●リプレイ本文
●認識差
「アンデットは夜しか出現しないそうですね?」
問題の村に向うあいだ、冒険者達は今回彼らが戦うズゥンビやスカルウォーリアーの事を話していた。エルフのウィザード、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)も、忍者の大隈えれーな(ea2929)と並んで歩きながらアンデットの話をしている。
「そーですよ」
自信を持って答える。と言って、大隈がモンスター知識に詳しい訳ではない。冒険者仲間から聞いた話だ。
「それなら、夜間戦闘ですね。私は、ズゥンビの足止め用にロープの罠を作ろうかと思っているんですが‥‥」
アクテはウィザードらしく体力が無いが、ロープやら保存食やら今回はいっぱい荷物を持ってきていた。それを全て自分で運ぶと一歩も動けなくなるので、馬を連れている仲間に荷物は運んで貰っていた。
言葉の途中で、アクテは少し考え込む表情になる。
「ズゥンビは、夜目が利くんでしょうか? もしそうだと、罠は意味がないかもしれません」
「んー‥‥さあ?」
えれーなは首を傾げた。想像も出来ない。
もしズゥンビが口を聞けるなら、腐った瞳に世界がどんな風に映るのか聞いてみたいものである。おそらくズゥンビというものは喋らないものだと、知らないなりに大隈は直感したが。
「分かりませんが、死体ですから、それほど出来が良いとは思えませんね」
アクテよりも沢山のロープを用意してきた志士の栗花落永萌(ea4200)は、聞かれてそう答えた。つまり怪物がどんな能力を持っているとしても、常識の範囲で考えようという事だ。面白みには欠けるが妥当ではある。
「心配は無用です。ズゥンビ達は私には相性の良い相手だ。この剣で退治して、村の人達に安息を取り戻してあげましょう」
ナイトのシアン・アズベルト(ea3438)は、ジャイアントソードの柄を叩いた。アンデットに有効なオーラ魔法の使い手であり、身長程もある大剣を振り回せるシアンはズゥンビ対策に自信がある。加えて、今回はクレリックこそ居ないものの魔法の使い手が多く、神聖騎士も三人いたから、アンデットが相手でも冒険者達にあまり不安はなかった。
「過信は‥‥禁物ですよ」
浪人の九門冬華(ea0254)は敢えて苦言を呈した。
「依頼が届いてから日にちが経っています。村が心配です‥‥急ぎましょう」
依頼には、冒険者が到着した頃には盗賊や怪物達が蹂躙した後だったという事も、時にはある。それこそ時の過ぎる事は止められないのだから、冒険者にはどうしようも無い事だ。
「おーい、一人でも行っても助けられないよー」
レンジャーのアシュレー・ウォルサム(ea0244)は道中、先へ行きがちな冬華をなだめた。
●村にて‥
「‥‥おかしいですね」
前方に目的地の村が見え始めた所でエルフの神聖騎士、エリス・ローエル(ea3468)は異変を感じとった。
「何だ?」
後ろを歩いていた同じく神聖騎士のジーン・グレイ(ea4844)が前にやってきて聞いた。
「昼過ぎだというのに、村に人の姿が見えません‥‥まるで誰もいないよう」
エリスはこのパーティの中では一番目がいい。言われてエルフのレンジャー、ニット・サルファード(ea0151)も目を細めた。確かに、畑にも街道にも人影は無い。
「私が先に見てきましょーか?」
えれーなが言う。だが声が震えている。彼女はアンデット退治は初めてだ。気丈に振舞っても緊張は隠しきれない。尤も、アンデット退治が初めてなのも駆け出しの冒険者なのも、この場の全員の共通項なのだが。
「でも村に敵がいたら?」
アシュレーはみんなに意見を求めた。
「ここは全員で行動した方がいい。騎士は前へ」
年長者としてジーンはまとめ、掛け声をかけた。荷物から剣や盾を取って、戦士達は前に並ぶ。クルスソードを掴んでジーンの横に立ったリュウガ・ダグラス(ea2578)は、そっと小声で聞いた。
「やられたと思うか?」
「分からんが、だがこれも再現神の試練。くぐり抜けて見せねばな」
言われてリュウガは目を見開く。
「当然だ! この蒼き龍人リュウガ・ダグラス、アンデット如きに遅れはとらん!」
蒼き龍人は今のところ自称。彼が勇名を馳せるようになれば、皆がそう呼ぶ事もあるかもしれない。
「そう願いたいものだよ」
冒険者達が村へ入ると、村の中は無人だった。最悪の事態が頭をよぎるが、エリスが手紙を見つける。それは村人達が彼らにあてたものだった。
「アンデットが村に近づいたので、隣村へ避難したと書いてあります」
