村と宣教師と冒険者と

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月02日〜03月07日

リプレイ公開日:2007年04月09日

●オープニング

 神聖暦一千ニ年ニ月。
 ジャパン、京都。

「どこの坊主も言う事は変わらんな」
 庭先で懇意とするギルドの冒険者と話しながら、京都の貴族はそんな言葉を口にした。
「何です?」
「先日、ジーザス教の宣教師が訪ねてきたのじゃ。罪深いから悔い改めよとな」
 ジャパンは混迷の時代。武家は源平藤の派閥に分かれて対立し、今上に反旗を翻した元京都守護職のやんごとなき方は西国で現帝の廃位と遷都を宣言した。今後の展開によれば最悪国が割れる事態となるかもしれない。
 皮肉な事におかげで冒険者稼業も繁盛していた。直接冒険者を雇っている訳では無いがそれを管理している冒険者ギルドは下手な大名よりも大きな力を持っている。
 まさに末法末世の有様、民の救済を訴える寺院の発言も日増しに強くなり、近頃は都でも異国の宣教師達の姿がよく見られるようになった。
「彼奴ら、毎日来るのだ。煩くて敵わぬ。おぬし達の仲間にも坊主はいたが、ことほど左様にしつこくは無かったわ」
 貴族の愚痴に、冒険者は苦笑いを浮かべる。冒険者にも僧侶やクレリックは居るし、信仰心に篤い者も多いが、仕事と布教活動は区別している。貴族の話では、最近異教の宣教師達が布教目的でジャパンを訪れるケースが増えているらしい。
「ギルドが関係しているのではないか?」
「まさか」
「冒険者どもは偵察と下準備の尖兵で、頃合を計って宣教師を送り込んできたのでは無いか?」
「それはさすがに、ご想像が過ぎるかと」
 貴族の妄想に、呆れたように冒険者は言う。
「ふん、今日もジーザス会の宣教師どもが来る。おぬし、追い払ってくれぬか。勿論、礼はするぞ」


 遡って、昨年末のこと。
 京都南部のある村に宣教師がやってきて、ジーザス教の布教を行った。
 宣教師の熱心な活動で村人の殆どが信者となり、宣教師と村人達は村を治める領主に教会の設立を願い出たが、領主は異国人嫌いで、申請は却下される。
 所が、直後にその領主が突然病死した。領主の息子は邪教の宣教師と村人達が父親を呪詛したに違いないと、12人の村人を捕まえる。宣教師は村人達の手で逃され、そして京都の冒険者ギルドを訪れた。

「お願いでございます。無実の村人を助けてください」
 宣教師はジャンニ・サールと名乗った。20代の若いクレリックで、イスパニアに本拠を持つ修道組織ジーザス会の宣教師である。
「助けると言っても、簡単な事ではありませんな」
 相手は何と言っても領主だ。武装した冒険者の数十人でも送って領主の屋敷を強襲すれば良い、という訳にもいかない。いや大義があればそれも出来なくは無いのだが、だったら最初からギルドには来ない。
「捕まった人達を力づくで奪い返せば、もっと酷い事になるでしょうし」
「‥‥」
 ともあれ、見過ごすのも後味が悪いと手代は依頼を預かり、冒険者を集めた。

 それから一週間後の現在。
 ジャンニと冒険者達は領主の息子を説得したが破談に終わり、息子を脅して囚われていた村人達を連れ去ってしまった。激怒した領主の息子は村を襲い、止めに入った村の長老を切り捨てる。
 進退窮まったジャンニと村人達、そして冒険者は村に篭城して抗戦の構えだ。
「卑怯にも我が父を暗殺し、反乱を起した賊徒どもが村を占領して立て篭もった。逆賊の中には雇われ者の冒険者の姿も見える。なれば、我が方も冒険者を雇って対応するしかあるまい」
 領主の息子、赤井為治は壮年の荒武者で、ジャンニ達が父親の為直を殺したと信じていた。小領主である彼の兵は少なく、とてもではないが団結した数十人の村人と宣教師、それに冒険者を相手にする事は出来ない様子だった。
「‥‥分かりました」
 受けざるを得ない依頼だったが、手代はどうしたものかと悩む。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ ウェイル・アクウェイン(eb9401

