信濃屋騒動記 切腹御用

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月04日〜10月11日

リプレイ公開日:2007年11月24日

●オープニング

 神聖暦一千ニ年九月。ジャパン上州藤岡。
 源徳に勝利した新田義貞はここ数年の戦で荒れた国土を回復するため、内政に力を注いでいるらしい。上州南部の要というべき平井城の城下町である藤岡も、久方ぶりに平穏を手に入れ、賑わい振りを見せていた。

 平井城内。
「‥‥」
 新田義貞の重臣畑時能は、眼前に平伏する信濃屋文左衛門を睨みつけたまま先程から一言も発しない。
「こ、この度は、まことに申し訳もございません!」
 緊張に堪えかねて声をあげた文左衛門に、時能は口を開いた。
「いかに詫びても此度ばかりは許さぬぞ、信濃屋。わしは恥をかいた」
 新田家に仕官希望の冒険者を連れて来いという時能からの依頼に、ちょうど藤岡を訪れていた伊達、武田の重臣達が便乗した。
 しかし、文左衛門が江戸の冒険者ギルドに預けた依頼は、なんと流れてしまう。
「さすがに江戸は源徳公の作った街だな。新田に仕えようと申す不心得者は一人として居らぬと見える」
「さ、左様な事はけっして!」
 頭を限界まで下げ、床板を突き破らんばかりの文左衛門に、時能はゆっくりと近づいた。刀を抜く音が聞こえ、文左衛門の心臓が一瞬止まる。
「違うと申すか。ならば信濃屋、貴様の責という事になるのう。特別に許すゆえ、この場で腹を切れ」
「は、は、はぁ?」
「誰が笑えと申した。切腹じゃ」
 時能の刻薄な言葉に、切腹だけは勘弁と、文左衛門は謝りまくった。

 それが功を奏したのか、文左衛門はもう一度だけ機会を得る。
 今度こそ新田家に仕官を望む冒険者を連れてこなければ、文左衛門は腹を切る事になる。


 所変わって江戸の冒険者ギルド。
「この通りだぜ、頼む。後生だから、新田に仕官したいって冒険者を集めてくれねえか!」
 血相を変えた信濃屋文左衛門が、そう言ってギルドの手代の首を絞めていた。
「‥‥ほう、切腹ですか」
 切腹といえば、彼の担当ではないが源徳信康に切腹の沙汰が下ったとかで、柳生十兵衛がギルドに依頼を出していた。同じ切腹でも信康は粛々と受け入れているというが、こうも違うものか。
「冗談じゃねえ。あっちは天下の源徳家康の嫡男だぞ。俺とは立場も器も違わあ。‥‥切腹はイヤだ!」
「と言われてもね。仕官といえば一生の問題だ。泣き落とし位ではどうにもなりませんよ、ここは運が悪かったと、すっぱり諦めて下さい」
 知り合いに切腹の先生が居るから、見苦しくないように習ってみてはどうかと勧める手代。十文字腹がお奨めだとか講釈までたれる。
「すまねえが、冗談聞いてる暇は無いんだ‥‥」
 冗談ではないのだが、と思いつつ、思案を巡らす手代。
「でもねえ、一度流れた仕事は縁起が悪いですからね。期待はしないが良いですよ。何か余禄でもあれば、話は違うかもしれませんが」
「ふんふん、よろくってのは例えばなんだ?」
 素直に聞く文左衛門に、手代は少し考えて。
「冒険者は名刀名剣の類に目がないですからね。例えば、今仕官すれば、正宗をおまけに付けてあげるとか」
「‥‥そいつは無理だな」
 文左衛門は平井城に何本くらい名刀があるか知っているが、士官したてで貰えるかと言えば否だろう。物で釣るのは難しそうだ。
「だけど、今頃どうして仕官する冒険者を探してるんです。何かあるんですか?」
「うん。南の方が一区切りついたんで、北をどうにかしようって話があるみたいだが‥‥」
 考え込みながら返事をする文左衛門。
 上州北部と言えば、沼田の事だろうか。
 昨年上杉謙信に奪われた沼田城とその周辺は、対源徳戦で新田と上杉が同盟した後も、謙信は暫く沼田城に居た。今は謙信は越後に帰っていると聞くが、沼田城には上杉勢が居座っていて、沼田の返還を望む新田家と揉め事になりそうだと思われていた。
 文左衛門の顔を見る限り、問題はそれだけでも無いようだ。なるほど今の関東は一触即発、冒険者を抱えたいと考えるのは分らなくも無いのだが。
「仕方ありませんな。預かるだけですよ」
 そういって新田家仕官の依頼を預かる手代。本当に期待はしないで下さいね、と念を押す。


さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4233 蒼月 惠(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5988 バル・メナクス(29歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec3884 九泳 山家(33歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

 冒険者酒場「松之屋」。
「えー、文吉さんが切腹の危機ですかぁ〜」
 若葉屋店員の蒼月惠(ea4233)は素っ頓狂な声をあげる。
「たしかなスジの情報よっ!」
 寝惚け眼の惠にジュディス・ティラナ(ea4475)は大真面目に語った。つい先程知ったばかりのネタだ。町であった氷雨雹刃(ea7901)に教えられてギルドに駆け付け、手代の首を絞めて事情を聞いて仰天。
「文吉さんを早く助けなきゃっ!」
 小さな拳を握り締めるぱらの少女。惠は、どうすると聞かれて一も二もなく首を縦に振った。

「なに‥‥若葉屋文吉だと?」
 江戸の武闘大会に出た帰り道、噂を耳にしたジャイアント傭兵のグレン・アドミラル(eb9112)は、その足でギルドに向かった。
「諦めていた名を再び耳にする事になろうとは、な。‥‥仕官でも何でも構わない。その依頼に、グレン・アドミラルを加えてもらおうか」
 想いも動機も様々。
 それでも信濃屋文左衛門こと若葉屋文吉、江戸で少しは知られた男だったらしい。

 冒険者ギルド前。
 浪人の龍深城我斬(ea0031)、浪人の風斬乱(ea7394)、渡世人の氷雨雹刃、騎士バル・メナクス(eb5988)、武道家の瀞蓮(eb8219)、浪人の九泳山家(ec3884)、そして惠とジュディス、グレン。
「以上、江戸の冒険者九名。間違いありませんね」
 集まった冒険者を確認した手代に、信濃屋は大きく頷いた。その顔には希望が見える。
「それでは皆さん、道中お気をつけて」
「ああ、色々とありがとよ」
 手代の見送りで、一行は上州に旅立った。


