【京都救援】輸送隊
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2005年07月01日
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●オープニング
●摂政の頼み
「よく来たな。まあ、楽にするがいい」
場所は江戸城の一室。そこに現れ声をかけたのは、威風堂々とした偉丈夫であった。
その人物の名は源徳信康。摂政・源徳家康の嫡男にして江戸の留守を預かる侍である。
「ギルドから話を聞いているかもしれんが‥‥冒険者の手を借りたい。噂にあるとおり、今、京の都は大変なことになっている」
声を潜める信康が曰く、都の南より死人の群れが押し寄せており、朝廷も畿内の藩主たちも大わらわ、ということであった。
「親父殿も立場上、早くケリをつけたくてな。そこで、見つけた都への月道、それを使おうという腹づもりよ」
ここまで話して信康はにやりと笑みを浮かべると、改めて一同を見回した。
京の都と東国の江戸。早馬であれば3日の距離であっても、その速さでは何も運ぶことはできない。多くのものを運ぼうと望むのであれば船だが、さすればどんなに早くても数日。此度の動乱を考えるのならば、猶予はあまり、ない。
「月道は開いたばかりでどのような危険があるか分からぬ。安全のため、他のものは立ち入らせぬよう‥‥そういう名目で、他のものには使わせん。都の親父殿のためにも、な」
そうして信康は鼻を鳴らすと、次に鋭く、一言言い放つ。
「それと、このことは他言無用だ。越に甲府、それに奥州‥‥どこに鼠が潜んでいるとも限らんからな」
●人が動くところに商いあり
新しく発見された江戸城の月道を使って援軍を京都を送る計画は、侍や冒険者だけでなく、遠征軍の為の大量の物資輸送も兼ねている。
「摂政源徳様と京都守護職平織様、いやさ畏れ多くも亡者征伐の神皇軍の荷だ。万が一の事があっちゃいけません。手間賃は弾みますよ」
武器商人は運び手として冒険者を募集した。何しろ緘口令で下手な人足は使えないが源徳から話を聞いているギルドの冒険者なら問題が無い。それに冒険者達は片道だから帰りの船賃の心配をしなくて済んだ。
「いま都じゃ刀や弓、鎧具足が羽が生えたみたいに売れるって話です」
商人は都で売ろうと貴重品の類を随分と仕入れてきたらしい。
「相州正宗は無いかな。あれば都まで行かずとも俺が買ってやるぞ?」
「とんでもない。これから京都に行って売れば三倍の値だって買い手が居ますのに、何が悲しくて利を捨てるような真似を‥‥旦那様方にお売りできるのはこの辺りでございますかねぇ」
大薙刀、重藤弓、家内安全のお札、指輪、無骨な人形、霞小太刀、軽い胴丸、車菱、霞刀、スクロールが数巻‥‥などなど。
値段次第では売っても良いと商人は言うのだが。
「そうそう、あちらに着きましたら、少し付き合って頂きたい所がございまして」
どこかと問うと、源徳家康支配の新撰組の屯所だと言った。新撰組の幹部で清河という侍と商談の約束をしているのだが、自分1人ではたかが商人と侮られそうなので付いて来て欲しいと言った。
「お武家の方はすぐに刀を取り出しますから‥‥」
牽制の意味と、また江戸の冒険者の話でもして場を和ませて欲しいと商人は言った。
●リプレイ本文
新しく発見された江戸から京都への月道は保安上の理由などから利用が制限されている。
実際は、大和戦への人員と物資の輸送という軍事目的に利用されていた。
今回の依頼人は、その物資輸送の一役を担う武器商人である。
「‥‥はぁ?」
「ですから、死人対策にオーラパワーを使える時間を頂きたいのです。万が一に、月道を出てすぐに襲われた時のためには必要なことだと思いますが」
出発前に商人に交渉しているのは遠くイギリス出身の騎士ルーラス・エルミナス(ea0282)。正直オーラ魔法は得意な方では無いが、冒険の経験は豊富で牛鬼殺しとも調和の騎士とも異名を持つ手錬れだ。
「魔法を使うって‥‥月道の前でそんな事をしたら私の首が跳びますよ。いやいや、そんな心配はいいですから、大人しくしていて下さい」
「そうか‥‥」
月道施設はどの国でも最高の保安体制が敷かれているのが普通だ。行動は制限されるし、魔法の使用は厳禁である。また京都側の月道が亡者の手に落ちている可能性は、絶無では無いが、その時には京都自体が大変な状況だろうからオーラ魔法の有無は問題にならない。
「貴殿は心配性でござるな」
同行する侍の結城友矩(ea2046)は微笑した。
「いや、貶すつもりはない。幾重の戦場を勝ち抜いた勇者は、えてして臆病と言われるものでござる」
「私が勇者かどうかは分かりませんが、これから向う京都は死者に脅かされているとか‥‥何が起こるか分かりませんから」
ルーラスからは早く京都で戦いたいと願う気概が感じられた。
