悪い不良? 良い不良?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:緑野まりも

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2005年09月08日

●オープニング

 いつの時代も、マナーやルールに縛られず自由に生きたいと思う者がある。しかし、社会においてそういった者達は、一般とは違うとみなされ『ならず者』や『不良』といったカテゴリーに分類され、蔑まれる事となる。
 学園都市ケンブリッジにおいても、そういった『不良』は少なからず存在している。フォレスト・オブ・ローズのように特に規則に厳しい学校ではほとんど表立つことはないが、他の学校ではマナーや規則、一般生徒に相容れない者たちが『不良』というレッテルを貼られ、他の生徒と区別して見られていることも多い。
 一般的に不良は、他人に迷惑をかけることをなんとも思わず、自分勝手に行動し、時には暴力を振るって人を従わせようとする、と思われている。しかしその中で、冒険者養成学校フリーウィルの不良グループの一つ『邪鬼(ウィキッド・オーガ)』は特異の存在であった。
 『邪鬼』は、フリーウィルに通い冒険者の訓練を受けながらも、マナーや規則といったものと相容れない社会不適合者の集まりであったが、そのリーダーの思想によって『一般生徒に迷惑をかけない』ことをモットーとしていた。比較的大きなグループであったが、その思想は徹底されており一般生徒に絡んだり暴力を振るうということはほとんどなく。むしろ、そういった行為をする他の不良から一般生徒を守るといった、自警団的な行動もしており一般生徒からは人気が高かったりもする。
 そんな彼らではあったが、大人から見れば結局は同じ『不良』であり、また生徒の中にも彼らを目障りに思っている者たちはいた。

「お前、ナマイキなんだよ!」
「ぐぅっ!」
 一人のマジカルシードの制服を着た男子生徒が、路地裏の壁に叩きつけられた。その周りでは、複数のやはりマジカルシードの制服を着た生徒が、苦悶の表情を浮かべる彼にニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ゴホッ‥‥ボクが‥‥なにをしたっていうんだ」
「はぁ? お前は存在そのものが悪いってんだよ!」
「そうそう、ハーフエルフが学校来てんじゃねぇよ」
 壁に叩きつけられた生徒、短めのシルバーブロンドの髪、端正な顔立ち、線の細い身体、そして人間よりも長く、エルフよりも短い尖った耳、彼はハーフエルフだった。
 強く背中を強打し咳き込む生徒を、罵倒し蔑みの目で見つめる者たち。その中には、人間だけでなくエルフの姿も混ざっている。学校側がハーフエルフの入学を認めているといって、全ての生徒がそれを認めているとは限らない。禁忌に対しての負の感情は、学問の徒である彼らにも深く根付いており、そうそう消えるものではなかった。
「多少勉強ができたからって、なにしゃしゃり出てんだよ。お前は教室の隅っこで、おとなしくしてればいいんだよ!」
「ゴフッ!」
「むしろ、森の奥でおとなしくしてたほうがいいんじゃねぇ!」
「ガッ!」
 一人の生徒が、ハーフエルフの彼の腹部を殴る。また別の生徒が蹲った彼に罵倒を浴びせ、足で蹴り飛ばす。彼は言葉を返すこともできず、ただ身をかばうことで精一杯だった。
「お前なんていないほうが‥‥」
「貴様らにそんなことを言う資格があるというのか」
「な‥‥ぐはぁ!」
「お、お前は邪鬼の!?」
 突然ハーフエルフの生徒と、それを取り囲む者達の間に割って入る者がいた。拳が取り囲む生徒の一人の顔面を捉え、吹き飛ばされるのを見て、他の者達が慌てた様子で相手を見つめる。
 割って入った男は、身長は190cmほどで、短く切りそろえられた濃い茶の髪、キリッとした太い眉、力強く眼光鋭い瞳、顎すじはガッチリしている荒々しい顔立ちの男で。フリーウィルの制服を、袖むき出しで胸元をはだけさせて着ていた。
「お前達には、生まれもって蔑まれる存在の気持ちはわからんのか!」
「ぐぉ!」
「うがぁ!」
 力強い拳が、取り囲んでいた生徒達をなぎ倒していく。虚を付かれ、また喧嘩慣れしていない生徒達は強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
「くそ! ハーフエルフなんて庇いやがって、覚えてろよ!」
 吹き飛ばされた生徒達は、慌てて立ち上がると憎々しげな捨て台詞を残して路地裏を逃げるようにあとにした。それを、険しい表情でみつめる男。
「ツッ‥‥あの、助けていただいてありがとうございます‥‥」
「やつらの行為が気に入らなかっただけだ‥‥礼を言われることはない。それより早く治療棟へといくといい」
「は、はい‥‥」
 ハーフエルフの生徒が立ち上がり礼を述べるが、男は静かに首を振り相手を気遣うと、力強い足取りでその場を立ち去った。

