【鬼の腕】文観の誘い

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2007年12月13日

●オープニング

 神聖暦一千二年九月ジャパン京都。

 東寺。
 平安京遷都間もない頃に建立された古寺であり、王城鎮護の寺、そして空海後は真言密教の根本道場として広く知られている。
 高野山からやってきて酒呑童子降伏を主張した密教僧文観は、現在、この東寺に逗留していた。

「無念でございましょうな」
 中秋の名月を眺める文観に、東寺の住職が話しかけた。
 本当なら今頃は、悪鬼降伏の儀式が行われていた筈であった。しかし、鬼の腕は鉄の御所に奪還され、儀式は中止された。
「なんの‥‥奪われたなら、再び奪い返すまで」
 文観はまだ四十代前ながら、高野山にて験力無双と評される高僧である。独自の呪法を編み出し、あの酒呑童子に挑もうとしている。
「近頃、都の近くで僧侶が鬼に襲われている事を御存じか?」
 噂は文観も聞いていた。おそらく僧侶を浚って奪い返した腕を繋げようというのだろう。黒派の僧侶まで襲われているのは、鬼に神聖魔法の知識が無いせいか。
 鬼は、文観も狙っているという噂である。
「‥‥住職、一つ頼みがあるのだが」

 冒険者ギルドに、東寺の文観から依頼が届いた。
 鬼の腕の再奪取に力を貸して欲しいという。
 さすがのギルドも、この依頼は扱いかねた。鬼の腕を狙うという事は、酒呑童子と対決するのと変わらない。神皇軍や新撰組の猛者達の手伝いというならともかく、寺院とギルドで行うには大事過ぎるだろう。それも、東寺は僧兵を出すのかと聞けば出せないという。話にならないと言わずばなるまい。
 そう返答すると、ともあれ一度東寺に来て欲しいという。難攻不落と言われた鉄の御所にて新撰組が酒呑童子の腕を斬り落とした事には冒険者の尽力が大であった。
 鬼の腕奪還、ひいては悪鬼降伏の儀式のために冒険者の話を聞きたいという。
 そこまで言われれば断る理由も無い。文観の儀式を抜きにしても、鉄の御所の事は無視出来ない問題だ。


さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1568 不破 斬(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2585 静守 宗風(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

任谷 修兵(eb2751)/ 鳳 令明(eb3759

●リプレイ本文

 神聖暦一千二年十月五日。

 酒呑童子調伏に用いる予定だった鬼の腕が、上賀茂神社で鉄の御所に奪還されてから一月近くが経ち、人々は鬼の復讐を恐れて不安に怯える日々を過ごしていた。
 腕を取り戻した鉄の御所が酒呑童子の治療に高僧狩りを始めたと噂が流れ、心なしか、洛中を漂う鬼の影すら色濃く感じられる。
 そんな中、東寺に滞在する文観が出した依頼に、五人の冒険者が名乗りをあげた。

「冒険者だけで、あの腕を取り返せるとも思えないが‥‥文観殿が何を考えての依頼か、興味はあるな」
 東寺の門を見上げつつ不破斬(eb1568)が呟く。
「話だけで済むと思えない節もあるしね。せいぜい油断はしないつもりだけど」
 ステラ・デュナミス(eb2099)はいざ戦いになった時を考え、伽藍の配置を頭に入れている。名高い真言派の道場といえど、相手は御所ですら攻めた鬼なのだ。
「油断など出来るか。鉄の御所は鬼だけではない」
 寺院に足を踏み入れた静守宗風(eb2585)は戦装束で、張りつめた空気を纏わせる。触れれば切れてしまいそうだ。新撰組十一番隊に席をおく彼は一月前、目の前で鬼の腕を奪われた。険しい表情は、その時を思い出しているのか。
「何者が来ようと関係ない。鬼も妖怪も悪魔も、俺達が居る限り、この京都で好き勝手はさせないぜ」
 同じく一番隊隊長代理の鷲尾天斗(ea2445)は自負を込めて言った。京都に冒険者ギルドが設立されてまだ2,3年だが、都の治安維持に冒険者が占める割合は増えている。静守や天斗以外の三人も、多かれ少なかれ新撰組や鉄の御所と係わりを持つ者達だ。
「とにかく、この機会に文観さんの真意を聞き出さないと始まらないにゃ。鉄の御所は単なる鬼退治とは違うんだよぉ」
 仲間達の腰の辺りからパラーリア・ゲラー(eb2257)の声が聞こえた。妖精を連れた女パラは見た目は子供だが、知勇兼備の勇者だ。鉄の御所を下手に攻めては被害を拡大させるだけ。五人はその事を文観に伝えると共に、それぞれの思惑を持っていた。

