冗談から駒 冒険者商売

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:12人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2006年01月23日

●オープニング

 発端はいつもの酒場の噂である。
「ギルドの義援金、大層な額が集っているそうだぜ」
「‥‥へぇ、俺達は今日のおまんまにも困る暮らしだってのに‥‥ある所にはあるもんだぜ」
 客達は口々に近頃の冒険者の活躍を話し始めた。最近の江戸では、羽振りが良いのは商人と冒険者だけと言っても過言ではない。復興事業に関する冒険者の慈善家ぶりも評判となり、噂に手足や羽が生えていた。
「冒険者は金持ちだ」
 という誤った冒険者観が一部に広がるのに時間はかからない。大商人が商人全体の極一部であるように、金持ちの冒険者も本当は一握りでしかないのだが。
「冒険者が金持ちなら、冒険者相手の商売をすれば、大儲けは間違いない」
 そう考える者がいたとしても別に不思議ではない。

 ここに一人の青年が登場する。

 若葉屋文吉と言えば、少しは江戸の兄さん達に知られた名前だった。
 古下着屋という偏狭的でかつ限りなく犯罪的な商売の先駆者として、そっちの業界では有名な男である。
 一時期は心に深い傷を受けて引退していたが、最近回復した。
「‥‥ふぅ」
 だが回復した当初、青年は毒気が抜けて若葉屋に戻る気を失くしていた。
 そして日々を平穏で無為に過ごしていた彼が目覚めたのはあの大火の晩。幸運にも大災害を生き延びた文吉は、眼前に広がる地獄の光景に再び心が揺さ振られるのを感じた。
 何かをしなくちゃいけない。しかし、その何かが掴めぬまま悶々とした日々が過ぎた。

「これからの商売は‥‥冒険者だな」
 文吉は新たな闘志を燃やしていた。
 冒険者になる、というのではない。技量も素質も持ち合わせていない事は本人が一番良く知っている。冒険者相手の商売を模索していた。
「という訳なんだが、俺は冒険者じゃないから冒険者が何を必要としているかなんて分からねえ。そこん所を教えて貰いてぇ」
「面白い事を考えますね」
 冒険者ギルドを訪れた文吉の話に、手代は感心した。が。
「冒険者が好きな物と言えば、やはり魔法の物品ですな。身を守る防具や妖怪を叩き切る名刀はいつも欲しい欲しいと」
「なるほどな。で、そいつは1両で幾つ仕入れられる?」
「人気の相州正宗が確か一振り二百両ほど」
「‥‥」
 お話にならない。肩を落す文吉に、手代は直接冒険者に話を聞くことを薦めた。
「そいつは道理だな」
「そうですよ」
 文吉は手代の口車に乗る事にした。とりたてて才能は無いが、やる気だけはある青年だ。

 さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6923 クリアラ・アルティメイア(30歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0964 リリン・リラ(19歳・♀・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb2001 クルディア・アジ・ダカーハ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

田原 右之助(ea6144)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ ギーヴ・リュース(eb0985)/ ケント・ローレル(eb3501

●リプレイ本文

 久方ぶりと云えるだろう。これだけ多くの冒険者が若葉屋の暖簾をくぐるのは。
 その感傷は誰のものか。
「狭い店だな」
 ジャイアントのクルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)とマグナ・アドミラル(ea4868)、それに人間ながら巨躯の鬼切七十郎(eb3773)が並んで入ると、それだけで店内は手狭になる。
「おっ、新年あけましておめでとさん。今年もよろしゅうのぅ」
 鬼切は奥に文吉と仲間達の姿を見とめて頭を下げた。
「うむ、もう話を始めておるのか」
 主だった者は揃っているのを見てマグナは様子を聞く。
「ちょうど良かったわ☆ 今、ちまさんの話を文吉さんにしていた処なの」
 パラのジュディス・ティラナ(ea4475)が言って、マグナ達の為に席を空けようとした。
「無理無理。どっか外行って話そうよ。これだけ人が居るんだからちゃんと役割分担も決めたいし」
 足を折り曲げて座っていたエルフのリリン・リラ(eb0964)は立ち上がろうとしてこけた。
「おっと」
 倒れてきたリリンを町医者の風御凪(ea3546)が受け止めた。
「確かにこの人数じゃ手狭ですね。俺はこれといったアドバイスとか無いから暮‥えっとヨントス・バジーナさんと留守番してますからどうぞ出かけてきて下さい」
 風御がパラの暮空銅鑼衛門(ea1467)と一緒に留守番し、他の皆は文吉を連れて近くの茶店に出かけた。
「‥‥退屈でおじゃるな」
 心情的には文吉達に付いていきたかったが我慢した暮空―偽名ヨントス・バジーナは溜息を吐く。
「まあ、文吉さんの気持ちは分からなくもありませんしね」
「左様。時代は救世主を求めているでおじゃる。まろは‥‥今度こそ役目を果たすでおじゃるよ」

