●リプレイ本文
●カリキュラム
教官役の冒険者は8人の予定が、事情で1名が遅れた為に7人になった。
「不慣れな感じだったからなぁ。俺が優しく補佐してやろうと思ってたのに、残念だぜぇ」
笑みを浮かべ、そう口にするのはユーネル・ランクレイド(ea3800)。チンピラ風の雰囲気と、腰に差した剣の十字架がミスマッチな印象的を与える。
「私は騎士のソルティナ・スッラと申します。まだ修行中の身ではありますが貴殿らの訓練に付き合うことになりました」
代表してソルティナ・スッラ(ea0368)が挨拶をした。年齢的には居並ぶ新兵達と大差ないスッラだが、冒険者として場数を踏んでいる分だけ落ち着いて見える。
「よろしく頼みます」
さて冒険者達の事前の協議で、訓練の細目が決定した。
午前中は兵舎で主にソルティナの剣技指導とロット・グレナム(ea0923)の魔術講義、午後は騎士のウォルフガング・シュナイダー(ea0433)の教練から始まり、そのあと忍者の速水才蔵(ea1325)が郊外に新兵達を連れ出し、森で模擬戦を行う。
レンジャーのサリエル・ュリウス(ea0999)、騎士のアルアルア・マイセン(ea3073)、それにランクレイドの三人は基本的に授業は持たず、分担して補佐役に回る。
個別の紹介は省かれ、早速初日の訓練が始まった。
●剣と魔法
「では‥どなたでも構いません、私に打ち込んできなさい」
訓練用の棒を構えて、ソルティナは会ったばかりの新兵達を見回す。
「本気で打ち込んでも?」
新兵の中でも体格の良い男が進み出てきた。
「当然です」
「いいので? 訓練の前に、騎士殿に怪我をさせてしまうかもしれませんが?」
男の顔には期待と嘲りが半々に写っていた。
「頼もしい言葉ですが、余計な気遣いです」
彼女なりの挨拶だった。女性でしかも若い彼女の訓練を受ける事には新兵達も抵抗があるだろう。それを最初に取り払えば、彼女に出来る授業の半分は達成したと言っても良い。
(「ふふふ、これは初っ端から面白い展開だな。‥‥だけど、勝てるのかい、ソルティナ?」)
サリエルは新兵達の後ろからこの光景を眺めていた。
体格通りなら力は相手の新兵が上だ。事前にオーラ魔法を使えば確実に勝てるが、それでは剣の訓練にならないし、女騎士の矜持が許さない筈だ。となれば条件は殆ど五分‥‥不謹慎ながらサリエルは薄笑いを浮かべて結果を見守った。
ガッ‥。
勝負は一瞬でつく。二人の棒が交差したかと思うと、片方の棒が地面に転がる。
「ぐっ‥」
「相手を見かけで判断してしまってはいけませんよ。油断する事は命取りになります」
女騎士の棒が一瞬早く、新兵の棒を叩き落していた。棒を突きつけられ、新兵は感嘆の唸りをあげた。
「お見事」
内実はギリギリの攻防だったが、傍目にはソルティナの圧勝だ。この分なら、彼女の訓練は上手く進むに違いない。
「警備の仕事が主である貴方達は、私達冒険者と違い人間を相手にする事が多いでしょう。今のように先に相手の武器を封じれば、余計な血を流さず相手を確保できます」
女騎士に素振りとディザームの練習をさせられて腕がパンパンになった新兵の、次の授業はロットの魔術講義だ。
「正直言って、俺は人にモノを教えるなんて柄じゃないんだけどな。ま‥‥受けたからにはちゃんとやるから安心しろ」
ロットは魔法の基本的説明は省き、戦闘で魔術師と相対した場合の対処法のみを教えた。
「大原則は詠唱をさせない、だ。基本的な呪文の詠唱時間は10秒、これだけありゃ近づいてバッサリやるのはわけない話だな?」
