悪戯小僧を捕まえろ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月01日〜09月04日

リプレイ公開日:2005年09月05日

●オープニング

 建物の屋根の上に小さな人影が立っていた。外套がパタパタと風になびき、被っていたフードから幼い顔が覗く。ボサボサの赤茶の髪の下には、大きな瞳が燃えるようにランランとしている。その視線の先には、冒険者養成学校フリーウェルの校舎があった。
「くそぉ〜、フリーウィルのやつらめ〜、今に見てろよ! うわっとっと!」
 人影は悔しそうに呟くと、校舎へと向かってコブシを振り上げた。その拍子に屋根から落ちそうになったのはご愛嬌。

 最近、フリーウィルではある事件が起きていた。
「ああ! こんなところに落書きが!」
「うぉ、なんで落とし穴が‥‥」
「冷てぇ! なにするんだ!」
「きゃあ! なにするのよエッチ!」
 事件というには大げさすぎるのかもしれないが、悪戯が多発していたのだ。その悪戯というのは、校舎の壁に(軽石などで)落書き、グラウンド付近に小さな落とし穴、フリーウィル生徒に向かって屋根の上から水が降ってくる、女子生徒に対してのスカートめくりなどなど‥‥子供っぽいものがほとんどであった。その犯人というのが。
「へっへ〜んだ! 悔しかったらオレッちを捕まえてみろ! 天下のフリーウィルが情けないぞ!」
 フードを目深に被って外套を翻しながら、すごいスピードで逃げていく。背格好から、だいたい10歳ほどの少年と思われるが、その逃げ足たるやフリーウィルの一般生徒ではなかなか追いつけないほど。素早い身のこなしで入り組んだ路地裏に入り込まれると、土地に不慣れな生徒では追いかけることも困難であった。
 なぜか、フリーウィルの生徒(と校舎)を狙って悪戯をしかけてくるようで。その被害者も結構な数にのぼり、子供っぽい悪戯といっても無視できなくなってきたようだ。

「というわけでクエストリガーに犯人の捕獲をお願いしようと思ってね」
 クエストリガーの受付で初老のフリーウィルの男性講師が依頼をした。最近フリーウィルを騒がす、謎の少年を捕まえてほしいというのだ。
「私としては、犯人もまだ子供のようだしあまり手荒な真似はしたくないのだ。悪戯自体は大した事ないからね。とにかく捕まえて、何故フリーウィルを狙うのか目的を聞いたうえで、ちゃんと反省して同じようなことを繰り返さなければそれでいいのだ。三日間ぐらいのうちになんとかならんかね?」
 白髪交じりの優しそうな初老の講師は、少し苦笑しながらも犯人に対しても寛容の姿勢を見せる。
「捕獲に必要なものは、なるべくこちらで用意するから。まぁ、とにかく頼むよ。学校側で動くような大げさなまねにはならんうちにな」