●リプレイ本文

「本意じゃないわ。だけど、本気でやるわよ」
 巫女姿の女エルフは朗々と呪文を詠唱した。
 その手に水弾が生まれ、高速で発射されたそれは、村の前に築かれた柵を木端微塵に破壊する。
「ちぃっ」
 魔法の威力に驚きつつ、村を守る浪人は報復の矢を放った。狙いは十分、だがウィザードを貫く寸前で矢は叩き落とされる。
「この距離で当てて来るとはな。相手は中々の腕でござる」
 矢を弾いた鉄扇を翻し、月桂の冠を被った女浪人が言う。
「ありがとう、助かったわ」
 エルフは仲間に礼を言う。勢いのついた矢は彼女の水弾でも防げたかは怪しい。それに、この後を考えれば魔力は幾らでも温存したかった。
「いや失礼仕った。しかし弓使いは厄介、拙者から離れないで下され」
 言われた通りにエルフは背後に移動。
 2人の冒険者の後方には赤井の武士達の姿も見えたが、何故か動く気配は無い。
「さて村の方々。雇われの身なれば仕方無き仕儀にて、人数不足に不満はござろうが、付き合って貰うでござるよ!」
 そう言うと女浪人は村を目掛けて駆け出した。武器は先刻使った鉄扇一本。その後を女エルフが従う。
「‥‥まさか」
 如何に手錬とはいえ、まさか2人で村を攻撃するとは。
 冒険者の行動は、村側が思いもよらぬものであった。


 ――最近、宣教師の姿をよく目にする。
 それは、漠然とした印象だった。
 調べてみると、そういう傾向が確かにあるらしい。
 最近のジャパンが政情不安な状況にある事、近年になって欧州人が急増した事、にも関わらずジーザス教の普及率が極端に低い事を考え合わせれば、むしろ自然な成り行きと言う者もいる。
 唯一神の熱烈な伝道者が、ジャパンを目的地に据える事に不思議は無いのかもしれない。
「長崎は秀吉サマのお蔭でまだましですが、江戸もマダマダ、京都は最悪です! 文明国の首都にしっかりした教会が無いなんて、信じラレません‥‥おお、神よ私達を赦し給え」
 件の村に行く前にと、冒険者達は助っ人を呼んでジーザス教について調べた。
 聞こえてきたのはジャパン人の不信心に対する信徒の憤りだ。
 ジーザス教の神は父と母の二面性を持つが一神教である。教会が無ければ寺社で祈れば良い、という訳には行かない。神の末裔である神皇は仏教を受け入れ、神仏習合の思想を持って共に国教とした。神皇家は月道を通して精霊魔法を得たが、唯一神の教えは拒んだ。
 爾来、約五百年この国の民は神の教えに接する事がなかった。

