【源徳大遠征】新田の選択
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 46 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月26日
リプレイ公開日:2008年11月29日
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●オープニング
神聖暦一千三年十一月。
ジャパン、上野蒼海城。
新田義貞が家臣、グレン・アドミラル(eb9112)は主君に目通りを許された。
用件は、かねてからグレンが冒険者ギルドに依頼していた件だ。
「源徳と和睦なされませ」
「‥‥」
義貞は静かに聴いた。
上州の田舎に育った義貞は、零落れた源氏の名門、新田氏の御曹司だった。源徳が関東を取った時、名門の誇りでなかなか家康に服しきらなかった新田家は家康に冷遇され、反対に逸早く源徳に臣従した上杉憲政が上野藩主となると、あからさまに苛められた。
栄枯盛衰は世の習いだが義貞には気骨があり、信濃から流れてきて同じ立場にあった真田を盟友として彼は蜂起した。敵は上杉憲政だったが、源徳への謀反である。強大な敵の前に何度となく死ぬ目にあったが、武運があった。義貞は今年正式に上野の司に任ぜられ、源徳家康は江戸を追われて三河に閉塞している。
その家康が、江戸奪還に動いたという。
四千の三河兵が東進し、駿河駿府城まで迫ると聞く。
「源徳家とは仇敵の間柄ながら、殿は家康とあくまで雌雄を決せられる御所存か」
「わしは家康殿が嫌いで憲政と戦ったのでない。しかし、当家は伊達武田上杉の三国と同盟を結んでおる。戦の是非を論じても詮無きこと」
グレンは主君を説得しようと言葉を重ねた。
確かに新田家は三国に大恩がある。政宗が江戸城を取らねば、義貞の敗北は間違いなかった。しかし、現在の関東情勢を見るに、新田家は完全に主導権を三国に握られている。領土を拡大する伊達武田に頭を押さえこまれ、上杉家は上州北部に居座ったままだ。
このままでは遠からず新田は他の三国いずれかの属国になりかねない。現状を打破する為に、藤豊家と朝廷の和睦案を利用して源徳と単独講和を果たし、東国の勢力図を塗り替えるべきとグレンは強弁をふるう。
「グレン、上州の民が苦しまぬなら、新田は属国でもよい」
義貞は怒るでもなく、正直な心情を吐露した。これが源徳を相手に一歩も退かずに戦い抜き、反源徳の旗頭と言われた男かと驚く。
根は朴訥な青年なのか。義貞の目的は上州解放であり、多大な犠牲をはらって目的を遂げた今、半ば満足している様にさえ思える。例えば、沼田城を巡る上杉との領土問題がそうだ。一向に進展しない事に新田の家臣達はイライラしていたが、義貞自身はそれほど気にしていない様子なのだ。
(「これはまずい‥‥」)
グレンは思案した。
世が安定していればともかく、ジャパンが乱世戦国の今、新田家が守りに入るのは賢明と言えるかどうか。判断は人それぞれと思うが、グレンは天下に新田家の行動を示すべしと既に決めている。
「新田は動くべきだ」
源徳も平織も、天下の諸侯はこぞって動き出している。
上州の新田だけが流されるままで良い訳が無い。沼田城が上杉の影響下と言えど、上野国は大国であり、一年半の間に戦乱の傷もかなり癒えている。上野藩主となった今なら、領内全土に陣ぶれを出せば、新田家は三千以上の兵を用意できるだろう。
「今は前に進むべし。殿も並の男ではない。必ずや分かってくださる」
義貞は頃合いと思っても、家臣はそう思わない。
彼は勝ち過ぎたために、それもまた新田の宿運か。
京都冒険者ギルド。
グレン・アドミラルからの依頼を、ギルドの手代は受理した。