 次の日、マジカルシードの裏手にある生徒会の建物で数人の生徒が騒いでいた。
「邪鬼のやつらをどうにかしろ!」
「俺はあそこのリーダーに、何もしてないのに殴られたんだ!」
「生徒会が、ああいう不良を野放しにしてていいのか!」
 マジカルシードの生徒が、不良グループ『邪鬼』のリーダーに暴力を振るわれたというのだ。そして、『邪鬼』を処罰しろと生徒会に騒ぎ立てているのである。
「しかしですね、彼らはいままで一般生徒にそういったことは‥‥」
「コレを見ろよ! 殴られて痣になってるんだぞ!」
 生徒会のメンバーも、いままで「一般生徒には迷惑をかけない」をモットーとしていた『邪鬼』が、何もしていない一般生徒に危害を加えたとは信じられなかった。だがたしかに、彼らの顔には青痣ができていて、殴ったのは『邪鬼』のリーダーだと言うのだ。それが本当なら、何かしらの対応はしなくてはならないかもしれない。
「妖精問題で大変なのに‥‥しかたない、ギルドのほうに回しましょう」
 しかし生徒の苦情にも対応しなければならない生徒会であったが色々と忙しいようで、この事件についての調査をクエストリガーの依頼とすることにした。

●今回の参加者

 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea8761 ローランド・ユーク(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2756 桐生 和臣(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3425 カッツェ・シャープネス(31歳・♀・レンジャー・ジャイアント・イスパニア王国)

●サポート参加者

クライフ・デニーロ(ea1085

●リプレイ本文

「よく来てくれましたね。まずはあなた達のお話が聞きたいのです」
 図書館の一室でシャルディ・ラズネルグ(eb0299)は、被害者の生徒達に事情聴取を行っていた。生徒会の依頼であり、彼自身も某教師の弟子として名を知られているため、被害者の生徒達もしぶしぶとではあるが聴取に応じることとなった。
「では、最後にここにサインを。いえ、あなた達の話を生徒会に提出するさいの証明みたいなものですよ」
 シャルディは、にこやかに聴取内容を記した羊皮紙にサインを求め、それが終わると被害者達を退出させた。
「彼らの様子‥‥、もしかするとすでに事情聴取を予期して準備をしていた節がありますね」
 シャルディが、生徒一人一人から話を聞きだす間、桐生和臣(eb2756)が彼らの様子を観察していた。話自体には不審な点は見受けられなかったが。時々何かを思い出すように口ごもり、次にはサラサラと台本を読むかのように答えだす様子が、桐生には不自然と感じるのであった。
「あまり、彼らの話ばかりを鵜呑みにするのは良くないかもしれません」
「そうですね」
 桐生の言葉に、シャルディが頷く。邪鬼のリーダーの暴行事件には、何か裏があるように感じられた。