 来訪を告げると、事前に話が通っていたのかすぐに奥へと通された。
「新撰組一番隊組長代理の鷲尾天斗。鉄の御所にて仲間の助力もあり鬼の腕を斬ってきた者だ。よろしく頼む」
 鷲尾から順に、それぞれ冒険者が挨拶する。文観はギルドから聞いていたらしく、自己紹介は手短に済ませて本題に入った。
「私は悪鬼の災いから都を解き放ちたい。今日は貴方がたの忌憚のない意見をお聞かせください」
 そう言って文観は冒険者達に頭を下げた。
「ではまず聞くが、文観殿は本気で鉄の御所と事を構えるおつもりか? 鉄の御所相手は戦争と同じだ。本当に多くの血が流れる、いくさびとでもない僧侶が立ち入る領域では無いようにも思えるのだが」
 不破は修行熱心な黒派の僧の暴走に危惧を抱いていた。彼らは善の為に平然と無理をする。
「僧侶は念仏を唱えるだけと思われますか。鬼に虐げられる都の人々を救えずに、何の為の僧侶でしょう」
 人々の救済は僧侶には無敵の言葉だ。異を唱えれば命のやり取りしかない。
「あくまでやる気か。ならば仕方無いが、勝算はあるのか?」
「今はまだ。それを知るために貴方がたをお呼びしたのですよ」
 冒険者達は頷き、それぞれに意見を述べた。

「酒呑と戦い、思った。あいつは限りなく無敵な鬼だ。
 しかし、腕を斬り落して、その再生に僧侶をさらっていると聞いて確信もした。酒呑は決して不死の鬼でもこの世の理が通じぬ相手でもない」
 まず天斗が話し始めると、宗風は無敵という言葉に眉根を寄せる。
「攻めるなら以前よりかは攻めやすい。今まで分からなかった鉄の御所の中も少しは見たし、五体満足でない酒呑に、鬼の将の減少‥‥確かに好機だ。だが、ろくな策も無しに兵を送り込んでも全滅は必至。童子と名のつく上位の鬼が多数居なくなった今でもだ」
 酒呑童子との死闘に思いを馳せる天斗の横顔を宗風は見据えてから口を開いた。
「俺達は備えが足りなかった‥‥」
 今思い出せば、無謀な戦場。新撰組は戦力のほとんどを陽動に使い、一点突破の酒呑童子暗殺を狙った。その結果は多数の死傷者。戦果も得たが、鬼にはまだ余力を感じた。
「本気で鉄の御所を落とす気なら、新撰組と見廻組、冒険者の戦力では無謀すぎる。少なくともその数倍は要る。
 相手は鬼だけじゃない、鵺や妖狐もいる。あやかし相手が得意な黒虎部隊と陰陽寮からも、人手を派遣してもらわねばなるまい。無論、神聖魔法を使える僧兵もだ」
 宗風の意見は、無茶なものだ。
 新撰組、京都守護の見廻組に黒虎、陰陽寮に冒険者ギルド。人喰い鬼相手に雑兵をかき集めても意味は無く、足りない戦力を補うには京都在住の諸国雄藩の猛者を総動員する必要があるだろう。
「都の戦力をすべて集めなければ、酒呑童子には勝てないと言うことですか?」
「それでも勝てるかどうかだ」
 都攻めの際、酒呑童子は屈強な数百の大鬼を完全に統率していたように見えた。それに比べて都の戦力はバラバラだ。
「隊士の俺が言うのも何だが、新撰組は各組長の元、独自色が強い。そこにただ他の組織を混ぜても、戦は出来ない」
 真に必要なのは指揮系統の統一だと話す宗風。だが。
「それが出来たら苦労はないぞ?」
 天斗が横槍をいれた。天斗は組織同士のしがらみも目にする機会が多い。ともすれば鬼より人の方が厄介で、皆で手を組むなら一人で突撃する方が楽だと思う現状がある。
「無理は承知だが、俺達も面子を捨てる時だろう」
 面子に命を掛けるのが武士だが。天斗は頭を掻く。宗風の言うように組織から立て直すなら、必要なのは新撰組を解体する覚悟。
「仏法にも捨身の教えがあります。しかし、欲しいのは酒呑童子の腕一つ。軍勢を繰り出して鉄の御所を落とす事は無いと思いますが」
「はいはーい」
 話を聞いていたパラーリアが元気に手をあげる。
「文観さんには悪いけど、問題はそんなに簡単じゃないと思うにゃ」
 文観と冒険者達、もっと言えば京都全体の認識がズレているとパラリーアは感じる。
「組長代理も言ってたけどぉ、先の攻撃とかで人食い鬼もかなり倒したし、四天王も2鬼まで失ってるけど未だに勢力は衰えてない気がするのは、兵站がしっかりしているからだと思うの。
 でも2度目は奇襲も通じないから、正攻法しかないっ。
 つまり、鉄の御所を攻めるということは、山を領地とし、強大な軍事力をもつ一国を攻めると同じなんだよ。
 で、まずは外堀を埋めて、間道を封じ策源を絶ち、敵の戦力の増強を防いで鉄の御所を孤立させるところから始めるべきだと思うのっ。
 狙い目は近江と延暦寺で東の道を断って、凄腕の精霊魔法使いがたくさんいる丹波藩に北の道を抑えてもらって包囲網を築いたらどうかにゃっておもいまっす」
 一気に捲くし立ててパラーリアはふうと息を継いだ。難しい単語が並んだので何人かは目をぱちくりさせている。
「そうね。私も鬼の腕の奪還に拘り過ぎるのは危険だと思うわ」
 パラーリアの意見に頷きつつ、ステラが話す。
「前の時は、討伐目標だった酒呑童子自身の強さも問題ではあったけれど、周りを固める多数の鬼や、名のある鬼達に割かざるを得なかった戦力が多すぎた。内情がわからなかったせいもあるけれど‥‥腕だけじゃなく、鉄の御所を攻略するつもりで行かないと、もし奪還出来ても繰り返しになるわ」
「なるほど‥‥よく分かりました」
 鬼の腕奪還に関して言えば冒険者達の意見は似通っていた。歴戦の冒険者、それも実際に鉄の御所や酒呑童子と戦った者の言だけに文観も重く受け取ったようだ。
「貴方達が無理と言われるのなら、誰にも出来ない事なのでしょう。私は考えが甘かったようです」
 文観はこの後直ぐに冒険者ギルドに鉄の御所攻略の依頼を出すつもりだったが、中止するという。鬼の腕と酒呑童子降伏には今しばらく準備が必要だと考えを改めた。
「それがいいな。所で、少し質問があるのだが宜しいか」
 天斗が情報交換を持ちかける。文観は快諾した。僧侶としての勤めがあるから時間は限られるが、五人にはその間、東寺に滞在する事が認められた。