今は天下分け目の情勢で、各勢力の依頼が並ぶことは不思議でも無くなっていた。
「出来れば義貞様を説得し、藤豊を仲介として源徳と和睦を為したい。新田が源徳側につけば戦力は均衡する。さればどちらも容易に仕掛けられず、これは関白、神皇家の御心にもかなう事である。新田の発言力も増す。
とまれ、上州新田は関東の雄である。ジャパンの国難を打ち払うため、良き道を選べるよう、方々のお力添えを伏してお願いするものである」
さて、どうなるか。
●リプレイ本文
14日、京都冒険者ギルド。
「あたしは、京都で戦争反対を訴えまっす。上州を頼んだよ〜」
パラの軽業師、パラーリア・ゲラー(eb2257)は政治工作に残る。
「みんなが団結できるようにガンバローっ」
ウサ耳にフリフリメイドドレス、右手に銀のトレイと、彼女の服装はその筋の人々の心臓をわし掴みだ。
「パラーリア殿、くれぐれも慎重にな」
紹介状を渡す新田家家臣グレン・アドミラル(eb9112)の不安顔に、任せてと小さな胸を叩く。
「偉い人に会う時は、礼服に着替えて身だしなみを整えるし、ちろとみろは家でお留守番させるから大丈夫だよ」
江戸への月道を通る仲間を見送ったパラーリアは人を探した。
「二条康道様ですかにゃ?」
「麿は留守じゃ」
荷車に家財道具を積み込んでいた少年は、無断侵入したパラに居留守を告げる。
「?」
女パラは若い公家と荷車を交互に眺め、うろたえた康道は荷物に足を取られて躓いた。
「ちっ‥」
年は十一、二歳か。少年貴族は何食わぬ顔で立ちあがり、パラーリアを睨み据えた。
「いかにも麿は権中納言、二条康道である。直答を許す、貴様は誰だ?」
京都に残る源徳派の貴族を探したが、多少目端の利く者は既に他派に鞍替えしたか逃げ出している。まだ都に居る源徳派は余程の馬鹿か、逃げる力が無いか。
15日、上州新町。
中山道を進み、武州本庄から川を渡って上州に入った一行は、新町宿で役人の制止を受けた。
「何事だ?」
グレンが下役人に問うと、カーラ・オレアリス(eb4802)を指さす。
「あの者は上杉の手の者にて赤城砦を襲い、関所破りを働いた罪人にござる」
「違います! 私は‥殺してはいません」
震える声で訴えるカーラに、グレンは優しげな視線を向けた。
「役目大儀。この者は沼田の一件の重要な生き証人。私が平井城の畑様の元へ連れていく途中である」
「おお、さすがはグレン殿。失礼仕った」
役人達は納得して道を開けた。
「助かりました」
「何の。カーラ殿は縁も無い新田と上杉の為に自ら危地に飛び込まれた‥‥出来ぬ事です。貴方は信じられる方だ。しかし、関所を破ったのは拙かった」
頭を下げたカーラにグレンは苦笑した。
カーラとその仲間が砦に侵入し、関所を破ったのは事実。首尾よく行かない時はグレンの身も危うい。
余談だが同じ頃、彼の兄は尾張にて自ら抱えた厄介事の為に窮地にあった。
困難に飛び込むのはアドミラル家の性分か。無言で息子を見つめるマグナ・アドミラル(ea4868)に尋ねてみたいものだ。
さて新町を過ぎれば、平井城は目と鼻の先。
「暫くぶりじゃな」
「畑様にはご機嫌麗しく、恐悦至極」
4人は新田家重臣、畑時能と対面を果たした。
「固い挨拶は抜きだ。おぬし、殿に源徳と和睦せよと申したそうじゃな」
「その事で、畑様に引き合わせたき者を連れて参りました。今は耳目を広げ、風評を知るべきと存じまする」
畑は頷き、グレンはカーラ、マグナ、そして鬼切七十郎(eb3773)を紹介した。
「鬼切と申すは、そちは太田の鬼切七十郎殿か?」
「いかにも、わしゃあは金山のモンじゃ。そっちとは色々あるが、今日の俺ぁ上州を愛しとるもんとして来たんじゃけぇ、構える気はないんじゃ」
ふてぶてしい態度の七十郎に畑は膝を叩く。
