シンプルケース11 バグベア略奪団

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月30日〜08月05日

リプレイ公開日:2004年08月09日

●オープニング

 今日もキャメロットの冒険者の酒場では気の抜けたエールが飛びように売れた。
 それほど美味いのか――?
 まさか。それが唯一、無料なのだ。
 今日も酒場には貧乏な人々(冒険者)が集っていた。

「はぁ‥‥この前の依頼、必要経費ひいたら10Cしか残らなかったよ」
「まだいい。俺なんかなぁ、ポーション使っちまってスゲェ赤字だ」
 冒険者といえば一攫千金。だが、世の中そんな美味しい話がゴロゴロと転がっている訳もない。特にかけ出しの冒険者と言えば貧乏の代名詞と言っても言い過ぎではない。
 何千Gもする古代の魔法アイテムをその手に掴み、ドラゴン退治で英雄や勇者と呼ばれるスター冒険者は本当に一握りだ。依頼の収入だけでは食えないので、冒険者以外に生業を持っている者は多い。

「よー、貧乏人ども。お前達向けの美味しい依頼を持ってきてやったぞ」
 冒険者ギルドの仲介人は、旨そうに『気の抜けていない』エールを飲みながら話した。
 バグベア退治。
 猪頭の熊鬼が、どうして美味しい依頼になるのか。
「実はな、こいつら少し前から街道で悪さしてるんだが、つい先日襲われたのが武器屋の荷だ。運んでた武器や鎧は略奪されたらしい」
 バグベアなどオーガ達は知能は低くても一応はデミヒューマン。武器も使えば鎧も着る。
「依頼人としては退治した冒険者には、戦利品の権利を認めてくれるそうだ」
 奪っていったのはウォーアックス、ハルバード、プレートアーマー、ヘビーヘルムの四つ。他は壊されていたらしい。
 また戦利品に関して鎧等はジャイアントでない限りサイズが合わないだろうがそこは欠損がなければ同じ物と交換もしてくれるらしい。

 街道に現れたバクベア略奪団はバグベアが5匹、どうやって飼い慣らしたのかグレイベア(灰色熊)2匹を連れている。強敵には違いないが、戦利品が手に入るなら報酬はでかい。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0830 レディアルト・トゥールス(28歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea2265 ベルナテッド・リーベル(27歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4554 ゼシュト・ユラファス(39歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

アルフェリア・スノー(ea0934)/ アルヴィン・アトウッド(ea5541

●リプレイ本文

●第1ラウンド
「まずは負けねばならん。それが作戦の要諦であるから、絶対に勝とうなどと考えてはならんぞ」
 出立の前、騎士のゼシュト・ユラファス(ea4554)は仲間達にそう念を押した。
「‥‥作戦の筋は理解したが、本当に成功するのか?」
 浪人の時雨桜華(ea2366)は顎に手を当てて質問する。
「愚問だ。私は勝つための算段をした、読み通りなら成功する。違えば分からぬ。やる前から勝敗を聞くのは阿呆だぞ」
「厳しい相手じゃからのぉ。無理は禁物という事じゃな」
 腕を組んで話を聞いていた僧兵の黄安成(ea2253)は納得したように頷く。
 この依頼を受けた冒険者が10人、それに応援が2人。難敵への緊張はあるが、腰のひけている者はいない。
「‥‥」
 戦士のルクス・ウィンディード(ea0393)は内心、疑念があったがここでは口に出さなかった。既に語る時は過ぎている。賽は振られた、あとは転がるだけだ。
(「バグベアか‥‥無傷で帰りたいもんだが‥‥」)

 冒険者達は依頼人から荷車を借り、隊商に見せかけて街道を下った。
 往路は何事もなく過ぎた。
 街道の近くに野営し、狩りは危険だというので皆、持参した保存食を食べる。
「うう‥‥金がねぇと保存食でも勿体無く思えてくるぜ。早く御まんまをたらふく食いてぇ‥」
 時雨は所持金が尽きかけていた。愛馬の飼葉代も馬鹿にならない。故郷を遠く離れた彼には余計に堪える話だ。
「‥‥て」
 同類である所のルクスはじっと手を見る。
 働けど働けど我が暮らし楽にならざり‥‥。
「なにしてんだ?」
 夜番の間、浪人の天城月夜(ea0321)がせっせと何かを作っているので声をかけた。
「熊鬼用の道具でござる。‥‥どうも上手く行かぬでござるが」
 月夜は昼間歩きながら手頃な石を懐中に拾っていたが、今はそれを切ったロープの両端に括り付けている。それをバグベアの足元に投げつけて、動きを封じようというのだ。暇だったのでルクスは試し投げを見ていたが、問題は天城の投擲の腕前にあるようだ。野兎相手なら石が当たるだけでも十分だが、バグベア相手では上手く絡みつくかが勝負だ。ただ戦闘中、足に当てるのは難しい。それより、回りながら飛ぶそれが味方に当たらないか心配だ。
「ギリギリの時以外は使わない方がいいな」
 尤もだったので、天城はルクスの助言を入れた。