「では、ちまの話を続けますね」
 騎士のルーラス・エルミナス(ea0282)は本場欧州の様な材料は手に入り難いこのジャパンでどうやって材料を入手するかという話をした。
「若葉屋には古着のネットワークがありますから、この古着からちまを作るのはどうかとも思うのですが‥」
 古褌を材料に作られる愛玩人形。如何なる魔境の産物かと思わなくも無い。
「人形職人探しも重要であるな。風御殿はちま作りのジャパン人形職人の存在を感じておったが、そこまでせずとも火事で職を失った手先の器用な者達を集めて作らせる事は可能であろう」
 職人についてはマグナが手配したいと言った。ルーラスとマグナはかなり乗り気で、当座の調達資金は出資すると文吉に言う。
「ちまってなんだ?」
 冒険者達が口々に説明したのだが、良く分かっていない文吉だった。
「海外から来られた方々の話によると、「ちま」とはちまこい人形の事のようです」
 動物学者のレヴィン・グリーン(eb0939)がそう説明しても、文吉は今ひとつ納得していない。いや小さな人形だというのは分かるのだが。
「人形遊びってのは、女の子の遊びじゃねえのか?」
 勿論、冒険者に女の子も居る。それは良い、だが冒険者商売を始めようという初っ端から客層をそんなに限定するのはどうかと文吉は思う。またそれを大人かつ男の彼らが口々に薦める心境が文吉には分からない。
「文吉殿、それは誤解である。ちま人形、売り出されたらわしも買う」
 60歳のマグナが言った。
「人形遊びはちまの一部に過ぎません。お守りや祈願用としても、ペットの絆を深める事にも、様々な冒険の日々を彩る品なんです」
 騎士のルーラスが力説するともっともらしく聞こえるから不思議だ。
「‥‥そうなのか」
「ま、要するに流行り物ですね」
 海外の一部の冒険者の間で人気があった。最近、海外から冒険者が来る事が多いのでジャパンでも流行るに違いない。今のうちに商売にすれば儲かる。という思考か。
「博打だな」
 だが若葉屋文吉は博打的な商売人でなかったか。
「それも一つの手段だとは思いますよー。成金冒険者の「強い執着」は侮れませんですー」
 と横から発言したのはエルフの宣教師クリアラ・アルティメイア(ea6923)。間延びした口調で彼女は続けた。
「そも冒険者とは他の人達よりいろいろと浮世離れした存在ですー。享楽的と言うんでしょうか、自分の興味を引く物には強い執着を見せるんですー。一生遊んで暮らせるお金を、魔法の武器一本に費やしたりしますからねぇ」
 口調はボケボケだがクレリックだけあって、尤もらしい事を言う。
「でも博打はー‥‥お薦めするのは多くの冒険者の「薄い執着」ですねー。徹底して手広く、何でも屋ですねー」
「なるほどな」
 文吉は思う所があったようだ。そんな文吉の姿を見てクリアラは微笑んだ。