●今回の参加者

 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 放課後の時間、下校の生徒達に紛れて冒険者養成学校フリーウィルの校舎の一つから二人の生徒が出てきた。リオン・ラーディナス(ea1458)とニック・ウォルフ(ea2767)である。元からフリーウィルの生徒であるリオンは、授業を受けながら最近の悪戯騒動への注意を一般生徒たちに促していた。
「予想以上に話題になってるな」
「うう、僕は授業が疲れたよ」
ニックは、授業をまじめに受けて少し(精神的に)疲れていた。
「悪戯する人がいるみたいだけど‥‥リオンさんならすごく強いから大丈夫だよね」
「ま、所詮子供のお遊びだからねー」
 二人は、学校で聞き込みをして犯人のよく出没する場所を聞き、犯人を挑発するようなことを大きな声で話しながら歩いていた。犯人をおびき出すための囮である。
「大体、悪戯程度の罠にひっかかるわけ‥‥ぁが!?」
「そうそう、これでも僕らはフリーウィルの生‥‥」
 街中を歩いている最中、突然二人の頭の上に気配が現れたかと思うと、空から大量の水が降ってきた。
「‥‥酷いよリオンさん」
「はは、悪ぃ‥‥」
 ザバァ! そんな音が聞こえてニックは頭から水を被りびしょ濡れとなった。罠に引っかかるとは当初の予定であったが‥‥リオンは反射的に水を避けていた。恨めしそうにリオンを睨むニック。
「へへ〜んだ! フリーウィルの生徒がそんなのも避けられないのか!」
 そんな二人の頭の上から、子供の声が聞こえてきた。見上げれば、建物の屋根の上から少年が顔を覗かせた。
「悪戯小僧さん見つけたデスぅ〜」
 そんな少年の後ろに忍び寄る小さな影、シフールのエンデール・ハディハディ(eb0207)が空を飛んで少年に気づかれないように近づいていた。その手にはダーツを抱え、少年に突き刺そうと狙っている。
「うわ! なんだお前!」
「わわ! 見つかったデスぅ」
 しかしあと一歩というところで、エンデに気づいた少年が慌てて払いのける。
「悪戯犯人はおいらが捕まえる!」
「くそぉ、お前らなんかに捕まるもんか!」
 待機していたデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が、リオンから借りたフライングブルームに乗って屋根へと上ってきた。少年もそれに気づき、苦々しげな声をあげて置いてあった桶をデメトリオスに向かって投げた。おそらく、そこに水をいれて屋根下のリオン達に落としたのだろう。
「うわ! ととと‥‥」
 突然飛んできた桶に、デメトリオスは慌てて回避。
「素直にお縄につくデスぅ〜!」
「逃がすか!」
「嫌なこった! フリーウィルには絶対捕まらないぞ!」
 エンデの再度突撃を身軽にかわし、ようやく屋根へと上ってきたリオン達の横をすり抜けて、少年は屋根から飛び降りる。どうやら、事前に脱出路を用意してあったらしく、段差上に組み上げられていた木の箱を利用して無事に地面に降り立つと狭い路地裏へと逃げていった。
「いやー、近頃の子供はやるもんだね」
「あ〜あ、僕のマントがびしょびしょ‥‥」
 まんまと犯人に逃げられてしまったリオン達。びしょ濡れニックは、自分の貴重なマントがすっかりと水に濡れて重くなっていることにため息をついた。
「あ〜、悔しいなぁ。おいらがミスらなければ」
「逃げられたデスぅ〜」
 空を飛んで捜索していたデメトリオスとエンデが戻ってきたが、成果はなかったようだ。あの小さな身体だ、路地裏に身を潜められ、一度見失うと探すのは困難なようだ。こうして、第一日目は犯人の少年に軍配が上がった。
「にゃ〜〜〜」
 そのころ塔の上では、エンデの猫バステトが置いてきぼりをくって不服そうな鳴き声をあげた。

 二日目、今日はエンデとデメトリオスの空飛び組がうまく連携し、少年が路地裏に入られないように先回りしつつ、ニックが追いかけることとなった。ちなみに今回はリオンが落とし穴に引っかかった。
「そっち行ったデスぅ!」
「ここは通さないぞ!」
「待てぇ!」
 下校時間、生徒のごった返す街中で、二つの影が追いかけっこをしている。ニックと少年の足の速さは互角、いや訓練をつんでいるニックのほうがやや早いといった所か。
「よっしゃ、ドンピシャ! 止まれぇ!」
 ニック達が追いかけっこしている間に先回りしていたリオンが、少年の進路にたって待ち受ける。
「うわわ!」
「たぁ! 捕まえた!」
 リオンに驚いた少年が、慌てて急転回しようとするのを後ろから追いかけてきたニックが抱きつくように捕まえた!
 ようやく少年を押し倒したニックに、リオン達が賞賛の声と共に近づく。ところが‥‥。
「うあわぁ! どこ触ってるんだ、えっちぃ!!」
「え‥‥」
 甲高い声で叫ぶ少年、ニックの手には微かではあるが柔らかい膨らみの感触があった。その感触はもちろん女性特有の胸部の膨らみであった。
「お、女の子!?」
「いまだ!」
 驚いたニックは、つい力を弱めてしまった。その隙に、ニックを跳ね除けて逃げ出す少年‥‥いや少女。
「くそぉ! 覚えてろよ!」
「あ、あの耳は!」
 再び路地裏へと逃げ出す少女は、一瞬こちらをみて捨て台詞を残した。そのとき、ニックとの取っ組み合いの際にずれていたフードが外れ素顔が見える。デメトリオスはそのわずかに尖った耳で自分と同じパラだと気づくのであった。