 復路、レディアルト・トゥールス(ea0830)と時雨が調子外れの歌を歌っているとバグベア達は現れた。
「来ないかとヒヤヒヤしたよ。さて‥‥シンドいがいってみますか」
 トゥールスはインク壷を取り出すと、引きつけてからバグベアに投げつけた。
「‥ありゃ?」
 目を狙ったつもりだったが、胸板に黒いシミを作った。
「真面目にやってください‥‥」
 武道家の夜桜翠漣(ea1749)は溜息を一つこぼし、トゥールスとは別のバグベアに取り付く。
 街道は見晴らしが良く、冒険者達は十分に敵を確認して狙いの目標に仕掛ける余裕があった。
「あなたの相手は私です」
 翠漣は斧槍を持ったバグベアを挑発する。距離を詰めて左に回り始める。翠漣は願掛けでいつも片目を閉じているから、死角からの攻撃を避ける動きをする。
「捕まえられますか?」
 独特の歩法、その動きを捉えるのは容易ではない。
 待ち受けていた割に攻撃してこない不可思議は、バグベアの脳裏にも疑念を呼び起こした。
「‥何か気づいたか、畜生の割に聡いな」
 プレートメイルを着たバグベアの前には日本刀を構えた天城が立つ。
「だが、仲間の元へは行かせぬぞ。暫し、拙者に付き合って貰うでござる」
 月夜には夜桜のような体術は無いが、刀で受けに徹すれば大体の攻撃は防げた。だが此方から攻撃も出来ない。あくまで防げるのは防御に徹した場合だ。
(「打てば相討ち‥‥果たして拙者にあの鎧を打ち抜く力がござろうか‥‥」)
 彼らが三匹のバグベアを抑えているうちに、本命は戦斧を持ったバグベアとグレイベアに襲い掛かった。

「こっちだ‥」
 リオン・ラーディナス(ea1458)は他の相手を回りこんで戦場の後ろに移動し、戦斧を持ったバグベアに石を投げつけた。相手を探していたバグベアが掛かってくるのを、リオンは冷静に盾と剣で受ける。
(「これなら、何とか避けられるか‥‥」)
「‥蒼司」
 リオンが誘い込んだ場所には天那岐蒼司(ea0763)が待っていた。間合いを詰めた天那岐は腰を落としてジャンプざまにバグベアの猪頭を拳で刈った。ナックルで顎を下から叩き上げられたバグベアは一瞬仰け反る。
「むっ」
 だが戦闘力を奪うにはダメージが足りなかった。技を放って無防備な蒼司をバグベアの戦斧が横薙ぎにする。しかし、返す刃でリオンを狙った斧はあっさり避けられ、リオンの長剣がバグベアを追い詰める。
「ぼさっとしてんなよ。早速負傷者だぜ。あんたクレリックだろ?」
 ルクスに言われて、ベルナテッド・リーベル(ea2265)は心外というように首を振る。
「私が何者かですって!? 主婦よ!!」
「そんなこたぁ聞いてねぇよ」
「ええ、分かってるわ。私が何もしないわけにはいかないもの、お金貯めて旦那が帰ってきたときにアッと言わせてやるんだ〜♪」
「‥‥おーい」
 冗談は置いて、体力の無いベルナテッドに乱戦の場で回復呪文を使わせるのは自殺行為。棍棒がカスっても中傷、戦斧の一撃でも食らえば確実に重傷、バグベアの振るハルバードなら命に関わる。
「仕方ねぇ。俺についてきな」
 一度目の戦闘が乗り気でなかったルクスは余ったバグベアの相手をするつもりだったが、ベルナテッドの護衛として仲間の回復を手伝う事になる。