「そこの姉さんの言葉に大筋で反論はねえ。ついでに言えば、新しい商売を始めるなら市場の原理がわからねぇといかんよな」
 それまで話を聞いてた七十郎は懐から短刀を取り出した。
「こいつを越後屋は1両で売る。俺達が持ち込んだ時は35文で買い取る。大体それがあの店の相場だ。分かるか? 買い取り価格を7で割って20を掛ければそいつが物の価値ってヤツだぜ」
 文吉が新しい商売を始めるなら、買取値は越後屋の上にして、その品物の価値によって80%から200%くらいで売ることで利益を上げる事を七十郎は説いた。
「俺も似たような事を言おうと思ってたんだが」
 クルディアは苦笑した。先に言い出さなかったのは文吉の古傷が関係している。クルディアは文吉に故買商を薦める気でいた。良くも悪くも、それが冒険者に必要とされる商売の一つだからだ。
「しかし、それでは町奉行所が黙ってはござるまい」
「うん‥‥楽なんだけどね、これ」
 馬廻りのテラー・アスモレス(eb3668)が言った。尤もだとクルディアは頷いた。
「しかし中古屋は目利きが出来ねぇとどうしようもない。小物で稼ぎながら、目を養うがいい。‥‥言うまでもないんだが、ブルジョワな冒険者に金だしてもらうんは、商売じゃないぜ」
 七十郎が言ったのにクルディアも膝を叩いた。
「商売で借りを作ると怖い」
「ああ」
 文吉は頷いた。
 少し難しい話が続いた後で、どんな商品が欲しいかという話題になった。茶を飲み、茶菓子を頬張りながら冒険者達は口々に答えた。
「子犬や子猫、珍しい動物の卵などは流行りでござるな。冒険者は酒場が好き故、仕入れが可能なら珍酒の類も売れるでござろう」
「分かりきった話だが。相州か人切り包丁が明日までに入荷するってなら250は前渡しでいいぜ」
「希少品、実用品では越後屋に勝てませんですねー。嗜好品が良いのでは?」
「そうねっ、ちまさんのお話をまとめてみんなに聞かせるのはどうかしらっ☆ 本にするとかっ、紙芝居にするとかっ、人形劇するとかねっ?」
 その間、エルフのファラ・ルシェイメア(ea4112)は話に加わらず、皆の茶を配ったり雑用を率先して引き受けている。
「僕の意見‥?」
 問われてファラは少し考えていた。
「そうですね、軽い小物‥‥アクセサリー類は人気あると思うけど。僕も、幾つか身につけているし」
 猫の根付や黒皮の首飾りを見せる。
「ジャパンにある宝石で作ったら、需要はあると思うけど‥‥」
「需要はあると思うが‥」
 既に確立された宝石商売に打って出るのは厳しい。ファラは魔物の出る鉱山を冒険者を使って抑える事や石の代わりに魔物の骨を使った飾り物を作り、仕入れは冒険者に頼る方法を話した。
「ふーむ」
 文吉は何か思う所があったようだ。

 話だけでなく、幾つかのアイデアは試して見る事になった。
 ルーラスが材料を仕入れ、針子はマグナが探してきて、ちま作りを始めた。
 様々な古布を縫い付けて小さな縫いぐるみの人形をこしらえる。
「どんどん作りましょ〜♪ ゆきだるまちまにぃ、干支動物ちまでしょ、節分には可愛い感じの鬼ちま人形、セット売りでちま十二支とか、七福神ちまも面白そう♪」
 売り子のリリンはウキウキして希望を出す。呼び込みにも熱が入った。
「可愛いものや新商品がめじろおし! 見るだけならタダだよ〜♪ よっといでよっといで!☆」
 リリンの声に、道行く人々は足を止める。
「なにを売ってるんだい?」
「ちま?」
 なんだ人形かと興味を失くして立ち去ろうとした人の目前で叫び声が上がる。
「な、なんじゃありゃぁぁぁああああああああーーーーーーーーーー!?」
 客に混じったテラーが人形を見て戦慄する。
「むぅ、あれは智馬人形(ちまにんぎょう)!」
 見物人が集ったのを見越して誰かが声を発した。
「なにぃ、知っているのか!?」

