珍しいキノコを探せ! そして食しろ?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:緑野まりも
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月31日〜09月05日
リプレイ公開日:2005年09月04日
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●オープニング
貴族の屋敷、テーブルに並べられた豪華な食事が暖かい湯気を立てている。
「だんな様、夕飯の準備が終わりました」
「うむ、ではいただこうか」
テーブルには一人の男性、短く切りそろえたブロンドの髪に、キリッとした精悍な顔つき。口元から顎にかけて蓄えたヒゲが、どこか高貴さを醸し出している。その脇には、体格良く実直そうな初老の男性が給仕として控えている。
やがてブロンドの男性が食事を口にする‥‥、しかし男はすぐに眉をひそめ口元を押さえた。
「リュカリド‥‥」
「はい、だんな様」
「今日の料理は‥‥クリスのヤツが作ったのか?」
「はい、本日は坊っちゃんがお作りになられました」
しばらくしてようやく口を開き、脇に立っている執事に問いかければ、当然のように答えが返ってきた。
「あいつも困ったものだ‥‥、料理など貴族のするものではない。コックに任せておけばよいものを」
「‥‥‥」
ブロンドの男性の言葉に、執事は無言で答える。
「今日は、どんなものを材料にしたのだ?」
「さぁ、わたくしは存じませぬ。ですが、坊っちゃんのことでしょう、あまり聞きなれないものかと」
「‥‥‥」
次の問いかけにすまし顔で答える執事に、今度はブロンドの男性が無言になり料理を見つめた。
「まったく、放蕩息子め」
その後、息子可愛さか、思ったほど口に悪くなかったのか結局料理の全てを平らげて、大きくため息をついた。
「はぁ、食材探しですか?」
「ああ! ぜひ手に入れてほしいものがあってね!」
キャメロットのギルドに、貴族風の服装をした陽気な男性が訪れた。年の頃は20才といったところ、背中の中ほどまである美しいブロンドの髪を後ろに縛って、細い眉、ややたれ目がちな瞳、顎はスキッと細めという甘いマスクの青年だった。
「僕はクリスティン・ロッテンマイヤー、料理が趣味でね。しかも、珍しい食材を調理するのが好きなんだ。そこで、今回ギルドで面白い食材を手に入れてもらおうと思ってね!」
「は、はい、なにを手に入れればよろしいのでしょうか?」
「ずばり、スクリーマー!」
ややテンションの高い様子に、受付嬢は少々困り気味に尋ねると、青年はビシっと人差し指を立てた。
「え、あの‥‥スクリーマーってあの?」
「そう、あの巨大マッシュルームとも言える、巨大キノコスクリーマーを取ってきて欲しいんだ」
スクリーマーとは、腐った木の切り株や腐葉土に生えるという巨大なキノコだ。菌糸に触れると、大きな悲鳴に似た咆哮をあげることで知られており、時には迷宮の警報にも使われていることがあるそうだ。
外見は毒々しい極彩色で傘を彩った、巨大なマッシュルームのようで、毒キノコの様な外見だが毒はなく一応生で食べることもできるそうだが‥‥。
「食材‥‥ですよね?」
「ああ、さすがにうちと取引してる商人でもなかなか取り扱ってなくてね」
受付嬢が恐る恐る尋ねると、当然の如く頷き、困ったように首をかしげて苦笑した。たしかに、スクリーマーを食用として取り扱っている商人はそうそういないだろう。
「はぁ‥‥依頼とあれば入手してきますが」
「うん、お願いするよ。それと‥‥」
青年はそういって何か続けようとする、受付嬢は嫌な予感がした。
「取ってきたスクリーマーは僕が調理して、依頼を受けた人たちに食べてもらうってことで! これも依頼内容の中に盛り込んでおいてくれよ。ああ、もちろん料理を手伝ってくれるのは大歓迎さ、料理は楽しんでこそだからね」
「‥‥承知いたしました」
やっぱり‥‥心の中で受付嬢はため息をついた。いくら食べられるからといって、あんな毒々しいキノコを食べてくれるという人はいるのだろうか。ニコニコと陽気な青年の様子に、少し困りながらも依頼内容を書き留めた。
●リプレイ本文
「さて、行こうか」
巨大キノコ・スクリーマーが生息しているという森の入り口。オードフェルト・ベルゼビュート(eb0200)の声に頷き、冒険者一行は薄暗い森へと分け入っていく。
「シュガー、大きなキノコを探すんだよ」
森の中でティアラ・フォーリスト(ea7222)が、連れてきたペットのボーダーコリーに声をかける。コリーは役に立てるのが嬉しいのか、尻尾を振ってワンと鳴いた。
