アルマの表情に、不機嫌そうに顔をしかめて問うイーリスに、アルマは困ったように答えた。
「あら、いいじゃない。そんな長い期間滞在するわけではないし、多少荒れててもわたくしは平気よ?」
「そ、その‥‥、使われなくなった理由が‥‥」
「なに? もうハッキリ言いなさい!」
「ゆ、幽霊がでると‥‥」
「‥‥‥」
アルマが少々青ざめた表情で答えると、イーリスは一瞬きょとんとした表情で彼女を見つめ。
「あはははは、もうアルマったら」
「ほ、本当らしいのですよ! 別荘の管理を任されていた父の話なのですから」
「あらまぁ、リュカリドが?」
信じてない様子で笑うイーリスに、手を振り慌てた様子で答えるアルマ。アルマの父は、いまはロッテンマイヤーの家の執事を任されている人物で、実直な性格のためそんな嘘を言うわけはない。
「でも、それはならそれで、面白そうですわね。別荘で幽霊退治なんて刺激的ですわ」
「ええ!? 本当に参られるのですか? 幽霊ですよ、幽霊!」
「騎士がアンデットごときに恐れをなしてどうするの。さ、支度をなさいアルマ」
「う‥‥、それはやはりわたくしも参らなければならないのですか?」
「あたりまえでしょう、貴方はわたくし付きの使用人なのですから、いかなる場所へいくにも一緒です」
「うう‥‥」
顔を蒼白にして恐れるアルマに対し、にこやかに笑みを浮かべるイーリスに、アルマはがっくりと肩を落とした。
「そうですわ、せっかくだしご同輩のみなさまもお誘いしましょう。‥‥そういえば、昔一緒に遊んだあの子はどうしてるのかしら?」
それから数時間後、クエストリガーに『別荘で休暇を楽しみましょう 幽霊付き』の依頼書が張り出された。
●リプレイ本文
「おもったほど荒れてはおりませんわね」
貴族の娘イーリスの誘いにのり、別荘へと遊びに来た一行。たどり着いた別荘は、さすがに貴族の持ち物ということで広さは十分あるようだった。周りは草木が伸びていたが、しばらく放置されていたというわりには中はそれほど荒れている様子はない。
「でも、さすがに埃が溜まっているようですわね。アルマ、お願いね」
「はい、お嬢様」
イーリスは、うっすらと溜まる埃に小さくため息をつくと、アルマに掃除を命じる。アルマも心得たもので、さっそくと掃除の準備を始める。
「あ、僕も手伝います!」
「では私も」
「ええ!? お客様にそのようなことはさせられません。どうぞ、しばらくおくつろぎください」
酒井貴次(eb3367)とトリーティア・マール(eb3372)がアルマの手伝いをしようと申し出る。しかしアルマは、二人は主人のお客様だと両手を前に首を横に振った。
「そんな、僕は好きでお手伝いさせてもらうだけで」
「そうだよ、それにこの別荘は広い。一人では大変だよ」
「あ、ありがとうございます」
結局、アルマは二人の言葉に大きく頭を下げて、酒井達はアルマの手伝いをすることとなった。
「イーリスさん、私達はその間こちらでお話でもしていましょうか」
「私もお付き合いいたします」
「そうですわね、なにか面白いお話でもありまして?」
アルマ達が掃除をしている間、イーリスの世話をしていようとユルドゥズ・カーヌーン(eb0602)が話しかける。エレナ・レイシス(ea8877)もそれに付き合い、自分達が受けたクエストの話で盛り上がった。
しばらくして時もたち夕食も済み、しばらくの団欒の時間。酒井の占いが、占い好きの女性陣に好評だったり。ユルドゥズが勉強を教えたりと、各々くつろいでいたところ。
「そうそうみなさん、この別荘には幽霊が出るそうですの。少女の泣き声や白いモヤのようなものが現れるんですって。ねぇ、アルマ?」
「お、お嬢様! そんなことを口にしては本当に出てきてしまいますぅ‥‥」