新兵達は頷く。だが実際の現場では魔法にビビって踏み込めなかったり、詠唱に気づかない事が多い。そこでロットは詠唱のモーションや、戦闘で使用される主な魔法の射程や範囲を教えた。
「大事なのは、見たまんまを信じることだ」
およそ魔法使いらしくない発言だ。だが見えない物に関する怯えを無くす事も対魔術戦では必要。知識はその為に心の準備をさせるものでしかない。
「いいか、攻撃魔法はそれほど恐くない。あとで味わってもらうが、一撃必殺はまずないからな。剣や弓と変わらないと思っていい‥‥」
世界には一人で軍隊を相手する大魔法使いもいないではないが、そのような人間災害と街の警備隊が戦う事はまず無い。
「むしろ恐いのは補助系魔法だ。全部は覚えられないだろうが、代表的なものを教えるので後は応用で考えて貰いたい」
ロットの言葉を羊皮紙にメモを取る新兵達。
「‥順調のようですな」
授業の後ろでは、新兵の様子を観察するアルアルアと警備隊長が話をしていた。
「冒険者の話が珍しいのでしょう。ですが物珍しさで聞いているうちは身になりません」
アルアルアの冷静な分析は警備隊長には少し意外だった。冒険者で騎士なら、自分の功績に煩いものと思われても仕方がないが。
「では訓練期間の延長が必要だと?」
「それも方法とは思いますが、私達には別の依頼があります。5日で発たなくてなりません」
後の事は警備隊次第。女騎士はそれに少しでも役立てればと、新兵達について気づいた事を羊皮紙に書き留めていた。
●命令と罠
「集合!」
午後一番のウォルフガングの授業は、彼を『隊長』に見立てて新兵達が延々とその命令に従う練習。警備隊でも日常的な、基礎的な教練と思われたが‥。
「ひよっこ共、なんだ、そのへっぴり腰はっ! もう一回産道通るところからやり直すかっ! ‥と教官殿はおっしゃっておられるぞ」
副官についたユーネルが新兵達に罵声を浴びせる。何となく楽しんでる風だが、ウォルフガングは何も言わない。全力疾走や石運びをやらされて汗だくの新兵達が整列すると、頃合と見てウォルフガングは新しい命令を与えた。
「お前とお前、前に出ろ。ユーネル‥‥」
「はっ」
教官の命令に、ユーネルは嬉々として二人のうち一人に近づくと、その両腕を後ろ手に組ませてロープで縛り上げた。
「きょ、教官殿?」
急に心細くなり声をあげる新兵。
「先程から見ていたが、お前の態度は目に余る。よって制裁の意味で、お前に次の訓練の斬られ役をやって貰う。さあ、この剣でヤツを斬れ」
もう片方の新兵の前に剣を投げ出すウォルフガング。
「し、しかし‥‥」
同僚を切れと言われて動揺する新兵。
「人を斬った事がないか? そんな事では警備兵は務まらんぞ」
冷徹に言い放つウォルフガング。
「気遣い無用だ、この事は警備隊長殿にもお許しを頂いている。傷を負っても、そこな神聖騎士殿が何とかする。これは皆の為にも、ヤツの為にも必要な事だ。‥‥命令だ。斬れ」
「‥‥」
水を振られたユーネルは無言。無論、彼は回復魔法は一切使えない。
「す、すまない。‥‥うわぁぁぁ!」
剣を掴んだ新兵は覚悟を決めて、それを同僚に振り下ろした。
ユーネルは顔をしかめる。
新兵の剣は縛られた兵の寸前で止められた。傍らに立つウォルフガングの長剣が阻止したのだ。訳が分からないといった表情の新兵を冒険者の騎士は一喝した。
「馬鹿者! 上官の命令が常に絶対に正しいとは限らん‥‥盲目的に命令に従うのではなく、己の頭で考えなくてどうする!」
詰まる所はそれが騎士道だ。主君に絶対の忠誠を示し、同時に道徳に反する行為には決して従わない。警備兵の中には騎士を目指す者も少なくないから、ある意味では必修科目と言える。