 いつ鬼が襲って来ないとも限らない。
 冒険者達は表向きは客だが、五人で話し合い、昼も夜も誰か一人は必ず文観の側に居るようにした。実質的には文観の護衛に近い。
 寝てる時ですら、屋根裏にパラーリアが潜んだ。
「くすっ」
「何かにゃー?」
 天井越しにパラーリアと文観が話す。
「警護の他に、私を調べている。妙な気分です」
「気になるものはしょーがないのっ」
 パラーリアは護衛の傍ら、パラのマントを使ったりして文観の素行を探った。朝夕のお勤め、講義に説法、瞑想、掃除や畑仕事、毎日貴族や武家の屋敷を訪れたりと、高僧ながら若い文観には仕事も多く、毎日めまぐるしく過ごしていた。
 或る日、パラーリアの警護で郊外の村を訪れた文観は帰り道、倒れた行商人を助けた。気絶した商人は野盗にやられたのか血だらけで、右手の指がすべて無い。
 文観が魔法で治癒する間にパラーリアが地面に落ちた指を集めた。
「町まで運ぶ間に傷が固まってしまいますね。‥‥冒険者なら、もしかしたら氷棺の巻物を持ってはいませんか?」
「アイスコフィンならあるにゃ」
 文観が行商人を説得してパラーリアが氷漬けにした。指の接合と再生では治療日数と御布施の額が違う。接合なら一時間以内でなければ出来ない。
「酒呑童子の腕は凍らせなくても付くのかにゃ?」
「鬼といえど、何か月も経てば接合は無理ですよ。そもそも腕が腐ってしまう」
 しかし。切断された酒呑童子の腕を文観は見た。それは腐りも乾きもしていなかったとパラに話す。
「あの鬼は、どこか違う」
 遠くを見るような眼で文観は呟いた。

