●リプレイ本文
春の陽気もぽかぽかと、すぐる風も心地好く、桜の頃を過ぎて季節は早くも夏を思わせる良いお天気。
ここに10人の美女美少女、京の都に揃い踏み。凶事続くなか人の心を温めようと発心し、美人画、天女の催しにその身を捧げた。
「まさか全員女性になるとは思わんかったなぁ。一人くらい色もんが紛れるかと思ったのに‥‥」
実行委員の将門雅(eb1645)は、ギルドから回された人員表に目を通して笑みを浮かべた。邪な気持ちは無く、彼女としては成功させなアカンなぁと闘志を燃やす。
「成功しますとも。皆さんキレイですもの‥‥目の保養になります」
同じくスタッフの山本佳澄(eb1528)が横から声をかけた。言い方次第ではいやらしく聞こえるが、佳澄は本心から言っているようだ。
「あんたも出場したら良かったのに」
「私はこちらの方が合っていますから」
彼女は審査員の一人だ。審査員が男性ばかりよりは格好がつく。取り様によっては意味深だが、そこまでは考えない事にする。
「将門様、少しお聞きしたいことがあります」
裏方担当に立候補してきた御神楽澄華(ea6526)が実行委員準備室に入ってくる。ちなみにここはスポンサーの貴族の邸内だ。
「何やろ?」
「はい。さっきそこで将門様が今回の催しの発起人だと聞いたものですから」
「‥‥ああ」
大平邸の使用人なら事情は知っていて当然だ。定惟にコンテストの話を持ち込んだのは誰あろう雅なのだ。
「どうして天女コンテストなのか、私には合点が行かないと思っていましたが、宜しければ理由を聞かせて頂ければと‥‥」
問われて雅は明後日の方を見た。正直に話して、皆が幸せにならない事だって在る。
「そんな大層なものやないって。うちはみんなが元気になったらええなぁと思っただけなんよ?」
人間、理由があれば幾らでも尤もらしい嘘が吐けるものらしい。
「そうですか。失礼しました、少し不埒な噂を耳にしたものですから‥‥人々を活気付ける為に明るい話題を、というのであれば協力は惜しみません」
裏方にしておくのが惜しい戦士なのだだが。
一方、コンテスト参加者達も集まってきていた。
大平邸には多くの腕に覚えのある絵師が呼ばれて、只今、美人画の制作におおわらわだ。
「やっぱり、子供を生んでいるから、ちょっと不利かしらね?」
華国出身の淋羅(eb0103)は溜息をつく。当年とって66歳‥‥失礼、エルフの羅は大人の色気を醸し出す美人画に書き上げられる。
「天仙娘々や九天玄女のような絵を書いて下さると嬉しいわ」
色々と注文が多かった。羅の隣では鷺宮吹雪(eb1530)が待機していた。さすがに一度に全員の絵を描くだけの絵師は居ないので順番待ちである。
「わたくし、天女の称号を獲りに行きます!」
吹雪は気合い十分、外見年齢最年長を押して挑む‥‥再び失礼、和服の似合う京美人である。しかし、余談だが冒険者ご用達の絵師が描く絵には美男美女が多い。これが偽り無き写実画なのかそれとも理想化何百パーセントかは公然の秘密である。
「お願いがございますの」
インドゥーラの力士、シャクティ・シッダールタ(ea5989)は美人画の前に実行委員会に頼みたい事があって将門を訪れていた。
「票の誤魔化しやったら聞かへんで。いくら身内やからって‥」
「そんなこと頼みませんわ」
意外に自信家だ、再三失礼‥‥シャクティは本選での自己アピールに注文をつけてきた。
「わたくしのアピールは寸劇。それも子供たちに夢と希望を与える物ですの!」
「ほうほう」
「えーと‥‥変身ヒロイン物です」
恥かしそうに語る。別に恥かしい話ではないのだが‥‥この時代に子供向け番組など無いし。
「活劇なのでわたくし一人では出来ません。役者数名と奏者を付けたいのですが‥‥勿論、費用はわたくし持ちですわ!」
多人数でのアピールはズルな気もするが、コンテスト規定にはそこまで書かれていない。将門は少し考えたが、吹雪からも笛の奏者を呼びたいと要望があり、面白そうなので認めることにした。
「良いですか、実行委員長様?」
「ええ、盛り上がるほうが人々の為になりますから許可できるでしょう」
定惟は口利きをして役者や奏者を集めてくれた。自腹になるが、参加者はアピールに使うことが出来る。
(「神と同様の姿を模すことにより、神への感謝を深めるなど、珍しい祭りです‥‥」)
ミスティ・フェールディン(ea9758)は若干イベントの主旨を誤解していた。口数が少なく、思った事を口にしないので誤解が解けないまま流れに乗るタイプだ。