「ただいま〜」
 ぼさぼさの赤茶の髪の少女が、自宅へと帰ってきた。ケンブリッジの隅にある彼女の自宅は、小さく質素であまり裕福ではないということが見て取れた。
「お帰りなさい、お友達が待ってるわよ」
「え‥‥?」
 母親の言葉に、キョトンとした少女。そして、室内を見渡せば、こちらを見てニコリと笑うパラの青年。
「お前!!」
「こんにちは、昨日はゴメンね。ちょっといいかな?」
「う‥‥‥」
 自宅で待ち受けていたのは、ここ数日少女を追いかけてきたデメトリオスであった。彼の提案で、昨日見た彼女の容姿から聞き込みをして、その自宅を見つけ出し待ち伏せていたのだ。
「お母さん、彼女をちょっとお借りします」
「はいはい、いってらっしゃい」
 何も知らない少女の母は、デメトリオスにニッコリと微笑んで二人を見送った。

「お母さんは何も知らないようだね」
「そ、そうだよ、母ちゃんは何も知らない。オレッちが勝手にやってたんだ!」
 デメトリオスは、リオン達との待ち合わせ場所に少女と連れ立ってやってきた。少女は、さすがに自宅まで知られてしまった以上、無駄な抵抗はやめたようだ。
「珍しいね、街に定住してるパラって」
 ニックが素朴な疑問を口にする、たしかに放浪生活を常としているパラである、街に定住することは多くはないようだ。
「母ちゃんは足が悪いんだ‥‥だからもう旅へ出られない」
「そっか‥‥ゴメン」
 辛そうに答える少女に、ニックは少し申し訳なくなった。
「だからってな、悪戯していいってわけじゃないだぞ」
「そ、そうデスぅ! 悪いことをしたらオシオキなんデスよ!」
 リオンとエンデは少女の境遇に同情しながらも、彼女を反省させるためにそう言わなくてはいけなかった。少女は悔しそうに顔を歪め俯く。
「で、何かあったら話してみたら? 只の愉快犯ってほど浅はかなヤツじゃあないだろ、キミは」
「‥‥‥」
 リオンが事情を聞こうと促す。どうやら彼女には彼女なりの理由がなにかあるのだろうと感じたのだ。少女は、しばらく俯いていたがようやく顔を上げて口を開く。
「オレっち、本当は‥‥フリーウィルに憧れてたんだ。でもうちは、母ちゃんの足が悪くて、オレっちも働いてるけど貧乏で‥‥とてもフリーウィルの入学金を払う金なんてないから」
「でもなんで悪戯なんて」
「悔しかったんだ! それに羨ましかった‥‥。オレっちはなんでフリーウィルで勉強できないんだろう、あいつらはなんでフリーウィルで勉強できるんだろうって」
「可哀想デスぅ‥‥」
 問いかけるニックに、辛そうに告白する少女。事情を聞けばついつい同情してしまい、エンデが表情を曇らせる。
「でも、自分がやられたくないことは、他人にもやっちゃいけないと思う」
「ごめんなさい‥‥」
 デメトリオスの言葉に、申し訳なさそうに頭を下げる少女。自分の気持ちを吐露したことにより気が済んだのか、彼女は反省した様子を見せた。
「彼女も反省してるようだけど、どうする?」
 リオンが一同の顔を見て問いかける、一同は顔を見合わせて頷いた。

「報告は受けました、君が今回の悪戯騒動の犯人だね」
「うん‥‥ご迷惑をかけました、ごめんなさい」
 初老の講師の問いかけに、少女が頭を下げる。少女が反省している様子に、講師はニコリと優しそうな笑みを浮かべた。
「私としては、君が反省していてこれ以上悪戯をしないのなら許したいと思う」
「‥‥うん、もうしません」
「しかし‥‥フリーウィルに入りたかったら、それなりの罰を受けてもらわないといけないね」
「え‥‥?」
 講師の言葉に、不思議そうに頭をあげる少女。講師はいっそう優しく顔を綻ばす。
「君が落書きした壁や落とし穴、それと一週間ぐらいトイレ掃除をしてもらおうかな」
「で、でも、オレっち入学金が‥‥」
「うちの学校には奨学金制度というものがあってね、優秀な生徒には入学金の免除などをしているんだよ。報告でね、君はたいへん運動神経が優れているようだね。それに、うちの生徒を出し抜くほど機転も利くようだ。君がまじめに授業を受けるというのなら、私は君を奨学生に推薦しようかと思うのだが‥‥どうかね?」
「ほ、ほんとか!? オレっちもフリーウィルに入れるの!? やった〜!」
 リオン達の報告で彼女の事情を聞いた講師は、彼女を奨学生としてフリーウィルに入学させることにした。それから数日、フリーウィルで罰を受けた彼女は、晴れてフリーウィルの生徒となる。その罰をリオン達が手伝ったのは、秘密だ。