【華の乱】藤岡密偵探し
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:13 G 3 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月26日〜05月03日
リプレイ公開日:2007年05月09日
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●オープニング
時は遡り、神聖暦一千一年十二月。ジャパン上野国。
「‥‥‥」
平井城を攻めていた源徳家康は陣中で長州反乱と神器奪われるの報せを聞き、言葉もなく沈黙したと言われる。平井城は陥落寸前、あと一歩の所まで新田義貞を追い詰めていた家康だったが、京都の大乱は摂政である彼にとって致命的となりかねない事態である。
「真田の忍びは優秀じゃ。遠からずこの事新田に知れよう。誰ぞある、新田方に使者を」
源徳としては上州より京都である。新田とは暫し停戦するしかなかった。北部の沼田城を攻めている上杉謙信も、家康が撤退すれば退かざるをえない。三国峠が雪で埋まり、敵国に閉じ込められる事態はさすがの軍神も避ける筈だ。
首の皮一枚とは言え、絶体絶命のこの窮地を脱した新田義貞の武運は神懸りと言えよう。関東の騒乱はまだ暫く終わりそうも無かった。
神聖暦一千ニ年四月。ジャパン上野国。
先の上州征伐で沼田城を陥落させた上杉謙信は臣従した北部の領主達に請われて越後には戻らず、上州で春を迎えていた。目の上に瘤の出来た新田勢は沼田に度々姿を現し、小競り合いが続いている。
「源徳はまだ来ぬのか?」
春が来ても家康が再度の上州征伐を行う気配が無い。
西国では神器を奪った長州藩と五条の宮が太宰府を攻めて五条神皇を名乗った。現神皇の後ろ盾として家康は長州に大遠征をかけねばならず、上州征伐どころでは無いのかもしれない。態度を軟化させた家康は新田義貞に休戦交渉を持ちかけているとの噂であった。
●藤岡密偵
上州藤岡は平井城の城下町であり、上杉憲政が城主の頃は上州の中心地だった。今も上州南部の要として賑わいを見せている。
この地に送り込まれた源徳方の忍びが数名、消息を断った。
敵地である故、恐らくは始末されたのであろう。それ自体は珍しい事では無い。忍び達は最後の報告にて信濃屋なる商人を調べていたらしい。
「‥‥ちと気に掛かる、な」
江戸城の某は上州の諜報戦が真田忍軍に惨敗している現状に憂いていた。
それだけ真田が優秀という事だが、摂政である家康は東西に乱を抱えて手一杯であるのも事実だ。家康が上州平定を急ぐのも、長州を倒す為に後顧の憂いを断っておきたいが故と言われている。
「平井城の後ろを、探ってみる必要があるか」
そして江戸城の一室より、冒険者ギルドに依頼が出された。
藤岡に潜入して源徳の忍びの死亡原因を探り、真田忍軍の動きを知ること。
折しも四月下旬、新田が沼田城に手を出したのを察知して、源徳軍は再度の上州征伐に乗り出していた。
果たしてどうなるか。
●リプレイ本文
「‥‥‥誰も来ねぇ!」
旅装束の上に外套を羽織った氷雨雹刃(ea7901)は道の先を眺めて舌打ちした。三度笠をかぶり、藤岡へ向う道を一人歩いていく。
街道筋の噂を聞くと、神流川の周辺で激しい戦いがあり、源徳軍が負けているらしい。
「間違いでは無いのか。源徳方は緒戦で金窪城を落とし、押していた筈だが?」
「お武家様、そうじゃねえんで。確かに最初は勝ってましたがねぇ、江戸城が襲われたとかで途端に浮き足立しちまったんでさぁ」
藤岡に近づくほど、混沌とした戦況が分かってくる。雹刃は驚きながらも合点がいった。仲間達が来ない理由はその辺りにありそうだ。
「むっ‥‥」
平井城で雹刃は、城下町から立ち上る煙を見る。
「にゃはは〜、遅刻遅刻〜っ☆」
江戸から上州へ向う道をパラの白井鈴(ea4026)は急いだ。
鈴は大勢の冒険者と共に江戸城を守っていたが、鈴が仕掛けた罠に運悪く味方が引っ掛かり、後方に回される。
「仕事もう終わり? それなら僕、行くねー」