「そんなにいきり立つことはないわよ。どうせ月道塔を出るまでは私達はただの荷役なんだからぁ」
騎士の背後から浪人の渡部不知火(ea6130)が声をかける。ちなみに知らない人の為に言っておくと、女言葉で話すが不知火はむくつけき巨漢である。
「えー、渡部様‥‥」
「なぁに?」
信州屋は冷や汗を吹きつつ言った。
「その言葉使い、何とかなりませんか。申し上げ難い事ながら、周りから変な目で見られて‥‥」
「あら、そんなこと気にする必要ないわぁん」
くねくねと、女らしい仕草で言う不知火。信州屋はぶち切れそうだ。
「そうねぇ‥‥じゃ、先に商談の話しをするか?」
不知火は相州正宗か山城国金房を求めていた。そのためにやっと貯めた金を持ってきている。
「商売の話か?」
商談と聞いて、友矩やノルマン騎士のリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)、フランク戦士のミュール・マードリック(ea9285)も寄って来る。
「いやしかし荷物が‥」
「月道が開くにはまだ時間があります。荷は私が見ていましょう」
ルーラスが言う。
「そうだそうだ」
ルーラスを除いて、参加者達はコレが目当てだ。無理も無い。冒険者が良い得物を求めるのは自然なことだし、またそれを実際に手に出来る機会は極めて少ない。
(「まあ、この話もだいぶきな臭いけどな‥‥この面子の実践経験や手間賃が、護衛と輸送仕事とで割りに合うまい」)
不知火の脳裏を疑問がよぎったが、すぐに打ち消して値段を言う。
「相場の三倍というが、二百五十で手打ち‥ってのはどうだ?」
ぶるぶるっと信州屋は首を振った。
「ご冗談を言って貰っては困りますよ。普段でも二百は下らないのですよ、正宗は」
「そんなにするの?」
不知火は情け無い顔になった。
「まあ無理もありませんか。越後屋さんがおかしな商売を始めましたからねえ」
信州屋は溜息をつく。そもそも正宗や金房の業物はジャパン全体でもそう多くは無い。有力な武家や大名でも、持っていない者の方が多いのである。
不知火轟沈。
「拙者は霞刀と霞小太刀が欲しいのだが、持ち合わせはこれだけだ。足りるかな?」
不知火のやり取りに少々不安を感じつつ、友矩は所持金を見せた。
「足りねば、重藤弓も付けるがどうだ?」
友矩の所持金は72両と81文。
「残念でございますが、それでは全然足りませんなぁ‥‥」
「そうか」
友矩はがっくりと肩を落す。刀剣マニアとしてコレクションを増やしたいと思っていたのだが。それを不憫に思ったのか、信州屋は台帳をめくって答えた。
「小太刀の方だけでしたら、何とかならんことも無いですな」
「本当か? ではそれだけでも是非頼む」
相場よりは少し高いが、友矩は65両で霞小太刀を買った。市場に出回る事の少ない商品だから、それでも悪い買物では無い。
「私も人が良いですな。今の京都なら百両でも買い手がつきますのに、大事にしてくださいね」
「かたじけない。疎かには扱わぬ」
さて、友矩の次はリーゼ・ヴォルケイトスだが、信州屋と先の二人のやり取りを側で見ていた彼女はバツが悪そうに頭をかいた。
「主人、指輪とそこの黒い胴丸と人形、それに霞小太刀と霞刀を買うとしたら幾らだ?」
「毎度有難う御座います。えー、守護の指輪に影隠密の胴丸、身代わりの人形に霞の二本ですと、しめて‥‥四百三十になりますな」
「‥‥430」
リーゼはそっと己を懐を見た。金貨が二十数枚。
「高いな」
「え、そんな殺生な。手前としてはかなり勉強した金額のつもりですが‥‥お幾らほどなら?」
「それでは霞刀を除いた四品なら如何ほどだ?」
商人の口にした金額はまだ十倍以上の隔たりがあった。
そのあと暫く粘ったが、結論を先に言えばリーゼの所持金では一品も買えなかった。
「本当に越後屋さんがなぁ‥‥」
商人はまた溜息をつく。残るはフランク人のミュール・マードリックだけだが、信州屋は望み薄だろうと思っていた。
「これを売りたいのだがな」
ミュールが取り出したのは三枚の紙切れ。一瞥して信州屋は目つきを変えた。
月道チケットである。仮に江戸からキャメロットまでなら百両の月道利用料をこれ一枚と交換できる。だから一枚百両の価値がある、とはならないが貿易商人なら相応の値を付けると考えた。
「いくらなら売ってくださるので?」
「430だ」
ミュールは先刻リーゼが希望したのと同じ品物を買うつもりだった。さすがにチケット三枚が430両になるとは思っていないが、実は現金もかなり持参している。所謂福袋成金の1人だろうか。
「ふーむ」
信州屋は相手の顔を良く見た。チケットにはもう一つ意味がある。このチケットは武闘大会の優勝者に贈られるものだ。別の優勝者からわざわざ買ってそれを信州屋に売っても利益は無い。つまりミュールが凄腕の戦士であると三枚の紙切れが語っていた。