「白絹を纏った聖母を描いてほしい‥‥」
所でミスティはこのコンテストの発端となった経緯(いきさつ)に関与しており、定惟とも面識があるが気がつかない。定惟の態度が以前と違うせいもあるが、無口が過ぎるのも考え物だ。
勘違いといえば、コンテストをよく知らずに参加する者達もいた。
「えと、これに出ると、ジャパンの綺麗な絵を描いてもらえるですか?」
アミ・ウォルタルティア(eb0503)は参加する事に別の意義を見出した。
「おまけに多くの人に見てもらえるですか? それはいい記念になります、ジャパンとても好きですから参加するですね♪」
どきどきわくわく。おのぼりさんなアミは参加できただけで幸せであった。
(「はぁ‥‥さ、流石に皆様、おきれいな方ばかりです‥‥ねぇ‥‥」)
お手伝い希望でぼんやりと辺りを見回していた水葉さくら(ea5480)はスタッフに捕まった。
「何してんの、早くしないと困るな。今日中に全員描き上げないといけないんだから」
「え? わ、私ですか? いえ、私はお手伝いでの参加――」
「いいから。服はそれでいいの?」
スタッフはさくらを椅子に座らせる。
「はい?服装?え、ええ‥‥このままですけど‥‥??」
この日のさくらは服装は巫女装束。黙って立っていれば参加者と間違えられても不思議ではない。
「次があなたの順番だから。希望があったら先に絵師に伝えてね」
「わ、私は‥その‥‥は、はぅぅ〜〜!?」
――美人画製作中(しばらくお待ち下さい)――
「この場にいるだけで、春の明るさが際立ちますわ。これだけでも十分に華やかですね」
焔衣咲夜(ea6161)は己の絵が仕上げられていく間、参加する女性達を微笑ましげに眺めていた。重ねて言う事になるが、10名の参加者が皆女性であったのは重畳である。
「きっと楽しい催しになりますわ」
●本選
ギルドからの参加者7名は全員、本選に残った。
美人揃い、とは別に理由もある。予定より一般参加者が少なかったのだ。これは将門には心当たりがあったが気付かない振りをした。
「何はともあれ、京の人々は好評やったしな。美人画を売ってくれいう注文がもうこんなに‥」
つい涎が出そうになるが、慌てて心に猫を被り直す雅。本番(本選)はこれからだ。
「ぇ‥‥?と、通っちゃったんですか? 私‥‥え、えっと、ど、ど、どうしましょう? わ、私、人前にでるのはあまり得意では‥‥」
本選は水葉さくらから。控え室で固まっていた彼女は、スタッフに押し出されるようにして舞台に上げられる。
てくてく‥‥こけっ、ゴッ。
舞台中央で派手にすっ転び、涙目で立ち上がるさくら。場内唖然。
「‥‥え、えっと‥‥」
さくら呆然。
「あ、あの‥‥み、水葉さくらと言います‥‥(ぺこ) えと‥‥以上‥‥です‥‥」
そそくさと、そして脱兎の如く退場する少女。
審査員席の反応は。
「‥‥今のは?」
「初々しいですね」
「きっと緊張していたんですねぇ。‥‥気を取り直して次、いきましょー」
二番、アミ・ウォルタルティア。
「‥‥え、私のアピールですか? 分かりました! 得意分野です」
アミは堂々と舞台に上がった。弓を手にしていたがそれは使わず、話を始める。
「ジャパンのさくらという物は、凄く綺麗だと思いました。ジャパンの人、親切な人が多いです。ジャパンの食べ物、美味しいです。ジャパンに来て本当によかったです☆」
彼女のアピールは自分でなく、ジャパンの事だった。最初は何の事か分からなかったが、住んでいる場所を褒められて悪い気はしない。最後に余興として弓の腕前を披露する。最後の三本射は惜しくも失敗したが、頭を下げて舞台を降りた。
「異国の人々にジャパンの事を知って頂くのは大切なことですね」
「日本が好きだという気持ちが伝わってきました」
「美人に国境無し、やな」
三番、ミスティ・フェールディン。
「イギリスのダンスをお見せします‥‥」
理想の聖母のイメージをして現れたミスティは西洋の踊りを見せた。本来なら伴奏をつける所だが、京都にはイギリス音楽の奏者が少なく、ミスティも強いて必要と思わなかった。
京の人々には馴染みの薄い西洋の踊りに観客席の一部から心無い野次が飛んだ。
優雅な踊りがピタリと止まる。
「まずっ‥‥」
予兆を感じとった将門は舞台に上がり、観客には見えないように隠してミスティの鳩尾に拳を叩き込む。
気を失ったミスティの身体を支えて舞台を降りる将門に再び観客呆然。