冒険者達はホッと息をついた。手紙には隣村の位置も記されていて、冒険者達がアンデットを無事に退治出来たら知らせて欲しいと書かれていた。
「でも、それならアンデットはいま何処にいるのでしょうか? ギルドで聞いた話では、生物を見境いなく襲うという話でしたけど‥」
えれーなはアンデットも離散している可能性を危惧した。有り得る話だ。
「まだ日は高いです。今のうちに手分けしてアンデットを探しましょう」
冬華の言葉に、冒険者達は頷いた。まず予定通りに二手に分かれて北と南の墓地を捜索し、それで見つからなければ付近を捜索する事に決める。
「巧くやらないと‥‥村の方達も帰ってこれなくなります。これでも祖国に居た頃は剣姫と呼ばれた身‥‥必ず成功させます!」
気合いを入れる冬華。剣の何某とは、或いはそのように呼んだ人もいたのだろうが、今のところは自称である。
冒険を始めたばかりの若い彼女らにとって、全てはこれからなのだから。
●死者達の歓迎
「見つけた!」
南へ向った冬華、シアン、ニット、永萌、エリスの5名は早々に墓地でズゥンビを発見した。
彼らの誤算の一つはズゥンビ達が昼間であろうと平然と歩き回っていた事である。或いは眠らぬ死者に休みの時は無く、それが殊更に夜に活動していると思わしているのかもしれない。
「折角準備してきたのに罠は無理ですか。俺には昼間の方が好都合ではありますけど」
永萌はアンデットの姿を認めると、立ち止まって呪文の詠唱を始めた。彼はアイスチャクラを二回唱えた。円盤を二個作り、一つはニットに渡す為だが二回目の呪文は失敗した。今の永萌の呪文の成功率は約6割。続けて二回成功するのは難しい。
「九門さんは私の隣に」
シアンは己にオーラパワーをかける。次に九門にも同じくかけるつもりだったが、重装備の彼は呪文が遅い。
「‥‥来ます、スカルウォーリアーです!」
後衛のニットと永萌の為にホーリーライトを唱えていたエリスは、突撃してきたスカルウォーリアーを見て叫んだ。ズゥンビの足は重戦士並に遅いが、骨ばかりで軽いせいか骸骨はエリス達と同じくらいのスピードがあった。
冬華が前に出る。オーラ魔法を念じている途中のシアンは無防備だ。
「やっ」
繰り出した日本刀は骸骨戦士のかざした盾に弾かれた。冬華を獲物と定めた骸骨戦士は錆びた剣を振り、冬華を切り裂いた。
「ぐっ‥‥手強そうですね」
冬華は一旦、後退する。明らかに戦士としては骸骨の方が上。一人では無理だ。冬華の背中にシアンの手が触れる。オーラパワーは運良く成功した。先の打ち合わせ通り、今度は二人で攻める。
「サルファードさん!」
永萌が悲鳴をあげた。
その少し前にシアン達の援護の為にニットがアイスチャクラを骸骨戦士に投げていた。ニットの射撃の腕前は中々のもので、円盤は骸骨を切り裂いた。
「えっ?」
所が、戻ってきた円盤がニットにぶつかり、彼は倒れた。あと少しで重傷という洒落にならないダメージを負う。彼は短弓を持っていて、その為に円盤を受け止める動作が遅れたのだった。
後衛の乱れに追い撃ちをかけるように、遅れていたズゥンビ達が冒険者達に襲いかかった。
同じ頃、北の墓地に向ったリュウガ、えれーな、ジーン、アシュレー、アクテの5名の状況はもう少し深刻だった。えれーな達がズゥンビは昼間でも行動する事に気づいたのは、墓場でアンデット達に囲まれた後。最初、こちらのアンデットは動かず倒れていたので、冒険者達は気づかずに中に入ってきたのだった。
「どうする?」
「やるしか無い、結界を張るぞ!」
リュウガはホーリーフィールドを唱えた。ジーンも同じ術を使おうとするが、彼は呪文を使うには装備が重すぎた。昼間だからと油断があったのかもしれない。
「くっ」
舌打ちしたジーンは呪文を使うリュウガを守るためにアンデットの前に出る。呪文が使えるまで装備を捨てる時間は無かった。
「‥‥」
後衛のアクテは、頭の中でバーニングソードとフレイムエリベイションの2つの選択肢を考えていた。だがフレイムエリベイションは己にしか掛けられないので今使うべきかは微妙だ。救いはリュウガとジーンに先にバーニングソードをかけてあったこと。彼女もズゥンビは昼間だけと考えていたが、念の為にと墓に入る前に二人にだけはかけたのが功を奏した。だが6分しか持たない呪文だからいつ切れるか分からない。
「えれーな、こっちに来て。アシュレーは足止めをお願い」
アクテはえれーなにバーニングソードをかける事にした。アシュレーは弓使いなのでバーニングソードは矢一本ずつにかけねばならず効率が悪い。
「分かりました。やってみましょう」