「はぁ‥‥思ったほど、署名集まらないわね」
 マリス・メア・シュタイン(eb0888)が、肩を落として大きくため息をついた。彼女は、マジカルシードで聞き込みを行いながら、邪鬼のリーダーの罪が軽くなるように嘆願の署名を募ることにしたのだが。予想以上に、署名してくれる人は少なかった。いくら生徒からの人気があるといっても、あくまで邪鬼は不良グループである。一般生徒たちが不良には関わりたくないと思うのは、当然のことであったのかもしれない。それに加えて、マリスはハーフエルフであったため、一部の生徒からは敬遠されているようだった。
「そんな気に病まないでください。とりあえず、情報は聞けたわけですし」
「う、うん‥‥」
 マリスと共に聞き込みを行っていたカンタータ・ドレッドノート(ea9455)は、ポンと軽くマリスの肩を叩き、励ますように微笑んだ。彼女もハーフエルフであったが、それがばれない様にフードを深く被っていた。しかし、それはそれでちょっと怪しい雰囲気かな、とマリスは心の中で思うのだった。
 聞き込みの結果、普段の被害者の生徒達はどうやらハーフエルフが嫌いなようだった。しかも、同じクラスのハーフエルフの生徒になにかとちょっかいを出していたということが分かった。
「あ!」
 ふと視線を向けた先で、マリスは廊下の影でこちらを伺っていた生徒を見つける。しかし、相手がこちらに気づいたことを察した生徒は身を翻してその場を逃げ去ってしまった。
「私、今の人を追いかけてみる!」
「では、僕はハーフエルフの生徒というのを探してみます」
 その生徒の不審な行動に、何か知っているのではないかと思ったマリスは、生徒を追いかけることにした。カンタータは事件現場でパーストをするには日が経っていたため、話に聞いたハーフエルフを探すこととなった。

「この名捜査官シャンピニオンに任せておいて!」
「お、おぅ。頼んだ」
 シャンピニオン・エウレカ(ea7984)が目を(むしろおでこを)光らせて、邪鬼のメンバーが通っているフリーウィルへと聞き込みに来た。そんなシャンピニオンに少し押され気味のローランド・ユーク(ea8761)は、自らも通う学校の案内をしていた。
「まず準備だ。カツアゲに備えて財布は三つに分けておく」
「ふむふむ‥‥」
「次に心構え。不良には目を合わせるな、廊下で遭ったら反転ダッシュがよろしい」
「なるほど〜‥‥って、不良から逃げたら聞き込みできないよ!」
「いたた‥‥」
 ローランドのアドバイスをまじめに聞いていたシャンピニオンであったが、目的から何かずれてる内容に、ポカッとローランドの頭を叩いた。
 二人が、フリーウィルの生徒達から邪鬼の構成や活動の様子などを聞き込みした結果。噂通り、一般生徒には手を出すことがなく、逆に他の不良に絡まれている所を助けてもらったという話もあった。
「頭の人に助けられて以来兄さん達のファンなんですよ、酒奢らせてください」
「うわぁ‥‥なんか慣れてる感じだよ‥‥」
 メンバーと交流があるという生徒から聞いた溜まり場で、邪鬼のメンバーを発見すると、ローランドが笑みを浮かべながらヘコヘコと頭を下げて話しかける。シャンピニオンはその様子に少し呆れながらも、友好的な態度で邪鬼と接触した。
「へへ、気が利くじゃねえかお前」
 ローランドの用意した発泡酒で気を良くした邪鬼のメンバーは口も軽くなり、リーダーを心のそこから尊敬していることや、自由に生きるためにはそれ相応の責任を負わなければならないこと、まっとうに生きている人に迷惑をかけない事など、邪鬼の方針がもっともな事であると語った。
「それで、リーダーってどこにいるかわかるかな?」
「いえね、先生にリーダーと授業について話したいって頼まれたんですよ」
 こうして、邪鬼のメンバーからリーダーの居場所を聞きだした二人は他のメンバーと合流しに戻った。

