シンプルケース12 雀とパラと称号と

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月31日〜08月05日

リプレイ公開日:2004年08月11日

●オープニング

 冒険者には数々の異名、称号が付き物だ。
 殊更に口に出さずとも、いつかはドラゴンスレイヤーと呼ばれたいと思っている冒険者は多いだろう。
 称号は、自称で名乗っていたものが本人が有名になるうちに他人からも呼ばれるようになった物もあれば、その言動功績から他人が付ける渾名もある。特に王や諸侯から称号を賜るのは名誉なことだ。
 だが、中には在り難くない、口に出したくない称号というモノも存在する。
 或いは心当たりがある者もいるだろう‥‥。

 今回は、そんな称号についての依頼だ。

 鼠殺し、猫殺し、ダックスレイヤー‥‥如何にも弱そうだが、これらはどれも駆けだしの冒険者用の称号だ。本当に駆けだしのうちはまだ良いが、成長すると呼ばれたくない名前が多い。
 その中の一つに『スパローキラー(雀殺し)』というものがある。
 雀は害虫も食うが穀物も食らうので害鳥として駆除する事が多い。そこでこの称号があるのだが、現在その称号で呼ばれるパラのレンジャー、ホリス・フェアファックスはいい加減に返上したいと思っていた。
「俺はもう一人前の冒険者だぜ。いつまでも雀殺しじゃカッコがつかねぇってもんだ」
 酒場でホリスと飲んだ時にその話を聞かされた馴染みのギルドの係員は、ちょっとしたアイデアを思いついた。
「確かに、アンタは成長したよ。この前の依頼じゃトロルを倒したって話も聞いたしね。だったら、ここらで古い名前とはオサラバしようじゃないか」
「だから、その話をしてるだろ?」
「いやいや、話はこれからさ」
 係員はそろそろキャメロット近郊の村から雀退治の依頼が来そうだと予想していた。
 そこで、ホリスに雀取りの大会を開くよう勧める。
 優勝者にはホリスから称号が譲られる、もちろん賞金も用意してもらう。
 公衆の面前で明白に称号と縁が切れるという訳だ。
「素晴らしいアイデアじゃないか。なんでそんな事に今まで気づかなかったのかな」
「そうだね。だけどアンタの重荷を新人に背負わせるんだ。アンタもそれ相応の事をすべきじゃないかな?」
 係員は賞品を奮発するように言った。と言ってもホリスは宵越の金は持たないタイプで貯金は僅かだ。
「うーん、任せておけ」
 パラと段取りを相談し、予想通りに村から問い合わせが来たのでそれを係員は一枚の依頼書にまとめた。

