よんでますよ麻ゼルさん。松原くん登場
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月18日〜03月23日
リプレイ公開日:2009年06月25日
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●オープニング
楠木麻(ea8087)がギルドでたむろっていたら、あの男がやってきた!
松原修造「キミ、だらけすぎるんだよ!」
麻「誰?」
松「そんなことはいい! ほら、詠唱開始!」
麻「はあ、‥(ポン)」
松「全然ダメ! 本気を出し切れていない!! こうだ!!」
「この一撃は唯一無二の一撃なり!!(ドガァァァン!!)」
「わかった?やってみて!」
麻「この一撃は‥唯一無二の一撃なり‥(ドガァン!)」
松「良くなった! ナイスショット、ナイスショット、ラスティ! その本気を忘れないうちに地獄に突撃だ!!」
麻「ぎゃー、無理! 限界です!」
松「無理、限界って言うな! 行くぞ!!」
「てな感じでお願いします」
冒険者ギルドの係員は、楠木麻の話に黙って筆を置いた。
「弱っちまったなぁ。なんでこんなの俺のところに寄こすんだろうね。おーい、誰か西山呼んで来い」
溜息と吐く係員。
「仮にも依頼人を前に、無礼な態度ですね。いや西山さんが居るなら、そっちに話したのですが」
「まともな依頼ならねぇ‥‥まぁ、預かっておきましょう」
それからしばらく。
「さあ行くぞ!」
松原修造が現れた。
楠木麻は微妙な表情を浮かべた。
「えー‥‥今更ですかぁ?」
「今も昨日も無いよ、早く支度して。地獄は待っちゃくれないぞ!」
声を荒げる熱血親父に、麻は一応聞いてみた。
「本当に地獄に行くんですか? 冗談でなく?」
「冗談だって? 君は冗談で地獄へ行くなんて云うのか。まさか本気じゃなかった?」
「あー‥‥その、本気でした。多分」
殺されそうだったで適当に答える麻。
そもそも地獄へ行くと言い出したのは修造の筈。‥‥あれ?
「さあ行こう! 君達の目指している所、それは日本じゃない、世界なんだよ! それも世界の頂点だよ!!」
さて、どうやって地獄へ行くのか。
地獄の門をくぐるか。
ディーテの戦いは勝ったのだったか。何にしても、今も激戦が続いているのは間違いない。
「‥‥おかしいな、見覚えのある場所に向かってる」
修造に連れて来られたのは京都の一角、妖怪が出るという魔窟。
「まいど」
現れたのは貧相な小男。
「紹介しよう。彼が、地獄に案内してくれるロレンソ君だ」
ロレンス神父はこの町で悪魔教会の神父を生業にしている。色々と自由すぎる話である。
「えーと、本当に地獄へ連れていって貰えるんですか?」
「任せなはれ。蛇の道は蛇やがな」
話がどんどん地滑りしている気がしないでもない。
「あんさんらが、地獄で何をしようと構へん。命の保証はせえへんし、無くすのは命だけとは限らん。それでも行く人には、わいが地獄行きのチケットをプレゼントしたろ」
地獄行きの冒険が始まる。
という訳で一緒に行く人、募集中。
●リプレイ本文
魔守華麗奴羽隠具が現れた。
「待っていたぞ諸君」
「何ですか天城さん?」
素浪人の神田雄司(ea6476)は天城烈閃(ea0629)の姿に小首を傾げる。
「天城さんではない。余の名はマスカレイドウイング!」
仮面の変態姿で断言する天城。ああ、と神田は状況を飲み込む。
「どうも最近、仲間の格好では驚かなくなってしまって‥‥困ったものです」
外野の声は無視し、天城は松原修造に近づく。
「貴様、仮にも神皇家に仕える志士が、悪魔の案内で堂々と地獄旅行でもあるまい。ありがたく使うがいい」
マスカレードを差し出すが、修造は
「断る。君は恥しく無いのか?」
「無いな」
断言する天城に、修造は頷いた。
「残念な志士さんは良いとして、近頃は観光地に地獄まで増えましたか…。いや世の中も変わりましたね」
仲間たちを見回して僧兵の雀尾嵐淡(ec0843)は溜息を吐く。地獄の道連れを申し出るだけあり、錚々たる面子だ。