『通訳のほう任せたよ』
「おぅ! 任せとけ!」
 スペイン語しか話せないカッツェ・シャープネス(eb3425)が頼むと、ミカ・フレア(ea7095)がグッと拳を握って力強く頷いた。彼女達は、邪鬼のリーダーに直接接触しようと動いていたのだった。
 途中、シャンピニオン達と会った二人は、リーダーの居場所を聞くと他のメンバーに報告に向かう二人と別れて、リーダーのもとへと向かった。
「邪鬼のリーダーってなぁ、お前の事か?」
「なんだ、てめぇらは!」
 二人が聞いた場所へと行くと、邪鬼のリーダーが数人のメンバーと共に溜まり場で木箱の上に座っていた。ミカの第一声で、リーダーの取り巻きたちが睨みつけてきた。といっても、その視線のほとんどはミカではなく、巨体のカッツェへと向けられているのだが。彼等は、ひとくせもふたくせもありそうな強面達で、見た目だけならあまり良い印象は与えないだろうといった感じであった。
『あたい達は、お前さん達に話を聞きに来ただけさ。手荒なまねはよしてもらおうか』
「そう、俺達は生徒会の依頼でお前に会いに来たモンだ。お前が、理由も無く人を殴ったって喚く連中がいるんでな、お前の言い分を聞きにな」
「‥‥‥」
 二人の言葉に、リーダーは無言で顔をあげる。しかし、そのまえに取り巻きたちが色めき立った。
「なんだと、うちのリーダーが本当にそんなことをしたと思ってんのか!」
「だから、その真偽を確かめに話を聞きにきてやってんじゃね〜か!」
「やめないか、お前達。こいつらは、生徒会の使いのもんだ。丁重に扱え」
 一瞬即発状態になるミカと取り巻き達だったが、リーダーが口を開きその場を収める。取り巻き達は一瞬のうちに静かになり、二人に頭を下げた。
「それで、話を聞きに来たそうだが‥‥」
『お前さんが、マジカルシードの生徒に手を出したって話だけど、本当かい?』
「ああ、本当だ」
『だけど、何か理由があったんじゃないのかい。邪鬼の噂は聞いている、何もしてない生徒に手を出すなんて信じられないな』
「‥‥‥」
 カッツェの問いかけに、事件については素直に認めたリーダーであったが、その理由については口をつむぐ。カッツェには、それが何かを隠している、または庇っているように見えた。
「ま、言い訳するのは見苦しいけどよ。だからって、黙って嘘偽りを真実と受け入れるのも何か違うと思わねぇか?」
「‥‥‥」
 ミカの説得にも、険しい表情のまま口をつぐんでいるリーダーからは、それ以上話す気はないように受け取れた。結局、彼からは本当に生徒を殴ったことしか分からなかった。

「しかし、これだけの情報では‥‥」
 図書館の一室にカンタータ以外の一同が揃い、集めた情報を統合してシャルディが呟いた。聞き込みでは結局、被害者達にも疑惑は残るが、リーダーが認めた以上は悪いのは邪鬼ということになる。しかし、被害者の素行や、リーダーが誰かを庇ってる様子など、どうにも腑に落ちない。
「やはり僕は、被害者の様子が気になるのですが」
 桐生の意見に、一同困ったように首をかしげる。と、そのとき戸を叩く音が聞こえ、一人の生徒が室内へと入ってきた。
「あ〜、あんたは!」
 その生徒は、マリスが追いかけたが逃がしてしまった生徒だった、彼を指差して声を上げるマリス。
「こちらの方は、被害者達に虐められていたというハーフエルフの方です」
 一緒に入ってきたカンタータが、生徒についての紹介をした。どうやら、被害者達と同じクラスで、ハーフエルフだからという理由でいじめを受けていたらしい。
「話を聞かせてくださいますね?」
「あの‥‥どうか、内密にお願いします」
 シャルディの言葉に、少し怯えた様子で頷く生徒。シャルディが笑顔で促すと、生徒は邪鬼のリーダーに助けられた時のことを語りだした。
「では、先に被害者の生徒達があなたに暴行を働き、それを邪鬼のリーダーが助けたと」
「はい‥‥」
「やっぱり名捜査官の勘は正しかったよ!」
 話を聞き終わると、シャンピニオンがウンウンと満足そうに頷いた。どうやら、事件の真相は被害者達の方に非があったようである。邪鬼のリーダーは自分が真相を話すことにより、このハーフエルフの生徒の立場が悪くならないように庇っていたようであった。
 一同は、この証言をもとに再び情報を収集し、証言の裏づけを取ることに成功する。そして、事件の真相を記した報告書を生徒会に提出した。これにより、邪鬼のリーダーの処分は注意程度で済み。一方、被害者からハーフエルフを虐めた加害者となったマジカルシードの生徒達は、数日間の停学処分を言い渡されることとなった。