「ではこの三枚と五十両で、霞刀と守護の指輪をお買い上げということで」
交渉の結果、ミュールは霞刀と指輪を購入した。
「待て」
算盤を仕舞おうとした信州屋にミュールは声をかける。
「は?」
振り向く信州屋の目の前に、もう一度チケット3枚が並べられる。
「同じ条件でもらおうか」
「‥お断りします」
信州屋は不快な顔をした。
「何故だ?」
「恐れながら、貴方様は三枚分」
「俺の器量がチケット六枚に足りないと? ふん、商人にしては言うじゃないか」
キャメロット、ドレスタットでは武名を轟かせた強者も江戸ではまだまだか。最低限の目的は達成していたのでミュールは大人しく引き下がった。
「これからも世話になると思う。そのときはよろしく頼む」
彼にとって、チケットはまた溜まる。
月道の旅は一瞬で、転移した先の京都の町は不穏な空気を湛えていた。
今回の月道は軍事利用目的だから、彼らを迎えたのは源徳の武士達だ。荷物も源徳の役人が確認し、側では増援の兵士達が点呼を取っている。荷の受け渡しに信州屋が役人と話している間、冒険者達は足軽隊の近くで待たされた。
「京都は聞きしに勝る状況ですね」
ルーラスは気が引き締まる思いがした。
「‥私には彼らが神皇の為と言っているのは理解出来ないが‥‥無辜の民が泣いているなら、護るために動くのは力持つ者の責務」
足軽の列を見ながらリーゼが言う。その列に加わって、そのまま大和まで死人退治に向う事を考えた。
「逸る気持ちは分かるけど、まだ仕事は終わってないわよ。これから新撰組の屯所でしょ」
不知火がおねぇ言葉で語る。彼曰く、この口調は趣味で、直す気はさらさら無いらしい。ミュールが咳払いをして仲間達に聞いた。
「あー、ところで赤毛の異国騎士を探してるのだがご存知の方いるか? 背中にタトゥを入れ逃げ足のやたら速い、いい加減な性格の男なのだが」
冒険者達が雑談をしていると依頼人の荷の受け渡しも終り、休む間も無いがこれからすぐ新撰組に向う事になった。
「あなた達が江戸の冒険者ですか。私も、少し前まで江戸に居たのですよ」
清河八郎はやってきた信州屋と冒険者達を歓待した。
大和遠征を前にして、源徳家康配下の新撰組も大忙しの時期である。早速商談となったが、冒険者が同席する事に清河は気にしなかった。
「新しい弓と矢、それに馬を用意して頂きたいのだが」
「あら、新撰組は剣法集団だって聞いたけど?」
不知火が無邪気に聞くと、清河は横槍を気にする風もなく答えた。
「普段の我々の仕事は京の治安を守ることです。街中では弓矢を撃つ訳には行きませんが、戦場となれば話も別です」
「なるほど、しかし死人は生者より強靭で弓は利きにくいとも聞きますが」
言ったのはルーラス。ズゥンビなどを相手にする時は、小技よりも力任せの一撃で肉体を粉砕するのが良いと言われることがある。新撰組ほどの剣術集団なら弓よりも、一気に肉薄して斬り伏せるイメージがある。
「良く分かります。通常の敵ならば仰る通りと思いますが、今回は尋常ではありません。少数で敵陣に切り込めば、剣の達人といえど命を落す結果となるでしょう。神皇様をお守りする隊士の命、そのような事で捨てさせる訳には参りません」
一対一なら十人二十人でも連続して倒す達人も、乱戦では脆いものだ。
清河は冒険者の問いには率直に答え、信州屋との商談も殆ど言い値で決着した。値段的には普段の相場よりはやや上だが、今の京都の武器高騰を思えば妥当な値だった。
「時に清河殿、新撰組では新隊士は募集しておられぬのかな?」
友矩の質問には。
「私は自分の隊を持っていませんので、そうした事は現場の各組長に話して下さい。手が足りないのは事実ですから」
新撰組は十番隊まであり、それぞれの組長の判断で人員を入れる事がある。最終的には局長の芹沢鴨と近藤勇の了承が必要だが、友矩達ならば少なくとも実力に申し分は無い。
「私は源徳様もいらした正月の新年会の折りに、新撰組に入隊したいと話していました。異国の者でも、入隊することは出来るのでしょうか?」
「率直に申し上げて難しいですな。新撰組は摂政源徳家康様の配下、神皇様の都を守るための組織です。もし入隊されるなら、貴方には国を捨てて頂かなければなりません」
新撰組隊士は源徳武士に準ずる扱いを受ける。任務の重要性から言えば、ある意味、譜代の旗本にも勝るから忠誠と献身も同等以上を求められる。
「堅い話ばかりだと肩がこっちゃうわねぇ。もっと楽しい話しましょーよ!」
不知火が脳天気な声を出した。勝手に、鼠着ぐるみで市中徘徊したとか猫着ぐるみで猫団子になったとか明後日思考な異人さんを悪化させたとか、冒険者の恥部とも言える内容を楽しげに語った。
「皆さんのお蔭で楽しい一日でした。また機会があれば話を聞かせて下さい」
清河に送られて信州屋と冒険者は屯所を後にした。
おわり