「やはりか。グレン、カーラ殿の事は聞いた。お主が仕官した時を思い出すわ」
一年前、この城で仕官した時も個性的な面子だった。グレンはふと何かを思い出しかけたが‥。
「まずは、何卒カーラ殿の話をお聞き下さい」
「うむ」
時能の前でカーラは彼女と仲間達が華の乱以来、上杉謙信を調べていた事を話した。
「ほう。して何が見えた?」
幾度となく探った結果は朧げな疑惑。
「謙信公の事は未だ定かでは。越後の探索は難渋し、私達は沼田の噂を聞き、この地に参ったのです」
カーラは巣守神社の一件、九鬼花舟の名、沼田を攻めた中川助蔵、そして幽鬼蔵人、摩侯羅伽王‥‥と彼女が経験した冒険を語った。北条三郎との約束があるので、藤井宗蔵の事だけは秘した。
「鬼道八部衆か‥‥お主の話では化生の輩のようじゃが、何者だ?」
「分かりません。ですが、何者かの陰謀が蠢き、人の慾に付け込まれて現在の状況が引き起こされたのは確か」
今一つ、毛州を荒す八構山の鬼には奥州より兵糧が流れているとも。
「陰謀の主は奥州か悪鬼か‥‥何者であろうと、民に怒りを還す戦は止めねばなりません」
「ふうむ。聴かせおるわ。グレンが信じたのも頷ける」
彼女の話に証拠はない。が、畑は大きく頷いた。彼の目を覗き、カーラは安堵する。信じてくれたのだ。
「それでは」
「殿にはわしから申し上げよう。沼田のこと、家中の者を集めて評定を開いて頂く」
ひとまずグレンの首は繋がった。
「時にカーラ殿。源徳家から手配を受けておると聞く。何故、そのお主がグレンと共に、源徳との和睦を願うのじゃな」
「戦は、愚かなこと。道を糺し、戦火を治るために」
「良き答えだ」
17日、箕輪。
「ここに、長野のオジキが居るんか」
新田義貞が上州を手中にした際、箕輪は義貞を支えた副将真田昌幸に贈られた。
以前の領主の名を長野業正。武田信玄に上州攻めを躊躇させた程の名将といわれる。相当な高齢で、新田戦の頃には引退していた。
業正が箕輪の外れに庵を構え、隠者の如く暮らすのを時能から聞いた七十郎は高崎で仲間達と別れ、単身箕輪へ。
「老骨に、何の用ぞ?」
業正は八十は超えていた。やせ細り、顔色は病的に悪い。
「オジキの力を、わしに貸して貰いたいんじゃ」
鬼切は老人の前で熱っぽく語った。
「新田は好かん。でもなぁ、武田や伊達の甘言に乗って、奴らの思惑通りに戦に駆り出されたりするんは、もっと嫌なんじゃ。俺ぁ上州を愛しとるんじゃ」
「金山の無頼が吼えるでない。愛や情けは誰もが持つ、吹聴するは無能だ」
愛憎は殴り合いの喧嘩では最重要だが、政治軍略においては取るに足らない。上に立つ者がそのような態度を取れば、国は乱れると説教した。
「なんじゃあ」
七十郎も渡世人を生業とする男、引っ込まない。
「わしゃあ頭の出来はよう無いかもしれんが、覚悟を決めて戦うとるんじゃ。糞な説教くれとりゃせんと、オジキの大したところでも一辺見せてくれんかい。この通りじゃ、頼みますけぇ」
鬼切は頭を床に擦りつけて頼んだ。業正は冷淡に見据え、
「わしの上州は上杉憲政公の上州。国を奪われ、体は戦えぬが新田の小僧の為に話す舌は持たぬ」
病身の業正に追い払われて七十郎は庵を辞した。
ついでにと箕輪城を訪れる。鬼切は真田家の者に上州を頼みつつ、探るように話し、また痛烈な批判をしたので、鬼切は激しく迷惑がられた。
「オジキも聞いた程では無かった。わしほど上州を愛する者は、なかなか居らんようじゃなぁ」
前橋で仲間と合流した鬼切は嘆息する。
「ふむ畑殿、武田の者が江戸から流れてきたようじゃが、ちゃんと隠密に見張らせとるんか?」
グレン達が平井城に来た頃に、5人の冒険者が蒼海城で義貞に謁見していた。
「うむ。お主にも一人見張りをつけたが、気付いたか」
「いや」
