シンプルケース4 狐狩り

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月18日〜07月23日

リプレイ公開日:2004年07月22日

●オープニング

 貴族の娯楽といえば、代表的なものは狩猟だ。
 庶民達はもっぱら、なりわいとして狩猟を行うが、貴族はゲームとして狩りを楽しむ。その分、貴族の狩りは時に大掛かりでイベント然とした。
 今回、冒険者ギルドに寄せられた依頼がまさにそれだった。
 キャメロット近郊の貴族が催す狩猟会への招待。
「‥‥招待? 解せんな、依頼じゃあないのか?」
「冒険者の腕前を見せて欲しいというのだよ。もっとも、手間賃は出ないがね」
 ギルドの係員の言葉に、期待して話を聞いていた冒険者は顔をしかめた。
「ハッ! 貴族様の道楽に、誰がタダ働きで付き合うかよ」
 その声が大きいので係員は咳払いした。冒険者の中には武者修行する貴族の子息も居れば騎士も多い。
「賞品や賞金は立派なもんだぞ」
 その狩猟会で最も優秀な者にはヘビーボウが贈られる。弓手には垂涎の代物だが、それに見合う力量がなければ高嶺の花だ。また今回は冒険者を招待するというので、冒険者用の特別賞も用意されているという。
「ふーん、で何を獲る?」
「狐だ」
 狐狩りは貴族の領地内の森で行われる。
 聞いた所では達人級の参加者はいないようだ。上手くすればヘビーボウを手にする事も夢ではない。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea0261 ラグファス・レフォード(33歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0435 ティル・レギン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea1115 ラスター・トゥーゲント(23歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2194 アリシア・シャーウッド(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3143 ヴォルフガング・リヒトホーフェン(37歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea4188 レイヴン・ランカスター(44歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●それぞれの事情
「高すぎぬか?」
 騎士のレイヴン・ランカスター(ea4188)は、英国騎士の誇りにかけて狩猟会に臨んだ。
 まず彼がした事は、狐狩りに不可欠な優秀な猟犬を借りること。しかし、彼が提示した値と犬の飼い主の言い値には10倍近い差があった。
「高くはありません。一つお聞きしますが、騎士様のその弓の矢は幾らでしたかね?」
「20だが」
「騎士様には私の育てた犬達の働きが、矢1、2本と変わらないと言う事ですな。とてもお貸しする気にはなりません」
 騎士は知らないが、先にもう一人の冒険者が同じような値で犬を借りようとして、飼い主は随分とヘソを曲げていた。手塩に育てた猟犬はそれだけ高価な物だし、狐の反撃で死ぬ事もある訳だからはした金では貸せないのも道理だ。
「ま、待ってくれぬか。我が輩には犬が必要なのだ」
 バタンっ。
 閉められた扉に呆然と立ち尽くしたレイヴンは、険しい表情で踵を返した。
「些かハンデを背負ったな‥‥」

「生活費も寂しくなってきたし、ここらで稼がないとな」
 ヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)は狩場の下見に来ていた。生活が掛かっている彼は準備にも余念が無い。アウェーの不利を埋めようと金を使って猟師からも情報を聞いていた。
「何事も段取り八分、勝負はもう始まってるんだ」
 地形を覚えようと森を歩いていると前方から誰か近づいてくるのが分かった。
 立ち止まって待つと、騎馬の集団だった。
「その方は、冒険者か?」
 貴族と思しき男が騎上から声をかける。
「ご明察、怪しい者ではありません」
 帽子を取って、挨拶をする。身なりからして貴族は狩猟会の主催者か関係者と見えた。
「そうかな。では明日の会に出る者か‥‥どれ程の腕前、楽しみにしているぞ」
 口調に少し棘を感じたが、ヴォルフガングは気にせずに別れた。
「稼がせて貰えるなら、何でもいいしな」

 狩猟会当日。
 冒険者達はスタート地点である広場に集まった。他の参加者もいたが、招待選手である冒険者達は同じ場所に集められた。
「‥ああ、獲物狩りが出来るやなんて、うちは幸せや〜!」
 パラのミケイト・ニシーネ(ea0508)は始まる前から興奮していた。
「何や、貴族の行事みたいやけど、この際何でもええわ〜、なぁ、そう思うやろ?」
 振られて、カルナック・イクス(ea0144)は周りを見回した。
「そうだね。こうやって、いろんな人と腕を競えるなんて滅多にあることじゃないし、おまけに優秀な冒険者にはロングボウが貰えるんだからな‥」
「せやろ。ここは気張って、一位は無理でも敢闘賞くらいは貰えたらええわなぁ〜」
 目を輝かせるミケイト。
 そう、この依頼は無報酬。勝てば賞品が手に入るが、負ければタダ働き。カルナックも特別賞の長弓を狙ってはいたが、欲が無いのか然程執着は見せなかった。