「とりあえずキノコを見つけないとね、どうやって取るかはその後」
「キノコ探しは任せるわ、私はモンスターを警戒しておくわね」
神楽香(ea8104)が鬱蒼と茂る木々に小さくため息をつき。ナディア・ファーリット(eb3452)は、怪しい気配がないか気を張り巡らせた。
「うむうむ、キノコ探しはわしに任しておくのじゃ。可愛い子がいっぱいで、わし張り切っちゃうぞ」
カメノフ・セーニン(eb3349)がニマニマと嬉しそうに笑いながら、任せろと太鼓判を押す。しかし、彼の視線はほとんど絶えず女の子達のお尻へと向けられている‥‥。
「むふふ〜、いまがチャンスじゃ」
「何がチャンスだ、エロじじぃ。女ばっかり見てないで、ちゃんとキノコを探せ」
「ぐふぅ‥‥年老いたじじぃの楽しみじゃったのに」
カメノフがニヤリと笑い、サイコキネシスの詠唱を始めると、予期していたのかオードフェルトがクレイモアの腹でカメノフ叩く。詠唱を中断し蹲るカメノフに、大きくため息をつくオードフェルト。無念、カメノフの野望は潰えたのであった。
「な、なにをやってるのであろうか‥‥」
少し後方をビクビクとした様子でくっついてくる、カモメの被り物を被った凍瞳院けると(eb0838)は、カメノフ達のやり取りを不思議そうに眺めていた。
「あ! あそこにキノコがあるよ!」
最初に見つけたのはティアラだった。しばらく森を探索していると、ワン!というコギーの鳴き声に視線を向けたティアラは、腐った木々の根元に三本の派手な極彩色のキノコが生えているのを見つける。その大きさから一目瞭然、巨大キノコ・スクリーマーであった。
「ね、ねぇ‥‥。本当にアレを食べるわけ?」
ナディアが顔を引きつらせた。毒々しい色合いをした傘、その大きさたるや大人の膝ほどまである。正直、食用には見えなかった。
「キノコは! キノコは苦手であります!!」
一行の後ろでは、ビクビクと怯えたような凍瞳院が困ったような声をあげる。身体の弱い彼女は、あんな毒々しいキノコを食べると思うだけでも倒れてしまうのではないかと心配だ。
「依頼は依頼だ、とにかくあのキノコを採取しよう」
「じゃあ、あたしがアイスチャクラで」
オードフェルトの言葉に神楽が頷くと、キノコが叫ばないように遠距離からの攻撃を試みる。その間、ナディアが周囲を警戒し、オードフェルトはカメノフを警戒し‥‥。
「よし、いくよ! ‥‥‥‥ありゃ」
神楽の手に氷の円盤ができあがると、狙いをスクリーマーに定めて放つ。鋭利な円盤が、木々の間を縫って巨大キノコに向かい‥‥スパッと傘の頭を切り落として戻ってくる。
「失敗‥‥なのかな」
「はは、ゴメン‥‥」
様子を見ていたティアラの呟きに、神楽が苦笑して頭を下げた。倒すだけならまだしも、食材として採取してくる以上、ちゃんと根元から取ってこなくてはならない。神楽には、ピンポイントで根元を狙う技術はなかった。
「しかたない、じゃあ俺が」
「お、そこは菌糸が‥‥」
「え‥‥」
オードフェルトがしぶしぶといった様子でクレイモアを担ぎスクリーマーに近づこうとするが、カメノフの忠告も間に合わず菌糸を踏んでしまう。
「〜〜〜〜!!」
「きゃ〜! 鼓膜が破れるのである!」
突然、キノコから耳をつんざくような叫び声があげられた。叫び声は周囲に響き、少し離れていた凍瞳院でさえ耳を押さえなければならないほどであった。
「くそ‥‥黙ってろ!」
鳴り響く叫び声に顔をしかめながら、スクリーマーへと一気に近づいたオードフェルトは、クレイモアを振りかぶって根元を薙ぎ払う。スクリーマーは一刀の元に切り裂かれ、叫び声を発しなくなった。
「ふぅ、みんな無事か?」
「ちょっと無事じゃないかもしれないわね‥‥」
突然ナディアが、表情を険しくして周囲を見渡す。警戒をしていた彼女は、いち早くこちらへと近づく存在に気づいたのだ。どうやら、スクリーマーの叫びは招かれざるものを呼んでしまったようだ。
やがて、木々の間から犬顔で身体全体を鱗に被われている小型のオーガの一団が現れた、コボルトである。コボルト達は、森に侵入した人間達を倒そうと、武器を振り上げて威嚇してくる。
「モンスターか‥‥まぁ、相手してやろうかね‥‥」
「命が惜しくないならかかってきなさい‥‥」
不敵に笑い赤い瞳で睨み付けるオードフェルトと、一瞬瞳を閉じて精神を落ち着けてロングソードを構えるナディア。コボルト達は、声をあげながら前面に立つ二人へと襲い掛かってきた。
「グラビティーキャノンしま〜す。全て吹き飛べ!」
先に詠唱していたティアラが、一直線に向かってくるゴブリンに重力波を放つ。ゴブリン達は抵抗できず、次々となぎ倒されて転倒する。それでも数匹はそれに耐え、一行に向かってきた。