「首尾よく事が成ったとして、酒呑にはどなたが命令を下すのか? そも都を鬼に守らせては悪しき風聞が流れぬとも限らないと懸念しますが」
「御仏に帰依した酒呑童子は自らの意思で都を護ります。かの悪鬼を改心させた都の威風に、悪しき噂など吹き飛ぶでしょう」
 天斗の質問に、文観は淀みなく答えた。パラーリアが更に聞く。
「文観さんって黒派の僧侶なんだよねっ。ってことは、生贄いっぱいで調伏ってカースをかけること!?」
「御存じでしたか。真言の呪法より編み出した秘術を用います」
 おそらくはカースで酒呑童子に強力な制約をかけるものなのだろう。どこでそんな法力を身に付けたのかと聞くと、文観は微笑した。
「貴女達と同じですよ」
 人心救済の宿願を発して諸国を巡り、修行に明け暮れたという。文観の修行時代はギルドのような便利なものは無かったと話した。
「文観さんは何年も前から鬼の降伏を考えていたの?」
 と聞いたのはステラ。彼女はこの国の術体系に興味がある。精霊魔術の普及率がこれだけ低いのに、独自の体系を持つ特異なジャパンという国。
「昔語りの大上人を夢見る愚か者と思われましょうが、私はこの国から悪鬼を駆逐したいのです」
 ジャパンほどオーガ族が幅を利かせる国も珍しい。ここ数年は冒険者ギルドの発達で鬼退治がブームだが、今でも鬼の被害を黙って我慢する村々は多い。冒険者に頼むには経済的問題もあり、報復も恐かった。
 話が神話伝承にまで及びそうになった時に宗風が言った。
「都の外まで出ているそうだな。外出は控えるよう頼んだはずだが?」
 文観には妖狐を含む敵の目が光っている恐れがある。東寺でも守り難いのに、京都の外まで出るのは宗風から見れば自殺志願。
「死にたがりを守るのは無意味だ」
「護衛の事は感謝していますが、護衛を頼んでは居ませんよ」
 宗風の無言のプレッシャーに文観は微笑し、別に新撰組十一番隊に護衛を頼んだと話した。
「組長に?」
「はい。京都で鬼退治といえば新撰組でしょう」
 少し前までは黒虎部隊の事だったのだがと、ステラは心中嘆息する。
「鬼の腕の安置場所を妖狐達が知っていたのは何故かしら? 場所については、誰が知っていたの」
「私が儀式を頼んだ公卿方数名に陰陽頭の安倍晴明殿は御存じでしょう。あとは実際に移送を担当した貴族とその配下‥」
 奪われる前に移送の噂は立っていたので、事情を知っていた者はもっと多いのかもしれない。秘密裏に事を運ぶ筈が、水は漏れていた。それでも何故知ったか疑念は残る。
 天斗が話を変える。
「酒呑が持つあの徳利の中身は一体何でしょうか?」
 戦闘中に飲んでいた程だ。何かの魔法薬か。酒呑童子という位だから、単なる酒好の線も捨てきれないが。
「さて。僧侶が居ない様子ですから、治療薬とは違うでしょう」
「そうですか。文観殿、あなたならば酒呑の事を何か知っておるのではと思ったのですが。例えば‥酒呑が鬼になる前、そして何故鬼になったかを」
 期待を隠して尋ねる天斗。
「私は酒呑童子が尋常の鬼とは違うと思っているだけ。或いは、延暦寺にはその答えがあるかも‥‥」
 文観の語る所では、伝教大師が延暦寺を建立した以前より比叡山は鬼の棲家だったらしいが、延暦寺が隆盛した頃より鉄の御所が世に知られている。敵対関係の両者が何故共に百年以上の時を過ごしたかは不思議である。
「それはどちらも迂闊に手が出せなかったからじゃない?」
「ここ数十年の均衡は確かに。しかし、その前は? 私が延暦寺の僧なら間近に鬼の砦があるのは我慢できません。鬼とて寺のそばは居心地が悪いでしょう」
 延暦寺は勇者が鉄の御所に挑むのを援助はするが、基本的には無視に近い立場を取っている。
「生まれた時から今の有り様でしたから、私も以前は何か事情があったのだろうとしか思いませんでした。あの腕を見るまでは」
 酒呑童子調伏の儀式のため、鬼の腕に触れた文観はまるで今さっき斬り取られたような状態に驚いた。腐敗防止や氷棺の魔法とも思ったが、しかし御所にそんな事をする理由が無い。
「鬼の超生命力なのかも。しかし、私はあの腕から微かに神仏の御力を感じた」
 そこで文観は不破を見た。
「貴方が見た四方四季の異界。私の考えでは、それは鉄の御所が霊峰のヘソにある証しでしょう。聖地比叡山ならばそのような場所も不思議ではない」
 何故そこに鉄の御所があるのか。酒呑童子と延暦寺には何か関係があるのか。調べてみる必要があると文観は言った。
「けれど、事は王城鎮護の延暦寺に関する大事。憶測では語れない。くれぐれもこの事は他言無用に願います」
 重々しく言われ、頼まれて武士三人は金打した。事が明らかになるまでは他言しないと。
「しかし、何故そんな事を俺達に話す?」
 不破が問うと、文観は微笑した。
「私は高野山の僧です。これは延暦寺の問題だ。延暦寺の内深くに潜れる人などいません。だから貴方達に話すのです」

 それから二月あまり。事は静かに動き出した。