「へぇ〜」
 女顔の泥棒少年、草薙北斗(ea5414)は調べてきた仲間の話に相槌を打っている。
「以前も、西洋の冒険者が来た時は布教の事で色々問題が起きた気がするけど、今度は布教目的の宣教師か〜。下手したら大事だよね、これは‥‥僕達が頑張らないとっ!」
 拳を握り締めて闘志を燃やす北斗。闇稼業とは思えないほど明るい少年である。
「左様。皆、同じ気持ちでござるよ」
 傭兵稼業で世界を廻る天城月夜(ea0321)はしみじみと頷く。信じるものの違いが多くの血を流させる事を月夜は見てきた。何とか穏便に済ませたいと思っているが。
「そうね、少なくとも領主に反乱なんて馬鹿な事は止めさせたいわね。こんなこと、古代ローマの弾圧にも耐えた偉大なるジーザスと殉教者達がお嘆きになるわよ」
 イギリス人の弓騎士アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は溜息をついた。女騎士は憤慨しているようだ。彼女の言うように歴史上、ローマ帝国も最初は多神教国家であり、ジーザス教は弾圧されていた。今や子孫はジーザス教徒の元締めである。
「彼らは聖なる母の貞節・清貧と並ぶもう一つの白の教義、服従を忘れているのよ」
 村までの道中をアイーダは仲間達にジーザス教関係の薀蓄を語った。本職では無いから知識としては怪しいが、ジーザス教に対する欧州人の認識に触れる意味では十分だろう。
「所で、イスパニアのジーザス教は黒派が多いと聞いた事があるのですが‥」
 薬草師で学究の徒であるステラ・デュナミス(eb2099)は村の宣教師が白派という所に首を傾げた。
「それですがねぇ、ジャパンに来た宣教師達には白派も黒派も居るみたいですね」
 答えたのは浪人の神田雄司(ea6476)。神田は暇があれば寝ているような昼行灯だが、今回は調べる事が多くてやや寝不足気味だ。
「良くは分かりませんが、ジーザス会は寄り合い所帯なのでしょうか? それと、ジャパンに来た宣教師の長はザビエルという人で、ジーザス会の偉い人だそうですよ」
 ジーザス会は京都でジャパンでの布教の許しを得ようとしているらしいが、五条の乱以降、それどころでは無い混乱に在る御所は持て余しているようだ。しかし、布教活動は行っていて、最近尾張に支部が出来たらしい。神田は天城の助っ人達の働きと合わせて、それだけの事を調べてきた。
「黒派なら、呪いも使いますかねぇ」
 神田がぽつりと言うと、アイーダは眉を顰めた。黒の破戒僧が人を呪う事件はたまに耳にする。
「では、そやつ等なら、人を呪い殺す事も出来るのかのぉ?」
 質問したのは河童の冒険者、磯城弥魁厳(eb5249)。河童としてはまだまだ青年だが、落ち着いた物腰と物言いから、ずっと年嵩に見える。
「それは無理じゃない? 神仏に力を借りる魔法で遠く離れた人の命を奪うことはできないんだけど‥‥頭痛とか腹痛とか、片手が痺れるとか、そういう物らしいわ」
「ふむ‥‥」
 本職が居ないのでどうしても推論が多くなる。こういう時、仲間に僧侶が居ると助かるのだが。いや、返って問題をややこしくしてしまうだろうか。
「問題は山積みのようですね。全く困ったものですが、とりあえず、村に着くまでに役割分担を決めておきませんか?」
 神田が話題を変えた。
 切実な問題がある。今回の依頼、こちらの冒険者の数は6人。歴戦の強者揃いだが、果たして手が足りるか。敵討ちを唱える領主の息子に若い宣教師に切羽詰った村人達に同業者が7人、少なくとも楽観出来る要素は微塵も無い現状である。


 村までは徒歩で約1日の道程。
 下調べに半日ほど使った冒険者達は途中1泊し、翌日の昼頃には村の側まで来ていた。直接村に乗り込む訳にはいかないから、土地の者に赤井為治の屋敷を聞く。
「お前様達は?」
「赤井様に雇われた冒険者ですよ。騒ぎを解決するためにね」
 神田は正直に名乗った。武装した余所者というだけでも十分目立つのに、河童や異国人も居て、ペガサスまで連れていては取り繕う方が難しい。
「領主様が急死して、しかも村があの有様ではさぞかし大変でしょうね」
「さあな。なるようにしかならんでの」
 それは諦観とも、また通り過ぎるだけの余所者に語る言葉が無い故とも取れた。
「どうした、用があるなら先に行っているぞ?」
 水かきのついた手をあげて磯城弥は神田を呼ぶ。切羽詰っている領主の息子をいつまでも待たせられない。神田は少し迷ったが、もう少し聞き込みをしたかったので仲間達には先に行ってくれるよう頼む。
「僕もここで別れるよ。先に村を調べておく」
 草薙はそう云うと、合流する予定のアイーダと魁厳に目印と簡単な符号を教えて姿を消した。
「ふぅむ。しかし4人だけとは‥‥赤井殿が納得してくれれば良いでござるが」
 残った仲間達を眺め、天城は困り顔だ。
「仕方ないわね。せいぜい高く売り込む事にするわ」
 ステラは肩をすくめた。アデプトリングを嵌めたこの若きエルフはその指輪に相応しい実力の持ち主である。魔力と支援が十分なら、彼女一人で村を壊滅させる事も不可能では無い。