「いいか、浮かれるな。常に頭と視界をクリアにしておけ。クリアである限りお前達は生きられる。それが曇った時は終わりだと思え。人々を守るとは‥‥そういうことだ」
己にも言い聞かせているようだ。願わくば成長しても彼らがそれを忘れなければ良い。賢い筈の者が容易に魔に騙される。
「拙者は速水才蔵、非情な忍び‥‥」
一日最後の忍者の授業は、野外訓練。事前準備はサリウスとユーネルに手伝って貰って行った。
「戦士の実力は刀の腕だけに非ず。五感を研ぎ澄ますこと、それが最も大事だ。諸君らには二組に分かれたこの鉢巻を奪い合う模擬戦を‥‥」
厳しい顔で訓練を説明していた才蔵はやおら新兵達に近づくと、一人の女性兵士の前で立ち止まった。
「教官殿、な、なんでしょうか‥‥?」
これまでの訓練を思い出し、戸惑う少女の腕を無言で才蔵は掴んだ。
「拙者の『妹』になってくだされぬか?」
完全に依頼を忘れている才蔵。
「‥‥訓練中ですよ」
見かねて止めに入るアルアルア。
「笑止。訓練如きと『妹』を比べられるものか!」
断言する才蔵。とりあえず忍者に副官三人から鉄拳指導が入った後、訓練はつつがなく進められた。
「ほらほら、気を抜いているとすぐに見つかってしまうぞ」
模擬戦を行う森には予め才蔵達が罠を仕掛けられていた。その上で才蔵が新兵達を狩り出す。森に潜むモンスターや盗賊退治を想定した訓練と言えようか。因みに三日目に才蔵は少女兵士を襲った所を捕まえられ、警備兵達にめでたく退治された。
●最終日
四日目まで、少々のトラブルはあったが訓練は滞りなく進行した。昼間の訓練だけでなく、夜にユーネルが新兵達の宿舎を強襲して酒盛りを開いたりもして、ある程度親睦も深まる。
「いいかあお前ら、仲間ってのは大事にしとけ? 隊長だの将軍などはイチ兵卒の命なんてコレっぽっちも省みちゃくれねえぞ」
酔ったユーネルの不穏当な発言は、最終日に現実化する。
「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ―――――――っ!! 山行くぞごるぁ!!」
5日目未明。前日の訓練と酒盛りで爆睡する新兵達は、サリエルの容赦ない声にたたき起こされる。寝ぼけ眼を擦り、用意された荷物を背負って兵舎前に整列する新兵達。それを迎える教官達の目も心無しか赤い。
「教官殿、食糧が入ってませんが‥‥」
荷物を点検し、不審に思って質問する新兵。
「今日の訓練は山で狩りを行う。飯は自分の手で獲れ!」
狩りと言っても荷物の中に弓は無い。申し訳程度のダガー1本と、嫌がらせ的に石が詰め込まれた背負い袋のみ。
「む、無茶です」
「何が無茶か、訓練期間終了までお前等は地上最低の生物だごるぁっ!!」
「そんな‥‥たとえ教官の命令でも理不尽な命令には‥‥」
ウォルフガングの教練の成果か、意を鼓舞して反論する新兵達。
「口で(ピ―――)垂れる前と後にサーをつけろ!! 新兵ども!!」
それを微塵に打ち砕く鬼教官サリエル。
彼女はこれから一日新兵達を苛め抜くことに燃えていた。
新兵達はこうして最後に理不尽を学び(?)、訓練は全て終了。
余談だが、5日目の夜に新兵二人が兵舎から姿を消した。
冒険者達を見送る警備隊長の顔は強張っていたとか、いないとか。
「どうだ、楽な依頼だったろう。楽しんできたか?」
キャメロットに戻り、冒険者ギルドに顔を出した冒険者達を係員は笑顔で迎えた。
「‥‥私達は楽しんだような」
係員の顔がみるみる青ざめていく。