イーリスがポンと手を叩き、楽しそうに語りだすのを、アルマがサッと顔を青ざめてフルフルと首を横に振った。
「はい、僕も興味があります。僕に何かできたら、幽霊さんの成仏のお手伝いもしたいし」
「ああ、幽霊がいるのならそれはなにか理由があるのだろう。私もその理由を聞いて、なんとかしてあげたいな」
「そうですね、私も迷える魂がちゃんと天に召されるためになにかして差し上げたいと思います」
イーリスの話に、酒井が乗りトリーティアが頷く。クレリックのユルドゥズは十字架を胸に祈りをささげた。
「私は、人に害がなければほうっておいて良いと思うのですけれど」
「そ、そうですよ〜。幽霊なんてほうっておきましょう‥‥ひぃ!」
エレナが軽く小首をかしげ。その言葉に、アルマがなみだ目でコクコクと頷いた。とそのとき風が窓を叩きガタガタとなり、息を呑んでビクゥっと身を振るわせるアルマ。その様子に、一同失笑が漏れたようだ。
「あ、あのあの‥‥」
「もぅ、アルマったら幽霊ごときで怖がって。貴方も一応はFORの生徒なのですから、しっかりなさいな。さて、今日のところはそろそろお開きと致しましょう」
「うぅ‥‥‥」
苦笑を浮かべたイーリスの掛け声で、一同は宛がわれた自室へと戻っていく。しかしアルマは、しばらくのあいだ無言で窓を見つめていた。‥‥彼女には、窓の外に一瞬白い手が見えたのだった。
『‥‥す‥‥りす‥‥い‥‥す‥‥さび‥‥よ‥‥』
「あれは‥‥」
その夜、幾人かの者が少女のすすり泣くような声を聞き。深夜に外に出て星を見ていたエレナが、森の奥へと消えていく白い影を見るのであった。
次の日の早朝、深夜に聞こえた泣き声や白い影についての話題に盛り上がった一同は、夜に幽霊探索をすることになった。もちろんアルマは反対したのだが‥‥。
日中は、各々自由に過ごすことになった。
「よろしいですか、神は絶えず貴方達のことを見守っており、どんな者でもその救いを受けることができます」
「なるほど〜」
ユルドゥズがゆっくりと木陰で、聖書を開き読書をしていると、酒井が知識のためにジーザス教の教えを乞いに来た。酒井はユルドゥズから聖書を借り一緒に読書することになった。
「あら、素敵ですわね」
「いえ、まだまだ未熟なもので」
イーリスの願いで、エレナが竪琴の演奏を披露する。優しい日差しの中、優雅に竪琴を弾くその姿と、音色にニッコリと微笑み褒めるイーリスに、エレナは謙遜したように小さく首を振って微笑んだ。
「この花なんて良さそうだね。可愛らしくて心が安らぐ」
「そうですね、皆様のお部屋にも飾りましょう」
トリーティアはアルマの手伝いをしながら、部屋に飾る花を探しに森を散策していた。サラサラと、森の木々の間から心地よい風が流れ、木漏れ日が優しく照らす。野道を歩きながら、街の喧騒を一時離れ、静かでゆったりとした時を過ごした。
「ねぇ、みなさんでこれから泉に水浴びに参りませんこと」
「あら、良いですわね」
お昼過ぎ、イーリスの提案にエレナ達女性陣が同意した。別荘の近くには、綺麗な泉があり水浴びをするには最適なのだそうだ。
「そ、それじゃ僕はお留守番を‥‥」
「あら? 酒井様はいらっしゃらないのですか?」
「え‥‥ほら、僕は‥‥一応男ですし‥‥」
アルマが意外そうに問いかけると、酒井が少し慌てたように身を引いた。しどろもどろに話すその顔は真っ赤だ。水浴びということは、もちろんみんな裸である。思春期の少年にとっては刺激が強すぎるようだ。
「そんな気にすることはないよ、酒井君もいっしょにいこう」
「うふふ、可愛らしいですわね。大丈夫、お姉さん達が優しくしてあげますから」
「ぼ、僕が気にするんですよ〜。うわぁ、ユルドゥズさんまでキャラ変わってませんか!?」
酒井の様子にニヤリと笑みを浮かべたトリーティアが酒井を捕まえようとし、ユルドゥズまでニッコリと楽しそうに微笑を浮かべている。