「緊張感が足りん。我らは地獄と交戦中だ、生半可な気持ちでは‥」
眉を顰める女戦士レイア・アローネ(eb8106)が、不意に掌中に視線を落とす。
「揃ったようですね。では行きましょうか」
依頼人の楠木麻(ea8087)が武道家の太丹(eb0334)、ロレンソ神父とやってきた。
「前に一度会ったかな? お久しぶりっ☆」
武道家の鳳翼狼(eb3609)は地球人の一件でロレンソと面識があった。また妖怪荘の住人らは、悪魔教会の神父を多少なりと見知っている。
「待て! 悪魔の気配だ、全員油断するな!」
石の中の蝶を凝視していたレイアが抜刀する。距離的に、デビルはロレンソ達のいずれかに憑くか透明化している恐れがある。
「ほぉ〜? 神に仕える身としちゃ聞き捨てならないさね」
ネフィリム・フィルス(eb3503)も聖剣の柄に手をかけた。
「大変っす! お坊さん、近くに悪魔がいるっすよ」
「ああ、心配要らん。わいの事やがな」
事も無げに言うロレンソに、太は目を見開いた。
「わいから悪魔の反応がしたかて、驚く程のことやない」
ロレンソは言うまでもなく地獄側だ。殺気立つ冒険者に、神父服を着た小男は微笑を浮かべる。
「ほな出発しよか?」
「ちょっと待て‥‥どうにも怪しすぎる話で、ついていけんのだが」
剣を構えたままのレイアが眉間に皺を寄せる。
「貴公は常識人らしい」
「それはどういう意味だ変態仮面」
女戦士に睨まれ、天城は肩をすくめた。
「ここでその男を滅ぼすのは簡単さね。だけど、依頼もおじゃんさ」
暫くしてネフィリムは聖剣から手を離した。
「洒落か本気か分からないけど、志士さんも大変さ〜」
「そうですね、こんなご時世ですから」
嵐淡もそう呟き、構えを解く。
「待て待て。すっごくおかしいから。えぇぇ!?」
順応している仲間に驚愕するレイア。
閑話休題。
一行はロレンソの案内で妖怪荘の悪魔教会に入る。レイアは拒んだが、仲間らに説得されてひとまず剣は収めた。
「こんな所に地獄の道が?」
「ほんまはそう簡単には開かん、この国は特別や‥‥ほれ、その魔法陣の上や」
床に描かれた魔法陣の上に立つ冒険者達。腹が据わっているのか能天気なのか。儀式の準備をしつつ、ロレンソが説明した。
「地獄は、天界でいう所の異次元とか異空間にある。普段は触れんけど、この世界の隣にあるんやで」
「そんな事より、無事に地獄へ着けるのだろうな。もし私達を謀った時は」
「心配性やなぁ。悪魔は嘘は言わんでぇ」
すっかり準備を終えた神父が呪文を唱え始めた。
「ん?」
麻は少し意外に感じた。細部は分からないが、神父の術は神魔でなく、月精霊に干渉する術だった。
視界が暗転した。
●ようこそ地獄
一瞬、天地が消失したかと思うと、彼らは荒野に放り出されていた。
「ここが地獄?」
「ディーテはどこだ」
体に異変が無いと知ると、一行は注意深く周囲を警戒した。
「ロレンソ殿、ここは地獄のどのあたりだ」
「せやな。ここは‥‥妙やな。何でこんな所まで‥」
景色が変化する。
西の空に涯があった。それが瞬く間に迫り、一行は砂嵐に包まれる。爆発的な黄色い砂塵が空間を覆い尽くす。
「うひゃぁぁっ!」
踏ん張り損ない麻の軽い身体が宙に浮く。間一髪、天城が麻の腕を掴み、ネフィリムと太が暴風から仲間を庇った。
「まずい所に出たもんやでぇ。死にた無かったら、わいの言う通りにしてや。ああ、そんな目立つものはよ仕舞いなはれ」
天城の黄金の冠とアイギスの楯に手をかけるロレンソ。
訳も分からぬ冒険者の中で、翼狼は上空を飛ぶ巨鳥に気づいた。
「まさか? あれは‥‥」
嵐淡が驚きを口にする。
「知っているのか?」
「いいえ全然」
このパーティ、地獄に来たはいいがそっち方面の知識に暗い。
その間に巨鳥は地上に降り立ち、人の姿に変じて冒険者らの前に立つ。いつの間にか砂嵐は止んでいた。
「これからお勤めでっか? 大変でんなぁ。見ての通り、わしらは地獄観光のガイドですわ」
冒険者に頭を低くさせ、ロレンソがそう言った。
「御苦労」
男は冒険者を一瞥し、再び歩きだす。
その背中に、言葉を浴びせかける一人の志士。