「よし、まにあった。チャクラム!」
「自分もお手伝いするであります! ビカムワー‥‥ごほごほ」
神楽が再び出した氷の円盤が向かってくるゴブリンを切り裂き、凍瞳院の魔法が生命力を低下させる。と同時に、本人も吐血した‥‥。
オードフェルトのクレイモアが唸り、ナディアのロングソードが敵を切り裂く。瞬く間にコボルト達は戦意を喪失して逃げ出した。
「ほっほっほっ、他愛もないのぅ」
「‥‥戦ってる間、なんか変な視線を感じてたのよね」
「さて‥‥なんのことかのぅ」
転倒していたコボルトに石を落としていたカメノフを、ナディアがジト目で睨む。カメノフはそっぽを向いてとぼけた。
「やっぱり、俺が背負っていくのか? といっても、三つは無理だろ」
戦いも終わり、少し落ち着いた一行はスクリーマーを持っていく相談をする。結局、オードフェルトが渋々ながら背負っていくことになったのだが、スクリーマーは三本あるため一人で一度に持っていくことはかなり困難だ。
「じゃあ、私がひとつ持っていくわ」
ナディアがそう申し出ると、傘の頭が切れたスクリーマーを抱えて苦笑した。とにかくも、三本も取ってくれば依頼は十分達成だろう。
その後は、何事もなく森を抜け。待機しておいたカメノフと凍瞳院のドンキーにキノコを乗せると、街への帰途へとついた。
「やぁ! よくぞ取ってきてくれたね。これがスクリーマーか! 噂どおり巨大なキノコだな! 調理するのが楽しみだよ、ふふふ」
街へ戻り、依頼主の邸宅へと向かった一行。貴族の屋敷で、依頼主のクリスティンが満面の笑顔で一行を迎えてくれた。彼も初めて見るのであろう、スクリーマーの巨大さに驚き、そして実に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「キノコパーティの準備はできている、君達は庭で待っていてくれたまえ」
「や、やっぱり私達が食べるわけね‥‥」
「珍しいキノコを食べれるなんて幸せだねぇ」
「何故、自分はキノコを食べるような依頼を選んでしまったのであろうか〜」
「ちょいと興味はあるな‥‥」
「わしゃ、かまわんぞ。故郷では色々なキノコを食べたもんじゃ」
使用人にスクリーマーを調理場へと運ばせ、自分も楽しそうにそちらへと向かうクリス。そして、庭に案内されながら、冷や汗流すナディア、妙に嬉しそうな神楽、いまさら後悔してる凍瞳院、意外とあっさりしてるオードフェルト、そして平気な顔をしつつ使用人の女性のお尻を目で追っかけるカメノフ‥‥。
「あれ? ティアラは?」
「坊っちゃんさん、これ使ってください」
「ありがとう、ちょうど香草が欲しかった所だったんだ」
ふとナディアが気づいた頃、ティアラは調理場にいた。そしてキノコ取りの途中についでに摘んできた野草を、クリスに渡すのだった。
「お待たせ皆さん、スクリーマー料理が完成したよ。久しぶりに珍しい食材で調理ができて楽しかった」
しばらくして、ホクホク顔のクリスが庭へと現れる。それと同時に、使用人たちが備え付けられたテーブルの上に料理を運んできた。恐る恐るその料理に視線を向ける一行。
「う‥‥」
まず漏れるのは呻き声。シチュー、パスタ、スープ‥‥さすがに料理が趣味というだけあって、他国も取り入れ多種多様な料理が出てきたのだが、どれも毒々しい極彩色に彩られている。極めつけはスクリーマーの丸焼き‥‥乗る皿があるわけもなく、直接テーブルの上に鎮座している。
「じゃあ、いただきま〜す。うん、美味しい!」
「え‥‥? あ、本当だ、美味しい‥‥」
引きつった笑みで顔を見合わせていた一同であったが、一人嬉しそうな神楽が率先して料理に手を出す。その様子を見守っていた一同であったが、神楽の表情にみな驚き、ティアラ達も料理を口に運ぶ。そして、一様に驚きながらも美味しいと呟いた。
さすがは貴族、普段は使われない高価な調味料をふんだんに使い、スクリーマー以外は上級な食材を使っていた。スクリーマー自体も、色さえ気にしなければ普通のキノコとさほど味は変わらなかったため、料理自体は大変美味しく仕上がっていたのだった。
「こ、これなら自分も食べれるのである」
キノコが苦手だった凍瞳院も、この料理は気に入ったように口に運んでいる。
こうして、スクリーマー料理のほとんどは平らげられることとなったのだが‥‥。
「コレ、どうする?」
「もちろん、食べてくれたまえ」
最後に、どうしてもひとつ残った料理があった、スクリーマーの丸焼きである。爽やかな笑みで料理を勧めるクリスに、一同は顔を見合わせてため息をついたのだった‥‥。