「か、勘弁してください〜!」
「‥‥ちぇ、残念だね」
結局酒井は、なんとかお姉さま方を振り切って逃げ出すことに成功したようだ。
その日の夜、朝に話した通り、幽霊探索をすることになった。話し合った結果、全員一致で幽霊と出逢ったら友好的対話を行うことになり。
『‥‥りす‥‥びし‥‥よぅ‥‥い‥‥いな‥‥の‥‥』
「出ましたわよ‥‥」
深夜草木も眠る頃、寂しそうな泣き声が聞こえてくる。明かりを消して幽霊を待っていたイーリス達は、静かに泣き声のするほうへと向かった。
「女の子?」
エレナが呟く、廊下の先には一人の女の子の姿が窓の月明かりに照らされていた。女の子は、見た目は10歳ほどで白いワンピースを着ている、長い栗色の髪が印象的で幼くもどこか神秘的な綺麗な少女であった。
『いー‥‥す‥‥ない‥‥の‥‥さび‥‥よぅ‥‥』
「何か悩み事でもあるのですか? 私でよければ話を聞いて差し上げましょう」
「!?」
泣き声と共にかすかに聞こえる言葉は、迷子になった子が母を求めるような響きに聞こえる。ユルドゥズがゆっくりと近づき、優しい声で話しかけた。すると、少女はびっくりした様子で顔を上げる。
「驚かしてしまいましたかしら‥‥」
ユルドゥズが問いかけると、少女はフルフルと首を振って腕でゴシゴシと涙を拭い、観察するように一同を見回す。
「この子‥‥『イーリスいないの、寂しいよ』って言ってたようだけど」
トリーティアが、聞こえてきた少女の言葉を口にする。その言葉に、一同はイーリスへと視線を向けた。
「わたくし、この子を知っていますわ‥‥でもそんな、幽霊だなんて」
イーリスは信じられない様子で呟いた。
「この子は‥‥幽霊ではないような気がします。そう、どちらかといえば精霊のような」
「たしかに、精霊の力を感じます。おそらくは‥‥地」
モンスター知識を持つユルドゥズが思案顔で告げると、同じようにエレナも頷いて続ける。彼女は森を守る地の精霊、アースソウルだというのだ。
「イーリスさん、話しかけてみてはいかがでしょう?」
「ええ‥‥わたくし、イーリスよ? わかる?」
『イーリス!? イーリスだぁ!』
酒井に促されて、ようやく気を取り戻したイーリスは少女へと話しかける。少女は、イーリスを一瞬見つめ、パッと嬉しそうな表情を浮かべると彼女に抱きついた。イーリスも、少女を優しく抱きとめて涙をこぼす。
『ずっと、ずっと待ってたんだよ? イーリスが来なくなってから寂しかったよぉ』
「ごめんなさい、あれからずっとわたくしのことを待ってたのね‥‥」
話を聞けば、彼女はイーリスが幼い頃に別荘で遊んだ少女で、当時はもちろん精霊だとは知らなかったが、イーリスが別荘に来なくなってからは毎年この時期に寂しくて泣いていたのだそうだ。こうして、幽霊騒動は解決となることになる。
次の日から、イーリスは精霊の少女と共に、まるで幼い頃に戻ったかのように楽しそうに遊んだ。また、エレナは竪琴を披露し、酒井は占いをしてみせ、トリーティアは彼女達と森を散策し、ユルドゥズは聖書を語って聞かせるなど、それぞれ精霊との貴重なひと時を楽しんだ。
そんな精霊との二日間もすぎ、帰宅の日。
『イーリス‥‥来年もぜったいぜったいまたきてね!』
「もちろんですわ、来年またこの時期に参ります。騎士として誓いますわ、ね?」
『うん! ありがとうイーリス‥‥楽しかったよ‥‥』
少女の手を取り二コリと微笑むイーリスに、満面の笑みと一粒の涙を残し精霊の少女は朝靄と共に森の中へと消えていった。イーリスの瞳にもキラリと光るものがあったが、誰も何も言わない。それはみな同じことだから。
「来年も必ず参りますわよ!」
「はい、お嬢様!」
イーリス達は来年のこの時期を楽しみにしつつ、晴れやかな気分で帰路へとついた。