 ここまでは作戦は順調だった。

「ほれほれ、掛かってきやがれ」
 時雨は仲間の為にグレイベアを挑発した。腰を落として熊をせせら笑う浪人に、怒ったグレイベアが突進する。
(「‥‥上手くいったぜ」)
 時雨はそのまま時間切れまで逃げ回るつもりだったが、熊というのは巨体の割に足が速いものである。少なくとも皮鎧に身を包んで腰に日本刀を佩いた浪人よりは。
「ぐわぁぁぁ!」
 追いつかれ、腕の一振りで体を吹き飛ばされた時雨は命の危険を感じた。
(「死んだら負け‥‥命あっての物種だ」)
 浪人は重い刀を捨て、心臓も破れろとばかり一目散に逃走した。その様子に追いかけるのを止めたグレイベアは戦場に戻る。

「早くこやつを倒さねば、片割れが戻ってくるのじゃ」
 時雨が一匹を引きつけている間、黄とゼシュトはもう一匹のグレイベアと対峙していた。
「言われるまでも無いわ!」
 長剣を握り直したゼシュトは迫るグレイベアにソードボンバーを放った。黄のブラックホーリーを受けて僅かに動きの鈍っていたグレイベアに剣風は直撃した。
「ぬかった! ‥‥むぉぉぉぉ!」
 だが灰色熊は動きを緩めず、ゼシュトに襲い掛かった。両腕で思い切り殴りつけられた騎士はそのまま体を捕まえられてしまう。熊の怪力で締め上げられ、鍛え上げたゼシュトの肉体が軋む。
(「あと一人、手が足りなんだ、か‥‥まずい‥‥」)
 両腕の攻撃で半ば意識が飛んだゼシュトには自力で脱出する術は無い。アルヴィン・アトウッドがウインドスラッシュでグレイベアを攻撃するが、殆どダメージは無かった。
「ゼシュト! 待ってろ、いますぐそっちに行くぞ!」
 仲間の窮地に目の色を変えたレディアルトは、防御を捨てて勝負をかけた。マスカレード男爵の異名を持つこの男、おチャラけに見えて実は熱血漢。既に敵の実力を見極めていた彼はスマッシュでバグベアを切り倒した。
「今助けるぞ!」
 駆け出したトゥールスを、だが時雨を追いかけていて戻ってきた別の灰色熊が飛びかかる。
「どけぇ!!」
 オーラエリベイションで気力が高まっている騎士は、盾を掲げて熊にぶつかっていく。しかし、これはゼシュトで実践済みだ。熊は攻撃を受けながら反撃し、騎士は吹き飛ばされて荷車を倒し、地面に片足をついた。もし盾がなければゼシュトと全く同じ結果になったろう。レディアルトは今回は恐らく仲間の間で一番強い。冷静に戦えば負ける事は無いだろう。だが乱戦では強者に負担がかかるのも事実だ。
 夜桜と天城はそれぞれの相手の足止めに手一杯。リオンと天那岐は新たにヘビーヘルムを付けたバグベアに阻まれた。
「死神を前にして‥‥生殺与奪を決めるんじゃねぇ!!」
 ベルナテッドを連れたルクスはゼシュトを捕まえたグレイベアに迫る。ゼシュトは既に意識が無いのか抱えられたままだ。非常に危険な状況と言えよう。
 先にゼシュトが言った作戦要項に照らせば、既に撤退すべき状況なのだが仲間思いの冒険者が多かった。下手をすれば全滅の憂き目も有り得るが‥‥バグベアが突然何事か叫び、潮が引くように敵が退却を始めた。ゼシュトを抱えていたグレイベアも彼を放り出して逃げていく。
「何故だ‥‥?」
 戦いで荷車の擬装が吹き飛んでいた。戦いの見返りが無い事に気づいて引き上げたのかもしれない。それともバグベアを2匹屠った冒険者達に恐れをなしたのか。確かに、全滅まで視野に入れて戦うのは意思を持たぬアンデッドぐらいのものだ。