韋駄天の草履をはいた鈴は忍犬龍丸を連れて大急ぎで藤岡に向う。平井城の手前で雹刃に追いついた時には汗だくで、鈴は死体の如く地面に突っ伏した。
「‥‥そこもとだけか?」
「僕、間に合った? 良かった〜っ」
喜ぶ鈴の顔とは好対照に、雹刃は口をへの字に曲げる。
「只でさえ少ない人数が、それすら集らぬでは命捨てに来たようなものぞ」
「にゃはは〜。だから、もう笑うしか無いんだよ」
「笑えぬ冗談だ」
不安は押し殺して、手筈を確認した2人はその場を離れる。
その少し前、ともがらに誘われて源徳軍の強襲部隊に参加した猟師のクリス・ウェルロッド(ea5708)は死に物狂いで逃げていた。
「城が捨て駒かなんて言ってたら、私が運命の女神に見捨てられる一歩手前‥‥」
上杉、武田の寝返りで源徳軍の前線は崩壊、もはや冒険者も源徳兵も一緒になって逃げていた。後ろを振り返ったクリスは死体に躓き、華奢な身体が河原を転がった。
「‥‥早く、行かなければ‥‥藤岡の女性が私を待って‥‥」
こんな時でも夢見がちな男である。クリスは頭から血を流し、動かなくなった。
「‥‥何じゃ、あの煙は?」
源徳軍の伝令を務める河童の磯城弥魁厳(eb5249)はグリフォンの上から城下町の煙を見下ろした。
藤岡に向った仲間の事が頭に浮かび、魁厳はグリフォンを城下町に向かわせる。下から新田兵が矢を射掛けてきたので僅かに高度を上げる。
「うわっ!」
バランスを崩して魁厳はグリフォンから落ちた。だましだまし伝令を務めていたが、魁厳の騎乗技術はまだまだ未熟だ。
墜落した魁厳は木の枝をまとめてへし折り、地面に激突する。
「ぐはっ」
数十mの高さから落ちて命があるだけ奇跡的だが、身体は動かない。倒れる魁厳を新田兵の槍が囲んだ。
依頼を受けた冒険者達は奇しくも藤岡の近くに集っていたが、互いにその事は知らない。
源徳軍と新田軍の戦が長引き、情勢は刻一刻と変化した。源徳方に参加した冒険者達は目まぐるしい状況変化に翻弄されて仲間との連絡すら侭ならず、依頼の遂行どころか、己の命も危うい状況だった。
町に潜入した鈴は、閑散とした街並を眺める。
戦に巻き込まれる事を恐れて避難した民も少なくは無いのだろう。町に残った民も、息を潜めて嵐が過ぎるのを待っている。閉め切られた家々を覗き込み、鈴はさてどこから手を付けようかと思案していた。
「おい、そこで何をしている?」
「ひゃあ、ごめんなさい」
見廻りの武士に呼び止められ、鈴はパラの外見を生かして子供の振りをした。堂に入った演技力で、常ならば切り抜けられたに違いない。しかし。
「待て、怪しいな。‥‥先刻、町に火をかけた源徳側の間者は子供だったと聞く」
武士の殺気に反応して鈴は飛び退った。
「うぬが間者か!」
「僕は火なんて付けて無いよ〜。まだ何もしてないってばっ」
追ってくる武士に車菱を投げつける。警戒して武士が立ち止まった時には、鈴は忍犬の背を踏み台にして商家の塀の上によじ登っていた。
「むむっ、忍びの技を使うとは、まさしく源徳の間者なり」
困った事になったと考えながら、鈴は主人の居ない商家の中を走り抜ける。
「源徳方の忍びが城下に潜入しておるそうな」
「迷惑な話よ。そのような小者退治に回されるとはついて無い。そうは思わぬかご同輩?」
城下町に源徳方の破壊工作の動きがあるとして、藤岡に回された数十名の新田兵の中に運良く雹刃は紛れ込んだ。
「‥‥ああ、忍びの相手は忍びにさせれば良いのだ」
新田方と言えば真田忍軍が冒険者の間では有名である。それとなく、雹刃は真田の動向を探った。
「真田の忍者‥‥噂には聞くが、何処で働いておるのやら」
前線の兵や武将は隠密である真田忍軍の動きは知らない。知るのは真田親子と義貞くらいか。しかし、これだけの大戦、真田忍軍も必死で働いている筈である。
(「江戸城まで関わっているとなれば、藤岡の守りが手薄になるのも道理か。‥‥駒が少ないのはこっちも同じだが、一つ仕掛けてみるか‥‥」)
信濃屋に忍び込む算段を考える雹刃は城下町を襲おうとした源徳方の冒険者が捕まった話を聞く。どうやらグリフォンに乗った河童らしい。
「遅れてしまいました‥‥皆さんはご無事でしょうか?」