アシュレーは短弓に矢をつがえて接近してきたスカルウォーリアーを撃った。しかし、アシュレーの矢は骸骨のアバラの下をすり抜けて地面に突き刺さった。
「‥‥あれ?」
すき間だらけの骸骨に、矢は効果的とは言えないようだ。
冒険者達は敵よりも有利な条件を沢山持っていた。だが経験の無さが災いしたのか、それを己で剥ぎ取るように失い、不利な状況に追い込まれた。
●戦いの果てに
「この光の中から外に出ないで下さい」
倒れたニットの体を掴んでエリスはホーリーライトの照らす光の中へ引き摺った。日中だから見分けは付き難いが宙に浮かぶ光球から3mの圏内にはズゥンビやスカルウォーリアーは確かに近づいてこなかった。
「慈愛神よ、我らをお守り下さい」
エリスはニットにリカバーをかける。
その間、永萌はズゥンビ達をチャクラムで撃った。ズゥンビ達は避けようとしないので射撃がそれほど得意でない永萌でも、面白いように当たる。
「ウォーッ!」
圧巻はシアン。彼と九門は一時はアンデット達に取り囲まれそうだった。
だが、シアンがジャイアントソードを振るとズゥンビの体は大きく傾き、連続で攻撃すれば二撃で倒れた。大きく振り被った時は一撃で倒れた。ズゥンビはタフな敵で、永萌は一体を集中して攻撃しても円盤を5回も当てなければいけなかったというのにだ。
(「これが騎士の戦い方、ですか‥‥」)
永萌だけでなく、彼と背中を合わせて戦う冬華もシアンの戦いぶりに驚いていた。シアンは骸骨戦士とズゥンビ2体を引き受けていた。当然、無傷という訳にはいかない。何度か攻撃は受けたはずだがかすり傷しか負っていない。鍛え上げた体と動きを犠牲にした重装はダテでは無いようだ。
(「それに引きかえ、私は‥‥剣姫の名が泣きますね」)
冬華は夢想流の剣閃を持ってズゥンビの足を切断しようとした。だが避けぬ敵が相手ですら、成功しなかった。つまり、彼女の腕がまだ技を十分に修めるに至っていないのだ。
「不死者よ。汝らに秩序ある終わりを与えん」
シアンはスカルウォーリアーを斬りつけた。大振りな攻撃は盾で受けられたので、今度は当てに行った。一撃で骸骨は大きくよろめいた、骸骨の反撃は盾で止めた。
「この地で、滅びなさい」
振り下ろされた大剣の前にアンデットの体は脆くも崩れ落ちる。同時に冬華も残っていたズゥンビ一体を切り倒した。この時の戦いぶりは後でちょっとした語り草になり、シアンは死人殺しと呼ばれた。
「北に向った人達が心配です。急ぎましょう」
冒険者達は倒れているアンデット達に止めを刺す寸暇も惜しんで大急ぎで北の墓場へ向う。
「あれ、効くじゃないですか?」
アシュレーは骸骨戦士に矢が効かなかったので已む無くズゥンビ達を撃った。
魔法の武器しか効かないと聞いていたから足止めぐらいのつもりだったが、何本か打ち込むと明らかに動きが鈍い。
「‥‥でも、もう矢がありませんね‥‥」
仕方なくダーツを投げたが、これはあまりダメージにならなかった。
「むぅ、手強い!」
スカルウォーリアーと対峙したリュウガは苦戦していた。先に張った結界は容易く破られ、剣士としては敵の方が上。一対一なら敗北したに違いない。
「覚悟です〜」
疾走の術をかけてスピードを増したえれーながリュウガと一緒に骸骨戦士と戦った。それでほぼ五分、三合ほども打ち合った時には互いに中傷という状況となった。
予定ではジーンも骸骨退治に加わるはずだったが、それは無理な相談だった。
「こいつは‥‥やばいか?」
ジーンは一人でズゥンビ達の相手をしていた。
「私達が奴らより先に神の下へ召されそうだ」
「‥‥持ちこたえて、下さい。‥‥きっと、もうすぐ‥‥」
ジーンを励ますアクテの状況は、彼よりも悪い。ズゥンビの爪を受けたのか、彼女のローブは血だらけだ。体力に劣るウィザード故に、本当に危ない。
状況的には撤退すべきなのだが、それでは動きの遅いジーンが囲まれて死ぬ。
「‥‥」
作戦の失敗だった。
「うっ」
「‥‥気がついたか?」
リュウガが目を覚ました時、そこは教会だった。
彼と仲間達はアンデットに破れ、瀕死の所を駆けつけたシアン達に救出されたのだ。
あと一歩遅れていれば、彼らの命は無かったろう。
「‥‥ア、アンデットは‥‥?」
「‥‥すまない。取り逃がした」
シアンらに余力が無かった訳ではないが、瀕死の彼らの救出を最優先した。エリスのリカバーでは回復できず、一刻一秒を争うつもりでキャメロットに帰ってきたのだ。
ベッドの上で、リュウガは大きく息を吐いた。
「‥‥そうか」
余談になるが、墓場にいたアンデット達はその後、村から離れたらしい。
今頃はどこかの荒野を彷徨っているのだろうか。