【五条の布令】 偽志士退治

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:14〜20lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 50 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月10日〜05月15日

リプレイ公開日:2006年06月02日

●オープニング

 平織虎長の死後、空位だった京都守護職に新たに五条の宮が迎えられた頃のことだ。
「親王様が斯様な俗務に就かれるは久しく無かった事ですな」
「左様。戦のような血生臭いことは武士どもに任せておけば良いのに」
「しかし、良い気味とも申せましょう。近頃は何かと武士が騒ぎ立てて、天下を騒乱させている」
「なるほど虎長殿は一廉の人物でしたが所詮は武士。五条の宮様は日の本の救世主となるに相応しい御方ですな」
 近年混迷するジャパンにおいて、神皇家の一族である若き新守護職を、希望の光と呼ぶ者も少なくはなかった。
 関東の騒乱、更に平織と源徳の急速な対立はジャパンに深刻な影を落している。治安の悪化が激しい京都の市民達には、藁をもすがる想いがある。
 当の五条も、その期待に応えるように新任早々に張り切り様を見せていた。
 神皇様主催の大饗遊宴の席では実質上の最高権力者である摂政家康の失政を痛烈に批判し、まだ新体制も整わぬうちから冒険者を登用して治安の諸問題に取り組むなど、非常な行動力を発揮していた。

「ふーん、そんな大層な人かい」
 冒険者ギルドで、馴染みの手代から新守護職様の話を聞いた冒険者は肩をすくめて見せた。
「この前来た時は名前も聞いた事が無かったがね、そんなに人気なのか?」
「まだ都の外じゃ知名度は低いでしょう。実はね、私達も親王様の名前を知ったのはつい最近‥‥」
 守護職就任前は無名に近い人だったようだ。しかし、ここのところ五条の宮からの依頼が多いので、ギルドでは目下一番の重要人物である。
「なるほどな。なんにせよ、仕事が増えるのは歓迎しない手は無いが」
「その通りです」
 といって、手代は先程京都守護職から届いた依頼書を冒険者に見せた。


「店主はご在宅か? 我等は志士である」
 墨染めの羽織を着た妙齢の女侍が数名の供を連れて左京に店を構える呉服屋赤川屋を訪れたのは約一月前。
「手前が主の清衛門でございます。何事でございましょう?」
 ちょうど店にいた主人が応対すると、女武士は生真面目な口調で身分素性を語り、そのままの話し方で店主に金を要求した。
「え?」
 思わず主人が聞き返すと、脇に控えていた武士達が目を剥く。
「何を驚くか? 我らは卑怯な手段で殺された平織様のご無念を晴らし、天下の平和を守る為に逆賊家康を討たねばならぬ」
「そうだ、天下の為だ。然るにその軍資金を、我らが集めて回っている」
 虎長の遺臣達が源徳討伐を考えている噂は主人も聞いていた。だが。
「‥‥そういう訳でな。店主、我らに金を工面してくれぬか?」
 女武士に念を押されて、赤川屋は彼らに金を渡した。
 軍資金調達は有り得ぬ所ではないが、白昼店先にやってきて金を要求するとは思えない。強盗である事はほぼ間違いないが、断れば金だけでは済まないだろう。
「‥‥良い心がけだ」

 事件を見廻組や新撰組に駆け込む選択もあったが、確実とは言えない上に賊が源徳討伐軍資金調達等と言っているだけに下手な対応をされると大変である。
 考えた末に赤川屋は用心棒を雇って対抗したのだが再び訪れた偽志士の前には効果が無かった。腕自慢の浪人達が頭から真っ二つにされ、腕を斬り落される姿を見せられて赤川屋は抵抗する気力を失う。
 絶望した赤川屋は強盗達の言いなりに金を払い続けたが、それにも限度がある。新守護職様の噂を聞き、思い余って訴え出たことで事件が露見した。

 手代の話を聞いて冒険者は首を傾げる。
「偽志士取締りは新撰組の領分じゃないか?」
「虎長様の一件以来、敷居が高くなってますからね」
 京都市民の微妙な心情は冒険者には測り難い。ともあれ、事件が守護職の目に止まり、解決の為に腕利きの冒険者に依頼が出された。
「赤川屋の主人の話では、偽志士達は数日後にはまた店を訪れるようです」
 用心棒を赤子のように扱った偽志士達の実力は相当なものだろう。市井にはまだ冒険者達の知らぬ達人が多いという事か。油断すれば熟練の冒険者も命は無いだろう。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クラリス・ローゼンハイム(ea0473)/ クライドル・アシュレーン(ea8209)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935