 酒場での話から一週間程して、ギルドに依頼書が張り出された。
 依頼内容は雀退治。
 キャメロット近郊の村で二日間に渡って行われる。
 正直言って、あまり面白い依頼ではない。普段なら話題にもならないだろう。
 所が今回はパラの戦士ホリス・フェアファックス氏の好意により、成績優秀者三名には賞金1Gが出ることになった。また氏が最優秀者と認めた一名には称号が譲られ、副賞としてヒーリングポーションが贈られるとのことだ。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2261 龍深 冬十郎(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4250 リオルス・パージルド(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5008 ルー・リー(18歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●雀取り大会
 冒険者が、村の入口に集まっていた。
「良くぞ来た、ギルドの精鋭達よ!」
 主催者のパラが酒樽の上に乗り、そんな彼らを頼もしげに見渡す。
「この中に、由緒あるスパローキラーの名を継ぐ者がいる事を俺は信じる。その者の名は、これから二日間、諸君の働きを見た上で決めたい。日頃自慢の腕を競うのだ」
 やっと称号から解放される喜びからか、ホリス・・フェアファックスは満面の笑みだ。
 と、冒険者の中から声が上がる。
「『雀殺し』も『鼠殺し』も私の称号だ!」
 豪語したのは、浪人のとれすいくす虎真(ea1322)。このイギリスで、お好み焼職人を生業にしている男だ。
「頼もしい者がいるな!」
 パラは喜んだが、他の参加者は奇異の目を向ける。キャメロットでも少しは名前が売れてきた冒険者が名乗るには、称号が貧弱に過ぎる。変わった男だ。
「うーん、あの称号がそんなに欲しいかなぁ」
 戦士のアリア・バーンスレイ(ea0445)は虎真を眺め、首を捻る。参加者で純粋に称号目当てなのは虎真だけだろう。
「でも意外にファイターが多いね。アタシにもチャンスあるかな」
 アリアは他の参加者の面を見渡すが、狩り依頼というのに剣士系が多かった。変わった所ではシフールが一人参加している。
「‥‥」
 そのルー・リー(ea5008)はシフールらしからぬ苦悩の表情を浮かべ、先程から同じ所を行ったり来たりしていた。
「どないしょー‥‥」
 べち。
 前方不注意のシフールはレンジャーのミケイト・ニシーネ(ea0508)の顔にぶつかって落ちた。
「イタタ‥‥怪我ないか?」
「おーきに。‥‥ねえちゃん、うちの悩み聞いてくれへん?」
「ええよ。金の事以外やったら、相談に乗るで。話してみい」
 ルーはミケイトの肩に乗り、彼女の耳に顔を近づける。何やら秘密めいている。その話は後述するとして少し離れた位置からミケイトを見つめる目があった。
「むー、ミケも出席するのか。強敵だな‥‥」
 ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)はミケイトと以前に狐狩りの依頼を共にしていた。その時のミケは単なる面白キャラだったが、同じレンジャーとして実力は侮り難いと感じていた。今回は相当な数勝負が予想される雀取り。レンジャーの有利は自明だから、彼はミケを第一のライバルと目していた。
(「だが、悪いが優勝は俺が頂く。今回は俺も本気でやらせて貰うぜ!」)
 狐狩りではセコさが際立ったランドクリフだが、今回は気合いが違う。副賞のヒーリングポーションに目が眩んでいるのは言うまでもない。
「称号はともかく、副賞は魅力的だな。‥とは言え、得物がコレでは大きな事はいえないが」
 戦士のフィル・クラウゼン(ea5456)は大会の注意を聞きながら、腰の長剣に触り、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
「空を飛ぶ者を剣で斬るのは至難です。郷に入れば郷に従うことですよ」
 騎士のルーラス・エルミナス(ea0282)はフィルと同じく剣士。だがルーラスは愛用の長剣も盾も馬の背中に残していた。雀退治には不要だからだ。
「頭を使えと言うのだろう? それは分かるが、依頼はこれが初めてだからな‥‥」
「私も雀退治は初めてですよ」
 微笑する騎士。賞品目当ての一部を除き、緊迫感の少ない依頼だ。参加者はそれぞれに工夫を凝らして雀取りに臨んでいたが、どこか愉しんでいる感が強い。
「たまには、ええやろ」
 特に雀取りの技を持たないで参加したリオルス・パージルド(ea4250)にも少しも慌てる様子が無い。リオルスは英雄志向があったが、どちらかと言えば怪物退治より人と触れ合う依頼を良く受けている。他の面々を見回してもその傾向は強い。
「雀を食べるの?」
「ああ、美味いぞ。串焼きにして、酒と一緒に‥‥堪えられん」
「ふーん」
 龍深冬十郎(ea2261)の言葉にアリアは息をもらす。この頃のジャパン人は一般的に獣肉食を嫌う傾向が強いが野鳥などは別で、良く食された。西洋を旅するジャパン人の中にはジャパンではまず食べない牛馬を抵抗なく食う者もいて、その食の広さは悪食家と評される事もある。
「‥‥では健闘を祈る!」
 話しているうちにパラの長い説明が終わった。
 参加者達は道具を手に、雀の待つ村へと入っていく。

●スパローハンター
 ミケイトはルーから逃げていた。
「寄るなドアホー! うちかて今度こそは思うてきとるんやで」
「そんなこと言わんと、相談乗ってくれる言うたやんか?」
 ミケイトにまとわり付くシフール。鬱陶しさは蠅か虻かの数倍だ。
「程度によるわ!」
 少し話は戻る。

「‥‥うちな、バードやねんて」
 背嚢からオカリナを出してみせるルー。
「さよか。あんたも狩りに出るんやろ。正々堂々やったろーな」
 バードの呪歌は鳥獣にも効力があると聞く。案外手強いかもとミケイトは思った。
「おう。‥‥それでなぁ、ねえちゃん。うちに魔法の使い方教えてくれへん?」
「もいっぺん言うてみい」
 低い声で問い返すミケイト。
「うち、さっきから試してんやけどな、魔法出ぇへんねや。‥‥なんで?」
 小首を傾げるルー。
「うちが知る訳ないやんか! 魔法使いはあんたやろ!」
 容赦なく突っ込むミケイト。コロコロと吹き飛ばされるルー。
「ちゃんと作戦も考えてきたんやで。『ルーリーのカメと雀作戦』言うねん、けど魔法が使えんことにはどないもならんやろ。‥‥何とかならんか?」
 呪文を覚えないと、どうにもなりません。
 ルーは二日間を昼寝とスパローの観察で過ごした。