「文吉さんっ?あたしの事覚えてるっ?」
 文吉らしき(?)男を見てから呆然とするジュディスは、ギルドを出た所で切り出した。
「若葉屋の看板娘を忘れるわけが無いだろ。‥すっかり立派になったなあ」
「やっぱり‥‥文吉さんなのっ!?」
 切腹と聞いたジュディスは、文吉が平井城に幽閉されているとばかり思っていた。無謀にも、惠と二人で救出作戦を敢行する気満々だったのだ。
 目の前の人物がどうやら本物と知り、不意に少女の腰が抜けた。
「若葉屋さんがなくなったらと思って‥‥あたし‥どうすればって‥‥‥」
 瞳から涙が零れる。文吉は膝を折って身を屈め、少女に頭を下げた。
「すまねぇな。俺みたいな者のために‥‥」
 これまでもジュディスは何度も文吉を探したがその度にすれ違ってきた。ちゃんと話をするのは、実に約2年振りである。
「これで一件落着なら、良かったんですけどぅ」
 ぽつりと惠が言う。平井城に行かねば、文吉の切腹は変わらない。
「馬鹿正直に藤岡まで行くことは無いぞ。文吉、逃げるなら力になってやらなくも無いが、どうだ?」
 と言ったのは龍深城我斬。
「有難ぇ話だが、出来ない相談ってやつだ」
 今逃げれば商人としての信用を失う。ギルドにも迷惑をかける。文吉の答えに我斬はそうかとだけ呟いた。
「難しいとは思いますけどぉ。でもまぁ、他でもなく文吉さんの頼みなら断れないのですぅ。 しゃーねぇですぅ。 ここはわたしが一肌抜いて仕官してやるから感謝しやがれですぅ!」
 文吉の前で惠は踏ん反り返った。左右色違いの惠の瞳を、文吉はじっと見つめた。惠は皆に比べれば腕が立つ方でも頭が切れる方でも無いが。
「有難すぎて言葉がでねぇ」
 あたしもシカンする、と意気込むジュディス。
「しかし、本気で仕官となると壁は高いぞ」
「そうなの?」
 首を傾げるジュディスに、風斬乱が説明した。年齢その他はまず置くと、問題は彼女が陽精霊と交信するジプシーであること。
「ジャパンで精霊魔法を扱えるのは神皇家と許しを受けた者のみだ。無茶しない限り異国の冒険者までとやかく言われはしないが、大名に仕官となれば‥‥色々と煩い」
 源徳と争う新田義貞も神皇家には慎重で、噂では、上野の藩主として正式に認められるよう京都に働きかけているらしい。これまで源徳がはね付けていたが、昨今の情勢変化で任官は確実という声もある。
「長州は神器を奪うことで問題を複雑にしてくれたが‥‥何にせよ、精霊魔法の禁忌は数百年続く古い因習だ。余程上手く売り込まねば、仕官は叶うまい」
「ふむふむ。なるほどのぅ、風斬殿は物知りじゃな」
 華国人の瀞蓮は乱の博識ぶりに感心する。
「俺は仕官の専門家だからな」
 乱は浪人である。しかし並の侍より武士の心得全般に通じていた。腕も立ち、名声もある。
「わしならば、風斬殿を選ぶがのう」
 瀞蓮の言葉を、乱は静かに受け流した。
「あれ」
 周りの先輩冒険者を観察していた九泳山家は、一人欠けている事に気付いた。
「どうした?」
 ドワーフのバル・メナクスは荷物を積んだ馬の様子を見ており、傭兵のグレンは文吉に何か話しかけている。この場に居ないのは、一人の渡世人。
「氷雨なら、用事を思い出したから先に行ってくれと言っていたぞ」
 江戸に戻ったらしい。
「はぁ。あの人も凄腕そうだったから、なんかコツとか教えて貰いたかったのにな」
 頭をかく九泳。この巨漢の青年は、今回が初依頼。右も左も分からないので、真似をしようと仲間ばかり見ていた。
「たしかに、技じゃ話にならないだろうけど。体の強さと機転には自信あるんだぜ」
 或る意味、豪胆ぶりでは群を抜く存在である。
 ともあれ一行は江戸から中山道に入り、春の乱では激戦の舞台となった神流川を越えて上州藤岡に到着した。

●新田家仕官
「御苦労様でございます」
 文吉がぺこりと頭を下げると平井城の門番は機嫌よく挨拶を返した。
「この城には良く来るのか?」
「お得意様なんだ」
 2年前まで小領主に過ぎなかった新田家に譜代の郎党は多くない。平井城の足軽や徒士の一部は信濃屋を介して雇われた奉公人らしい。なるほど文吉は慣れた様子で奥へと進んでいくが、ここで少し問題が起こる。
「断る」
 畑時能との面会前に武器を預ける所で、我斬が難色を示した。
「断るとはどういう意味か。まさか刀を差したままで通るおつもりか?」
「その通りだが、何か問題があるのか」
 いっそ冷淡と言える我斬の口調に、役目の侍達の怒りが凄まじい。
「あくまで刀を預けられぬとあらば、我らもここをお通しする訳には参らぬ。出直せされい」
 放たれる殺気を感じ取り、乱が我斬と新田侍の間に入る。
「無理だ、我斬さん。それじゃ通れない。ここは俺に免じて、その刀預けちゃくれないかな?」
「‥‥」
 一触即発の状況で、当の本人だけは酷く落ち着いていた。
 乱の頼みに、我斬は腰の忍者刀を抜きとる。
「助かる」
「ああ、会えなければ意味がないな」
 一瞬、我斬を見る乱が怪訝な表情を浮かべ、すぐ消えた。案内の武士が現れて一行を奥の間へと先導する。

「江戸から良くぞ参られた。わしが畑時能じゃ」
 奥の間に入ると、畑は待ちかねたように近づいて冒険者達を眺める。新田家の重臣である男は若い冒険者達にあからさまな好奇心を見せた。
「信濃屋殿の紹介に預かり参上しました風斬・乱と申します。お招き預かり光栄の極みです」
 乱と蓮は礼服を身に付けて、特に乱の佇まいはピンと張りつめてそれでいて堅くなく、一分も恥しい様子が無い。それを山家が真似するが、こちらは緊張しまくりでカチコチ。
「本来なら斯様な場所ではなく、わしの屋敷に招いて冒険譚の一つも聞かせて頂く所なれど、此度は少し事情が違うてな。堅苦しい所で済まぬが、どうか楽にされよ」
 息をするのも忘れていた山家は大きく息を吐いた。
 若干場が和んだ所で、順に冒険者が話をする。