シフールのレディス・フォレストロード(ea5794)は依頼を受けた5人の内で一番最後に藤岡入りした。レディスは大混乱の江戸で情報収集に奔走した後で、その上で上州まで飛んだから体は疲れ切っている。
仲間と落ち合うつもりの茶屋に顔を出したが、半日待っても誰も来ない。
「‥‥」
レディスはお猪口に入れて貰った茶を啜ると、店の者に尋ねた。
「これから手紙を届けに行くのですが、信濃屋へ行く道を教えて頂けますか」
「ああ、信濃屋さんの」
茶屋の娘は信濃屋の事を知っていた。
「大きな店ですか?」
「ううん、お店は小さいわよ」
レディスは首を傾げる。
「変ですね。老舗の大店と聞いたのですが‥」
「まさかぁ。そうね、まだ半年くらいじゃないかしら」
話を聞いたレディスは娘に礼を言って茶屋を出た。仲間と連絡を取りたかったが、何処に居るかも分からないので、とりあえず信濃屋を見に行く事にした。
「まさか私が最後の一人、とは考えたくないですね‥‥」
信濃屋の商いは口入屋らしい。昨年の秋に源徳家康の討伐軍を辛くも凌いだ新田義貞は反源徳の輩から英雄視され、藤岡にも色んな人が入ってきた。信濃屋文左衛門もその一人だった。荒っぽい男達を束ねて頭角を現し、近頃はお城にも出入りするという話である。
藤岡の新田軍詰め所。
「あんた、江戸の冒険者か?」
縛られて転がされた魁厳に若い商人風の男が近づいた。
「‥‥」
「グリフォンに乗って戦場に出てくる河童なんて他に居ないよな」
男は信濃屋文左衛門と名乗った。依頼の標的が目の前に現れて魁厳は顔色を変えるが、河童ゆえ人には表情を読まれ難い。
「冒険者なら、命だけは助けられるぜ」
源徳軍が依頼人としても、死ぬまで付き合う義理は無い。新田方に有益な情報を渡すか、或いは身代金としてペットやアイテムを手放すなら解放すると条件を話した。
「有り難い申し出ですが、任務失敗は死と心得ています。お気遣いはご無用」
魁厳は断ったが、全て本心ではない。身包み剥がれて命を拾うなら安いものだが、すぐ殺されないなら機会を待つ気になった。
その機会は意外に早くやってくる。
この時、白井鈴は既に藤岡を脱出していた。
そうとは知らないレディス・フォレストロードは信濃屋の周辺を調査し、捜索隊の網にかかった。多勢に無勢、長旅の疲労も激しく、追い詰められて最期は飛び上がった所を矢雨に撃たれて落ちた。
「‥‥潮時か」
レディスの捕縛に捜索隊が出払ったのを見計らい、雹刃はクリスと詰め所に潜入した。
新田兵の格好をした雹刃は先程まで一緒に談笑していた新田兵の脇腹に霞小太刀を深々と突き刺した。
「な、なんで‥‥っ」
「河童に喋られると面倒なのでな」
雹刃は疾走の術で倍化した速度を活かし、正面突破を図る。
「よく分かりませんが、すべては神の御言のままに‥‥」
クリスは物陰からライトロングボウで雹刃を援護する。戦場で気絶していた彼は事態を把握していない。ただ磯城弥を見捨てない選択をした雹刃が意外だった。
初めの混乱から回復した新田兵の反撃は苛烈だった。時折感じる殺気は独特で、真田忍者が紛れているかと思ったが確認する余裕は無い。
雹刃は小太刀を失うまで奮戦したが深手を負い、クリスと共に退却するのがやっとだった。しかし、その間に彼の忍犬黒影が辿り着く。黒影は魁厳の戒めを噛み切った。
「忝い、‥‥忍法微塵隠れ!」
隙をついて荷物とグリフォンを取り戻した魁厳は脱出路を切り開く。
命からがらだが、4人の冒険者は生還を果たす。
この後、鈴は傷をおして江戸城に戻り倒れるまで戦い、源徳の殿隊に合流したクリスは武田騎馬軍団相手に玉砕し、魁厳はグリフォンに振落とされそうになりながら最後まで伝令を務めた。
「‥‥」
雹刃は源徳軍本陣の重傷者を運ぶ荷台に載せられていた。
上州平定に意気揚々と出発した源徳軍が、江戸に帰り着いた時には襤褸切れの如き有様だった。その光景は象徴的ですらある。
荷車の横を歩くクリスは頭上を飛ぶ鷹に気付く。
「あれは‥‥トガリ?」
杖代わりにしていた木の枝を振ると、上空の鷹が荷車の上に舞い降りた。
「氷‥‥長田さん、これで全員戻りましたね」
鷹は飼い主のシフールを運んでいた。レディスは死んでいたが、生前の意思に従い寺院に預ける。