「雀捕まえるってんなら、やっぱ鳥モチに限るってな」
 冬十郎は粘り気のある樹液を木の枝に塗りつけて雀が通りそうな場所に刺していく。本当は畑を覆うほどの規模でやりたかったが、さすがにそれだけの準備がない。
「網もいいが、良いのが手に入らんしな」
 その網をアリアは自作した。彼女は毛布とロープで手製の捕縛網を作る。
「ちょっと不恰好になったかな‥‥」
 何となくゴミを作っただけの気がしないでもない。アリアは半日ほど雀に向ってソレを投げていたが、そのあと網は分解されて今度は罠の巣箱作りの材料になった。
「ここらでええか」
 リオルスは手頃な切株に腰をおろし、丸一日、横笛を吹いて過ごした。時折、笛の音に誘われるように小鳥がやってくる。リオルスは笛を吹くだけ。
 チュン、チュン。
(「‥‥もうちょい」)
 リオルスの横には釣竿が立てかけられていて、釣り針のついた餌を雀が食べるとヒョイと釣り上げた。実に長閑な狩りだ。
「‥‥」
 その近くでは、ルーラスが物陰に隠れてじっと動かない。手には縄が握られ、縄の先には農家で借りた籠とそれを固定する棒。籠の近くには餌。所謂、雀取りである。
(「‥‥しかし、おそろしく暇ですね」)
 ルーラスは一日この罠を試したが、成果は芳しく無かった。支える棒が長ければ雀は籠が落ちる前に逃げ、短すぎると警戒して近づかない。
「やれやれ、やはり素人ではそう上手く行きませんか」
 たかが雀と思っていたが、冒険者達は存外に苦戦していた。
「ま、待てぇ!」
 最も苦労したのはフィルで、彼は長剣を振るって、村中を雀を追い回した。
「ふふふ、皆さん苦労してますね。ではジャパンの伝統的な雀の獲り方をお見せしましょうか」
 唯一、本気で称号を狙う男は秘策を持っていた。虎真は予め雀の餌を酒に漬けておき、それを雀が来そうな地面にばらまいた。餌を啄ばんだ雀がアルコールで目を回した所を捕まえるという算段である。予定では山のように取れる筈であった。
「‥‥」
 しかし、この日は餌がそれほど腐るほど撒かれたので、雀は酒臭い餌より普通の餌を選んだ。虎真は囮用の雀を捕まえて糸で足をくくり、餌の近くに放つなど苦心する。
「何としても優勝を‥」
 彼の決意を運命があざ笑うように、雀を追いかけてきたフィルが虎真の撒いた餌を踏みつけていく。
 ガキンッ!
「な、何をする」
 いきなり虎真に斬りつけられ、寸でで受け止めるフィル。
「黙れ‥‥人様の物を盗ろうとする奴は死なすぞコラ」
 刃を押し付けながら、ドスの効いた声をあげる虎真。本気で殺されるとフィルは思った。戦士としては一段も二段も虎真が勝る。
 閃く刀の軌跡はフィルには見えなかった。
「峰打ちだ。今度からは気をつけろ‥‥」
 フィルを打ち据えた虎真は唾を吐き捨て、場所を変えた。
 因みに峰打ちでも痛いものは痛い。強かに打たれたフィルは大会が終わるまで回復しなかった。

「落ち着いて下さい。話せば分かる事なんですから」
 タイタス・アローン(ea2220)は冷静に事を収めようとした。
「ほう‥‥何が分かるって言うんだ?」
 龍深は引き抜かれた罠を握り締め、冷めた目を神聖騎士に向ける。
「いや、それは村人のものかと思ったんですよ。あなたの妨害をする気は無かったんです。分かってください」
 タイタスは早朝に畑に忍び込み、雀取り用の餌やら仕掛けやらを無断で拝借した。
「勿論、分かってるさ。神に仕えるお前が薄汚い妨害なんてする訳がない」
「し、信じてませんね」
 龍深は卑怯な事が嫌いな質だ。まして彼らを遠巻きに眺めている村人達が何を話しているかを思うと気が重くなる。
「どうしたものかな?」
 冬十郎は、この中では一番年長の騎士であるルーラスに聞いた。冒険者の心証を悪くしたのは確かだ。示しはつけなくてはいけないだろう。
「依頼は棄権、鞭打ち5回」
「妥当だな」
 それからしばらくタイタスはこそ泥扱いをされて難儀する。

 大会は二日目には、殆ど勝者が絞られた。
 下馬評通りで何ともつまらないが、レンジャーの二人だ。
「やはり、ミケが来たか。だが‥‥負けられん」
 一日目が終わって戦果がほぼ五分と聞いたツウィクセルは結果だけを狙った。それまで彼は矢の消費を気遣い、矢が折れないように回収できるようにと気にかけていたが、それを止めた。
「さて、どうしたもんやろね」
 ミケイトの方は、手詰まりの状況だった。
「矢って割と高いのに消耗品の扱いやもんな〜」
 彼女はとにかく矢を殆ど持たない。前回の反省をして、ミケイトがこの依頼に持参した矢はわずか二本だ。彼女はツウィクセルが捨てた痛んだ矢まで回収して使ったが専ら罠作りに力を注いだ。だが大量の罠を作る時間は無いから限界はある。二日目は考えて、雀の巣を探して数を稼ごうとした。
 結果はツウィクセルが勝利、執念が実る形となった。
「まあ、ええか」
 ミケイトは賞金の1Gを受け取って満足する。
 称号はツウィクセルの手に、また虎真もその熱意(?)が認められて、ホリスから『自称鼠殺し』を名乗る事が許された。
「ちょっと待って下さい。称号なのに何故自称?」
 反論は聞き入れられなかった。