「以前にもお会いしましたが、あの方は何か持病を抱えているようですね」
「踊り、素敵でしたのに残念です」
「ぜいぜい‥‥次」
四番、鷺宮吹雪。
舞台に現れた吹雪は白地に紫の着物の上に、薄絹の羽衣を纏っていた。そして頭には花飾りの冠。
「では、参ります」
合図で、裏方の澄華が他のスタッフと協力して竹の先に取り付けた大きな駕籠を吹雪の頭上に持ち上げる。なお今回の小道具は全て澄華の作だ。
「お、重い‥‥」
観客の目が駕籠に注目している間に呪文を唱えた吹雪は手を頭上に翳す。
「はっ」
瞬間的な暴風が巻き起こり、駕籠に詰まった桜の花びらが花吹雪を作り出す。駕籠自体も頭上に舞い上げられ、澄華は弾かれた竹竿を握り直して落ちてくる駕籠を追いかけると観客席に落ちないように落下する駕籠を弾いた。
その間に舞台背後の奏者達が笛を吹き鳴らし、別の魔法を唱えていた吹雪の身体が宙に舞う。観客からは歓声が湧いた。
「大掛かりな演出ですね。驚きました」
「澄華さん、素敵です」
「無茶しますねえ。あ、資料によれば二児のお母さんらしいですよ」
五番、焔衣咲夜。
常の僧衣から緋袴姿の巫女に変身した咲夜は舞台で横笛と舞いを披露した。
「本当なら、達人の域に達していましたら、もっと様になったのですが‥‥まだまだ修行中の身です。大目に見てください」
苦笑した咲夜の芸は素人ではないが、目と耳の肥えた都の人々には珍しいものでもない。それでも他の参加者と比較するなら随一だと、見る目を持った人には分かったろう。
「派手さはありませんが‥‥立派なものですね」
「憧れますねぇ」
「大和撫子っちゅう感じやね」
六番、淋羅。
「天女のフリも楽じゃあないね」
巫女装束を借りた羅は御幣を打ち振るいながら神仏を語る祝詞を歌うように語った。仏教徒の知識だから拙さは否めず、かなり自己流のアレンジだが堂に入っていた。
「どおかしらぁん?」
彼女は母親の魅力を出そうとしたが、媚を売っているようにしか見えない。色香は断トツか、だが途中で限界になり、顔を真っ赤にして舞台を降りた。
「恥かしいったら‥‥」
舞台裏でぐっと精進を誓う。
「彼女は華国の巫女だそうですが、見事なものですね」
「胸がおっきくて、目の保養ですね」
「‥‥そっちの趣味?」
最後はシャクティ・シッダールタ。
シャクティが舞台に上がる前から奏者達が演奏を始めた。観客はおどろおどろしい音楽に、オヤ?と首をかしげる。
「ヒッヒッヒ!」
「ハッハハ!」
四隅から鬼の面をかぶった役者達が立ち現れて舞台に駆け上る。観客から悲鳴があがった。
「おーっと何事でしょう!? 突然、舞台に怪しい者達が現れましたよ‥‥」
司会進行役の雅が渡された台本を読む。
「これは‥‥都を襲う幽魔に違いありません」
山本も頑張って台詞を口にした。
「このままでは都が闇に閉ざされてしまいます‥‥こんな時こそ天女です、さあ子供達‥‥大きな声で天女を呼ぶのです!」
雅は台本を読み進む。結構辛い。
しかし、観客には子供の姿は少ない。ミスコンなのだから、見物人は殆ど大人だ。それでも段取り通りに進行させるのは司会の涙ぐましい努力である。
「高鳴る鼓動が悪を討ち、愛の光が闇を裂く!」
ようやく天女コスに身を包んだシャクティが花道に姿を見せた。悪役の役者達が大げさに驚いて見せてくれる。
「超光天女・マイトレイヤー! 華麗に参上!! ‥‥京を騒がす幽魔たち! 人々の希望は決して奪わせないわ!」
シャクティは金剛杵を片手に次々と幽魔を討ち取っていく。
「大丈夫です。心配はありませんから、どうか落ち着いて下さい」
華やかな舞台のその影で、御神楽たち裏方スタッフはパニックになった見物人達を鎮めるために奔走していた。
「‥‥いやはや、冒険者とは凄いものですね」
「怪我人が出なかったか一寸心配です」
「ぜいぜい」
これで全参加者のアピールが終了し、審査員達の間で協議が行われた。
「あなたの意中の人がおりましたら、その方は優勝させず、審査委員長特別賞にしましょう」
「ふむ、天女など誰でも良かろう。賽で決めたらどうか?」
「皆さん、綺麗でしたから迷いますね」
密室でどんな話し合いが行われたかは定かではない。
最終的に、天女の称号は鷺宮吹雪に贈られた。
「おめでとう」
「わたくしで良いのでしょうか? ‥‥子供達も喜んでくれると思います」
吹雪は顔を幸せそうに笑顔を見せた。
「上は15。下は9になります」
おわり