 まっ先に手をあげたジュディス。
「この人がえらい人なのっ?」
 畑の所まで無遠慮に近づき、上目遣いにじぃっと見上げた。
「うむ、わしがえらい人じゃ」
「良かったわ。あのね、文吉さんが死んじゃうとパパも江戸で待ってるみんなも悲しいから取り止めて欲しいのっ☆」
 どんな会話だと思うが、子供にしか見えないジュディスが子供っぽい言葉遣いなのだから仕方無い。
「おぬし、仕官に来たのでは無いのか」
「今日は文吉さんを助ける日なのよっ。だからお願いね☆」
 とりあえず不合格は間違い無い。
 二番手は乱。順番的にはジュディスの横の惠だが、流れを切ろうとした。仲間達を関心された乱の武士知識は畑も満足するもので、彼は冒険者を見直したようであった。
「おぬしのような冒険者は多いのか?」
「さて俺以上の者が一人は居ると申せましょう」
「たった一人か?」
「少なくともこの場にあと一人と、嘘偽りなく御答えできまする」
 我斬の事である。畑は風斬を申し分の無い武士と見た様子だ。
 三番目はバルだった。ナイトは異国の武士階級と思われているため、異国人にしては侍仕官は比較的前例がある方だ。だがジャパンには土着のドワーフが居ないので家を起こす困難は相当だろう。
「江戸は長く源徳統治下にあり、冒険者はそれに満足していたので、今の体制には良い印象を持たれていないと思う。それには、新田家の事を江戸の民が良く知らない事も大きい。そこで私は新田家に仕え、民にご当家のことを知らしめたいと考えている」
「確かな考えを持っておられる。しかし‥‥」
 畑は腑に落ちぬと質問した。
「当家は上州の平定が第一じゃ。江戸の事は伊達殿であろう。もし思案にくれる事が起きておるなら経験が物を言う、おぬし達が源徳殿に聞きに行くも良いかもしれぬぞ」
 正論である。源徳の名が出た事に少し驚いた。
「異な事を。新田家は源徳家と敵対されているのではありませんか」
「源徳は上杉憲政の悪政を見過ごし、その後も我らを度々討伐せんとした仇敵。だが、我が殿は理に合う事を申すなと家臣を縛るほど狭量な御方では無い」
 それならばとバルは尋ねた。
「源徳家を江戸から追い出した今、新田家はこれからどうなさるおつもりか」
「戦続きで上州の民は疲れておる。関東の事は憂慮すれど、都に国司として正式に認めて頂き、上野に平穏を取り戻すが先決じゃな」
 畑からは新田家による江戸進行や三河攻めの考えは無いと思える。けれど未だ新田を反源徳の旗頭と思う者もいる。新田家が先に動かずとも、情勢の変化でどう転ぶか分らない。バルは更に色々と話したかったが、詮索しすぎは疑われると思い直した。
 四人目はグレン。若きビザンチンナイトは、彼が依頼を受けた理由を語った。
「私が仕官を願ったのは信濃屋を救うため。
 新田家の印象は一度依頼が流れた一事を見るように良くは無い。だが信濃屋には過去既知の者がおり、その命を救わんと立ち上がる者が居る」
 行動によって人はその印象を変える、とグレンは言う。
「信濃屋に任せた事は新田家の印象を変える機会となるだろう。それがどれほど過酷であろうと、私は潜り抜ける決意が有る」
 愚直とも言える戦士の言葉に、畑は感じ入る。ジュディスも惠もグレンも信濃屋の名を出した。想いは伝わる。