「よほどわしも舐められたと見える。逆賊が7人で、この為治にはたった4人か?」
 冒険者の到着を待っていた領主の息子、いや現領主の赤井為治は憔悴していた。赤井の屋敷には武士、足軽が二十人ほど詰めていたが、いつ村側の襲撃があるか分からず、臨戦態勢を取っていた。
「お言葉ですけど、あちらの冒険者なんて私から見ればネンネもいいとこ。心配なら村人のためにする事ね」
 エルフのステラが言うのだから嘘では無い。
「‥‥ふん」
「まずはこれを」
 月夜はギルドの手代から渡された手紙を為治に差し出す。ギルドの冒険者同士が戦う事になった言い訳と、月夜達が村側の冒険者を越える腕利きである事が記されているらしい。
「これには5人と書かれておるが?」
 あらかじめ草薙北斗の名前は省かれていた。天城は、神田雄司が事情により遅れると説明する。
「‥‥よかろう。では、お主達はあの7人を始末せい」
 為治は憎々しげな表情で村側の冒険者達の掃討を命じた。
「依頼は必ず果たしまするが、その前にニ三、訊ねたき事がござる」
 畏まった態度で磯城弥が言うと、為治は冒険者達を奥の部屋に通した。
「話とは何じゃ?」
 上座に為治が座り、供の武士が脇に控える。冒険者達は為治の前にそれぞれ座った。
「村が抵抗を止めたら殺された長老への保障を払う気はあるのかしら?」
 まず質問したのはステラ。
「笑止な。わしの邪魔をしたおいぼれが死んだは自業自得。それを保障せよとは埒もないこと」
「赤井殿の申し分は尤もなれど‥‥長老を殺され、抑えのきかぬ村人を鎮めるは難事にござるな」
 天城が言うと為治は苦い表情を見せた。
「左様、誠に災難にござる。赤井殿はご存知と思うが、事はご領内に限った事ではござらぬでな。わしらは都にて、件のジーザス会なる名を幾度も耳に致しましたぞ。この事は叡山の高僧も頭を痛ませておるそうな」
 同情を示すように磯城弥が言った。比叡山がどうのは取ってつけた話だが、ありそうな事であり、為治の気も引いた。
「なんと延暦寺までか?」
「はい。それ故にわしらは貴方様にご助言致そうと伺ったのでございます」
 磯城弥は平然と言った。無骨な外見に似ず、その舌は滑らかに嘘を吐く。
「時に、ジャンニ殿は『断れば呪い殺す』というふうに貴方様を脅されたのですか?」
 会話の合間に肝心な事を聞く。為治は迷わず答えた。
「断ればぶちのめすとほざきおったのは、異国の冒険者じゃ」
 その後、説得と準備を天城に任せて磯城弥とアイーダは姿を消した。

 夜道を村へ急ぐ河童と女騎士は神田とすれ違う。
「領主様の方は、どうでしたか」
「予定通りじゃな」
 神田は頷くと、聞き込みの成果を話した。
「皆さん、口が固くて何も話してくれないんですよ、ハハハ」
 ある意味、大物であろう。

 処罰覚悟で為治は武門の矜持として、宣教師の首だけは取る気でいた。
「その方らの話は分かった。しかし、憎きは宣教師と加担した冒険者どもじゃ。彼奴らだけは許せぬ」
 事情も事情だが、村全体が領主に反乱を起したのだから並の不祥事では無い。村人も窮地だが、小領主の赤井家も崖っぷちにある。
 だが、さすがに村人を皆殺しにする気は無いようで、村側の冒険者を無力化して村人の戦意を挫き、宣教師を差し出させる考えだった。
「果たして、そう事が運ぶでしょうか」
 村人が宣教師によりジーザス教の信仰を得ているなら、為治の考え通りに行く保障は無い。最悪、村人全員が殉教者になる。それは非常に拙い。
「村人がまだ戦うと申すか。我が領民ぞ、有り得ぬことだ」
 民が峻烈な覚悟を持つ事を、この若い領主は想像しない。十中八九はその通りであろう。しかし、1%の懸念でも、それが国の大事に繋がるとあれば重い。
「なれば、村への攻撃は拙者達にお任せ下され」
「このわしに、敵討ちを冒険者に任せた卑怯者になれと申すか?」
 激昂する為治を天城は辛抱強く説得した。
「赤井殿は民を預かる身、これ以上村人を傷つけるは後々に禍根を残しましょう。ここは冒険者である拙者らの仕事にござる」
 暫く沈黙していたが、為治は天城の言をいれた。