武田には色々と気を使う。カーラ達にはグレンが付いているし、鬼切は忍びが尾行しても気付かないので楽だという。
「奴らの用件は何じゃ?」
「お主達と同じじゃな」
武田の使者は沼田紛争を遺憾とする信玄と政宗の書状を持参し、上杉と不和解消を訴えたという。
「同じなものかよ。奴らは新田と上杉が揉めたら困るだけじゃあ。上州の事を考えとる訳じゃねぇ」
「お主は余程、武田殿が嫌いなようじゃな」
「当り前じゃ。わしら敵味方に分かれたとしても上州の為に戦ったんじゃ。断じて、匪賊のように己の慾で他国を侵す為ではない!」
この発言は、数日後に新田家臣達の前でも繰り返された。
好き放題な鬼切は良く思われなかったが、本人は気にしない風である。
21日、京都烏丸小路近く。
パラーリアは康道を焚きつけて運動し、関白との非公式会見に漕ぎ着けた。
待ち合わせの牛車に、二人は人目を忍んで近づいた。
「関白様は何処?」
「わしじゃよ」
パラが中年の下人に尋ねると、白丁姿のその男が秀吉だった。
「うひゃ」
腰を抜かした康道の手を秀吉が掴んで牛車に乗せてやる。
「源徳方にはおいそれと会えぬでな。ちと窮屈じゃが、許せ」
三人を乗せた牛車はゆっくりと動き出す。
「話があるのじゃな?」
「はい!」
パラーリアは居住まいを正す。
「今、ジャパンは二つの病に冒されてます。
一つは、イザナミさんに見られる外敵の存在。これは外患で、もう一つは、伊達さんを筆頭とする軍閥による傍若無人の振る舞い。
これは内患で、神皇様を恐れぬ所業なの‥‥人の傲慢さと、本来取り締まるべき立場の方が見てみぬふりを続けて、権力争いをした結果だと思いまっす」
康道は吃驚した。彼女は目前の関白を痛罵している。
「それだけか。わしを喜ばすには足りぬのう」
秀吉は柔和な笑顔。
「戦は阻止できません。覚悟を決めて、膿を取るべきです。
平織さんと藤豊さんが和した今こそ、伊達討伐の勅を以って世に正義の在り様を示す時だとあたしは思います」
「ふむ、左様な武家言葉を操るために、こんな真似をしたのか?」
秀吉の顔に失望が見えた。
「伊達の討伐にどれほどの兵が要る。あれの本国は東北じゃ。奴の膝を震えさせ、早期解決には3万、いや5万は必要ぞ。‥‥わしにそんな兵があればな、家康に無茶はさせんよ」
四・五千の兵を差し向ける事は可能。だがそれでは関東の戦は長期化する。下手をすれば負ける。
関白は関東諸侯に和平を呼びかけ、伊達らは賛成した。源徳のみが拒絶したのに、伊達討伐では筋が通らない。秀吉自身、人同士の戦いはもう止めだと言っている。
「わしは正義より大義じゃよ。イザナミに勝つ、その先もな‥‥伊達も平織も源徳も長州も、味方とせねばならぬのよ」
「でも源徳さんが」
「負けるか。家康殿も懲りるじゃろ。市殿に本気で伊達と戦う気はないでな、関東の仕置はそれで終いじゃよ」
22日、前橋蒼海城。
畑時能と冒険者達の運動で、蒼海城で御前会議が開かれた。
会議に先立ち、畑とグレンは相談し、カーラを義貞に会わせている。義貞はカーラを信用し、彼女と仲間達に掛かっていた赤城砦虐殺の手配を解いた。
「あの‥‥あの先には何が?」
部屋を与えられ、城中を移動したカーラの石の中の蝶が反応する。案内役の武士から牢獄と教えられ、調べると武田の冒険者が悪魔を捕まえて氷漬けにしたらしい。
「まさか八部衆では‥‥」
「新田家は新田家であるべきです」
御前会議の口火を切ったのは、発起人であるグレンだ。
「沼田の衆を冷遇するは、新田を冷遇した源徳と同じ愚行。また当家の復讐を恐れるからこそ、彼らは上杉を頼り、越後との大きな障壁となっております。
我らは上州統一の大義に立ち、過去の恩讐を水に流して沼田衆らの旧領を安堵する事を条件に、沼田城と上州北部の返還を主張すべきです」
