しんぷるけーす 闇討ち

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月07日〜04月12日

リプレイ公開日:2005年04月10日

●オープニング

 そこな御仁、京を騒がす昨今の騒動をご存知か?
 死人、妖怪、魑魅魍魎、それも然ることながら、都を我が物顔で練り歩く武士ども。
 果ては異国の徒や下賎の輩が徘徊する有様。
 声高に魔物より京都を守ると言うておるが、何を、奴らこそが騒動を都に招いておる。

 少し前の話だ。
「宝は、わしらが警護しているからには安心じゃ」
 盗賊に狙われていると言う貴族の頼みで、江戸から来たばかりの冒険者6人が警護の依頼を受けた。
 武士が3人に僧侶、それにウィザードとジプシーの構成で、それなりに場数を踏んだ者達だった。
 所が、警護の翌朝になって忍び込んだ盗賊は倒したものの貴族の家宝は盗まれてしまう。盗賊に仲間がいたと冒険者は言ったが貴族が調べてみると盗んだのは警護の冒険者達だった。
 宝に目が眩んだのである。
 虚仮にされて激怒したその貴族は憤死し、遺族は冒険者達を呪った。だけでなく金を積んで、闇討ち屋を雇った。冒険者が荒事に強いと言って、四六時中命を狙われては弱い。一人、また一人とやられて残ったのは最年少の僧侶が一人。

「助けて下さい!」
 僧侶の名木夕理は京都ギルドに駆け込み、震えながら護衛の依頼を出した。事情を既に知っている係員は冷めた目を向ける。自業自得とはこのことだ。
「仲間の暴走を止められなかった私の罪でしょう。しかし、私は知らなかったんです‥‥それが、こんな恐ろしい事になるとは‥‥」
「ふむ」
 係員は一考し、依頼を預かった。ギルドの評判に傷をつけた事を思えばこの青年が殺されても清々するぐらいだ。しかし、冒険者を殺す殺し屋‥‥野放しにしておくのも上策とはいえない。
「闇討ち屋の事、詳しく分かっていません。殺された冒険者達はそれぞれ刀や短刀でやられていました。寝ている所や酒場、路上と襲われた場所はまちまちです。相手は不意打ちに長けた連中、くれぐれも油断しないよう」
 名木は京から逃がしてくれる事を頼んだが、どこまで追ってくるか分からない相手だ。係員は護衛を引き受ける条件として、相手を迎え撃つ事を納得させた。
 しかし、ただ迎撃の態勢だけを整えたのでは、相手は護衛が居なくなるまで襲って来ない可能性もある。いかに相手を誘き寄せるか、それが鍵になるだろう。
「よろしく頼みましたよ」

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2160 夜神 十夜(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ 百合月 源吾(eb1552

●リプレイ本文

 深夜。
 薄汚れた都の小路を、夜神十夜(ea2160)は前を歩く男を尾行した。
 明りと言えば月明りだけで、人の姿はぼんやりとしか見えないが、これ以上は怪しまれるから近づけない。時と共に焦れてきた。
(「まさか、気づかれたんじゃ‥‥」)
 依頼人の名木夕理が人通りの少ない場所を一人で歩き、その周りを、付かず離れずの間合いで四人の冒険者が尾行する。冒険者達の考えた囮作戦は、闇討ち屋に少し頭の回る者がいて注意深ければ、容易に気づく仕掛けだった。

「‥‥」
 暗がりで念仏を唱えるのは山王牙(ea1774)。志士の彼が唱えるのは精霊魔法の呪文であって念仏では無いが、そばの夜神には似たようなものだ。
「――シッ」
 呪文が完成すると山王は緑淡の光に包まれ、周囲の息吹を探った。一拍の間、目を閉じていた山王が前方を示す。暗闇の中で仲間達は頷きあい、夜神、秋月雨雀(ea2517)、楠木麻(ea8087)は山王の指し示した方角に走った。

「不埒な悪党、神皇様に代わって、お仕置きよ!」
 男装(?)の少女剣士、楠木麻は一番に駆けると、暗がりに潜む人影に向って呪文を唱えた。
「今のうちに、早く結界を!」
 その間に秋月雨雀は名木のガードに入り、山王と夜神は人影が逃げ出さないように挟む。麻が唱える魔法を知っているから、迂闊に前には出ない。
「覚悟っ!」
 金髪碧眼の楠木の体が淡茶色の光を放ち、直線状に重力波が走った。夜故にその軌跡は殆ど見えないが、グラビティーキャノンは人影を弾き飛ばし、小路に隣接した家の壁にまで穴を開ける。
「‥は、はぁぁ?!」
 崩れた壁の奥で寝ていた女が飛び起きた。
「むっ‥‥我らは志士、盗人討伐の途中だ。下がっていろ」
 抜き身の小太刀をさげた山王の言葉に、住民はか細い悲鳴をあげて後ずさりした。
「とーや?」
 依頼人を守る姿勢で雨雀は夜神を呼んだ。倒れた相手に駆け寄っていた夜神は人影を立たせる。
「貴様が闇討ち屋か? 仲間はどこだ?」
「い、命ばかりはお助けを〜」
 その声に奥に引っ込んだ住民の女が出てきた。
「あ、あなた?」
 結局、その夜は外れだった。唯一の収穫は妻に隠れて浮気相手の所へ忍んでいこうとした男を捕えた事だが、以上は余談である。