●リプレイ本文

「御免下さい」
 ミュール・マードリック(ea9285)が平織家家臣の某の屋敷を訪れたのは、5月10日の事である。フランク戦士の突然の来訪にも、京の武士はミュールの顔を見ると快く招き入れた。
「鈴鹿殿配下の其許がそれがしに会いに来るとは、何事でござろう?」
「実は‥‥」
 ミュールは傭兵ながら、縁があり腕を見込まれて黒虎部隊隊士の肩書きを持っている。ミュールは黒虎部隊の小隊長に、赤川屋を強請っている偽志士達の特徴を話した。
「ふむ。其許は彼奴らが『志士』かもしれぬと思うのだな?」
「金が目当てなら、用心棒が雇われた時で終りにするのでは無いか。騒動を起す事が目的なら、或いは近い存在の目もあるかもしれない」
 傭兵戦士の推察に志士は腕を組み、暫し黙考した。
「‥‥いや、知らぬ者達でござる」
 虎長の遺臣達が源徳討伐の勅を求めていると噂された頃の事であり、平織家に同情する者も少なくなかった事を思えば、根も葉も無いとは言い切れぬ所がある。
「誰か、近頃羽振りの良いお武家さんの噂を聞いた事は無いか?」
 赤川屋へ行く途中の茶店でマナウス・ドラッケン(ea0021)はこの依頼の裏を調べていた。偽志士達がどこぞで豪遊でもしていればただの匪賊と安堵も出来る。
「お客さん、仕官の口を探していなさるのかえ?」
 主人がそう尋ねるので、マナウスは曖昧な笑みを浮かべる。
「そう見えるかい」
 エルフのマナウスは布鎧に豪華なローブを羽織り、名のある戦士か貴族という趣きだ。
「気に触ったらお赦しを。近頃は京も物騒になりましたもので」
 安祥神皇の御世は災厄続きで、戦の匂いを嗅ぎ付けたかのように京都にもガラの悪い人々が増えて、活気はあるものの不穏な雰囲気が漂っている。戦士のマナウスにとっては慣れ親しんだ空気なのだが。
「いや俺も騒動を飯の種にする者。物騒な輩と同類には違いない」
 店主から偽志士達の風貌に合致するような者の噂を聞けなかったマナウスは他の仲間達と合流するために茶店を出た。
「俺は遅れて行った方がいいだろうな。先に裏口を覗いておくか」
 ジャパンでは西洋人であるマナウスの風貌は目立つので、偽志士達より先に赤川屋に入るのは拙い。仲間が裏の小間物屋の一室を借りていて、そこで落ち合う手筈だった。
「貴公か‥‥遅かったな」
 人目を憚ってマナウスが小間物屋に入ると、デュランダル・アウローラ(ea8820)と氷川玲(ea2988)が先に来ていた。
「やあ、すまない。周りの住民に気をつけろと言ってきた」
 既に人を斬っている偽志士達の捕縛は十中八九、斬り合いを想定せねばなるまい。マナウスは付近の住民にそれとなく注意を促していた。
「どんな反応だった?」
 外を監視していた氷川が振り向く。
「浪人殺しの一件で肝が縮んでいたのだろう。漸く捕り手が来たかと安堵していたよ」
 近所の者が役人に届けるのを報復を恐れた赤川屋が止めていたらしい。冒険者が来なくても危機的な状況だったかもしれない。
「数を頼んで、守るべき民にたかる。それがこの国の士だとでも言うのか?」
 デュランダルは憤慨を押し殺した口調で語る。職業戦士を育てる風土に乏しいジャパンでは偽志士が凄腕の剣士であるなら武士の可能性が高い。騎士であるデュランダルには許せぬ話だった。
「耳のいてぇ話だが‥‥そのために俺達がいる」
 氷川は少し前まで浪々の身だったが、今は新撰組一番隊に席がある。京都守護職の依頼という事でやや立場が微妙だった。
「そういえば、鷲尾は?」
「この家を借りた後、用があって少し出てるが直ぐに戻る」
 その頃、氷川と同じく一番隊の鷲尾天斗(ea2445)は新撰組の屯所に居た。
「‥‥もう一度言え」
 新撰組副局長、土方歳三が鷲尾の話を聞いた。
「偽志士捕縛の為に私と氷川君、若干名で赤川屋へ行きますのでその報告を」
「一番隊として行くんだな」
 土方の問いに、鷲尾は冷や汗をかいたが頷いた。
「その赤川屋は木端微塵で偽志士の首は平織の屋敷に投げ込めと、芹沢先生ならそう言うかもな。だが、それが新撰組だ。‥‥報告は聞いた。さっさと行って来い」
 鷲尾はこれが京都守護職からの依頼とは話さなかったが、土方は何か感じたようである。手配をして鷲尾が赤川屋の裏に戻った頃には、冒険者側の準備は出来ていた。