「人妻ゆえに2倍、幼な妻でさらに倍で4倍の効果があるはずだな?」
 妄想めいた事を呟くのはベルナテッドの治療を受けるトゥールス。
 戦闘後、彼にリカバーをかけたベルナテッドは力なく首を振った。重傷までいっている彼の傷はベルナテッドの回復魔法では全快させる事が出来ない。
「私に出来るのはこれだけ‥‥」
 回復していない訳ではないが、深い傷が塞がらない。
 もう一人の負傷者に至っては‥‥。
「や‥‥めろ。‥‥その手で、私に‥触れてみろ‥お前を‥殺す‥‥」
 『白』嫌いのゼシュトは半死の体でありながら治療自体を拒否した。すぐに意識が混濁して憎まれ口は叩けなくなるが、無論そこまでの重傷はベルナテッドの手では回復させられない。
「二人が行動不能か‥‥それで、どうするのだ?」
 戦闘後に撤退する振りをして一人でバグベア達を追跡した蒼司は彼らの巣穴と思しき洞窟を発見して戻ってきた。今から行けば攻められるが、二人を連れてキャメロットに帰れば依頼の期間をオーバーしてしまう。
「しばらくは粥だけか‥‥」
 時雨は打ちひしがれた感じで息を吐いた。底まで透けて天井まで写る米スープを飲む己の姿を思い浮かべているようだ。倒したバグベアの戦斧は敵が持ち去っていたので、これで帰ればタダ働きに等しい。
「仲間の命には変えられんでのぉ」
 黄は諭すように仲間達の顔を見回した。
「‥‥無理があったんだよ。作戦自体に」
 ルクスは淡々と言った。不安が現実化した形だが、ただ後味は良くない。
「‥‥いや、やれない事はない」
 戦いが終わってからブツブツと何やら呟いていたリオンは、蒼司から巣穴の情報を聞いて決心を固めていた。
「俺達だけじゃない、敵の戦力も減ってる。厄介なグレイベアは二人の御蔭で手負いだ。‥‥今攻めないでどうするのさ」
 リオンは最初の戦闘で敵の戦力をほぼ把握していた。彼は自分の考えを説いた。
「ゼシュトとレディアルト抜きでか?」
「二人は近くの村に預かってもらう。それなら時間はそれ程掛からない。代わりは俺とルクス、キミに頼みたい」
「ほぉ‥‥いいだろう」
 先の戦いではこの二人が一番傷が浅い。突破力と回避の両面で使えてゼシュト達の代わりが出来るのは他にいない。リオンのバックアップは蒼司が、ルクスはアルフェリア・スノーと時雨が支える。黄とベルナテッドは後衛。
「それでは私は、斧槍のバグベアを今度は仕留めましょう」
 翠漣の言葉に寝たままのレディアルトが首を振る。
「抑えるだけにしておけ。止めはファイターに任せろ」
 レディアルトは先の戦いで夜桜の動きを見ていたが、避けることに掛けては見事だが威力に欠ける所は否めないと感想を抱いていた。
「そんな事はありません‥‥いえ、無理はしないよう気をつけます」
 翠漣の方が折れた。人間としてはともかく、こと格闘戦にかけてトゥールスの目は確かだ。
「では鎧を着た熊鬼は、また拙者が相手をしよう。‥‥倒してしまっても構わぬでござろうか?」
 月夜がレディアルトに聞いた。今度は頷く。
「むしろ、速めに決着をつけた方がいいな。イアイが使えるんだろ?」
 騎士の言わんとする事を察して月夜は微笑した。
「万事、心得てござる」

 さて、結果だけを言ってしまうと冒険者達はこの戦いに勝利する。
 巣穴が思ったより狭いという情報から、有利に戦えると踏んだ冒険者達は多対一の状況を作って戦う事が出来た。最初の戦いで全力を出し切った敵に比べて余力を残していた事も有利に運んだ。その意味では、まさに負けて勝ちを取った訳である。
「死して屍拾う物なし、だが武具は別‥‥嗚呼、やはりこれでこそ戦場だな‥‥」
 蒼司は戦いの後、嬉々として遺骸から装備品を剥ぎ取った。
「これで久々に、御まんまがたらふく食える次第です」
 時雨は両手で太陽を拝んだ。天城はバグベア達をちゃんと弔いたかったが、時間が無かったのでお祈りだけした。
「あれー、リオンさん、マントが破けているわよ?」
「え、マジ?」
 ベルナテッドに言われて外套を脱ぐと恐らく熊の爪に引き裂かれたのだろう、ズタズタになっていた。
「や、やばかったな‥‥オレ」
 リオンは戦いが終わるまでは冷徹な態度を崩さなかったが、終わると一気に溶けた。自信に満ちた態度が単なるハッタリだったと分かり、仲間に白い目で見られる。だが風聞としては仲間がやられても退かない恐れを知らぬ男と思われたようである。巣穴の戦利品が予定より多かったので、冒険者達はそれを売った金でレディアルトとゼシュトを教会で回復させた。ゼシュトは相当ひどい熊の爪痕を残したので、その事も勇敢な戦士として噂された。