 畑の所用で暫し休憩を挟んで、面談は続いた。
 五人目は惠。彼女は見た目普通の少女で、乱やグレン等と比べると迫力には欠ける。ジュディスのように魔法に秀でていも居ない。臆面なく仕官を口にする様は、妙に不思議だ。
「よろしくです〜」
「ふむ、浪人には見えぬ。さては忍びか?」
「おー、凄いですぅ! 私の正体が一発でぇ‥さては忍者ですね!」
「違う」
 畑は調子が狂うのを感じつつ、惠を促した。
「それでは聞きますけどぉ、冒険者は金銭や名誉より本質的に冒険自体を追及しますです〜。今回みたいにぃ冒険者が特定の家門に仕官っていうのはぁ、難しいことでは無いのですかぁ?」
「冒険を欲する故の冒険者か。一理ある。しかし、お主達は冒険の為に生きておるのか。子を成し家を起こせば、その技を民草の為に使う道もあろう」
 冒険者稼業を武者修行の一環と考える武士も居る。十分に修行し見聞を積んだ後に、大家へ仕官するのだ。仕官後も暫く冒険を続ける事は当家の利にもなる故構わないと畑は言った。
 六人目は我斬。
「生憎だが、俺は仕官する気はない」
 ギルドの手代が聞けば頭を抱えたに違いない。代わりに文吉の顎が外れた。
「はっ!俺を誰だと思ってやがる、新田なんぞに仕官するわけねえだろうが。俺はな、民衆を平気で巻き込む先の戦のやり方、本気で頭にきてるんだ」
 我斬は立ち上がり、畑を睨み付ける。
「そんなに戦がしたいんならトコトンまで相手になってやる、新田も!伊達も!武田も!上杉も!
 皆纏めて一族郎党皆殺しにしてやるから、首を洗って待っておけと上に伝えろ!!」
 啖呵を切った我斬に、何人かの冒険者の頭を走馬灯が駆け巡った。余裕で死ねる状況である。酒場で馬鹿話のタネにされそうだ。
「こいつが俺の宣戦布告だ!受け取りやがれ」
 我斬が飛ばしたソニックブームを、背後から回り込んだ乱が腕で受け止める。一呼吸遅れて待機していたと思われる忍者達が畑を守り、隣室の武者達が襖を開け放した。
「畑様、お下がり下さい!」
「信濃屋、お主も大胆な男じゃ。切腹よりわしを殺す算段であったか?」
 畑の問いに文吉は答える余裕が無い。畑の号令一つで、彼は冒険者共々に死ぬ。如何に凄腕の冒険者揃いでもこの状況で逃れる道は見えない。
「畑殿!」
 抗弁したのは蓮。
「あくまで文左衛門殿は仕官を望む冒険者を集める依頼を出したまで。わしらはそれを好機と集ってきただけのこと‥‥集ったものについて文左衛門殿が責を負う謂れは無い筈じゃ!」
 乱と蓮、それにバルは我斬を抑えようとした。ジュディスと惠、グレンは文吉を守ろうとする。困ったのは山家で、一瞬我斬の真似して見得を切ろうとし、現れた新田勢に度肝を抜かれて混乱した。
「えーっと‥‥降参?」

 この後、畑は冒険者らを座らせ、乱心した我斬は冒険者が制圧したので不問とした。
「新田家は葉武者の挑戦を受けぬ。龍深城殿、戦場ならいざ知らず、斯様な場所で凶行は情けなきこと。お主と那須藩、金山との事は存じるが、礼儀を弁えられい」
「江戸を騙し打ちしたうぬらがそれを言うか?」
 とは言うものの、那須藩縁として扱われるからには騒動は終いだ。最後に文吉に告げた。
「こんなクソたわけ早々に見限るべきだったな。俺にとっては連中に組する輩は皆敵だ、逃げ出すなら力になってやる。良く覚えておけよ」
 面談はこれで終わった。文吉は生きた心地がしなかったが、後にグレンと氷雨雹刃の仕官を告げられる。
「氷雨が? はて?」
 面談に現れなかったのにと首を捻るが氷雨は聞いても煩そうにするだけ。そしてグレンには。
「信濃屋、父の渡した、仕入れの金子、何に使ったか教えて貰おうか」
「勿論、仕入れに。そうか、マグナさんが‥‥この刀、どうしたものか」
 文吉は様々な経緯の後に名刀の類を入手していた。


「この乱世‥群雄多しと言えど、世の多くは義貞公の何たるかを知らぬ。
俺もまた義貞公の何たるかを知らぬ。俺はこの目で‥この目で直に‥確かめたい」
「良かろう。当家は真田に忍びを頼りすぎている。新田の忍軍を持たねばならぬ」