「狩りの時間、か‥?」
 静かに得物の具合を確かめるエルフのツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は、周りの浮かれ騒ぎが理解出来ないでいた。思う所はあったが招待客の分と口には出さない(もし口に出していればレイヴンが滔々と彼に狐狩りの正当性を語ったに違いないが)。代わりに勝利を願ったのはこの男の矜持だろう。
「オッス! オイラ、ラスターってんだ、よろしくな!」
 ラスター・トゥーゲント(ea1115)は狩猟会で最年少の参加だ。少年は会った人に自己紹介をして回った。トレジャーハンターになり、稼いだ金で故郷の修道院を大きくするのが夢だとか。
「元気ねぇ。でも‥‥犬には勝てないよね」
 アリシア・シャーウッド(ea2194)は会の参加者の内、猟犬を連れている貴族達をマークしていた。確かに個人競技にチーム参加されるようなものではある。
「犬かぁ、よ〜し! 今日はメいっぱい頑張るぞ!」
 ラスターはプラス思考だ。その天真爛漫さは彼の長所だろう。
「それにしても色々な参加者がいるわね」
 アリシアが興味を示したのはヴィグ・カノス(ea0294)。
「‥‥」
 カノスは弓を持ってこなかった。彼の得物はスピア。投げ槍で参加したのは彼一人、そこそこに注目を集めたが本人は視線を受け流して超然としている。
(「あながち悪手とも思えないのよね。ダークホースかも‥」)
 所で、参加者の注目を浴びたという事では、ダントツの冒険者がいる。
 ティル・レギン(ea0435)は、狩猟会にかつて誰も使ったことの無い武器を持参した。
 クレイモア。2mの大剣を背負って現れた彼女に、会場はどよめいた。
「武器の選択は‥‥自由だって聞いたけど?」
 ティルは他の参加者達の好奇と失笑を一顧だにしない。
(「‥‥スゴイけど、あの人はノーマークで良さそうね」)
 アリシアは参加者達を観察して或る事に気づき、首を傾げた。

「9人しか居らんだと?」
「報告ではギルドからの参加者は10名という事でしたが‥‥」
 冒険者ギルドには招待選手として10名の枠を伝え、全て埋まったと連絡が来ていた。だが当日は9名しか姿が無い。
「ふん、おおかた日を間違えたのであろう。捨て置けば良い」
 若干の欠席者は出たが、狩猟会は予定通りの時刻にスタートする。

●狐狩り
 参加者達は分かれて森に入る。
 アリシアは猟犬を連れた貴族達とは反対側を選んだ。
「さて、獲物はドコかな‥」
 視線を下げて狐の足跡を探す。

 狐狩りは――、当然だが狐を探す事から始まる。向こうは人間など食べないので、余程の事が無ければ近づいては来ない。弓の腕だけが良くても狩猟の基本が分かっていなければ森の中で立往生するだけだろう。人食いの怪物退治とは大きく違う。

「待たんかい、ボンクラ狐! それはうちのや!」
 ミケイトは必死の形相で狐を追いかけていた。
 彼女は少し前に一匹の見事な毛並みの狐を発見。気づかれないよう忍び足で近づき、よく狙いをつけて矢を放った。見事に命中、そこまでは良かったのだが‥‥。彼女の腕では一撃で狐を仕留めるのは難しい。逃げ出す狐に向けて。
「逃さへんでぇ」
 間髪いれず次弾を浴びせようとして‥‥手が止まる。
 ミケイトは矢を一本しか持って来ていなかった。
「うちの矢、返せぇぇぇっ」
 かくて狐を追いかけてミケイトは森を爆走。だが人間が狐に追いつく筈も無く、彼女は木の根に躓いてぶっ倒れ、動かなくなった。
「はぁ、はぁ‥‥もう走れん。うち体力無いなぁ。もうちっと鍛えんと駄目やね」