「待てぃ! 貴様、いずれ名のある悪魔だろう。素通りとは、何たる職務怠慢。なっちゃいないぞ!!」
松原修造、敵に駄目出しをする男。
「‥‥」
立ち止まる悪魔に、冒険者らは一斉に身構えた。本気には見えないが、醸し出す殺気に気圧される。
数分後、冒険者は全滅した。
完。
●りすたーと
ディーテ城砦。
正体不明の悪魔に惨敗した一行は、ロレンソに治療されて目を覚ました。
「‥‥攻撃が通じなかった。奴は何者だ?」
ロレンソの差し出した茶を押しのけて問い質す天城。
「あれが七魔王の一人、マンモンはんや」
強欲の魔王。マンモンは倒れた冒険者達を一瞥し、微笑んだという。
「感心な事だ。こやつらは危険を顧みず、地獄の財宝を求めてやってきた。俺の教えはかくも地上に蔓延している」
と言って彼は立ち去った。
「「フザケルナ!!」」
修造とレイアは怒りで声が裏返った。
「あながち、言いきれんで」
ぽつりと漏らすロレンソ。
「マンモンの領域に行くつもりはなかった。あんさんの思念が影響した可能性はある」
「?」
ロレンソの話では、ジ・アースの底とも言うべきこの不安定な世界は数多の階層、領域に分かれている。麻の提案を受けてディーテを目指した筈が、何故かずれたようだ。
「宝探し目的は否定しませんが‥それだけのことで?」
神田は腕に違和感を覚えてさする。
「好奇心は猫を殺す言うやろ」
「物欲に引き寄せられた可能性は、無くも無いですか」
嵐淡は疑いを持ちつつ、口に出してはそう結論づけた。
「しゃあない。避けて通りたかったけど、入国手続きを取ろか」
「‥へ?」
地獄の入国管理局。そこで七君主の一人、バールベリトから正式に入国許可を受ければ、冒険者達は正式な地獄の旅行者になる。
「なるほど、道理だ」
「私の気のせいかな? ずぶずぶと間違った方向に進んでいるような」
「七君主に特攻か。面白い、無論、囚われの姫君は居るのだろうな?」
様々な思惑を胸に、一行は神父の案内でバールベリトの領域に向かう。
「死者でない者が入国許可を求めるか」
バールベリトは黒衣を纏う長身痩躯の悪魔だった。見事な二本角と、圧倒的なオーラ‥‥紛れもない上級悪魔である。
「入国の目的は何か?」
地獄の書記官は淡々とした口調で問う。
「囚われの姫君の奪還だ」
「観光?ですかねぇ」
「成り行きとしか‥」
「理由なんて小さな事なんだよ。迷わず行くんだ!」
「これってジ・アースからの侵略じゃないっすかねぇ」
「探索、それに護衛さね」
「観光ツアーじゃないの? ねぇ地獄土産って何が人気かなぁ」
「黙秘する、く〜、私は敵と喋る舌は持たん!」
「観光ですよ。それからディーテの戦没者を弔えればと」
一行の返答をバールベリトは流麗な文字で羊皮紙に記録した。
「五日間の入国を許可する」
「いいのですか?」
嵐淡は堪らず問う。自分がバールベリトの立場なら、断じて許可しないだろう。
「俺達は、敵ですよ」
「承知している。質問がそれだけなら下がりたまえ」
納得の行かぬまま冒険者は退席を促され、順番待ちの死者の団体さんが入れ替わりに入ってきた。
「ん?」
後で気づいた事だが、翼狼と嵐淡は小さな痣を土産に貰う。
●ディーテ城砦
さて、バールベリト公認の地獄旅行。
地獄温泉を巡り、地獄山脈を登頂し、海魔ひしめく地獄海で地獄酒を飲みつつバカンス‥‥も或いはあったかもだが、冒険者らは当初の目的地に向かった。
すなわちディーテ城砦。
地獄軍と激戦を繰り広げたディーテ砦。地獄に逆侵攻する冒険者達は、更なる道を探すためにこの城砦の探索を進めていた。無論、地獄軍が指を咥えてこれを傍観する道理もなく、砦の奥やそこかしこから出現する悪魔を相手に、冒険者は昼夜を問わず戦い続けていた。
「おお、お前達も来ていたか。西の回廊に新手だ、悪いが手を貸してくれ!」
「心得た」
地獄の客として許可を得ていた一行は、黙っていれば悪魔にも襲われないらしいが、戦友に頼まれて断る理由がない、全く無駄であった。
「これでは依頼を受けた意味が無い。悪魔神父、何か裏道は無いか?」
迷路のような城砦に、ひたすら脇道を走った挙句に外に放り出た天城がロレンソに尋ねる。