これには新田家旧臣達から反発の声があがる。
「グレン殿は最近仕官されたから、我らの気持ちが分からぬのだ」
「上杉憲政は国司の地位を笠にきて土地を奪い、重い年貢で干し殺さんとした。彼奴らの領地は、元を正せば新田のものぞ」
更に上州反乱以降の家臣達も不満を述べる。
「冷遇せぬと言うが、まさか我らが恩賞を受けた領地を彼奴らに返せと言われるのではあるまいな」
「功臣の領地を敗者に分け与えるなど聞いた事が無い。働き損と申されるなら、新田家との縁もこれまでにござる」
論功行賞で揉めるのは戦国の日常。禍根が、新たな火種となる事が多い。
余談だが、伊達に敗れた武蔵千葉では現状、この手の揉め事は少ない。政宗が伊達家の家士よりも源徳旧臣を重用した事もあるが、戦争期間と被害の差だ。
「お待ち下さい」
カーラが立ちあがる。
彼女は民の為に、上杉との交渉を必死に訴え、更に今回の源徳軍との大戦を語る。
「他領を切り取る蛮行がどれ程、民を苦しめ、又人の誇りを蹂躙するものか、上州の方々には説明するまでも無いでしょう‥‥。新田家の戦は、憲政の圧政からの独立と聞きました。けして、他国を攻めるためでは無いはずです」
「そうじゃ、上州人よ矜持を取り戻せ!」
新田の反応に焦れていた鬼切は拳を床に叩きつけた。まあ、彼は憲政の圧政云々は不承知だが。
「新田様には源徳公と和睦し、道を糺し人の道を取り戻す魁となって頂きとうございます。源徳との和解の策として、乱人・伊達政宗討伐の勅を義貞公より朝廷に申し入れては如何でしょう」
カーラの演説は、義貞の大不興を買う。
「この義貞、武将としてどのような汚名も受けるが、忘恩の男ではない。家康殿には一片の恩義も無いが、政宗殿のおかげで今の新田家がある」
家康に逆賊とされ、同盟国と反源徳勢の働きで上州国司の地位に就いた義貞が、政宗討つべしと朝廷に願えば、義貞という人を誰も信用しない。家康でさえ、武士の風上に置けぬ輩と判断しよう。
「今上と関白の意に背き、伊達討伐を申し入れるなら新田は朝敵。謙信殿が怒り、沼田から押し出してくるは必定。この新田に江戸に攻め込めとは‥‥お主は戦を愚かと言ったが、お主ほど戦を勧める者は他におらぬ」
義貞は首を傾げた。
彼女が源徳の回し者ならもっと上手く立ち回る。実際、彼女の弁舌と情報は、新田を変えるに十分。
カーラは優秀ゆえに、己の慾に敗けた。
「怒らせて源徳殿を討たせる腹か?」
「かもしれん。だが、真に倒すべき敵はイザナミだ」
流れを変えようとマグナが発言した。彼は息子を補佐する気だったが、グレンはカーラの演説が半ばを過ぎた頃から色が無い。
「諸侯が和睦し、イザナミに代表される国難に備えるべしと神皇家より通達されておる今、討伐の勅など愚の骨頂。源徳軍も止めねばならぬが、都が落ちればこの国は滅ぶ、今も京はイザナミの脅威に晒されておるのだ。
その兵力10万という事実、真に恐るべきはイザナミが、山陰山陽の民を食らい兵となしたること」
大雑把に言えば、一つの州の人口を食らい尽されたに等しい。人間の戦とは規模が違い、その意味は重大だ。
「日本滅亡の瀬戸際に、新田様は領土問題を抱えるが、国乱れる事を望む者では無く、上杉様も国が乱れる事を望まれない。両家が和し、共に人同士の戦の拡大を防ぐべく運動なされよ。それが上州国司に任命下さった神皇家に報い、同盟国に受けた恩を返す人の道である」
マグナは武骨な戦士で、語る所も今更。
巧言令色仁少なしという。
義貞は好感をもったが、策とするほど形が出来ていない。もし七十郎やカーラが手伝っていれば、新田家に新たな道が開けたか。
「カーラ殿の話で沼田の事はわしの不始末と分かった。上杉とは構えて戦うな」
伊達武田の仲裁で上杉謙信と話すと、義貞は決する。