●赤川屋襲撃
 偽志士達が再び赤川屋を訪れたのは、それから二日後だった。
「来たぞ」
 予め店主から人相風体を聞いて店の外で見張っていた風霧健武(ea0403)が、彼らのやってきた事を告げて事情を知らぬ客を裏口から追い出した。
「な、赤川屋さん、これはどういう事ですか?」
「話は奥で教えるから今は従って頂戴。いいわね?」
 入れ替わりに店の中に入った佐上瑞紀(ea2001)が剣の柄を叩いて客を急がせる。何かあった時の為に、風霧、佐上の二人は客の振りをして店内に留まる。
「やっと来てくれたんですね。残念ですが、料理人はここまでですか」
 板前として潜入していた井伊貴政(ea8384)は包丁を仕舞うと、隠してあった日本刀を手に取った。鎧も用意していたが、さすがに着る時間は無さそうだと諦めて、井伊は裏の小間物屋に報せに走る。
「来たか。飛んで火に入る蛆虫どもが‥‥」
 小間物屋では鷲尾、氷川、デュランダル、ミュール、マナウスの5人が待機していた。鷲尾と氷川は表に回り、デュランダルとミュールは退路を断つ為に裏口を固める。マナウスは客として偽志士達の後から店に入る予定だ。

「いらっしゃいませ」
 裏方が慌しく動き始めた頃、店の方に現れた偽志士達に番頭に化けた壬生天矢(ea0841)が声をかける。
「貴様、見かけぬ顔だな」
「はい。先日まで江戸に出ておりましたものですから‥‥番頭の矢吉と申します」
 さて天矢は多少商屋の心得があり、赤川屋の法被を着ている。しかし、偽志士は一笑にふした。
「言うわ、どうせ新しい用心棒であろう。赤川屋も懲りぬのう」
 偽志士達にも己が強請の自覚はある。身の丈六尺を超える筋骨隆々の見知らぬ威丈夫が番頭だと名乗り出れば、疑ってくれと言っているようなものだ。
「滅相も無い。私はただの番頭で‥‥」
「戯言は良いわ!」
 問答無用で1人が切りかかってきた。避けずに演技を続けるか壬生は一瞬の逡巡の後、懐の十手で偽志士の刀を弾いていた。
「‥‥やはり、罠か。仲間がいるに違いない、気をつけろ」
 偽志士達は周囲を警戒する。
「清衛門を頼む」
 壬生は十手を構えたまま、店員達を逃すように前に出た。
「仕方ないわね。店の人はここから逃げろ」
 偽店員に扮していた南雲紫(eb2483)は鬘を捨てて短刀を抜いた。上手く行けば土蔵に誘き出す作戦だったが、露見したからには店員達を逃すのが先だ。しかし、このままでは敵の方が数が多い。客に化けていた佐上は仲間を突入させるため、後ろに跳びながら呼子笛を二度吹いた。
「天矢!」
 中の喧騒から事態を察したマナウスは笛の音とほぼ同時に店内に飛び込み、反物の山に隠してあった天矢の日本刀を掴みだして投げつける。床に転がった刀に壬生は手を伸ばした。

「新撰組‥‥ではないのか。貴公ら何者だ?」
 リーダー格の女武士は客の振りを捨てて西洋の短刀を構えた風霧の前に立った。答えても答えなくても斬られそうだ。
「我が名は健武‥‥見ての通りの者だ。女、仮にも志士云うのならば、名を名乗れ」
「野々村鞘香‥‥お相手致そう」
 鞘香が小太刀を抜こうとするのを、健武は手を挙げて止める。
「待て! その前に問う。女、貴様が真っ当な志士ならば、強請りは正しい行為なのか? ‥‥この凶行が正しいのか、と聞いている!」
 風霧も名うての冒険者だが、本業は忍。真っ向からてだれの武士を相手にするのは嬉しくなく、挑発して時間を稼ぎたかった。が、相手も素人ではない。後ずさる風霧に向って跳ぶように直進し、間合いを詰めた。
「ちぃっ」
 防御のアゾット短刀をすり抜けて、小太刀が風霧の首を狙う。
「健武っ!」
 仲間の危機に佐上はティールの剣を両手で振り被り、爆空波を放った。剣から発した爆裂する衝撃波が女武士と風霧、それにもう1人の偽志士を巻き込む。
「その技、貴様らただの用心棒では無いな‥‥」
「そこまでだ! 新撰組一番隊組長代理、鷲尾天斗。不埒者ども、神妙に縛につけ!」
 鷲尾と氷川が表から店内に突入した。京都の最強武闘派集団新撰組の登場に、偽志士達に緊張が走る。
「願っても無い。一番隊と言えば沖田の班、主君の仇を我らが果たそうぞ」
「こいつら、本気か‥‥?」
 こけおどしでなく、殺気を放つ偽志士達に氷川は疑念を持った。
「ほぅ、やるなら相手になるまでだ。役目により志士の名を語り市中を騒がす鼠賊を一匹残らず捕縛する!」
 両手に霊刀を構えた鷲尾は大見得を切り、店内に突撃した。店員に擬装した南雲と井伊によって清衛門以下店員は皆避難を完了した。
「新撰組だと?」
「だから罠だったのだ。ここは一度退こう」
 逃げる店員を追いかけた偽志士三人が表の喧騒に立ち止まる。
「どこへ行く気だ? 新撰組と黒虎部隊、両面を敵に回し、切り抜けられる自信があるのか」
 裏口を張っていたミュールとデュランダルが彼らの前に立ち塞がる。
「通しはしない。‥‥騎士の鎧は、己が身を盾にして守るべきものを守る覚悟の具現。志し無きお前達の剣では、決してこの盾を砕く事など出来はしない」
 全身を通常より分厚いアルティメットアーマー(板金鎧)で固めたデュランダルが退路を塞ぐ。
 さすがの偽志士達も気圧された。戦闘が目的でないから軽装の偽志士に対し、鷲尾と氷川、ミュールとデュランダルの四人は戦装束に身を固めている。数の上でも有利は無くなった。
「狗風情が‥‥居丈高に講釈などおこがましいわ。何が楯よ」
 偽志士は踵を返して表に戻ろうとした。フルプレートのデュランダルを相手に刀1本で立ち合うのは自殺行為だ。
「俺が追う。お前はここを頼む」
「‥‥分かった」
 ミュールの言葉にデュランダルは従った。無敵の鎧は彼の行動力も奪っているので室内の乱戦は好ましくないし、物干し竿を振るうのも不便だ。