●依頼人は囮
「もう沢山です! こんなことを続けても、時間の無駄だ。それぐらい分かるでしょう‥‥早く私をここから逃して下さい!」
 あくる日、名木は四人にすがり付いて泣いた。
「それでも男ですか! 軟弱者!!」
 麻は名木の頬を容赦なく打った。
 尻餅をついて後ろに倒れた依頼人を厳しい目で見下ろす。
「見下げ果てた男ですね、依頼人でなければこの場で斬って捨てる所です」
「‥私を脅して、いい気持ちですか? 私だって、こんな事に巻き込まれるとは思っていなかったんだ‥‥」
 横を向いて、わなわなと体を震わせる名木。あとは悲歎にくれて泣くばかり。
「やれやれだな。すまないが、任せるよ」
 日中は聞き込みにあてる秋月は、夜神に守りを頼む。
「警護するのが女なら盛り上がるんだがね‥‥まぁしゃあないか」
 夜神と麻は宿で依頼人を守る。山王は昨晩の騒ぎの事で検非違使庁に呼ばれていた。大事は無いと思うが、無視する訳にもいかない。
「有りのままを話しても、面倒だ。適当にはぐらかしておこう」
 この京都で彼ら志士は顔が利く。そっちは何とかなるだろう。
 人に見られないように裏から外に出た秋月は、息を吐いた。
「あー、久々に不安だよ‥‥。上手くいくかね‥‥」
 昨夜の事を思い出しても、依頼人の怯えが的外れでは無い事は分かる。今の作戦は上策ではないが、それで最低限依頼人の命が守られるなら文句を言われる筋ではない。
「けど、今のままじゃちょっと危ういかな」
 何事も情報が物を言うと、雨雀は闇討ち屋の情報を求めて酒場や賭博場を歩いた。もっとも、昼間から空けている酒場や賭博場を探せるかという大きな問題があったが。

「この部屋からは外に出ない。飯はその保存食、水はその竹筒だ。それ以外のものは口にするな。お前も冒険者の端くれなら分かるな?」
 宿代などは名木が払った。
 夜神や楠木は名木を心配してやってきた親類という事にしてある。
 上手な嘘では無いが、日中は宿に篭もって過ごすつもりなので不都合は無い。昨日、百合月源吾とイレイズ・アーレイノースに頼んで名木が夜中に出歩く噂を流して貰っていた。あとは、向こうが仕掛けてきてくれるのを待つだけだ。
「もし仕掛けてこなかったら?」
「俺達が残念賞。都の外まで見送りくらいは付き合うが、その後は依頼人の運次第だ」
 今回、冒険者達にやる気が若干不足していると思えた。依頼人のした事を思えば、それも仕方無いのだが。危険な兆候である。
「食事をお持ちしました」
 山王が戻る前、障子越しに声をかけられて室内の夜神と楠木は緊張した。
「頼んでおらぬ」
「いえ、お連れ様が‥‥」
 そんな事がある筈は無い。夜神は楠木に目配せして、そっと障子に近づいた。
「ふーん、それなら頂こうか?」
「あ、はい。それでは御免なさいませ‥」
 名木の体を庇いつつ楠木が言うと、障子がすっと開いた。
 その途端、太刀を握った十夜が部屋に入ろうとした男の肩を抑えて、叩きつける。男の持っていた盆に載せられた立派な焼き魚が床に転がった。
「な、何をなさるのです‥‥!?」
「黙れ、下手な言い逃れは命を縮めるぞ。もっとも、どうせ早いか遅いかの差か?」
 問答は面倒と思った十夜はとりあえず眠らせる事にした。ふと暴れる男の手が焼き魚にかかるのに気が取られる。夜神は浪人ながら料理人を生業にする男である。
「なにっ?!」
 焼き魚から短刀が出て十夜の腕を裂く。男は魚から取り出した刀を構えて素早く身を離す。
「夜神!」
 麻は加勢しようと呪文を唱え始めた。グラビティーキャノンは狭い室内では危険、この場で使うのは。
「名木はっ?」
 十夜は名木の体が白く光るのを見た。ホーリーフィールドを張ったようだ。部屋の外でも足音が聞こえた。敵は目の前の一人だけではない。
「ちぃっ」
 障子が破れて突き出された槍の穂先を、無我夢中に太刀で弾く。少なくとも4、5人は来ているようだ。いくら夜神が歴戦の強者でも、この狭い室内で長い太刀を振り回してでは不利だ。
「‥‥」
 男は麻に向った。暗い無表情で迫る男に麻は呪文を中断して下がりたい衝動にかられるが、元より体術は苦手だ。男の短刀が最初肩に、そしてお腹に刺さった。首を斬られる直前に呪文が完成する。
「うぉぉぉぉっ!」
 男が初めて驚愕の表情を見せる。男の足が徐々に石化していく。
「ざまあないね‥‥」
 狂乱した男は鬼の形相で麻に短刀を突き立てた。

 山王達が戻った時には、宿は地獄絵図だった。宿の者は二人が気を失い、一人が刀で斬られて殺されていた。中は乱闘のあとが生々しく、血だらけの夜神が廊下に、瀕死の麻が部屋の中に倒れていた。
「依頼人は‥‥?」
 窓の外に、首を失った名木の死体が落ちていた。


 幸いに夜神と楠木は一命を取りとめる。すぐにポーションを飲ませたのが良かった。
 襲撃者の死体は現場に無かったが、ただ一つ、短刀を握った石の腕が残されていた。ストーンで石像と化した男を仲間が運ぶ途中で欠けたのか。随分と慌てて逃げたものだ。
「依頼が無事に終わったら‥‥」
 名木の亡骸を見るうちに山王を空虚な気持ちが襲った。彼は依頼人に自首を薦めるつもりだったが、貴族の家宝を盗めば重罪は間違いない。ならば、結果は同じだったのか‥。
「だとしても」
 この結末は望んではいなかった。
 新撰組と検非違使の取調べを受けたあと、4人はギルドに報告に戻った。