「地獄土産になるお宝の情報なんかもあると嬉しいけど」
神田の軽口に、ネフィリムは舌を鳴らす。
「悪魔相手でも略奪はしないさね」
平織軍に身を置く彼女は地獄軍相手にも1C斬りの掟を守っていた。略奪を否定する彼女をロレンソは感心した。
「けど裏道かぁ。無い事も無いが、砦の指揮官がうんと言わん事には使えんで」
「ロレンソ殿、今の城砦の指揮官は誰だ?」
「ロードのどなたかとは思うんやけど、軍事関係はよお知らんねん」
レイアはじっと神父を見たが、少なくとも彼がディーテの地獄軍に関係していたらこの場に居る道理が無い。
「悪魔にも色々居るのだな、良くは分からんが‥‥」
「人の敵、それだけ理解していれば十分さね」
そう話すネフィリムは、悪魔神父と屈託なく話している。
一行はロレンソの手前、城砦の冒険者とは別行動をとったが、城砦内で冒険者に会えば共闘した。何度か死ぬ目にも遭う。
「だから地獄には行きたくなかったっす〜」
「もう遅いでぇ」
「自分、週一の割合で妖怪天国の知多半島に行かなきゃならないっすから。死んじゃったら、そこまでじゃないっすか〜」
「‥‥ばちあたりやな」
太のノロケに、ロレンソが振り返る。
「考え違いしたらアカン」
ロレンソは真顔だ。
「太はんが居るのは、おとんとおかんの御蔭やろ」
「そうっすね」
「命は湧くもんやない。人も獣も木々も、世界の始まりから、途切れんと繋いできた命なんや。分かるか、命は死んでも残るんやで」
「お、お坊さん」
心打たれる太。
「‥‥何故だろう、この壮絶な違和感は?」
「まさか地獄で命の尊さを悪魔神父に説教される事になるとは思いませんでした」
二人をしみじみと眺めるレイアと嵐淡。
「まだだ! まだ本気じゃない!!」
「こ、この一撃は唯一無二の一撃なり!!」
修造の叱咤を受けた麻がアイスブリザードを悪魔の集団に叩き込む。
「来るぞ! 麻と神父を守れ」
天城は吹雪を突き抜けた先頭の小悪魔にミョルニルを投げつけた。
「承知しました。前衛はお任せします」
文寿を構えた神田は後衛の術者達を守って戦う。
「ちょっとばかり、奥に来すぎたようさねぇ」
ネフィリムは敵が手強いとみてフライを使用し、前衛と後衛を行ったり来たりした。城砦の冒険者と連携を取らない彼らは、時に致命的な窮地に陥る。
「麻殿は仮にも依頼人、ロレンソ殿は悪魔神父だが‥‥ああもう、後衛魔法援護頼む!頼むったら頼むぞ!」
立ち位置に懊悩するレイアは、半泣き状態で悪魔殺しを振るう。
「この一撃は唯一無二の一撃なり!!(ドガァァァン!!)」
叫びつつデビルに龍飛翔を叩き込む翼狼。だが倒れる仲間に構わず小悪魔は攻め続けた。徐々に押し包まれながらも翼狼は拳を突き出す。
「ほら麻も見習って。あれが本気の戦いだよ!」
「て、むさぼり食われてるじゃないですか!」
翼狼にたかる小悪魔を麻の氷嵐と修造の火球が吹き飛ばす。虫の息の武道家を嵐淡とロレンソが救出し、魔法薬を口内に叩き込んで治療を施す。
「よし、敵の列が崩れた! 今こそ本気の突撃を見せるんだよ!」
修造が麻を導く。一歩踏み出しかけた麻を、ネフィリムが制止する。
「麻っちの生存優先さね。この先はヤバい」
先には宝物も手掛かりもあるだろう。が、今の戦力では十割死ぬ。修造を殴り飛ばして黙らせ、冒険者達は城砦から撤退した。
「‥‥宗派違いではありますが」
立ち去る前に、雀尾はディーテの戦没者を敵味方の区別なく弔い、祈りを捧げた。
「ほんまに悪魔も弔うか、変わった坊主やな」
「いいえ、ロレンソ神父もお疲れ様でした。おかげで、生きて戻れた」
黒の僧兵は城砦で生命探知を行った際に、悪魔神父から命が感じられない事に気づいていた。
「お前は、デビノマニなのですか?」
「似たようなもんや」
地上に戻るまで、麻は修造に何故撤退したのかと責められた。
「全然本気じゃない。キミ達は地獄に観光気分で来たのか、そんなことで世界が守れると思っているのか!」
「まあ出来る範囲でと申しますか、身の丈相応に尽力しようと‥」
麻は修造を宥めるため、食べ物をひたすら貢いだ。