 表では壬生と佐上が偽志士を1人ずつ倒していた。だが風霧と、店員を逃した際に南雲がやられて戦況は五分と言って良かった。
「裏口は駄目だ。白い髪の化物みたいのが陣取ってやがる」
「なら表から行くしかあるまい。野々村殿!」
 挟み撃ちにされ、増援も呼ばれる危険が出てきて偽志士達は撤退に傾いた。負傷した仲間に手を貸して入口側の鷲尾、氷川に突撃する。
「おっと油断しましたね」
 それまで自分の身を守るばかりで消極的だった井伊が後ろから飛び出して偽志士の1人の刀を叩き折った。気合いの一撃は相手の肩から胸まで達し、絶命せしめる。仲間の死に偽志士達は逆上した。
「あっ」
 刀が死体から抜けず、慌てた井伊は刀を放して飛び退った。
「追い詰めたとは言え強敵だ。囲んで仕留めるんだ」
 マナウスは味方に声をかけながら、縄ひょうを投げて井伊を追う敵の背中を狙った。恐るべきは彼の一撃を偽志士が打ち払った事だ。並の相手では無い。
「そこを退け、新撰組」
 女武士が退路を切り開こうと鷲尾と氷川に迫る。
「‥‥貴公ら、源徳公を討つと申しているらしいな。藩名と主君の名を言って見ろ」
 鷲尾は油断なく二刀を構えて牽制しつつ、死線を越えた相棒に目で合図する。女武士の攻撃に合わせて二人で挟撃を狙う。
「ならば死ね」
 女武士は正面の鷲尾に向けて動いた。
「させるか! 合わせろ、へますんじゃねえぞ!」
 氷川は女に軍配を投げつけた。完全な同時は出来なかったが女が鷲尾に攻撃している間に懐に飛び込める。そうなれば如何な達人といえど彼の敵ではない。
 ごんっ
 姿勢を低くした氷川の頭に硬い物が当る。まるいソレは胴から切り離された彼の相棒の頭だった。
「馬鹿野郎‥‥」
 迫る女武士に対して鷲尾流二天『因果断鎖』を狙った天斗は、見えない斬撃を食らって即死した。首領に続いて数名が囲みを破って店の外に出る。遠巻きに見守っていた野次馬から悲鳴が上がった。
「くそっ」
 天斗の首が店の外に転がりかけるので、氷川は野次馬の目に触れる前に首を掴み、自分のたすきでくるんで隠した。冒険者達は表に出たが、野次馬の混乱に乗じる形で偽志士達は逃走した。

 そのあと鷲尾の指示で待機していた新撰組隊士がやってきて残った偽志士達を捕縛した。
「我らが駆けつけたおかげで、店の者に被害が出なくて良かった。この後は我らが守り、偽志士どもも手傷を負っておれば、もはや赤川屋が狙われる事もあるまいと存ずる。ご安堵くだされ」
「あ、あ、ありがとうございます」
 新撰組は赤川屋にそう云って、さらに隊士の首が飛んだ事などは他言無用と言い含めた。この事が喧伝される事で京都守護職と揉める事を嫌ったようである。冒険者達の傷は赤川屋が金を出して治療し、幸い首も無事だったので鷲尾も蘇生された。