(「狐〜、何処にいるんだ〜。お〜い」)
 ラスターは森をひたすら歩いた。狩猟のポイントを少年は知らなかったから、ともかく己の五感を信じる他はない。
 ガサっ。
 不意に狐の影が走り抜けた。少年は無我夢中で矢を放つ。
 命中!
 若くとも射撃の腕前は大人顔負けだ。
(「やったー!」)
 喜んで近づく。音がした場所にはまさしく一匹の狐が倒れていた。掴みあげて、ラスターは矢が二本刺さっているのに気づいた。彼が撃ったのは一本だけだ。
「その狐は我が輩が仕留めたものだ」
 馬に乗ったレイヴンが走り寄ってきた。
「あっ」
 レイヴンは今回の冒険者で唯一、ロングボウを持っている。射程はラスターの短弓の約3倍、殆ど同時に撃ったが気づかなかった。レイヴンの方も同じで狐を見てから事情を理解した。
「‥いや思い違いであった。貴殿の弓が早かったように思う。その狐は貴殿が獲られたものだ」
 そこまで見えた訳はない。ロングボウの使い手は視力も要求されるが、その点ではレイヴンはまだ長弓の威力に頼っているに過ぎない。言わせたのは騎士のプライドか。
「見事な腕だ」
 褒められ、当惑ぎみだったラスターの顔が満面の笑みに変わる。
 所で、騎馬で参加したレイヴンは見得を張る程に成績が良かった訳ではない。馬は追跡には有利だが、それも犬あってのこと。近づく前に狐に避けられるので、単騎では苦しい狩りになる。

『何をしてる?』
「うわっ」
 ツウィクセルは背後からヴィグに声をかけられ、グッと体を振るわせた。
「驚かないでくれ。落し物を拾っているだけだが、それがどうした?」
 ゲルマン語と気づいて、ヴィグもゲルマン語を話す。
「それは済まなかった。所でそこにあるのは俺のスピアなんだが」
 地面に一本の短槍が刺さっていた。
「俺が盗るとでも? そこまではせんよ」
 肩をすくめ、立ち上がるツウィクセル。
「外した矢は他人のでも拾うけどな。こっちは貧乏冒険者だ、それぐらいはな‥」
 ツウィクセルは矢を沢山持ってきた。かなり消費したが、終了時には何故か増えていた。それを参加者に売って小遣いを稼いだようだ。
「‥‥」
 ヴィグは短槍を引き抜く。
「当たらないものだな」
 彼の投擲の腕前は参加者中でも屈指。普通に投げればまず外さない。だが、一撃で仕留める為には急所を撃ち抜かなくてはならない。その技術を彼は持っていた。

 茂みから放たれた二本の矢が狙い違わず狐を撃ち抜く。
(「これで3匹、今日の俺はいい運の中にいるな」)
 現れたヴォルフガングは、動けない狐に短刀で留めを刺した。
 狩猟とはその場の運が結果に大きく作用する。例えば、トリッキーな冒険者の参加で常連達が調子を落とすというような事だ。
(「この調子なら、いい所まで行くかな‥‥」)
 格別に他者より腕が勝っていた訳ではないがヴォルフガングは確実にスコアを重ねた。

(「どうして、ここに‥‥?」)
 疑問は湧いたが、アリシアは雑念を払って集中した。ゆっくりと、焦らずに矢を放つ。
「迷惑だった?」
 問われたティルは、腕を負傷していた。
「‥‥いいえ。ありがとうを言うわ。助けて貰ったから」
 彼女は狐と戦い、敗れた。
 この少し前、アリシアが発見して潜んでいた狐の巣穴にティルは現れた。その直後に狐が出てきてティルは狐と戦った。クレイモアが当たれば一発で勝負はつく。だが攻撃は狐の方が速かった。
 アリシアが横から手を出さなければ、ティルはそのまま何度も噛まれ、重い傷を負ったかもしれない。両手で大剣を振るティルは一対一では後手を踏む事も多い。それでも勝つ為には、精進が必要だ。
「‥‥」
 アリシアと別れたティルは再び戦う相手を探した。終了間際にもう一度、狐を見つける。
「残念」
 他の参加者の矢を受けて重傷の狐を見て、ティルはクレイモアを下ろした。彼女の目的は修行だった。手負いに止めを刺すだけでは意味がない。狐はしばらく警戒したが、サッと身を翻して茂みの中に消えた。

 そして、狩猟会は無事に終了。

「惜しかったね」
「‥‥なに、俺はこういうのには向いていなかったのさ」
 カルナックは一匹の差で冒険者賞を逃した。取ったのはアリシア。彼女は狐の巣穴を潰し、子狐で若干スコアを増やしていた。カルナックは獲物を選り好みしたから、この勝敗は仕方がない。
 ヴィグとツウィクセル、レイヴンはそれぞれ惜しかった。
「うわは〜! 今日は無茶苦茶楽しかったぞ!」
 ラスターは記録は一匹。だが、楽しんだようだ。
 ミケイトとティルは0匹に終わった。
「‥‥後が恐いな」
 ヴォルフガングはヘビーボウを手に入れた。
「期待通りだった。イギリスには優秀な冒険者達がいる」
 主催者の貴族は彼らの健闘を称えた。
「是非また来て欲しい」