『智馬人形』
 由来に諸説あるが、華国拳法をその祖とする説が有力である。
 華国三国時代に活躍した武道家、柳 智馬(りゅう ちぃま)が敵を撹乱する為、自らに似せた人形を囮として使用したのが始まりだとか。
 なお、現在ちま人形を採り上げる記録係は柳(やなぎ)という名だが、これはちま人形の創始者の苗字から来ていることは言うまでもない
(ミンメイ書房刊・「元祖ちまはジャパン人?」より抜粋)

「なにぃ、そんな凄いものだったのかぁぁ」
「滅多に無い珍品だ! これを逃せば手に入らぬ!」
 無論、これは全てサクラ達によるヤラセである。
 初めて作ったもので出来は良いとは言えなかったが、ひとまず作った分は売れた。気を良くしたマグナは量産品の『ちま戦闘馬』『ちま驢馬』『ちま猫』『ちま柴犬』の製作を文吉に提案した。
「‥‥」
 文吉は首を捻った。
 冒険者商売というが、どう見ても小間物屋だ。冒険者も買いに来るだろうが、主要な客層は一般の女子供になる。
「当然だ。武器も日用品も玩具も、冒険者だけが買う商品など無いのだから問題は無かろう?」
「俺が人形好きならな」


●幕間 若葉屋そんぐ「翔べ!若葉屋」
「まぁっ、ヨントスさんって3人目のパパなのねっ☆
 ‥‥最初のパパはどうしたのっ?」
 ジュディスの問いにヨントスは黙して顔を伏せる。
「‥‥今のまろはヨントス・バジーナ、それ以上でも以下でもないでおじゃる」
 口調を変え、姿を変えて‥‥でもやる事は変わらないヨントス。
 若葉屋の敵を警戒しながら、今日もチンドン屋。

♪たちあがれ、たちあがれ、たち上がれ若葉屋 文吉走れ
 まだ儲けに燃える闘志があるなら巨大な金を出せよ、出せよ、出せよ
 我欲の怒りをぶつけろ若葉屋
 企業戦士若葉屋、若葉屋

(作詞・作曲:ヨントス・バジーナ 歌:若葉屋後援会)


●明日に続く
「最も儲かる商売は、魔法武器、貴重品の競り市ですが、資金が無い、そして江戸の人々を救える商売がしたい‥‥難しいですね」
 人形を眺めながら、ルーラスは自分の求める商売とは何だろうと考えた。騎士の自分に商売の答えが得られるかとも思ったが、剣だけが騎士の仕事とも割り切れない。
「剣と言えば、注文出したそうですね?」
 ルーラスは振り返って、量産品ちまのデザインを描いていたマグナを見る。
「うむ。‥‥実の話をすれば、わしらが一番欲しいのは」
 マグナは仕入れ用の金を文吉に渡していた。魔法刀は殆ど市場に出回らない。越後屋の福袋で稀に見られるのは奇跡のようなもので、既存の名刀は武家や貴族の家宝になっている場合が殆どだ。名人の新刀も熾烈な争奪戦が行われており、若葉屋が入り込む隙は微塵も無い。マグナに大金を渡された文吉は必死の覚悟で相州に向う様である。
「そうでしょうか? 私は皆さんとは少し意見が違います」
 レヴィンが言った。文吉にブルジョア冒険者の欲望を叶えさせるのも一つの手段ではあるが、それには落とし穴も付いて回る。
「私は、本を売るのはどうかと思ったんですが」
 文吉には今、冒険者の人脈がある。それは大したものではないが、彼が生の冒険者の声や経験談を集めて纏めて、それを冊子にして売ったらとレヴィンは考えていた。冒険者は情報に飢えている。
「それはそれで、才能が要る話だな」
「結局、何か一つは要りますよ」
 アイデアだけというのは長続きしない。本人の努力と才能は何であれ不可欠だ。刀探しも一つの試練だろう。ひとまずは、文吉が無事に帰ってくることを祈るしかないが。


おわり‥‥そして?