 そして冒頭の突撃に移る。
 天城とステラが2人で特攻し、万が一と暴発防止に神田が為治の元に残った。
 たった2人で村が陥落する筈もなく、これは陽動である。赤井の兵を入れなかったのは犠牲者を出さぬ為だが人数不足も本当で、無茶な作戦だった。
「‥‥数が多い」
 浪人と神聖騎士が指揮する村人達に徐々に追い詰められていく。要所で僧兵とウィザードが妨害するので、ステラも魔法で囲みを破る事が出来ない。
「こっちに集ってくれるのは嬉しいんだけど、‥‥ちょっとやばいかも」
 一瞬でも気を抜けばやられた。

 同じ頃、本命の潜入班も冒険者と対峙していた。
 草薙、アイーダ、磯城弥の3人は、草薙の下調べに従って無事に村内に潜入を果たした。そして天城達の騒ぎに乗じてジャンニ確保に動いていた。
「神父様、領主様の攻撃です!」
「わ、我らはどどうすれば‥」
 村の中央で、宣教師と冒険者のクレリックが怯える村人を落ち着かせようとしていた。護衛は侍一人。好機とみて草薙が近づく。
「助けて、神父様ー」
 草薙は忍術で村の子供風に変装していた。声色も駆使するので知り合いでも任務中の彼には気付くのは難しいほどだ。
「きゃっ」
 だが、クレリックまであと少しの所で草薙は何かにぶつかって倒れた。
「‥‥貴方はこの村の者ではありませんね。姿を変えようと、神は全てをお見通しですよ」
 慈愛に満ちた顔を草薙に向け、クレリックは十字架を掲げる。
「!」
 呪縛魔法が来ると悟った草薙は瞬時に印を完成させた。突然、草薙が爆発する。
「‥しまったっ」
 草薙の奥の手、微塵隠れだ。狙った訳では無かったが、この爆発はクレリックが仕掛けたホーリーフィールドを打ち砕いた。そして爆発で村人が恐慌状態の一瞬を付き、アイーダが縄ひょうをジャンニに絡み付ける。
「大人しくして」
 アイーダは縄ひょうの刃先をジャンニに向けた。
「私達は話をしに来ただけよ。でもあなたが抵抗すれば、余計な怪我人も出るわ。できれば穏便に済ませたいの」
「ほざくな、人質を取って言う台詞か!?」
 刀を抜く侍の前に、磯城弥が立ちはだかる。
「停戦したい」
 磯城弥は小柄を地面において三度笠を回した。
「‥‥条件は?」
「わしらを信じて貰うより無いが、聞いて下されるか」
 ジャンニが頷き、侍が合図すると弓を構えて隠れていたレンジャーが出てきた。浪人達も戦いを止める。天城とステラは死んでいておかしくなかったが、ペガサスが助けに入った。
 村の冒険者7人は逃げ去り、アイーダ達はジャンニを為治の下に連行する。
 村人に被害は無く、若い領主は冒険者の働きに応えて宣教師の命は取らず、彼を追放した。
「これぞ名裁き、さすが赤井様でございますねえ」
 帰還する前、神田は為治の決断をしきりに褒めていた。

 以下は余談。
 赤井は戦いに参加しなかった神田を一行で最も弱いと考えていたが、神田の剣の腕はこの面子で一番だ。
「為直殿の死因ですが、結局分かりませんでした。病気知らずだった人がいきなり寝込んで死んでしまったそうですよ。流行り病という話ですが、居ないんですよねぇ。彼の近くでそんな病気に罹った人は」